地域のさまざまな人を
巻き込んだ運動で活性化を
◆地域活性化のためには先行投資も必要
種市 三沢でも農協がスポンサーとなり、地域の男の子は野球大会、女の子はバレーボール大会をやってきたので、スポーツを通して子ども達の健全育成に貢献してきました。幼児を含めて、行事を農協が行えば両親もついてきますから、農協運動を理解してもらうきっかけになります。そういう投資もしないとだめです。
石田 北信州みゆきでアグリスクールを行い、女性大学をつくってきましたが、組織をつくっていくためには、手間と金がかかります。それを惜しんではいけないわけです。
種市 先行投資をしないと…。農村の方々はどちらかというと自分の意見を言えないタイプが多いんです。だから、着物の着付けとか、書道などの講座を開き、そこから始めようと考えました。
阿部 協同組合運動の原点は地域を活性化する地域活動で、それは難しいことではない。少しお金をかけてアグリスクールとか、子どもたちの野球大会のスポンサーになることだというご指摘ですね。
石田 農協は金儲けをする組織ではなて、農村の地域振興や文化を維持しながら運営するのが基本なのに、それが狂ってきてしまったわけです。
阿部 そういう仕掛けをするのが、「新しい協同」の本質かもしれませんね。
種市 そうすれば共済でも事業が黙ってついてきます。
石田 自然に農協に結集してきます。改めてそういう運動を忘れずやらなければいけないと私は思います。
阿部 そのためには、もう一度、農協を協同組合の原則に戻すことですね。
種市 いいチャンスだと思います。
阿部 第21回JA全国大会で「綱領」をつくっています。この綱領が活きていませんから、これを今度の大会は目玉にしなければいけなかったと思います。
種市 原点に戻って農協運動を行って、初めて経済事業改革もできるわけです。
阿部 地域協同組合というか、農業・農村協同組合という原点から、もう一度、農協の価値を見直すところからスタートするということですね。
石田 それと開かれた農協という感覚を持たないといけないです。自分と競合するものはみんな敵だと思っていたら、協同組合としてはだめです。
(写真) 種市一正 青森県三沢市長(元JA全農経営管理委員会長)
◆経営のための合併は農協運動を崩壊させる
阿部 こんどの大会で、非常に気になる点が一つあります。それは、さらなる合併、県域を単位とする広域合併を意図しているのではないかということです。
種市 県が一つになっても、組織的に末端をどうするかが問題です。一つになっても組合員のニーズをきちんととらへ地域の活動がしやすい組織になって欲しいですね。
石田 農協の店舗が合併でなくなったら、そこへコンビニやホームセンターが金融のATMまで備えてどんどん入ってきました。農協に結集する拠点がなくなったわけですから、集落単位とかで新たな協同組合が細胞分裂のようにできてくると思います。
阿部 県単位の合併をするれば、組合員が新たな農協をつくるだろうということですね。
石田 農協に結集するだけのリーダーシップがとれるならいいけれど、そうでなければ大きくなった裏で小さな組織が生まれてくると思います。
種市 農家は高齢化するし、農業も衰退するから、経営のために農協は合併してということなら、農協運動は音をたてて崩れることになります。厳しいなかでも一歩前に出るという考えがなければいけないと思います。先ほどもいいましたが、地域には農業だけではなくいろいろな人たちがいるのだから、そういう人たちも巻き込んでいくとか、石田さんが提唱しているように、1週間に1日だけでも農業に参加してもらって、農業の素晴らしさ、楽しさを分かってもらうようなことをどんどん展開していけば、経済事業にもつながってきます。
阿部 経営主義だけ先行させないで、地域活動によって協同組合運動をすることが経営の安定につながるということですね。
種市 三沢では市が市民農園を行っていますが、そこでは肥料を買ったり鍬なども買ったりするから、本当は農協がやり、農業の楽しさを教えていけばいいと思います。そういう先行投資が足りないと思います。
石田 道の駅を行政がつくっていますが、飯山では農協に任せたことでうまくいっています。行政と農協が一体化してどう地域をつくるかを絶えず考えていくことが大事で、どんどん提案して欲しいというのですが、なかなか出てきません。
(写真)石田正人 長野県飯山市長(前JA北信州みゆき組合長)
◆人材確保が大会決議実践の最大のポイントでは
阿部 どうしてですか。
石田 そういう発想ができる人材が不足しているのではないでしょうか。会社を定年退職して年金生活しているような人が理事になっていますから、次の発想がでてきません。農協役員の70歳定年制で若返ると思っているかもしれませんが、逆行しています。
