特集

新たな協同の創造と生産者と消費者の懸け橋をめざして
TACの活動(担い手支援)

一覧に戻る

総合力を発揮し営農済事業を改革する仕組み

・現場を基点に事業をつくっていく-全農京都府本部
・最終目的はJAグループの事業とシェアの拡大-全農兵庫県本部
・みんなで課題を解決し新しい時代に対応した営農経済事業へ-全国の状況

 いま担い手を支援することを目的に始められたTACの活動が、JAグループの営農経済事業を改革する仕組みとして注目されてきている。TAC活動で先進的な役割を果たしている全農京都府本部の永井菊博本部長と、全農兵庫県本部の西畑義明本部長に取材した。また全国的な状況などについて大西茂志営農総合対策部長に聞いた。

日本農業の多様な担い手を応援するために

 

現場を基点に事業をつくっていく
全農京都府本部

 


◆全農はJAへ、JAは生産者のところへ

永井菊博 全農京都府本部長 TACという名称は、JA京都にのくにで担い手対策チームの愛称として使われていたのを、名称公募が行われたときに応募して、採用されたものだ。だから、「JA京都にのくにがTACの元祖」だと、永井菊博全農京都府本部長は取材の冒頭で話してくれた。
 ちなみにJA京都にのくには、昨年11月に開催された「JAグループTACパワーアップ大会」の「農業経営相談部門」で表彰されたように、先進的にTACに取り組んでいるJAとして知られている。
 全農京都は今年の4月に機構改革を行い、「担い手対策課」を「TAC推進課」に改組し、人員も増やし、滝花郁男生産資材部長が課長を兼任し、3名の体制でTACの推進に積極的に取り組んでいる。京都府のJA数は5つだが、現在4JAにTACシステムが導入されている。そのうち先行しているのがJA京都にのくに、そして府内でもっとも大きいJA京都で、あとの2JAが着々と体制を整えている状況だという。
 TACの活動について永井本部長は「現場が基点」だということを強調する。全農はJAへ、JAは生産者のいる現場へ行く。そこで現場の意見や要望を聞き、それに応えるためにどうするかを考え、具体的な形で提案し「事業をつくっていく」ということを一言でいうと「現場基点」という言葉に集約する。
 例えば、JA京都にのくにでは、地域の耕作放棄地を請け負っている稲作農家が、高齢でもあり出荷米袋の取り扱いが困難となってきたので、フレコン出荷を提案。京都府下で初めて個人生産者の米フレコン出荷を実現した。
 あるいは、全農は全国段階で「肥料の満車直送」による生産資材のコスト低減を担い手対策の一環として提案しているが、「京都では10トン満車はムリ」という現場の声を受けて、肥料部門と検討して「4トン満車」を実施することにした。

(写真)永井菊博 全農京都府本部長

 

◆徹底したボトムアップとオールJAのバックアップ

 全農京都では、大まかな計画はもっているが「詳細なメニューはない」。先の2例も現場からの意見や要望に応えたもので、「現場基点」で事業をつくっていくからだ。
 JA京都にのくにの場合、営農担当者が「農家に刺さる活動をしなければJAへの批判がますます強くなると感じて取り組み、トップダウンではなくボトムアップしたから成功した」と細見泰敏副本部長はいう。
 ボトムアップで事業をつくるために、府本部のTACは、TACシステムを導入している2JAの4拠点で各々週1回開かれるTACミーティングに「必ず参加する」。「参加して話をして、顔を見て、情報や課題を共有化する」。それを府本部に持ち帰り「間髪を入れずに各部署に伝え、JAのTACが農家に持っていける材料を提供してもらう」。
 JAでも、TACだけが考えるのではなく、TACが孤立しないように「オールJAでバックアップしていくことが大事」だ。
 京都では認定農家や企業的な農家だけではなく多様な担い手がいる」と考え、生産部会を担い手と位置づけているJAもある。
 その多様な担い手の中に、JAの力を借りなくても自分でできるという人たちもいる。「この人たちにもJAグループとして何かお手伝いできることが必ずあるはずだから、そこへの応援体制をつくり、必要な存在になることも、TACの重要な仕事」だと永井本部長。
 そのことで「日本の農業を担っているみんながTACを利用してもらう体制をつくり、TACをやってよかったなというようにしたい」と、その熱い思いを語った。

 

