◆各事業に「横串」をさしコーディネートする
JA全農の販売事業は図のように各事業・品目ごとに会社化されている。しかし、取引先である量販店や生協は、米穀、野菜や果物など園芸農産物、畜産物といった個別品目ごとの対応ではなく、それらの品目を含んだ全農としての総合的な対応を求めることが多い。
そうした全農グループ直販事業のコーディネーターとしての役割を果たしているのが大消費地販売推進部(販推部)だといえる。
販推部は、会社化されている各事業に「横串」を刺して、全農グループとして量販店や生協など取引先に提案をしたり、取引先の要望を受け止めて全農グループとしての対応をコーディネートして「総合販売」を展開していく。
◆協同組合間提携など顔が見える関係が進展
全農グループ直販事業で大きなウェイトを占めているのは生協だが、昨年あたりから新たな動きが起きてきている。
その一つが、20年12月に首都圏を中心に8都県をエリアとするコープネット事業連合およびその会員生協とそのエリア内の全農都県本部が参加した「コープネットエリア8都県JA連絡会」の設立だ。これに先立って、千葉県・茨城県・長野県で、県内のコープネット会員生協と全農県本部が協同組合間協定を締結し、事業面と同時に産地と生協組合員の交流が促進され、相互の理解が深まり、文字通り「いままで以上に、生産者と消費者の顔が見える関係づくり」が進んできている。
この「連絡会」は今年の8月22日に「コープネットエリアの地産地消の取り組みから日本の食と食料・農業を考える」をテーマにシンポジウムを開催。生協の組合員理事や生協職員、JAグループ関係者ら約260名が参加し、熱心な議論が展開された。
こうした協同組合間提携によるエリア内地産地消のさらなる進展と同時に起きている大きな動きが「自給率向上を目的とした具体策企画の推進」だといえる。具体的には生活クラブ生協で長年にわたって取り組まれてきた飼料用米の取り組みが、19年産米ではパルシステム生協連が、20年産米からはコープネット事業連合が、さらに21年産米からはユーコープ事業連合で取り組まれるなど大きく広がってきていることだ。
しかも、飼料用米の取り扱い量が各生協で拡大してきていること。豚への給餌が中心だったが、鶏卵や鶏肉へと畜種も広がりだしていることも最近の特徴だといえる。
自給率向上や水田のフル活用という観点から注目されている「米粉」についても販推部が事務局的な役割を果たして全農の各部門と調整して、実需者のニーズを把握し、生産・流通・販売まで、一つひとつ商品化をすすめるべく努力をしている。
◆産地交流会など国産取り扱い拡大に積極的に参画
そのほか園芸農産部に協力して、生協のニーズを踏まえ国産冷凍サトイモなど国産原料(青果物)の加工品の取り組みも進めている。「今後も幅広い品目提案を行い、各部門・グループ会社とともに供給拡大をめざしていく」ことにしている。
生協関係では、国産鶏種のはりま振興協議会(鶏肉)、青果物補強プロジェクト、種子と農法検討会などさまざまな分野で提携関係にある生活クラブ生協とは今後も事業が継続・強化されていく。とくに同生協は、NON・GMO(遺伝子組み換えでない)原料(トウモロコシ・大豆粕・なたね)、国産自給飼料(飼料用米など)の推進を重要な政策と位置づけていることから、畜産生産部や園芸農産部など関連部署と連携して対応していくことにしている。
そのほか全国の主要な生協とは各種協議会運営や産地交流会の企画運営などの組織活動に、全農直販グループ会社と役割分担しながら積極的に参画し、国産農畜産物の取り扱い拡大に取り組んでいる。
一方、量販店などに対しては、安心システム商品など全農グループ商品を中心に開催する「全農フェア」などの販促企画をすすめている。またJAグループ「よい食プロジェクト」と連携した消費者向けイベントや、新販促資材「にっぽんまるかじり」などを用いた販促企画を促進し、国産農畜産物の販売拡大に取り組んでいる。全農フェアについては、今年度、20取引先・1000店舗での開催をめざして積極的に取り組んでいる。
◆消費者に直に接する事業も展開
こうした生協や量販店にたいする国産農畜産物の直販事業と同時に販推部が推進しているのが、店舗やレストランなど消費者と直に接する事業がある。
東京・吉祥寺にある「JA全農のお店」は国産農畜産物にこだわった直販店舗で、当初は経営的に厳しい面もあったが、地域の人に受け入れられてきたことや国産を求める消費者ニーズの高まりで、20年度は客数で前年比111%、売上高で同116%と伸びており、今後も経営改善を進めながら、さらなる伸展をめざしていく。
また茨城県本部が運営している体験複合型ファーマーズマーケット「ポケットファームどきどき」は、年間延べ60万人が来店する規模に成長し、地産地消を通して地域農業活性化に大きく貢献している。この力を県内他地域にも広めるため22年10月に2号店を茨城県牛久市に開店する。販推部としてはここで蓄積されてきたノウハウを他県域での開発支援に活かしていきたいと考えている。
