◆縦軸と横軸の連携強化を確認する大会
白石 今回の大会の意義をどのようにお考えですか。
江原 私は昭和36年に埼玉県中央会に入会しましたが、当時、先輩から口酸っぱく言われたのは、協同組合は組合員自らが自らの利益を守るためにつくったものだ、でした。もし組合員に不満があるなら、その農協を動かしている方法が間違っているんじゃないかと考えるのが中央会の役割だ、と教育されたものです。
それを考えると「大転換期における新たな協同の創造」をテーマにした今回の大会は、ちょうどよい時期によいテーマを掲げた大会ではないか。まさに協同組合運動の将来を見据える大きな意義のある大会であろうと思っています。
ややもするとみなさん自分たちの任務を忘れがちですが、この大会を契機に、JAグループとは、組合員のために運動、事業に取り組むJAを中央会・全中が縦軸で結び、横軸に連合会機能、ここに家の光協会も含まれるわけですが、これがしっかりと連帯し全体として絆を持つ組織であることを再確認し、一体となって目標に向かって進むんだということが、今回確認されればよい節目の大会になるのではないかと思います。
◆原点は「組合員のためのJA」
白石 新たな協同の創造というキーワードは、会長がご指摘されたように縦軸とともに横軸の運動も相乗的に強化するということでもあるわけですね。
江原 縦軸、これは協同組合の原則だと思いますがぶれてはいけません。それをもとに連合会、全国連が横軸として連帯する、これをもう一度構築するということも今大会議案の重要なことだと捉えなければいけないと私は思っています。
白石 主役である組合員の土台をしっかりさせてこそ、大会議案が掲げる農業の復権、地域の再生、JA経営の変革があるということですね。
江原 われわれの組織は果たして原点である組合員のために、ということにどれだけ神経を尖らせているのかです。事業展開も組合員のためだということを認識し、組合員、地域住民に対して自分たちがつくった農協をどうするのかということについてわれわれがメッセージを発し結集力を高められるか、に課題があるのではないでしょうか。
◆食と農のメッセージを伝える
白石 そのなかで家の光協会の役割、意義については具体的にどうお考えですか。
江原 ご承知のように今年は『家の光』が創刊1000号という節目を迎えられました。家の光協会はまさしく組織力によって支えられてきたわけですから、この尊い財産を次の世代に受け継いでいかなければなりません。
1000号を迎えられたということは、まさしく先人たちが『家の光』をはじめとする協会発行5誌を通して協同組合運動の本来の精神を伝えてきたからこそだと思っています。
そこで、JAグループの課題を「食料・農業」、「くらし・地域」、「組織・経営」という3つの視点にまとめたときに、家の光協会は今回の大会議案に盛り込まれた対外広報、教育文化活動の強化という点にあると思っています。
たとえば「食料・農業」の課題では、国産農畜産物への理解と信頼を高める『家の光』ほか各媒体からの情報発信があります。さらに「JA家の光クッキング・フェスタ」や「ザ・地産地消家の光料理コンテスト」、「家庭菜園検定」などもあります。
これを今後はさらにより内容を充実して、たとえばJA家の光クッキング・フェスタは、親子ふれあいの場として親子参加にしようと企画しています。今まではお母さん方を対象にしていましたが、親子ともども参加していただくことによって、子どもや孫といった次世代に伝わるメッセージを発信できればということです。
私は思うんですが、人間はいつの時代でも何かを食べて生きてきたわけです。その食べ物はあるときは神さまに仏さまにあげて祈りも捧げてきた。それが食べ物です。その食というものを大事にする世の中を作り上げることが日本の将来だと思っています。その食を生産する生命産業が農業です。その点で、この大会では「食」を大事しようということもメッセージになっていると思います。
◆教育文化活動でJAを活性化
白石 組合員が元気になり活動に参加したくなるようなまさにJAらしい教育文化活動の一環としての広報活動が必要だと思いますね。
江原 広報活動にとって家の光協会は絶好の機関です。しかも歴史がある。もっと役割を発揮することが必要です。
