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【第25回JA全国大会特集】 新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして

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【HJC広島県協同組合 連絡協議会】協同の力が作る豊かな農と食、元気な地域社会 ー広島県の協同組合連携、25年の取り組みー

「私たちのために作ってくれているあなたがいる」
「私たちの作物を食べてくれているあなたがいる」

 広島県には11の協同組合でつくる「広島県協同組合連絡協議会」(HJC)がある。設立は1985年。来年で25年を迎える。協同組合が連携して「人に優しい地域社会づくりをめざす」がHJCの理念だ。農協と生協が提携した地産地消運動を核に、食農教育、福祉などに協同の力を発揮しようと活動してきた。
 第25回JA全国大会は新たな協同の創造がテーマ。広島県の取り組みから「協同の創造」を考えてみたい。

HJC広島県協同組合 連絡協議会◆小さな活動から育てる


 HJCは県内の農協、漁協、森林組合、生協の県域11団体で構成している。JAグループは中央会、全農、全共連の県本部、県信連、県厚生連がメンバーだ。
 このうち農協と生協の間では、1980年代の始めから協同組合間連携を強めようと県経済連(現、全農県本部)が中心となって生協ひろしまと米、卵、食肉、野菜で提携を進めていた。
 この取り組みが1985年のHJCの設立がきっかけとなってさらに強化されることなる。農協、生協ともに経営環境が厳しくなるなか、農産物の取引関係だけに陥らず、もっとお互いが支え合う運動的側面を強めていこうという機運が出てきたのだ。
 1988年には「協同組合間提携強化に関する協定書」に調印。
 食料自給率の向上と日本型食生活による相互の組合員の健康増進、地場流通を促進して地域経済と生活の発展をめざすことなどを決めた。キュウリ、トマトなどを「運動商品」としたほか、米の新品種「あきろまん」や青ネギの共同開発、両組織と全農ミートが出資した食肉加工会社の設立などが動き出した。
 また、経済連の職員を生協に出向させる全国でも例を見ない人事交流や、生協独自の農薬使用基準づくりにも加わった。

                      ◇

 2000年には「協同組合間提携地産地消運営協議会」を設置。米、食肉、卵、野菜で部会を設け、産地育成、商品開発、学習活動などを展開する体制を整えた。
 そして2001年。「豊かな食と農と地域 ひろしまをつくる協同宣言」で地産地消運動に本腰を入れることをともに宣言する。
 県の食料自給率が23%にまで低下していることに危機感を持ち、食と農の問題は生産者と消費者にとって共通の課題であることを強調、「私たちのために作ってくれているあなたがいる」、「私たちの作物を食べてくれているあなたがいる」という相互関係を「広島のなかにたくさん作っていきましょう」、と訴えた。
 宣言では、安全・安心な県内農産物を育てる、顔の見える県内産品の利用増、お互いの思いを理解する学習と交流など、5項目の取り組みを掲げた。

 

 

県内JAと生協で米、野菜、卵など取引品目ごとに、体験・交流プログラムを実践している(写真提供:生協ひろしま)

(写真)県内JAと生協で米、野菜、卵など取引品目ごとに、体験・交流プログラムを実践している(写真提供:生協ひろしま)

 


西岡恒治 JA全農広島県本部長◆連携の力で適地適産へ


 この運営協議会の活動は、これまで米、野菜、卵、果実、食肉、牛乳などそれぞれの品目別の推進の会が基盤となってきた。
 推進の会は、各品目を提供するJA、生産者と生協組合員らで構成。重点商品、推進商品の設定や新商品の共同開発などを行うが、食農教育と交流・学習についても会ごとに行動計画を立てることが特徴だ。
 たとえば、米推進の会では田植え、稲刈り、草取りなどの体験、食肉推進の会であれば産地視察に加えて飼料高騰問題の学習、たまご推進の会では鳥インフルエンザの学習など、その品目が抱える時々の課題を学び、生産者の声を聞くといった活動を行ってきた。
 JA全農ひろしまの生協への供給高は子会社を含めて約17億円。
 西岡恒治県本部長は「野菜では契約栽培にまで踏み込む関係になった。そのためには再生産可能なことが必要だと消費者に理解されなければならない。生産者サイドの主張ができる場になっている」と取り組み意義を語る。
 契約栽培による新商品開発は、新たな産地育成の面もある。
 たとえば、生協サイドから、ベータカロチンが豊富なニンジンが栽培できないかとの提案があり、生協が畑全体を買い取るかたちで実現した。量だけではなく質にもこだわった地産地消だが、生産者にとっては確実に販売が見込めるなかで新たな品目に取り組める。
 「米に代わるものを、といわれてもなかなか見つからない現状のなかで、契約栽培なら計算ができる。地産地消がベースとなって適地適産による産地再編も可能となるはずです」と西岡県本部長。
 なぜ、地産地消か、その答えの一つがここにある。そうした産地・JA段階の取り組みを「県本部が束ねていく」ことが役割だという。