種市 80歳とか90歳では困るけれど…
石田 自分で自信がなくなったら60歳でも辞めて新しいリーダーに引き継ぐという意思が大事です。
阿部 新しい協同をつくっていくにしても人材不足ではないか。役員定年制とかが人材不足に拍車をかけているのではないか。むしろそういう視点からではなく、本当の人材を求めるべきであり、リーダーを求める体制づくりをするべきだというご指摘ですね。
石田 そしていまの農村の状況は、リーダーを育てる時間がありませんから、行政がある程度、力を入れてやっていかなければいけないと思っています。
阿部 内橋克人さんとか宇沢弘文先生とか経済評論家や研究者の方が本紙に書かれているものを読むと、これからは市場経済主義ではだめで、連帯と協同が大事であり、協同組合理念に基づく経済活動を再評価すべきだと提案しています。こういう見方についてはどうですか。
石田 チャンスですが、そのチャンスを活かす人材が農協にはいないんです。
阿部 それでは人材不足対策についてどうすればいいですか。
種市 人材不足もありますが、トップになったら、自分の考えとかビジョンを出して、議論をして決めていく責任感を持つ必要があります。そういう“思い”がなくては終わりです。
石田 もう一つは、女性理事や女性総代の声をきちんと農協運営に活かせるかどうかですね。
阿部 今回の大会決議を実行する上での最大のポイントは人材確保ということでになりますね。
石田 仙石さんたちが苦しみながらつくってきたから今日があるわけです。そういうリーダーをつくらなければいけないと思います。
(写真)阿部長壽 NPO法人環境保全米ネットワーク副理事長(前JAみやぎ登米組合長)
◆営農指導員の育成が地域農業振興のカギ
阿部 先ほど経済事業改革のなかで、営農指導体制の弱体化が進んだという指摘がありました。そして今回の大会の大きな柱に「地域農業戦略策定・実践」がありますが、営農指導体制が弱体化しているなかで、この決議を受けて実践できる力が全国の農協にあるかが、私は大きな課題ではないかと思いますが…。
種市 ぜひ、そうして欲しいです。これが農協運動の大きな役割ですから、これができなければ、もう農協はない、と思えばいいんじゃないですか。
石田 本当にいいリーダーを育て農業振興をはかり、営農指導を拡充するつもりなら、農協がある程度お金を出して教育に力を入れなければダメだと思います。農協が力をいれれば行政もバックアップすることができます。
阿部 営農指導員の教育制度をつくるということですか。
種市 やはり手がけないとだめです。
石田 農協の経営者が営農指導の大切さを意識しているかどうかです。
種市 その営農指導も昔と同じではだめです。農業者は栽培はプロですから、販売も含めてやっていかないといけないと思います。
阿部 営農販売を地域でコーディネートする役割が営農指導ということですね。
石田 マーケティングまでできるプロでないとだめでしょうね。
種市 農家組合員が期待するのは販売です。
◆水田の多面的機能を評価した政策を
阿部 JA大会では、生産額の増大と農業所得の確保、農家の閉塞感の打破、そして農家の自信と誇りを取り戻す「地域再生」もJA大会の大きな柱となっています。これと密接に関わるのは基本法の見直しです。
一つは、日本農業の展望をどう描くのかですが、明確にはいわれていません。ただ食料・農業・農村政策審議会企画部会長の鈴木宣弘教授は、「規模拡大によるコストダウンも有力な戦略だが、地域農業を支えてきたのは、中小農家を含めたすべての農家だ。地域農業の戦略は多様であって、規模という一つの指標だけでは判断できない」と言い切っています。
つまり、4haとか20haというのは必ずしも構造政策としてふさわしくないので、見直さなくてはならない。「すべての農家」復活論が今度の議論の焦点になっているのではないかと私は考えています。
石田 いま地球温暖化の問題を大きく取り上げているなかで、水田が果たしてきた多面的機能をどう国が評価するかです。そのうえで国が国策としてどう農村整備をするかです。そうすれば元気がでてきます。
阿部 CO2削減も含めて水田の多角的な利活用を果たしうる対策が必要だということですね。そういう意味では水田の多面的機能をきちんと評価すべきだということですね。今度の水田利活用としては米粉と飼料用米中心ですが、こういう視点ではなくもっと広い意味ですね。
石田 水害に対する水田の果たして役割を評価すると同時に「日本へ行ってみろ美しい水田があるぞ」と、国が農村をもう一度見直した政策をだせば元気になります。しかし、いまは農業は邪魔だという逆の方向で動いているから、これを直さないと絶対にだめです。
