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果樹の主要害虫防除特集

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果樹の主要害虫、果樹カメムシ類とハダニ類の発生生態と防除法について

福岡県農業総合試験場 病害虫部部長 堤 隆文

 果樹を加害するカメムシ類は三十数種が知られてるが、主要加害種はチャバネアオカメムシとツヤアオカメムシ、クサギカメムシで、果樹カメムシ類と言った場合はこの3種類を指す。これらのカメムシは常緑落葉の区別なく加害する果樹の共通害虫となっている。

◆果樹カメムシ類の生態

 果樹カメムシ類がハダニ類やチャノキイロアザミウマなどの害虫と大きく違うところは、果樹園内で繁殖しないことである。たまに、ふ化した幼虫をみることはあるが、成虫まで発育することはない。カメムシの幼虫は果実の汁を吸っても成育できないし、雌成虫は産卵しない。
 ではなぜ、これらのカメムシは餌として良くない果実を吸うためわざわざ果樹園に来るのだろう? という疑問がおきるが、これにはカメムシ側の深い事情がある。
 本来、これらのカメムシは山のヒノキ、スギ林で生活している。餌はヒノキ、スギの「球果」の中にある種子であり、種子が餌として利用できる間はカメムシは果樹園に飛来しない。本来の餌である種子を吸汁しつくし、餌不足になると、カメムシは新しい餌を求めて果樹園に飛来する。カメムシが果樹園に飛来する時期が年により違っているのは、球果の結実量の年次変動が大きく、餌不足となる時期が年によって異なるからである。
 カメムシが果樹園に来る原因はもう一つある。本来の餌が種子であることからわかるように、カメムシの目的は、果実の中の種子である。実際にナシの種子を与えると幼虫は成育するし、雌成虫は産卵する。果樹がまだ野生種だった時代を考えると、果実は小さく中の種は大きかったはずで、実際、ナシの台木であるマメナシの果実を与えると幼虫が発育する。
 祖先の経験は遺伝により今のカメムシにも受け継がれているため、山林で餌がなくなると果樹園にやってきて果実を吸うのである。

図1

◆果樹カメムシ類の防除法

 前に書いたように、カメムシが果樹園に来る時期は年によって異なり、飛んでくる量にも大きな差がある。効率的なカメムシ防除を考えた場合、カメムシが果樹園に飛んでくる可能性のある時期と飛来量にあわせて防除を行うのが一番効率的なことは明らかである。そのためには、発生予察が絶対的な条件となる。カメムシの発生予察法としては予察灯(誘殺灯)、フェロモントラップ、山林での発生調査、越冬量調査等があるが、最も重要なものは繁殖地である山林での調査である。
 ヒノキ、スギの「球果」量を調査すればカメムシの発生量が推定でき、さらに、球果に残されたカメムシの吸汁跡数を調査すれば、カメムシが餌を食べ尽くす時期が推定できる。この二つの方法により、カメムシが果樹園に来る時期と量がほぼ推定できるので、これにあわせて防除計画を立てればよい。
 実際には、7月下旬のヒノキ球果一果当たり吸汁痕数を予測式に入れることにより、調査日から果樹園飛来日までの日数が予測できます(図2、調査法等詳細は、果樹カメムシおもしろ生態とかしこい防ぎ方(農文協)を参照)。
 つぎに防除薬剤について、カメムシを効率的に防除するには薬剤の特性を良く理解して使う必要がある。例えば、よく使われるスミチオン等の有機リン系殺虫剤は即効的な効果はあるが残効は一、二日程度、MR.ジョーカー等の合成ピレスロイド系殺虫剤は殺虫効果と吸汁阻害効果があり、数日〜十日程度の残効が期待できる。スタークル等のネオニコチノイド系殺虫剤は、殺虫効果は低いものの、長期間の吸汁阻止効果がある・・・・等々。
 カメムシの発生量が多い年は果樹園への飛来数も多く、波状的な飛来があるので、最初から長期の残効が期待できる薬剤を使用する必要があるが、発生量が少ない年は防除する必要がないこともある。この様に、果樹カメムシ類の防除は、県の病害虫防除所の出す発生予察情報によって実施するのが最も確実である。

図2

◆果樹におけるハダニ類防除の要点

ヒノキ球果 果樹を加害するハダニ類で発生量が多いのは、ミカンハダニ、ナミハダニ、カンザワハダニの3種である。落葉果樹ではナミハダニ、カンザワハダニの発生が多く、常緑果樹ではミカンハダニの発生が多い。ハダニ類は名前の如く、葉を加害する事が多いのだが、時として果実を加害し、外観品質を損なう原因となる。
 ハダニ類はライフサイクルが短いため年間の世代数が非常に多く、そのため、薬剤抵抗性の発達が早く、薬剤防除に当たっては異なる系統の殺ダニ剤のローテーションが必須とされている。しかし一面では、主に葉を加害するため被害許容水準が高く、少々発生しても実被害がない場合が多い。また、土着のカブリダニ類やケシハネカクシ類等の天敵も多い。
チャバネアオカメムシ そこで、これらの情報をうまく活用することによって防除回数を大きく減らすことも可能である。例えば、露地の温州ミカンを例に挙げると、従前は防除歴に、冬季、5月、7月、9月、10月頃と5回程度の防除が組まれていたが、今は多くの地域で冬季と九月頃のみとなっている。さらに進んだ地域では、秋期に多発して果実の加害がみられる場合を除いて薬剤防除を実施しないケースもある。これは、被害解析が進み、ミカンの葉がハダニの加害で白くなっても樹の生育や果実品質にほとんど影響しない事が明らかにされたことと、天敵類に悪影響の少ない薬剤を選抜し使用する体系を開発したことにある。
 落葉果樹においても、東北地方ではナシ等のシンクイムシ類の防除を性フェロモン剤を用いた交信撹乱法に転換することにより、殺虫剤の散布回数を減らし、天敵を保護することによりハダニ類の被害を軽減している。
 この様に、露地の果樹のハダニ類防除は、多発して実被害が予測される場合を除いて、薬剤を使用しない方向に向かっている。これにより、以前は短かった殺ダニ剤の寿命も最近は長くなり、かえって防除も楽になるという良い循環となりつつあるので、これを壊さないよう留意して防除体系を組み立てる必要がある。


(写真)
上:ヒノキ球果
下:チャバネアオカメムシ

(2009.08.18)