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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(3)

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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(3)  地域実態を見て生産コスト支援を〜清水紀雄さん(兵庫県)

農事組合法人清水農場(兵庫県篠山市)
清水紀雄氏

 JAグループには地域農業振興策を地域それぞれの実態に合わせて作成することが求められている。そこには米依存から脱却し地域特産品を振興しようという計画も多く、生産者、組合員の話し合いと協同の力で取り組みが進んでいる。戸別所得補償制度はそうした取り組みを促進できるのだろうか。
 第3回めは、近畿の声を聞いた。兵庫県篠山市で農事組合法人清水農場を営む清水紀雄さんだ。「今なぜ水田農業が困っているかといえば、米価下落もあるが機械化貧乏といわれるようにコストが重くのしかかっているからだ。所得を補償するというよりも、たとえば昨年の原油高対策にみられるようにコストの補償が必要だと思う・・・」

兵庫県清水農場の地図

toku0911190101.jpg 今なぜ水田農業が困っているかといえば、米価下落もあるが機械化貧乏といわれるようにコストが重くのしかかっているからだ。
 所得を補償するというよりも、たとえば昨年の原油高対策にみられるようにコストの補償が必要だと思う。所得は物価が違うように地域によって違いがある。一律補てんでは補てんされる地域もあるだろうが、十分に補てんされないところはどうなるのか。その地域の生産実態に合わせてコストを丁寧に支援するほうが現場には理解されやすいと思う。
 「所得補償」という観点でお金をばらまいても、それがたとえば自家用車になったりしたら本当に農業のためになるのだろうか。その点、生産コストの支援であれば生産そのものを補てんすることになり農業振興になる。

◇   ◇

 担い手に農地利用を集積してきたのに、今回の政策で個人で耕作をしようという、いわゆる貸しはがしが起きるのではないかと言われるが、今のところ地域でそういう動きは聞かない。
 なぜなら所得補償されるからといっても、今さら自分で機械をそろえてまで・・・とても採算は合わないと考えるから。1ha程度の農業でも機械を一式そろえれば中古でも1000万円程度はする。
 地域には新規就農者もいるが米、麦、大豆は先行投資が大きいので私は若い人にはまず施設園芸を、と勧めてきた。年1作の水田農業はリスクも大きい。園芸作物なら失敗を取り返すこともできる。Uターンは別にして新規就農で土地利用型農業は難しい。
 しかし、地域を守り環境を守っていくには多面的機能を持つ水田農業の維持が大切になる。
 農村では人口が減って鳥獣被害が非常に増え、それが耕作放棄地にもつながる。解消していくことは大事だが、地域によって耕作放棄の原因も違っているので政策も違うと考える。農業の多面的機能をどれだけ考えるかも課題だ。下流の都市生活者の水などライフラインも担っており、一次産業は経済論理だけで考えられないと思う。
 今、インドの凶作が伝えられている。インドへ米の食料援助をしてはどうか。そうすれば食糧米や水田の大切さ、国産自給力に理解が広まり増産にもつながる。政権が代わったのだからそれぐらい発想を変えてはどうだろうか。

(2009.11.19)