特集

新たな協同の創造と生産者と消費者の懸け橋をめざして
JA全農の畜産事業

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【グループシナジーの発揮で懸け橋機能の実現めざす】
生産者と消費者の安心を支えるJA全農の総合的な畜産事業

グループ力で激変する環境を乗り切る
(1) 全農畜産事業の概要 
・日本の畜産を支える海外事業・製造からJA・生産者の供給・支援まで一貫
(2) 21年度重点取り組み事項
・飼料原料の産地多元化と・JAグループ生産基盤の維持・拡大

 食肉や鶏卵・牛乳・乳製品はタンパク質やカルシウムの供給源として食生活に欠かせない食品だ。ただ、その畜産物の安定生産と供給のためには、素畜の導入、飼料の供給にはじまり、保管・流通、さらには加工まで実に多様な機能が必要になる。
 こうした多様な機能を総合的に備えているのがJA全農の畜産事業だ。今回は畜産事業の全体像をふまえながら、21年度事業の重点項目を紹介する。

 一体的事業運営で懸け橋機能の実現めざす

全農畜産事業部の事業概況について

上図の拡大版はコチラから

◆グループ力で激変する環境を乗り切る


飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開 わが国の畜産・酪農生産を苦境に立たせたトウモロコシなど飼料原料の高騰は、昨秋の世界的な金融危機の発生で、投機マネーの引き上げもあって相場は下落傾向になった。
 配合飼料価格は18年度以降、相場急騰のあおりを受け、約50%(トン2万5000円)もの値上げを余儀なくされたが、今年1月には約1万1800円/トン、4月には約3600円/トンの値下げが行われた。
 しかし、再び穀物相場は再び上昇傾向をみせ(7月約2900円/トンの値上げ)、18年度対比で依然1万2500円/トンの水準で高止まり傾向にある(09年9月現在)。その要因は新興国とバイオ燃料による需要増加や、気候変動の影響など、構造的・持続的なものと考えられている。
 一方、飼料原料価格が高止まり傾向をみせるなか、国内の景気低迷によって、畜産物は販売不振と価格下落、さらに輸入畜産物の増加という厳しい環境にある。一時ほどの飼料高騰ではなくなったとはいえ、消費者が望む安心・安全な畜産物生産が持続できるかどうかが懸念される状況にある。
 こうしたなか、JA全農の畜産事業は、配合飼料等生産コストの低減や販売対策の強化、農家の生産性向上への取り組みを強化することにより、「配合飼料価格が高止まりしても乗り切ることができる再生産可能な畜産経営への支援と、生産者から支持される事業」がめざす方向である。

全農畜産事業の概要



(1)全農畜産事業の概要

ニューオリンズにある全農グレインの輸出エレベーター

(写真)ニューオリンズにある全農グレインの輸出エレベーター


◆日本の畜産を支える海外事業

飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開 全農の原料調達事業は、図でもっとも左に示されている海外事業で展開されている。
 わが国配合飼料供給量は約2500万トン(19年度)でそのうち全農は730万トン、約30%を扱う。配合飼料の主原料はトウモロコシで約350万トン、その調達先のほとんどが米国だ。
飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開 事業を担っているのは米国のコーンベルト地帯に集荷拠点を持ち米国の生産者から直接、穀物を集荷しているCGB社(コンソリデイテッド社)と、ニューオリンズに世界最大級の輸出エレベーターを持ち、日本への穀物積み出しを行っている全農グレイン社(ZGC)である。
飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開 日本への輸送のための用船は、全農が直接傭船。到着後は全農サイロ(株)を中心とした関係サイロ会社に輸送・保管され、その後、地域別の配合飼料会社に供給される。
 配合飼料会社は、国産を中心とした大豆粕やふすまなどの副原料と合せて配合飼料を製造し、JAや畜産農家に供給されていく。
 このように原料調達事業は、海外からの調達といっても、穀物メジャーや商社によって輸入された飼料原料を購入するのではない。米国内の生産者から直接買い付け、輸送から保管、配合飼料製造と日本の生産者への供給まで、一貫した事業として確立されていることが大きな特徴だ。
飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開 この事業によって消費者のニーズに応える畜産事業の展開も可能になっている。世界中で遺伝子組み換え(GM)作物の作付けが広がるなか、生協からnonGMOトウモロコシによる畜産生産が求められたが、これに対応するためnonGMO栽培をする米国の生産者からCGB社を通じて必要量を確保・供給している。飼料原料の調達段階から消費者ニーズに応えることが可能になっている。