(写真)西岡恒治 JA全農広島県本部長

 食料自給率の低下が「地産地消」運動のきっかけになった


黒木義昭 JA広島中央会前専務◆HJC理念の確立


 地産地消は今や全国で掲げられるテーマとなっているが、当初、広島ではどのような問題意識からこれが地域の合い言葉となったのか。
多様な農業がある広島 生協との協同組合間提携やHJC活動の基盤づくりに取り組んだJA広島中央会の前専務、黒木義昭氏(現広島食肉市場(株)代表取締役常務)によると、背景には「土地立脚型農業は規模拡大が難しく、県内農業は規模拡大論では勝負にならない」という認識があり、それを具体化したもの、ということになる。
 広島県の農業は、生産額(1076億円)をみると米28.6%、畜産36.7%、野菜16.7%、果樹10.5%と多様な展開をしている(05年、左図)。ただし、山林が4分の3を占め農地は7%。急傾斜水田が多く一戸あたりの耕地面積は81aにとどまる。
 「経営規模拡大を追えば集落に小規模農家はいらない、となる。しかし、地域を支える担い手は大切だ。集落を維持していくためにも、少量多品目の生産・販売システムが必要になると考えた」。
 一方、市場出荷であっても地域ブランドを確立するには「地域で食べて、おいしいと言われて初めてブランドになるのでないか」との考えとも相まって地産地消運動へとつながっていく。
 これを協同組合間連携に努める「関係者の実践的な取り組みとして整理してみよう」との考えから黒木氏らが中心となって改めてHJCの理念づくりに盛り込んだ。
 1999年に決めたHJCの理念はその行動指針で、「活力ある豊かな地域づくりのため」に地産地消に努める「協同事業」を進める、と具体的な事業指針を示した(下図)。
 また、これを機に県の協同組合大会を3年に1回開くことや、運動をリードする役職員を対象に協同組合学校を開校するなど、活動を再活性化させている。

(写真)黒木義昭 JA広島中央会前専務

担い手育成は消費者の問題でもある 

 

岡村信秀 広島県生協連専務◆協同のマネジメントを


 こうした協同組合間連携で事業と地域づくりを進めるには「協同のマネジメント」が重要になる、と指摘するのは広島県生活協同組合連合会の岡村信秀専務だ。
 前述のように県本部と生協ひろしまが実践している地産地消運営協議会では農業体験、食農教育にも着実に取り組んでいる。
 岡村専務によるとこれに加えて、2年前から生協職員が「米づくりをもっと経験しなければ」と年5回ほど現場に家族連れで参加するようになってきたという。その数は約200人。
 「生産者と消費者の間に立って問題の解決に知恵を絞る。高い、安いなど消費者=組合員の声を一方的に聞くだけなく、生産者の置かれた状況をきちんと理解して対応する。そこに生協職員として働きがいを感じる意識変化が出てきていると思います」。
 職員の働きがいが組合員の満足を生み出す。協同組合間連携のもと、組合員のニーズに応えることは、たとえば生協にとっては生産者の側にも立つことである。そこに単なる市場取引にはない安心や豊かさを利用者が感じ取れば事業量は確保されていく―。岡村専務はこうした“協同のマネジメント”を双方で掘り下げていくことが大事な時代になったとして「JAの職員も生協、消費者のなかにもっと入っていって欲しい」と期待を寄せている。

(写真)岡村信秀 広島県生協連専務

 


