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【第25回JA全国大会特集】 新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
【現地ルポ】 今、JAの現場では  JAつくば市谷田部(茨城県)

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【現地ルポ】 今、JAの現場では   施設利用はすべて無料 JAつくば市谷田部

信用・共済の実績を営農・生活へ徹底還元
JAは組合員自立のためのバックアップを

 JAつくば市谷田部は茨城県つくば市の南部おおよそ3分の1を管内に持つ。管内面積約7954m2で組合員数3534人(うち正組合員数は2746人)と、決してJAの規模としては大きくないが、2008年度の事業実績で信用事業が貯金高469億3000万円、共済事業で共済保有高1387億2000万円と、1戸あたりの利用額は県内トップクラスだ。しかし決して信用・共済に特化したJAではない。組合員との強い信頼関係のもとで総合JAならではの事業横断的活動をしている。

◆環境保全型で成長産直部会

JAつくば市谷田部 JAつくば市谷田部のユニークな点は、営農センター、予・保冷庫、などの施設利用料がすべて無料であることだ。コンテナ洗浄機、スチーム土壌消毒機などの機器もJAが購入して組合員に無料で貸し出し、手数料などはもらっていない。
 さらに特徴的なのは、いわゆる“営農指導員”がいないことだ。
 つまり生産者自らが責任を持って生産から販売までを手がけ、JAは資金の提供や事務手続きといったバックアップに徹しているのだ。そのため部会の活動や管理は徹底している。
JAつくば市谷田部 なかでも活発なのは1983年に発足した産直部会である。生協を主な取引先として、古くから「環境にやさしい農業」を掲げ農薬削減、天敵や生分解性マルチの導入、循環農業システムの構築などに取り組んできた。94年には朝日新聞農業賞、2000年には県の環境保全型農業コンクール最優秀賞を受賞するなど評価も高く、01年には県内JAの先駆けとして、農薬の空中散布を全面禁止にした。さらに今では硝酸態チッソの実験ほ場を設けている。
 発足当時は31人で年間販売高も400万円ほどだった産直部会だが、3年目には1億円を突破。その後も成長の一途をたどり、昨年度は13億円6500万円の売り上げを記録した。パルシステム事業連合などを通じて、消費者との交流も盛んに行っている。

◆直売所の販売手数料は4%

 同JAは、比較的若い生産者が多く後継者がよく育っている。04年には青年部「若葉会」(現「JAつくば市谷田部青年部若葉会」)を結成し、農業祭や展示即売会などイベントへの参加や、圏外との交流や研修など活発な活動をしている。
 現在の会員数は35人。結成の中心となったのは、当時20代後半で結婚してUターンした後継者だったが、ほかのメンバーもみんな両親の背中を見て農業に入ってきた人たちだ。そこには、両親の世代から受け継がれてきた、農協と組合員との“絆”がある。
 「担い手と後継者を一緒にしてはいけない」と話すのは、同JAの鈴木國勇会長だ。
 「本当の後継者は両親とJAが一体にならなければ育たない。もちろん代を引き継ぐには親と子の合意が必要だが、そこで長年培ってきた信頼関係の上で、『JAがあるから収入も安定する』という安心感を、いかにもってもらうかが重要」だという。
 例えば若葉会では、かねてより地元の学校給食センターへ農産物を出したいという目標があった。そこでJAでは販売手数料をできるだけ安くして、入札に勝てるように支援した。
 こうして生産者の所得向上につなげれば、生産力が高まり、よりよいものを安く消費者に届けることができる。そのためにはできる限りJAの手数料を安くするべきだと、直売所の手数料はわずか4%しかもらっていない。そもそも直売所の運営は、産直部会に委ねている。手数料は取らない方針だったというが、それではさすがに働き手(店員)や店の維持費がまかなえないということで、せいぜい実費の4%ほどをもらうことにしたという。

今年で発足26年目を迎えた産直部会

(写真)今年で発足26年目を迎えた産直部会

◆40年以上続く一斉全戸家庭訪問

 組合員とJAとの絆づくりとして、職員による組合員への一斉全戸家庭訪問を実に40年以上前、1963年から実施している。
 一斉全戸家庭訪問は毎月1人35〜40戸ほどを訪ね、情報交換や共済、信用、経済事業の利用を呼びかけている。
 そこでの信用事業の利用は1万円、5000円という金額だが、大事なのは金額よりも件数だ。これは共済事業でも同じ方針で、90人の職員が1人1件成約すればよいという目標で呼びかけを行い、1戸あたりの新規契約保有高は県内全27JAの中でナンバー1となった。
 共済事業は全国的に満期を迎える利用者が多く、保有高の減少が大きな課題となっているが、同JAでは満期時期、額、1カ月後の予定など全戸訪問の内容をすべて組合長まで報告し、満期管理を徹底している。
“推進”とともに“管理”にも重点をおき組合員との接点づくりを強化することで、保有高減少に歯止めをかける戦略である。
 接点づくりの強化で、地域の人たちにJAへ足を運んでもらい「やっぱり農協だ」と選んでもらうことをめざしている。そのため24時間年中無休で受け付けている葬祭事業は、管内の葬祭の8割以上を手がけるなど地域に愛され利用されている。

 

 

 

―鈴木会長、横田組合長両トップに聞く― 

トップが一致して方向性を打ち出す

 

鈴木國勇 代表理事会長「3つの相互信頼が組織を強くする」 
鈴木國勇 代表理事会長

 