 (写真)飼料原料穀物の輸送・保管、配合飼料製造まで一貫した事業を展開

 

◆製造からJA・生産者の供給・支援まで一貫


製造からJA・生産者の供給・支援まで一貫 国内での配合飼料の製造と供給は2つのパターンがある。
 4つの地域別飼料会社は、全農と経済連の統合時に双方の推進・供給機能を会社へ移管しているため、配合飼料の製造からJA・生産者への供給まで一貫して行う機能を持つ。
 このほかに3つの製造委託飼料会社がある。全農が原料を供給し製品を全量買い取る方式で事業をしている。
 生産者に対しては飼料供給のほか、素畜や資材の供給を県本部及び子会社が担っている。これらの畜産のさまざまな技術面でバックアップしているのが、全農の飼料中央畜産研究所や家畜衛生研究所である。また、ETセンタ 製造からJA・生産者の供給・支援まで一貫ーは生産者に対して受精卵の供給を行う役割を担っている。

 

◆販売強化を担う子会社

 畜産農家が生産した畜産物の大消費地販売は全農グループの子会社が役割を担っている。
 販売会社のうち食肉・鶏卵販売の子会社については本特集の次頁で最近の取り組みをレポートしている。
 全農チキンフーズ(株)は、産地の関連会社とともにグループをあげたブランド化と直販事業の強化を重視。協同組合間連携を進め生協の販売ルート拡大をめざしている。
 JA全農ミートフーズ(株)は全農安心システムの推進、指定産地推進、こだわり商品づくりを事業の基本にしているという。懸け橋機能の発揮のため、「やっぱり国産」と消費者に支持されるプロモーションも重視。
 JA全農たまご(株)は、鶏卵を通じて“新鮮・美味・安心”な商品と高品質なサービスを提供することを経営理念としている。採卵経営も飼料高騰などで厳しく、こうした情勢を価格に適切に反映させるため、昨年7月には「しんたまご」などブランド卵で値上げをした。

生産・販売一体で販売力を強化

(写真)生産・販売一体で販売力を強化


◆酪農家を支援する連合会機能


 生乳販売は、乳業会社が牛乳・乳製品を製造し消費者に届ける前までの段階で、生産者を支援する共同の取り組みが非常に重要である。
 生乳はいうまでもなく液状の畜産物で、温度管理と衛生管理が必要であり、専用のローリーやクーラーステーションなどの専用施設も必要である。
 また、牛乳や乳製品に加工しなければならないため、消費者に直接販売することは難しい。一般的には酪農家一戸の生産量は少なく、乳業工場へ出荷するためには複数の生産者で合乳し出荷する必要がある。
 さらに生乳の需給には季節変動と地域間の変動があるため、主要な産地から消費地圏へ季節の需要に応じて必要な生乳を供給、調整を図る仕組みが必要である。
 この広域に流通する生乳の需給調整を行っているのが酪農部である。
 酪農家からJAなどを通じて集められた生乳は指定生乳生産者団体を通じて乳業会社に販売されるが、20%程度は全農に再委託される。これによって需要期の夏は北海道、東北、九州などの大産地から首都圏、中京・関西圏に供給し、冬の不需要期は余乳を処理して乳製品を製造するという需給調整を行っている。この機能は全国連合会組織ならでは役割である。

 