◆情報の共有化ができる素晴らしいシステム

 「現場基点」と同時に永井本部長が強調するのが、TACシステムによる「情報の共有化」だ。
 毎日、JAのTACがシステムに書き込んでいる日報を読んでいるが「農家が何を考えているか、TAC担当者が農家にどんなことを話したか、どんなことを考えているのかが、手に取るように分かる。現場の情報をこうして共有化できることが、このシステムの一番素晴らしいところだ」という。
 かつてJAの規模が小さいころは、JA内で情報が共有化されていたが、JAが大きくなり共有化できなくなり、農家の悩みや考えていることが分からなくなり、JAの推進機能が失われてきた。「それを取り戻すツール」だという。
 そして、「京都の農業がどっちを向いているかが分かるような気がするので、この情報を府内JAのトップにも伝え、共有化」することも考えている。
 TACの活動は、「農家が求めていることに応え、農家へ発信することで事業に結びつき、お互いに喜びを感じることができる。厳しい時代だが、これからはTACに助けられると思うので、“TACをやろうよ”と呼びかけた」と最後に語ってくれた。

 


最終目的はJAグループの事業とシェアの拡大
全農兵庫県本部

 

◆平成13年から担い手対策に取り組む

西畑義明 全農兵庫県本部長 「TACのことを聞いたときに、いままで畜産事業でやってきたことと同じではないかと思った」と西畑義明全農兵庫県本部長。西畑本部長は、経済連時代から一貫して畜産事業に携わり、20年2月まで県本部畜産部長だった。畜産事業では、「1軒1軒の農家の状況をつかむために、足で稼いでいた。最後はその農家の経営状況まで知り、経営を再建するための智恵をJAの担当者と考え、実行した」ことも再三あるという。
 「農家の悩みをJA担当者と一緒に行って聞く。そしてどうするかを一緒に考える。そうしたなかで、信頼関係を築いていく」。それはTACがいまやろうとしていることと同じではないだろうかということだ。
 全農兵庫は、平成13年から担い手対策に取り組み、16年からは県中央会と「JA兵庫アグリ支援室」を設置、17年に共通機構「JA兵庫アグリ対策部」となり、19年4月に同部に担い手づくりおよび担い手支援を担当する「担い手対策課」を設置した。
 現在、県下9JAで72名のTACが配置され、担い手への訪問活動が進められている。「とにかく“出向く”こと」が玉田和浩担い手対策課長の口癖だ。だが「JAの厳しい経営状況、営農経済事業の中でTACの設置は、なかなか難しいことで、まさにJAの営農経済事業の大きな改革だから、JAのトップ・役員の理解が絶対に必要」だと西畑本部長は強調する。

(写真)西畑義明 全農兵庫県本部長

 

◆JAトップ層への研修で大きな影響が

 TACへの理解を深めるために、従来から取り組んでいるJAを重点支援JAとし、TAC定例会議への参加・同行訪問・TAC業務改善提案、JA本店のみの対応ではなく各営農経済センターなどの現場に入り込んだ支援を行ってきている。そのうえで、県下JAのTAC体制づくりを目的に「TAC・TAC管理者スキルアップ研修会」を20年度に4回開催。その総まとめとして「TAC担当JA常勤役員研修会」を開催。重点支援JAの成功事例報告を行うなど、TACの重要性について再認識した。
 このJA役員研修の影響は非常に大きく、21年度に2JAで専任者設置、3JAで業務強化が行われ、県内のTAC体制が強化された。また、JAの営農経済事業を活性化するための人材育成の視点からTACの仕組みを導入し、少ない人材でも出向く担い手を絞り込んで実践したいと動き出したJA役員もいるという。

 

◆営農経済の現場を「見える化」するシステム

 もう一つの全農兵庫が進めているのが、TACシステムを活用した「見える化」だ。いままでは営農経済職員の活動はJA役員からは「実際に何をやっているのか見えない」といわれるなど、職員の行動や事業の進捗状況が役員層にみえにくいケースが多々あった。
 TACシステムを使い、訪問面談内容や結果を日報として作成し、現場の状況を「見える化」し、TAC管理者や役員に報告することで、担い手のニーズや思いのJA内での共有化ができ、スピーディーな指示や対策の検討ができるので、システムを積極的に活用するように進めている。システムを活用し始めたJA役員からは「営農経済事業の現場が見えるようになった」「JAへの意見や要望が分かり、指示がだしやすくなった」などと好評だ。
 全農兵庫では21年度を「TAC活動元年」と位置づけ、4月にTAC活動の役割と目標を確認するとともに、TAC活動関係職員の連携強化と意識高揚をはかるため「TAC活動進発式」を開催した。その会場で、TACのようにすぐに実績に直結し難く、数値としてとらえ難い業務をポイント換算し担当する職員の成果を適正に評価する「TAC評価基準運用指針」を制定した。毎月、TACシステム活用JAにポイントによるTACの順位表をフィードバック。来年1月にはこの評価基準に基づいた「TAC活動成果発表会」を開催し、優秀者の表彰と発表によりさらなる活動の強化を計画している。

 