横田伊佐夫 代表理事組合長「全体として赤字を出さない経営を」 
横田伊佐夫 代表理事組合長

 


 ――JAつくば市谷田部まさに“総合JA”としての機能をフルに発揮していると言えるのではないでしょうか。
 鈴木 信用や共済で経営を安定させて、その分を営農や生活で組合員に還元しているので、JAの施設利用は無料だし、販売手数料もわずかしかもらっていません。そうして還元していくことでコメは8割、園芸品など含めたすべての農産物でも8割以上をJAに出荷してもらい、また信用と共済も利用してもらうという循環です。
 横田 赤字部門だから外せ、止めろ、というのはいけません。結論は「損して得取れ」ということです。
 鈴木 昨今、総合事業解体論というのが出てきましたが、これは本当に有り得ない話です。総合事業の強みをフルに活かした経営をして、赤字部門でも損得勘定抜きで実行することで組合員との接点をつくり、全体として地域を盛り上げていくことが必要です。
 横田 そのためにも重要なのは組合員から信頼を得ること。コンプライアンスを徹底しなければ信頼は絶対に得られませんし、全体として赤字を出さないような経営をしなければいけません。
 鈴木 組合員から信用されるには、内部の信頼も高める必要があります。だからトップは職員の見えているところでよく会話するようにしています。トップがしっかり話し合いをして方向性が一致していることで、職員も安心して実務に向かえるのではないでしょうか。
 横田 会長、組合長、専務、常務でそれぞれ意見が食い違うということをしばしば耳にしますが、ウチのJAでは常に幹部同士で会話を密にして、意見を違えないようにしています。
鈴木 我々は茨城県下でも比較的いいJAと評価して頂いてもらっていますが、そういった内外の安心感が高いお陰ではないでしょうか。
 ――組合員からの高い信頼を得るには、実際に接点づくりに取り組む職員の意識の高さも必要だと思います。JAつくば市谷田部では、職員教育にどのように取り組んでいるのでしょうか。
 横田 職員教育とともに、職員と組合員の接点づくりの下地ができていることが一番大きいと思います。ポイントは決して焦らず、またJAと疎遠な人にもしっかりと呼びかけていく努力をすることです。例えばJAがお金を出して、非組合員でも誰でも利用できる無料の税理士や弁護士相談所を定期的に開いています。先日、相続の問題で困っているという女性がいたんですが、組合員の方が農協に行くことを勧めてくれて、相続はうまくいって大変感謝されました。「困っていたら、JAに行けばなんでもやってくれる」ということになっています。
 鈴木 まさに相互扶助の理念ですね。農協が総合事業をやっていくためには、やはり職員が財産ですから、研修とともに実務を通して職員が成長していく環境を整えています。特に共済の推進は大きな教育につながっています。一般企業の保険外交員が強いので、そういう中でやっていくのは非常に大変です。
 横田 例えば、組合員の中でも若い後継者の方々なんかはよく勉強していらっしゃる。昔だったら、庭先の盆栽を褒めれば契約がもらえた、という時代でしたが、今ではしっかり勉強しなければ契約してもらえません。
 鈴木 共済の推進はほかの事業への波及効果が抜群によいし、事業総利益に対する貢献度が高く安定した収支につながります。今の時代はデフレ傾向で購買や販売はなかなか伸張に厳しいものがあります。事業総利益を伸ばしつつ、その内訳で信用と共済が6割ほどあれば、組合員へのサービスが満足にできて、経済事業にも対応できます。
 ――組合員への還元、地域づくり、安定した経営など、すべては信頼にもとづいているわけですね。
 鈴木 信頼を得るために事業計画の作成も早く、毎年10月には来年度の計画をスタートするようにしています。年度前半を反省して、後半の見通しを緻密に立て、しっかり情報公開して達成していくことで組合員、職員、役員の信頼がより強固になります。
 横田 たとえば今年の7月ですが管内に2つの都市銀行が支店を出してきました。両行とも「ここは農協さんが強いところだ」ということで、半年で利率1.05%とか1年で0.95%という高い金利を出して新規獲得を争っていましたが、結局JAから都市銀行にに乗り換えた人はほとんど見られませんでした。チラシを見た組合員がJA職員に「こんな高い金利でホントに大丈夫なの?」と相談すると、よく見えないような小さい文字で、いろいろな注意書きや条件が書いてあって、そういうのをしっかり伝えると「やっぱり農協さんの方が安心だわ」ということになりました。それに銀行だと2〜3年で異動して担当が変わりますが、JAは変わりません。ずっと地域に根付いて信頼関係を築いています。バウムクーヘンと一緒でね、信用の積み重ねがなければ信用共済の信頼だって、若葉会だってできません。だから事業量の割に収益性は低いですよ。だけど、事業量が多くて収益性が低い組織と、事業量は少なくて収益性が高い組織と、どっちの方が安心できますか、といえばやはり前者でしょう。
 鈴木 本当にあらゆる点で農協の信頼感は高いと自負しています。組合長と職員、職員と組合員、そして組合員と組合長、この3つの相互信頼が組織を強くしています。このサイクルをしっかりと循環させながら、組合員への還元、財務の健全化、職員の待遇向上などで感謝の気持ちを表していく。このことをやっていくというのが農協運動の現実的なJAのあり方ではないでしょうか。

鈴木会長、横田組合長両トップに聞く 

(2009.10.13)