(2) 21年度重点取り組み事項


◆飼料原料の産地多元化と 

 こうした総合的な畜産事業として、21年度はおもにどこに重点を置くのか。
 飼料原料の調達では、世界的な穀物需給の構造変化に対応し、安定供給をはかるために海外産地対策を強化する。すでに20年度に米国子会社が集荷会社をを買収して拠点を拡大したが、今年度はさらに新規集荷先からも購買する方針。また、産地を多元化するため、これまでもアルゼンチン、豪州の農協連合会と提携し飼料穀物を確保してきたが、主要農協組織と連携強化する。
 また、トウモロコシ依存度を低減させるためバイオ燃料製造の副原料DDGSの取り扱いを拡大する。
 国内でも購買対策を強化し、系統内で発生する国産規格外大麦・小麦などの安定購買に取り組む。
 一方、飼料自給率向上の観点から、20年度から実証栽培をしてきた飼料用米の本格生産・利用に着手、特定地域での事業モデルづくりを進めている。
 また、国産稲わらの広域流通体制づくりも進める。

 

◆JAグループ生産基盤の維持・拡大


JAグループ生産基盤の維持・拡大 畜産農家を支援する機能発揮も重点事項だ。
 畜種別の生産性向上対策にはすでに取り組んできたが、系統組織・グループ飼料会社職員による日常的な巡回の徹底と実践事例の提供のほか、低価格飼料、発育段階にきめ細かく対応して飼料の導入促進なども行う。
 畜産農家の生産拡大では、畜産基幹産地登録制度により意欲ある既存の繁殖農家の規模拡大と、和牛繁殖への新規参入促進を支援し、21度に合わせて繁殖牛4000頭増を目標にしている。
 養豚でも母豚規模4000頭増を目標に、基幹産地を育成し、SPF肉豚生産150万頭体制の確立をめざす。
 そのほか、優良種豚の造成と供給拡大も重点事項としている。

ウシの採卵・受精卵移植


◆生産・販売部門一体で販売力を強化


飼料畜産中央研究所 販売力の強化では、まさに生産から販売までの一体的事業運営によるシナジー効果の発揮をめざす。
 生産・研究部門、県本部・子会社と連携した商品開発の強化と取り扱い拡大をはかる。
 具体的には、安全・安心・おいしさにこだわった食肉の指定産地取引の拡大に取り組む。
 また、葉酸を強化した企画卵の取り扱い拡大と、新商品の開発にも取り組む。飼料用米の供給が進むなか、国産飼料用米使用の特徴畜産物商品の開発と取り扱い拡大にも力を入れる。こうした取り組みによって、相場に左右されない安定的な販売の拡大をめざす。
 そのほか米国、カナダ、香港への和牛輸出は20年度実績で110トン、今後も継続・拡大をする。

(写真)飼料畜産中央研究所

 


◆生乳の需給調整と業務用牛乳の拡大


生乳の需給調整と業務用牛乳の拡大 生乳・乳製品の販売対策では、生乳の再委託販売を維持し、業務用牛乳(殺菌牛)の販売拡大を重点事項のひとつとしている。
 殺菌乳は缶コーヒーなどの飲料に入れる原料牛乳。需給変動が大きい脱脂粉乳を使うより、味と安定的な確保、製造時のハンドリングの良さの点で需要の伸びが見込まれる。
 そのほか、国際相場の変動による輸入乳製品の動向や、国内の需要構造の変化に対応して脱脂濃縮乳、生クリーム、脱脂乳の製造体制整備と販売拡大にも取り組む。また、広域流通生乳による都府県への的確な配乳、余乳処理を通じた需給調整の実施も重点としている。
                    ◇     ◇
 JA全農は、持続可能な農業の実現と組合員・JA、消費者の期待に応える事業対応を基本としているが、国産農畜産物について、飼料高騰などを要因とした適正な価格形成と消費拡大、安全・安心をPR活動も重点事項としている。畜産事業でも全農による理解醸成活動にも力を入れていく。

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(2009.09.28)