◆部門間の連携でTACを孤立させない

 西畑本部長は、かねてより、全農経営理念のもと、本部長としての方針を全職員に提案している。そのなかの1つが、「部門の連携を強化して事業分量・シェアの拡大に取り組む」だ。TAC活動の最終目的である「JAグループの事業拡大・シェア拡大」のためには「TACが孤立せず、JAや全農の関係部門がTAC活動と連携した支援を行うことは絶対に欠かせない」と考えだ。
 そしてTACの行動目標として「地域の産地振興・特産品づくりを進めていきたい」とし、その実現のために、TAC活動の最重点事項として「販売部門と連携した生産から販売までの一貫した事業提案」を掲げ取り組みを開始している。
 すでに加工向けキャベツ・加工向けタマネギ・うすいエンドウについて、TACが栽培面積目標をもって担い手に提案し、着実に面積を拡大している。
 さらに西畑本部長は、全農兵庫が直営するレストラン「神戸プレジール」もTAC活動を支える重要な役割を担っている「武器」だという。このレストランで「地域農畜産物を調理して提供することで、料理を通して兵庫の農業とJAをアピール」することができるからだ。この9月からは、毎月県内の一つのJA管内の農産物をアピールするために、できるだけそのJA管内の食材を使うメニューを提供する。今後は、「TACが産地振興した作物を、神戸プレジールで食べていただきたい!」と西畑本部長の想いは熱い。

 


全国の状況
みんなで課題を解決し新しい時代に対応した営農経済事業へ

「TACパワーアップ大会2008」のもよう 
◆活動が広がり20年度面談件数を大幅に上回る

 JA全農が「農業担い手支援基本要領」を定めたのは、平成18年4月だった。その後、全農の担い手対応専任者とJA担当者が一緒になって地域の担い手に出向き、担い手が抱えている課題や意見・要望を聞き、それにどう応えるかを模索するなど、様々な取り組みが行われた。
 そして20年4月には、地域農業の担い手を訪問して要望を聴きこれに応えるJA担当者を「TAC(Team for Agricultural Coordination、農業コーディネートチーム)」という愛称で全国統一した。
 20年11月には「JAグループTACパワーアップ大会2008」を開催し、優良なJAのTAC・5部門25名を表彰するとともに、全国のTACの情報交換の場とした。このパワーアップ大会には、300名余が出席し、関心の高さがうかがわれた。
 21年8月末段階のTACの取り組み状況は、TAC導入JAが445、全国で約2000名のTACおよびその管取り組み状況は、TAC導入JAが455、全国で約2000名のTACおよびその管理者が活動しており、TACシステムに登録されている担い手は24万人となっている。また、38県域(経済連、県本部)で県域TAC266名がTACの活動支援に取り組んでいる。
 具体的な活動内容は実に多岐にわたるが、今年の4月から8月までのTACと担い手の面談記録は16万件におよんでいるという。20年度1年間の面談記録が15万5000件だったのだから、すでに昨年度1年分を大きく上回っており、TACの活動が全国で本格化していることがうかがえるのではないだろうか。

◆多様なニーズに総合力で応える

 TACについて全農営農総合対策部(本所)の大西茂志部長は「現場のニーズを正しく捉え、JAと連合会の総合力でそれに応えるための仕組み」だと考える。
 いまの時代はかつてのように一律的なニーズに応えるだけでは通用しない、「多種多様な現場のニーズに応えるにはTACを基点にしてJAの総合力を発揮する」しかない。それはJAだけではなく「県本部も含めて全農全体も現場基点の仕組みにしていく」ということで、全農の次期3か年計画でも、そのことを定着させていきたいという。
 そのためにも、情報を担当から役員まで速やかに共有化したり、蓄積して分析したりできるTACシステムのような道具がどうしても必要だった。また、農家がJAの職員が異動するたびに「またゼロからか…」となる場合もあり、信頼関係を維持するためにも記録を継続することが大切である。
 また、TACシステムは「事実を見える化」してくれる。きれいにまとめられた資料をみるより、「生の情報が見えれば、やるべきことも見えてくる」。それによって、縦割りではない、スピード感のある事業が可能になる。

◆TACによる営農経済事業の変革

 TACは担い手対応を目的に始まったが、「総合農協とは?営農経済事業をどうやって元気にしていくのか?という課題に対する答えになるのではないだろうか」と大西部長は振り返る。言い換えれば、JAが地域社会でどういう役割を果たすのか、地域農業の担い手とどのような取り組みができるかということだ。
 「JAグループ全体でTACの仕組みを定着させ、総合的な事業対応をつうじて組合員の要望や課題に応える」ことが大切であり、「現場の課題をみんなで解決していくことは、本来の系統組織のあり方ではないか」と大西部長はいう。成果をあげている県域やJAでは、販売・購買の部門を超えてニーズに応えている。
 TACの活動は、担い手への対応からスタートしたが、JAグループの営農経済事業を新しい時代に対応した事業へ大きく変革する可能性を持っているといえるだろう。

(2009.09.28)