そして今年5月に竣工した新JAビルの地下に、全農直営のレストラン「ラ・カンパーニュ」を出店した。このレストランは都市型オフィス街の人たちに「食べること」を通して、農業や産地の情報を発信し、全農が掲げる「懸け橋機能」の効果を測定するという目的ももっている。開店以来、ランチタイムや5時以降のオフタイムに近隣のビジネスビルから多くの人が来店している。
◆国内有数の食品モールに成長した「JAタウン」
販推部が進める直販事業のもう一つの業態が、ネット上の食品モール「JAタウン」だ。
JAタウンは図のように順調に売上高を伸ばしてきており、20年度は5億円を突破、今年度は現在のショップ数88を100ショップに増やす予定である。そして将来的には売上高10億円、年間延べ来店者数4000万人(現在2000万人)をめざしている。
ネット上のショッピングモールはかなりの数あるが、食料品だけに限定してみればJAタウンは国内有数のモールに育ってきているといえる。しかも、出店者はJAグループで、安全で新鮮・美味な国産農畜産物ばかりなのだから、10億円・4000万人はそう遠くない将来に実現できる目標だといえるだろう。
◆直販事業1兆円をめざして
販推部では、こうした取引先や消費者に国産農畜産物の販売を促進するとともに、全農グループ各事業部門・グループ直販会社間での情報の共有化をはかることも重要な役割と考え、さまざまな取り組みも行っている。
そして全農本所・県本部、直販グループ会社を合わせた全農グループ直販事業で「1兆円を目標」に取り組んでいくと木村龍夫販推部部長は本紙に語ってくれた。消費が冷え込み、食料品についても低価格志向が強まっているが、ここまでみてきたような取り組みを着実に確実に実践することで、国産のシェアを確保・伸展することができるとも木村部長は考えている。
全農チキンフーズ株式会社
設 立 1990年4月
年 商 840億円
(08年度実績)
新ブランドの発売も予定
バランスのよい販売をめざす
同社はより販売力を強化しようと、宮崎くみあいチキンフーズ、鹿児島くみあいチキンフーズ、住田フーズなどグループをあげたブランド化を推進している。来年4月には新ブランド「JAチキン」の発売が予定されている。
「JAチキン」は生産履歴によるトレーサビリティを徹底し、ISOの食品安全基準も取得するブランド商品だ。消費者に安全・安心を訴える新ブランドとして、力を入れている。
販売戦略の観点で重視しているのは、直販事業の強化だ。より安定的な販売力を身に付けると同時に流通コストの削減も図ろうと、旧来の卸問屋中心の販売から直販へのシフト転換をすすめている。直販を強化することで、消費者の反応をダイレクトに察知でき、常に消費者を意識した商品づくりにもつながる。
同社の業態別の販売比率では直販部門が42%、卸問屋への販売が49%、加工品メーカーへの販売が9%だ(すべて08年度実績)。
直販事業42%の内訳は量販店25%、生協7%などとなっている。国産品で安心・安全を訴えるJAグループの商品は、生協のニーズに合致する部分が多い。協同組合間提携などをすすめ、新たな生協への販売ルート拡大をめざしている。
量販店・生協向けがのびている一方で、上記の内訳での外食・加工は1%ほどと非常に弱い。しかし鶏肉の消費構成は、家計内消費よりも外食消費の方が割合が大きく、08年度の農水省調査では家計内が36%、外食・加工が64%と大きな差がある。今後は外食・業務用販売の強化に努め、よりバランスの良い販売をめざしている。
JA全農青果センター株式会社
設 立 2006年6月
年 商 1480億円
(08年実績)
産地と売り場を結びつけ
「おいしい!その笑顔のために…」
同社は青果物やその加工品の仕入れ、販売などの事業を行い、まさに生産者と消費者を結ぶ懸け橋を担う。
埼玉、神奈川、大阪と拠点は全国に3カ所あり、販売先は80%以上が大手量販店と生協が占める。外食など業務加工用は全体の2%ほど。
同社の特徴は卸と仲卸両方の機能を持っていることだ。市場を通さず広い範囲で出荷から販売まで一連の流れに携わる。仲卸機能としての小分け包装やパッケージ加工、生協の共同購入のセット事業の受託も行っている。一連の流れに関わることで付加価値をつけられることが一般市場の流通とは違う最大の特徴だ。
青果物は生産原価と相場が変動するため、生産者の手取りを絶対的に保障できるとはいい切れない取引きのなか、最低限心がけているのは「安定的に産地と売り場を結びつける」意識だ。出荷したものがどういうルートでどんな売り場に売られているのか、産地の人に明確に伝えることに努めている。売り場が産地を選ぶというスタイルだけでなく、産地の人にも売り場を選んでもらいたいと考える。
また客層や地域などで商品のニーズに違いがあるため、その売り場にあった質と値段の商品をうまく結びつけることもセンターの重要な役割だとしている。産地の商品力を引き出せる売り場に商品を導くことが、のちに生産者の手取りにつながると考えている。