坂本和博 JA広島中央会理事◆担い手は地域全体の課題

 地産地消を核にした協同組合間連携は担い手問題にも新しい展開を生み出す可能性がある。
 「かつて生協が力を入れてきた『産直』は点と点を結ぶ取り組み。『地産地消』は地域全体の面的な取り組み」と話す岡村専務は、「だからこそ、地域の担い手問題は消費者の重要課題だと意識されるようになった」と強調する。
 県の担い手育成方針では、集落型農業生産法人数410を目標にしている。現在、160以上の法人が誕生しているが、目標に達しても「農地面積の46%のカバー率。元気な女性たちなど、直売でがんばってもらう大切さは変わらない」とJA広島中央会の坂本和博理事(地域振興本部長)は話す。
 また、集落営農が法人化したときは、「販売をどうするか。法人化すれば、生協など消費者の支えがある地産地消での結びつきがなおのこと大事になるのでは」(同)と法人に対するJAの支援策としても現在の取り組みを提案していきたいとする。
 さらにJAグループと生協が連携して生産法人を設立する計画も進んでいる。
 生協ひろしまが2010年にJA広島北部管内に野菜生産をメインとして事業化をめざす。
 設立にはJA、中央会と連携、栽培された農産物はJA・生協ルートで販売。農作業や出荷に従事する人には、障害者を雇用するなどの農村での働く場創出も視野に入れている。
 協同組合間連携が、担い手づくりを通じた地域づくりへの展望を拓きそうだ。

(写真)坂本和博 JA広島中央会理事

 


◆暮らしを支える協同の創造へ

 

 岡村専務は雇用の創出をはじめ協同組合による福祉活動の重要性も説く。お手本になるのはJA女性部などの高齢者福祉活動への取り組みだ。
 「農作業と親の介護で倒れそうになった女性たちが始めたのがヘルパー養成講座への参加。お金を払ってまで人のための仕事の資格をとる。それは将来の自分たちのため、今、組織をつくろうということ。福祉こそまさに協同」と評価、今、農村部から生まれた組織づくりと運動を都市部に広げるのが生協の課題だという。
 一方、中央会役員時代に県内4700集落を調査し、JA運動の再構築には「営農と集落を支える生活活動も両輪とすべき」と強調し続けた黒木氏は、集落営農組織が農産物加工など6次産業化とともに、高齢者福祉対策も視野に入れるべきではと提唱する。
 「農、食も福祉もJA職員の日常業務として意識されることを期待したい」と話す。
 連携によって、こうしてそれぞれの協同組合の課題も改めて見えてくる。その継続によって新たな課題への挑戦も生まれる。
 「今、消費者には安さへのニーズは確かにある。しかし、それはワーキングプアがこれだけ増えたことも原因。なぜ、こうした社会になってしまったのか、それを問いかけるのも協同組合セクターではないか」と岡村氏は呼びかけている。

 

 

HJC理念HJC理念
私たちは、
自立と協同の力を発揮することにより、
自然と調和した、
人に優しい地域社会づくりに貢献します。

行動指針
(1)自立と個性を大切に、人とひととのつながりを深めます。
(2)協同組合メッセージを共有し、協同の輪を広げます。
(3)自然や人に思いやりのある協同組合事業をおこないます。
(4)地域の協同組合として、社会的責任を果たします。

スローガン
私たちの協同組合運動は、
「Harmony,Joyful,Culture」を、
21世紀の新時代に対応する
スローガンとします。

 

HJCの構成メンバー

●広島県生活協同組合連合会
●広島県漁業協同組合連合会
●広島県信用漁業協同組合連合会
●広島県森林組合連合会
●広島県農業協同組合中央会
●広島県信用農業協同組合連合会
●広島県経済農業協同組合連合会
●広島県同栄社共済農業協同組合連合会
●広島県厚生農業協同組合連合会
●広島県果実農業協同組合連合会
●広島県酪農業協同組合

 

 