阿部 今度の見直しで構造政策部分は、まだあいまいです。いままでの選別政策からの転換をはかることが、今後の大きな農政のテーマではないでしょうか。それを明確にすることが、大きな期待ではないでしょうか。
石田 下手な補助事業をするより、よほど大事なことです。
◆戸別所得補償制度はFTA受け入れの代替案か
阿部 そういう目でみると米の戸別所得補償制度は、構造政策を転換する政策とはとらえにくいと思いますが、どうでしょうか。
種市 あれは所得補償というより価格補償のようなものではないですか。しかも米に限ってということですから、三沢では野菜や畜産だからほとんど関係ないことです。予算の問題もありますが、農業そのものをどう位置づけているかが最大の問題です。環境と食料の問題は、日本の問題ではなく世界的な問題です。日本では米が余っているのに、世界では餓死する人が大勢います。それを金ではなく物を提供してやる方法はないのかと思います。
石田 三沢のように米ではなく野菜をつくるところ、米を作らずかんきつ類をつくるところにも補助金を出して、水田しかできないところは米をつくるとか、国が入って配分すればいいのに、一律的に頭から何%減反とするので、田畑を荒らしている。そして農家の意欲を削いでいます。
阿部 戸別所得補償制度を、本当の意味でこれからの構造政策の目玉しなければならないと思いますが、私は逆にいままでの政策の促進にしかならないのではないかと危惧します。
種市 これが続くのかどうか農家も半信半疑ではないですか。
阿部 それから民主党が300万トン棚上げ備蓄をするといっていますね。
種市 相当にお金がかかりますから、これも変わってくるのではないですか。古米になって海外援助にまわすにしても保管とか金がかかりますから、それだったら初めから援助米にした方がいいですね。
石田 MA米を止めてそのお金を援助としてだしますよとならないですかね。70万トンですから減反拡大と同じ量ですから・・・。
種市 断るどころかFTAを受け入れるわけです。
阿部 FTAを受け入れるための代替政策が、戸別所得補償制度ではないかと思いますが。
石田 その通りですよ。
種市 それを見抜いて農政運動を仕掛けるのが農協なんです。農業を除いてFTAをすることはできないわけですからね。
阿部 今度の戸別所得補償制度は裏も表もあるので、見抜いて農政運動をしないといけないですね。
石田 気づいたらFTAと関税でやられてしまうと思いますよ。
◆日常的な産直で異種協同組合間活動を
阿部 話は変わりますが、全中が生協などとシンポジウムを行い、「『農』を礎に日本を創る国民会議」を結成して食料安全保障実現への国民運動として政府や国民へ発信していくとしています。
本当に農業の再生を仕掛けるためには、日常活動をどうするかが大事だと思います。そういう意味で生協とかとの異種協同組合間の協同活動を具体的に全中が中心になって提案すべきではないでしょうか。そしてその日常活動として産直活動をやっていくことだと思います。
石田 基本的には、生産者は消費者を思い、消費者は生産者を思うことです。
阿部 新しい協同活動というなら、全中がそういうことを仕掛けるべきですね。
石田 それが協同活動の原点です。
◆農家の期待を裏切らない農政転換を新政権へ期待する
阿部 最後に新政権の農政についてご意見をお願いします。
種市 まだ全体像がみえてこないのでなんともいえません。事業仕分けで透明性は進んだと思いますが、無駄を排除するというとき、どういう基準で判断するのか心配があります。赤字でも必要なものをやってもらわないと、政治は陽の当たるところだけではなく、陽の当たらないところにも配慮しなければならないので、その点を明確にして欲しいですね。
石田 農業は邪魔者だということを変えてくれるのではないかという期待感で投票したと思います。これを裏切ることなくやると同時に、命を育むのは農業だということを忘れたら罰があたります。一番弱いものを苛めたら江戸時代と同じです。農業の果たしている役割をきちんと評価して、農村を犠牲にしないで欲しいと思い期待しています。
阿部 農家は期待したのだから、裏切らないように、農政転換の方向を明確にして欲しい。いままでのような選別政策ではなく「全農家」ならそれをきちんと前面にだして、国民にみえるようにしっかりやって欲しいということですね。
種市 地方を大事にしないと故郷がなくなります。
阿部 大会決議をした全国の農協に勇気と活力を与える話だったと思います。また、新政権には、農家の期待を裏切らない農政の大転換を期待するということでした。
本日は首長の立場から、農協運動のあり方に期待を込めたご意見、ご提言をいただきました。長い時間、誠にありがとうございました。
(前編はコチラから)