消費者側に立った取り組みにも努める。鮮度を維持できる設備の導入や、品出しの手間を省くため、ダンボールではなく繰り返し使える容器での出荷に変えるといった流通方法の改善や、期間を通して安定的に野菜を提供できるよう、産地に提案しながら商品開発に取り組むといったことだ。また、産地の人を呼んで店頭で試食販売してもらったり、JAや量販店、生協主催の産地交流会の仲立ちも行っている。
同社は、JAに「青果センターの機能を利用した主体的な販売」を生産者にアピールしてもらい、生産者・JAと販売戦略を共有することで、より協力関係を強めていきたいとしている。
「おいしい!その笑顔のために…」を長期の社内ビジョンに掲げる同社はその実現に向けて、産地と売り場の結びつけに力を入れながら物流機能の向上を図っていきたいとしている。
JA全農ミートフーズ株式会社
設 立 2006年6月1日
売上高 2214億円
(08年度実績)
きめ細かくニーズに対応し
国産畜産物のシェアを拡大する
同社の特徴的な取り組みとして、パック肉による販売がある。量販店や生協などのニーズを受けて全国10カ所に包装肉工場を展開し、加工しパック詰めした形での納品を推進している。
販売事業の基本は、「全農安心システムの推進」「指定産地取引」「こだわり商品づくり」という3つの柱がある。これらの推進で、生産者と消費者双方からの安心づくりという「懸け橋」機能を果たしている。
「懸け橋」機能として重視しているのは、国産品の消費拡大の取組みだ。
厳しい経済情勢の中で、相対的に安価な輸入食肉に消費が移行する傾向が見られる。国産食肉の品質優位性をアピールし、JAグループ生産者の生産する畜産物をより多く消費者に選んでもらうこと等、消費の拡大により、畜産農家経営が持続できるような農産物価格の実現と安定をめざしている。
不況による所得・消費減退などを背景に、国産食肉の消費も低迷しつつある。国内在庫が増加する一方、相場は低迷するという深刻な状況だ。消費者のニーズも低価格志向が強く、より安いものが求められており、相対的に高価な国産食肉は敬遠されがちである。
しかし、低価格志向・節約志向に対して、より商品の価値を高め、消費者の期待を裏切らない商品づくりを推進することで国産食肉のシェアを拡大していこうというのが、同社のねらいだ。品質、生産履歴を大事にし、きめ細かいニーズに対応することで、消費者に国産品のよさを訴えている。
系統組織としての運動以外でも、店頭での試食販売やPR活動などを含め、今年度は消費拡大のプロモーションに従来以上の予算をあてて重点的に取り組んでいる。
「やっぱり国産」、と消費者に理解してもらい選ばれる食肉販売を推進している。
JA全農たまご株式会社
設 立 2005年6月1日
年 商 886億円
(08年度実績)
鶏卵業界のオピニオンリーダーとして
生産者と消費者に適切な情報を届ける
近年、鶏卵業界は大規模生産者がそのまま販売事業も手がけるようになってきたため、卸問屋の影響力が下がっている。同社では業態別の売上割合で量販店が30%、生協が4%などあるが、4割以上は卸問屋であり、時代に合った合理的な物流システムの再構築が求められている。
そんな中、販売力強化策の1つとして新しい切り口で新たな商品価値を創造しようとしている。
例えば、同社の主力商品の1つである「しんたまご」を昨秋、リニューアル発売した。新しくなった「しんたまご」の特徴は、従来のたまごに比べて2倍の「葉(ヨウ)酸」を含んでいることだ。
葉酸は、胎児が健康に産まれてくるために重要な栄養素として、欧米では広く認知され女性の積極的な摂取が呼びかけられている栄養素だ。しかし日本での認知度はいまだに低い。同社では「しんたまご」の販売をCSRの一環として、「葉酸と母子の健康を考える会」とも協力し、価格面以外のニーズにも応えられる商品づくりを展開している。
また、市場シェア20.9%を持つ同社は、鶏卵業界全体のけん引役にもなっている。
前身の全農鶏卵時代には、卵質測定器「エッグマルチテスタ」を開発した。それまで手動でわかりにくかった卵の品質や鮮度などの測定を、自動的に高精度でできる機械だ。実需者、生産者の双方から高い評価を得て、発売して10年以上が経過した現在、この測定が日本の卵質基準のスタンダードとなった。
また、今年4月にはGPセンターなどで鶏卵を洗うさいに塩素臭などを低減させる殺菌電解水生成装置「アクラリーテ」を発売した。ほかにも、容器やパックなどの開発にも着手している。
同社が「生産者と消費者の懸け橋」機能として重視しているのは、「生産者と消費者の両方に適切な情報を届ける」取り組みだ。
近年の鶏卵農家の経営は、飼料や原油の価格高騰、消費の落ち込みなどを背景に厳しさを増している。そこで「しんたまご」「QCたまご」などのブランド卵を中心に、昨年8月1日から1個当たり約3円の値上げを実施し、世間的にも大きな反響を呼んだ。
生産現場の厳しさ、消費者のニーズなどをを正確に伝え、鶏卵業界全体のオピニオンリーダーとしての役割も果たしている。