地域社会づくりを使命に

板橋衛 愛媛大学農学部准教授


板橋衛 愛媛大学農学部准教授◆設立25年、活動が活性化


 広島県内において、協同組合間提携に向け、各協同組合の代表者の懇談会が開催されたのは1984年7月であり、1985 年3月に、11 団体の参加により「広島県協同組合連絡協議会(以下、HJC)」が設立された。 それまでも、広島県民生協(当時)と広島県経済連(当時)の協同の取り組みとして、ブランド米の共同開発などが行われていたが、そうした連携を幅広く、様々な協同組合間で行っていくことが企図され、HJCが発足したのではないかと考えられる。
 その後も、生協と農協との間では独自の商品開発を通して、「協同組合間提携強化に関する協定書」の調印(1988 年)にまで至る活発な連携の動きが見られたが、11 団体間では、事業面がきわめて多様であるため、HJC全体としての取り組みは情報交換程度であり、あまり大きな成果はみられないまま、年1回の総会が繰り返されていたようである。

 


◆行動指針に「地産地消」

 

 そうした、ややマンネリ的展開からの一大転機は、協同組合陣営の事業が軒並み伸び悩み、経営的には赤字に転落する組織も目立つようになる1990 年代後半に訪れる。
 事業の停滞的傾向・赤字経営体質からの脱却への取り組みは、各団体において最重要課題の1つとして行われていたが、どうしても日々の利益確保など、目先の対応に追われることが多かった。
 協同組合の事業体としての独自性を有した中長期的なビジョンが描けない状態に陥っていたのである。内外からは、協同組合であるのに商業主義に走りすぎているという痛烈な批判もみられた。
 そうした課題に対してHJCは、広島県内の協同組合が組織的に提携を図っていくうえでの基本となる考え方を「私たちは、自立と協同の力を発揮することにより、自然と調和した、人に優しい地域社会づくりに貢献します。」とまとめ、これを「HJC理念」とした。また合わせて、運動を実践していく基本的4つの行動指針と協同組合運動の合い言葉としてのスローガンを定めた。これらの制定が1999 年である。
 行動指針の中には、地域で生産された産物を地域で消費する「地産地消」に努めることが明記されており、言葉としては既に使われていたが、その後の全国的な「地産地消」運動ブームを考えると、先見性のある示唆として注目される。
 この理念の制定により、HJCの活動はにわかに活気づくのである。総会では、これらの理念・行動指針に基づいて1年間の取り組みが総括され、次年度の計画が話し合われるようになり、1つひとつの具体的な活動の位置づけがきわめて明確になり、活動にメリハリが出てくる。また、3年に1回は協同組合大会も開催されるようになり、全国から多彩な講師を招聘している。

 

 

◆「協同組合学校」を開校


 その中で、特にHJCが重点的に取り組んだ活動として、人材育成があげられる。その一環として2004 年度から「協同組合学校」が開校されている。
 協同組合学校では、主に中堅職員が参加し、講師陣による講義や参加者の交流を通して、協同組合で働くことの悩みを共有し合い、協同組合に求められる特別の役割や自分たちの事業体が協同組合であることの意味などを考える場となっている。
 筆者も2004 年度と2005 年度の協同組合学校に講師の一員として参加しているが、参加者からは、「日々の業務に追われていると、あまり自覚することがなかった『協同組合』の意味を改めて考える場になった」などの意見が挙げられ、「他の協同組合の組織・事業に関しても初めて学ぶことができ、協同組合陣営で働くことの意味を考え、自分の業務内容そのものを見直す契機になった」という意見もみられた。
 その他にもHJCは、生協と農協の福祉事業で働く職員の共同研修会を実施するためのコーディネート機能も果たしている。福祉事業は、特に農村部の地方都市では、生協と農協が事業的には競合することもしばしばではあるが、働く職員の悩みは共通ではないかという考え方に基づいて、2006 年度より取り組まれている。

 


◆協同組合の自覚を喚起

 

 今日の協同組合は、市場競争がますます厳しくなる中で事業展開を行っている。そのため、そこで働く役職員は、日々の業務に追われ続けると、どうしても視野が狭くなり、協同組合で働くことの意味や意義を見失いがちになりかねない。また、それぞれの団体の事業分野のみを考えていても閉塞的思考になりかねない。HJCは、地域に根ざした事業を行う協同組合として、共に地域社会づくりに貢献することが協同組合の使命であることを、各団体間で常に確認し合い、協同組合で働く役職員の自覚を喚起する機能を果たしていると考えられる。これからのHJCに期待される役割もまさにそこにあり、今後の活動にも注目していく必要がある。

(2009.10.02)