◆厳しい販売環境
――まず牛乳乳製品の需要動向についてお聞かせください。
昨年のリーマンショックから1年たちますが、個人消費の減退で牛乳乳製品も消費減退が深刻です。
とくに飲用向けの需要が落ち込んでいます。成分調整牛乳はかなり伸びて統計では4―9月期で190%程度の伸びですが、これを含めて飲用向け全体では4―10月で95%程度です。成分調整牛乳がこれほど伸びての数字ですから、成分無調整牛乳がかなり落ちこんでいることが分かります(下図)。
乳業メーカーの理解を得て昨年4月に飲用向け牛乳をキロ3円値上げし、今年の4月には10円値上げしたわけですが、計13円の値上げが成分無調整牛乳の小売り価格に反映され、需要にも影響したと受け止めています。リーマンショックによる景気後退で消費が落ちたことに加え、牛乳の小売価格値上げも需給ギャップを広げたと思っています。
ただ、バターなどの乳製品については昨年は店頭にバターが並ばないという状況もありましたが、ここに来て値下げ傾向になり、海外相場もリーマンショック前にくらべて今はかなり値下がりしています。その意味でこの1年は非常に変動の大きな年だったと思っています。
◆再生産の維持が課題
――生産現場の状況はどうでしょうか。
平成18年度、19年度は、飼料価格等の高騰でそれこそ設備投資などできないということでしたが、そこをがまんし乳価値上げによってやっと再生産のための投資ができるかどうかという状況です。しかし、需要減退のなかでどこまで酪農家が経営に見通しを持てるかという課題もあります。
飼料価格は確かに一時よりも下がりましたが、まだ水準としては高い。そうすると自給飼料を増やしていかなければコスト低減にはつながりませんが、そこまでまだ余裕がない。これまでの経営リスク部分が乳価値上げでやっともとに戻したという程度です。そこからさらに設備投資というところまで余裕はないので、酪農家も再生産のための再投資は厳しいと思われます。
この状況のなかで昨年よりは減ったとはいえ、相変わらず離農される農家は多いということです。
今年度の生乳生産も北海道は生産力はありますが、都府県では現状は昨年比98%です。都府県では自給飼料確保が難しいということの現れだと思います。
◆不需要期対策が重要
――酪農部の課題は何でしょうか。
JA全農酪農部としていちばん機能を果たさなければならないのは生乳の需給調整です。これがいちばんの大きな課題。二つ目が生乳の需要拡大です。それから畜産生産部とも連携しなければなりませんがやはり生産振興です。とくに都府県の酪農基盤の生産振興です。いずれも国内の酪農生産基盤維持のための重要な事業です。
そして4番目が中小、農協系の乳業会社の再編問題などの検討です。
再編することで集送乳の合理化もできるしコストダウンもできますから。これらがこれからの事業展開で必要なことかと思っています。
――需給調整の取り組みとはどのような事業ですか。
これは従来から取り組んでいる広域需給調整機能の発揮です。北海道、東北、九州といった生乳産地から、需要期の不足時に首都圏、近畿圏に飲用向け生乳を供給する取り組みがまずあります。
これは今後も取り組まなければならないし、とくに北海道の生産が伸びていますから、ホクレンと連携した需給調整機能を強化していかなければいけないと思っています。
一方、不需要期はどうしても売れないものが出てきますから、余乳の処理が重要になります。ただ、今年は余乳の処理も難しいのではないかという懸念もあります。処理不可能乳のようなものも出るのではないかと。
乳製品の需要も減退して食品メーカーの使用量もかなり減ってきています。それから一部には安い海外の乳調製品を使おうという動きもあって9月末の国産の脱脂粉乳、バターの在庫はそれぞれ前年比180〜190%と2倍近い在庫で、適正在庫をかなり上回っている状況です。
私たちはこれら脱脂粉乳、バターをどう売っていくかが大きな課題になってくると思いますが、それなりに在庫を抱えていかざるを得ず、そうすると経費はかかるため、その経費負担について指定団体と仕組みをつくる方向で協議をしていきます。
――需要拡大事業の重点は何でしょうか。
殺菌乳事業があります。一時期の伸びは見込めないにしてもまだ需要が見込める分野だと考えています。使いやすい殺菌乳の供給が業界から求められていますが、そのニーズは安定供給と品質であり、それからやはりコストです。今後は従来からの飲料メーカーへの販売だけではなく製菓・製パン等の新たな分野にも力を入れていかなければならないと思っています。
また、液状乳製品としては生クリーム、脱脂濃縮乳などの販売も大切です。生乳を脱脂粉乳やバターにして在庫として抱えるのではなく、使い勝手がよく味のいい乳製品として販売に力を入れていかなければなりません。。
この点では、今までは北海道の脱脂濃縮乳や生クリームを中心に扱っていましたが、来年度からは都府県の生乳を使った液状乳製品を作れないかと考え検討しています。
◆雪印メグミルク誕生で 販売機能をさらに発揮へ
――さてこの10月に雪印メグミルクが設立されました。この意義についてお聞かせください。
両社の経営統合によって私たちの事業でもこれまでにない取り組みができると考えています。
たとえば中国では日本の牛乳・乳製品が安心・安全だということで非常に売れ行きが伸びていますね。とくに粉ミルクの需要が大きいと聞いていますから、雪印メグミルクの製造機能を活用して粉ミルクを海外に輸出することができればと考えています。
それからまさに生乳の需給調整の協力体制づくりです。需要期、不需要期の両方ですが、雪印メグミルクは北海道に工場を持っていますからホクレンとの連携のもとで需要期の供給をお願いすること、逆に不需要期は都府県で余乳処理ができない場合、北海道での余乳処理をお願いすることもあると思います。
今回の統合は市乳事業と乳製品事業を別々に展開していくよりもやはり一つにしたほうが、合理的な経営が実現しさらに飛躍することができるのではないかということです。農系の総合乳業会社としての機能も持っていただき生産者のための会社になるためでもあります。
今はホールディング会社のもとでの統合ですが、将来的には3年をめどに完全合併することにしており、広域需給調整や需要拡大、農系乳業再編の受け皿、といった全農としての課題解決や全農が持っている機能との連携などについて、今後具体的に協力を進めていかなければならないと考えています。