また、「くらしと地域」の課題では、JAの教育文化活動を担う「教育文化・家の光プランナー」設置促進に取り組んでいます。すでに各県で大変に盛り上がっており、県ごとに取り組んでいこうという動きも出てきました。大変に闊達でこれは大切にしなければなりません。
白石 教育文化活動については、JAの組合長さんをはじめトップ層がその意義を理解し広めることと、組合員との接点となる教育文化活動担当者を支店などに設置していくといった具体的な取り組みも求められますね。
江原 やはりより専門性を持った職員を育成しようというのがJAレベルでの取り組みとして必要だという認識が広まっていると思います。
それから「組織・経営」の課題では学習・交流活動の場を提供していきたいと考えています。
とくに毎年『家の光』12月号では歴史のある家計簿付録があります。これを活用してもらい少しでも家計を効率化することに貢献できればと思っています。
このような家の光協会が提案しているくらしの活動や教育文化活動を地域で仕組み、その輪に地域住民にも入ってもらう。家の光協会としてもそれをお手伝いするメニューを出していきます。県レベル、各JAレベルで取り組んでいただくことが大事ではないかと思っています。
◆『家の光』で輝く女性を応援
白石 JAと地域の活性化にとってはとくに女性の参加・参画が重要ですね。
江原 私は家の光協会の会長になって以来、あいさつではいつもこう話しています。
「家の光はどう読みますか? 『うち』の光とも読めますね。ご家庭でいちばん光っているのは奥様方です。ぜひ光り続けてください。それには『家の光』を読んでください」と(笑)。
元気な女性たちからは新たなアイデアも出てきます。それをJAがバックアップして実現すると、その輪が広がって、じゃあ、女性部に入ろうか、JAの組合員になろうか、そういうことが起きてくるんです。
白石 共感の輪を広げることが大事ですが、女性部の力を発揮する事務局担当職員のサポート機能が必要ですし、そうした実践をする職員をJAトップ層がきちんと評価していることが大事だと思います。
江原 トップの姿勢がJAを左右しJAの評価が決まるということでしょう。私は組織人とは、リレーのランナーだと思っています。ランナーであるトップが自分が走り抜く間の任務をしっかり心得て、次にバトンをタッチする。そうすればきっといい方向が受け継がれるのだろうと思います。
白石 グローバル化が進み、農産物価格にしても低迷していたり、景気の先行きも見えないなかで、もう一度原点といいますか、組合員の営農とくらしをきちんと正確にとらえながら手を打っていくという緊張感のあるJA運営とコミュニケーション活動が大事になっていると思います。
江原 つまり、組合員や地域住民の拠り所になるJAになろうということだと思います。
私は『家の光』の部数が増えることはJAのファンが増えることだと思っています。JAファンづくりのための家の光事業でありたいと考えています。
白石 大転換期とは、JAグループが文化的ニーズと願いを軸にした第一歩を踏み出すときでもあると思います。JA運動発展のためご活躍を祈念しております。ありがとうございました。
インタビューを終えて
国際協同組合同盟(ICA)の新原則では、協同組合の定義の中で、組合員の(1)経済的、(2)社会的ニーズと願いと共に、文化的・知的・精神的によりよい生き方を助長し(3)「文化的ニーズと願い」をかなえることをその目的として鮮明にしている。江原会長は、「協同組合は組合員自らが自らの利益を守るためにつくったものだ」という原点から、JA運動の縦軸と横軸の相乗効果の発揮と新たな協同の創造のために、JAトップ役員のリーダーシップの重要性を強調され、私も同感である。
さらに、創刊1000号を迎えた『家の光』をはじめとする月刊誌・書籍等の教育文化活動の資材が、JA家の光クッキング・フェスタや女性部等起業活動の現場でイキイキと活用される繋ぎ役が「教育文化・家の光プランナー」であること、加えて、出版・文化団体として農村の河川の親水や景観保全運動の支援やアジアとの共生を視野に世界こども図画コンテンストなどの社会的活動の意義もロマンをもって語られた。今回のJA全国大会は、「生活文化の創造」をJA運動の本丸あるいは基軸にすえて組合員基盤を拡充するための覚悟を固める絶好のチャンスだと思われる。
(白石)