デュポン
◆世界で43番目に農薬登録を取得
OECDの共同評価、最初の対象剤
新規の作用性を有する「リナキシピル」は米国デュポン社で開発され、2007年のフィリピン(主にナスなどの野菜)を皮切りにインドネシア(主に水稲)など世界各国で農薬登録および市場展開を、グローバルなマーケティングを行う中で加速させていった。
日本では03年から「DKI?0001フロアブル」(「プレバソンフロアブル5」)と「DKI?0002フロアブル」(「サムコルフロアブル10」)として試験展開され、07年7月に登録申請の後、09年9月28日付けで農薬登録を取得した。世界では43番目の登録。
登録までのスピードはどうだったのか。「厚労省、最近の消費者庁の立ち上げなどでひやひやした」というのは、同社常務執行役員・農業製品事業部の後藤周司事業部長。
OECD(経済協力開発機構)のジョイントレビューワークシェアリング(毒性・残留などの共同評価。本剤はこの1番目の農薬。日本はオブザーバー的存在)の対象剤で、「農水省にもご尽力いただき、ほぼ通常のスピードだったのではないか」(後藤事業部長)と振り返る。
「本剤は毒性上問題がなく、極めて安全性が高い化合物」だと、本剤の横顔を後藤事業部長および担当の笹島敏也マーケティング部長は声を揃えた。米国、欧州、アジア諸国など世界的に高く評価されている。
早速、2製品の特長を見ていこう。
(写真)後藤周司事業部長
(図)リナキシピルの作用機作
◆チョウ目害虫に高い効果 注目される灌注処理技術
「プレバソンフロアブル5」
「プレバソンフロアブル5」はキャベツ、ハクサイ、レタスなどの葉菜類、トマト、ナスなどの果菜類、その他大豆などの作物に対してチョウ目、ハエ目など幅広い殺虫スペクトラムの適用をもっている。
また、大きな特長の1つとして、根からの吸収移行性が優れる本剤は、散布剤としてはもちろん、灌注剤での効果が期待できる。セルトレイ・ペーパーポット苗の灌注処理技術で、灌注剤としての残効は4週間と長く、茎葉散布の回数も減らすことができ、極めて省力的。人にも環境にも優しい害虫防除技術として、新しい防除体系を拓くものと注目されている。
さらに、ドリフト(飛散)や被爆が少なく、環境にもやさしい処理方法の提案を行っている。
今後はダイコン、ピーマンといった作物害虫などの適用拡大を積極的に行っていく予定。
協議会はシンジェンタ ジャパン、日産化学工業、北興化学工業、丸和バイオケミカル、事務局:デュポンで構成。
「サムコルフロアブル10」
「サムコルフロアブル10」はリンゴ、モモ、ナシなどの果樹、および茶に適用があり、チョウ目害虫に卓越した効果を示すだけでなく、葉内への浸透性に優れていることから、ハモグリガなど葉の中に潜る潜葉性害虫に効き目を発揮する。
また、いっぽうで作物をはじめ、天敵・訪花昆虫に対する安全性が高く、果樹場面でも安心して使用できる。
当面はアンズ、ブドウの害虫などにも適用拡大を積極的に行っていく予定だ。
協議会はアグロ カネショウ、北興化学工業、丸和バイオケミカル、三井化学アグロ、事務局:デュポンで構成。
◆ひと味違う抵抗性害虫対策
県基準対策とブランド化へ
農薬で課題視されるのが抵抗性問題。病害で耐性菌、害虫・雑草で抵抗性と呼ばれている。農薬の連用により、病害や害虫、雑草が強くなってくる。これまで、作用機作の異なる薬剤のローテーション散布で、これを回避してきた。
「日本のローテーションは、薬剤のローテーションだけを考えていた」と後藤事業部長。虫の世代(虫の寿命の長さ)を考えていなかったと指摘する。3種類の作用機作の異なる殺虫剤A、B、Cは、従来「ABCABC」のローテーション。「リナキシピル」は「AAA(1カ月空ける)AAA」という、IRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)が提唱している使用時期枠の考え方を取り入れたブロック処理体系をデュポン社は推進したいと考えいている。
笹島部長は対策の概念を「世代間のお休み。フリーウインドー(世代をまたがった連続散布をしないこと)と言われ、世代をまたがない」ことだという。いわば、世代に1カ所の空白を作ってやる。
具体的には、農薬の散布を30日休めば子供の世代はもとに戻り、孫の世代が復活していく。特定の一世代にプレッシャーをかけないことで、抵抗性回避に繋げる。「IRACでは当社がチェアマンを担っているが、他社の協力が重要となる」(後藤事業部長)という。
世界的に広がりを見せており、これまでの概念を翻すひと味違う抵抗性対策ではないか。
「本剤は、全農の基幹品目に取りあげていただき、当社としても久々の大型剤に成長するものと期待している。県基準対策とブランドの定着化を目指していく」と、後藤事業部長は本年度の普及方針の一端を披露したが、特に、抵抗性対策の「日本だけではなく世界的な視野で取り組みたい」の言葉に印象を受けた。
注目の販売目標だが、同社では「リナキシピル」が狙えるターゲットを約260億円と見ており、ピーク時にはその約20%のシェア獲得を目指していく。
デュポンの研究開発の方向性には、4つのメガトレンドがある。「食糧増産、再生可能なエネルギー・素材、安全およびセキュリティ、新興市場の拡大と増大」(後藤事業部長)の4つ。これに寄与していくビジネス商材のために、農業・食糧に注力している。
環境に優しく、残効性が長く、かつ作物にやさしい化合物である「リナキシピル」にも、このコンセプトが随所に生かされている。
(写真)ハスロ状ノズルで灌注処理
日本植物防疫協会
◆次世代の大型殺虫剤が登場
適正かつ的確な使用を期待
ネオニコチノイド系の薬剤開発が一段落して以降、次なる殺虫剤開発は停滞期が続いたが、フルベンジアミドそして今回のリナキシピル(クロラントラニリプロール剤)と、ようやく次世代の大型殺虫剤が登場してきたという印象だ。
我が国では数多くの農業害虫が知られているが、とりわけチョウ目害虫は多くの作物で被害をもたらすことから殺虫剤開発の大きな目標となっている。
低薬量で高い効果を発揮する薬剤開発が近年の主流であるが、長期間効果を持続できるかどうかもポイントのひとつ。
水稲分野ではこのような特徴をもった箱処理剤の開発がそれまでの病害虫防除を劇的に変えたが、省力化にも大きく貢献できるこうした特徴は、我が国の農薬開発のひとつの目標であろう。
本剤はチョウ目防除剤の中ではとくに長期間効果が持続するという特徴があるが、これを最近増えている野菜のセル苗処理に活かし、生育期の防除軽減が期待できる。製剤や施用法の工夫により、まだまだ新しい用途が拓けるのではないか。
今後は周辺への飛散に配慮した農薬使用が一層求められてくると思うが、作物体に速やかに浸透し高い効果を発揮できる薬剤や散布回数を軽減できる薬剤はそうした対策上も有利である。
効果の高い薬剤を選んで適期にそれを確実に施用することは、薬剤抵抗性を回避するうえでも重要である。優れた新剤を長く使用していくためにも、適正かつ的確な使用につとめていくことを望みたい。
我が国農業は大きな転換期を迎えているが、害虫防除の必要性はいささかも変わるどころか、温暖化によって一層必要性が増すともいわれている。今後も新しい優れた殺虫剤開発に期待したい。