◆女性起業で米粉ケーキ
米本 JA女性組織は新しい基本方策「気づこう一人ひとり、行動しよう 仲間とともに」を策定していますが、これをテーマにご意見を交わしたいと思います。
出席者のみなさんは、この新しい基本方策の策定委員会のメンバーとして参画をいただきました。
その過程で全国の仲間たちから、たくさんのご意見をいただきましたが、この座談会では最初に出席者がそれぞれの地域で実践されている活動紹介をお願いします。大平さん、いかがですか。
大平 いろいろな活動をしておりますけど、その中で、フレッシュミズの4人が米粉を活用した加工品を商品化している女性起業の活動をまず紹介したいと思います。
地産地消に役立つお菓子作りをと平成17年に「ハンドメイドクラブ」というグループを結成し、そば粉とエゴマを入れたかりんとうなどを作り始め、県の「女性企業を核としたミニクラスター創出事業」に応募して助成を受け、事業を本格化させました。
今では「こめっこ」という米粉ケーキなど納得のいく商品が増え、道の駅や地元スーパーなどで販売しています。
榊田 資金面はどうですか。
大平 県の助成はそのうちに打ち切られるというので4人が出し合いました。
榊田 半額をですか。
大平 業務用の大きなオーブンなどを買いましたが、取り付け費用もかかるから合計100万円ほどの投資となり、その半分を出し合いました。
それぞれが借金をしましたが、返すのは働いて、つまり売上げの中から返しましようということで、その分みんな一生懸命です。自給650円の計算で、加工日は週3回です。
(写真)JA全国女性組織協議会理事・JA八甲田女性部フレッシュ部会部長 大平恵美さん(青森県)
◆商品開発を楽しんで…
米本 いろいろご苦労をされていますが、その一方で楽しい面もあると思うのですが、いかがですか。
大平 はい、作る・売る・商品開発をする楽しさを味わっています。もっと仲間もアイテムも増やして農業所得の向上につなげたいですね。
そばもエゴマも米も原料はすべて地元産ですが、七戸はまた長イモの産地なので長イモクリームを作ったりもしています。技術面では米の製粉先を変えて、粉のざらつきをなくすように研究してもらったりとか。今ではパウンドケーキを小麦粉なしの米粉100%で作れるようになりました。
米本 食農教育の面からはどうですか。
大平 女性部の人といっしょに子育て支援センターに出向いて母子連れに手打ちそばやかりんとうの作り方を教えたり、学童保育の児童館で米粉だんごなどを教えたりと活発に取り組んでいます。
米本 池田さんはどのような活動をされていますか。
池田 100人以上のフレッシュミズの中で30人ほどがウィンクという集まりに属して月に1回ほどの活動をしていますが、企画に興味がある時に参加してくれればよいのです。
提案された企画がリクエストによって変更されることも多く、季節的にはおせち料理の作り方とか、ひな祭り前ですとお人形の作り方などを勉強しています。資格や認定を取りたい人のためには救急救助法の講習会を開いたり、今後の計画としては英会話教室開催などがあります。
農協祭りの時なんかはウィンクが地元野菜をたっぷり使った地産地消のカレーライスやカツ丼などの昼食を作って好評です。業者から弁当を買う費用がウィンクの活動費に回されたわけです。
(写真)JA全国女性組織協議会理事・JAはまゆうフレッシュミズリーダー 池田陽子さん(宮崎県)
◆漁協のミズに声かけて
私は嫁いでくるまで、こちらの土地とは縁がなかったのですが、女性部の活動に参加することによって知り合いができたし、また食品安全とかいろんな知識を学びました。
だから今は自信を持って女性部の行事に友だちを誘うことができます。若いお母さんたちの学ぶサークルなどの場はたくさんありますが、JA女性部の場合はもうちょっとレベルの高い勉強ができるのではないかと思います。
例えばライフプランなんか将来設計の家計簿記帳なんていうとすごく堅い気がしますけど、10年後を考えると今のペースで生活していったらどうなるかを考えさせるのが女性部の勉強です。
今は子育てで精一杯なお母さんたちですが、先々のことも考えましようと、そういうことを呼びかける点でも女性部はいい集まりだと……
米本 池田さんの活動はライフプランの作成からのスタートですか。
池田 いえ、楽しくて生活に役立つことが出発点です。ウィンクは実益や販売のある活動はしていません。
ウィンクは漁協婦人部とのコラボレーションもやっています。漁協婦人部では年長者が元気なので若い部員の出番は余りないと聞いて「じゃあJAのフレッシュたちといっしょに活動してみない?」と声をかけたのが始まりです。
すると年長者たちのほうから「私たちも大賛成。今までも若い部員たちにそうした活動をしてほしいと思っていたけれど、あまり積極的ではなかった」などといった声が挙がったのです。
地域の活動発表会に参加させてもらって、私も発表しました。それが予想外の好評で「農協の若い女性部員たちはいろんなことをやっているんですね」とか「これからは、うちの子も参加させて」とかの声が出ました。
(写真)農業ジャーナリスト・榊田みどりさん
◆活動もチェンジの時代
また私は『家の光』の読書会のことも話したので、後でJAの事務局には「家の光とはどんな本ですか」という問い合わせもありました。こんなことからも私たちの活動が地域へ広がっていけばよいと思っています。
米本 継続して活動する中で、いろんな広がりが出てきているのですね。基本方策には「大転換期における…」という修飾がついています。女性組織の活動は、社会情勢に合わせて変わってきている状況ですか、それとも今までの活動ベースの延長で取り組んでいますか。
大平・池田 変わってきていると思いますよ。
池田 漁協婦人部との交流など活動が地域に広がっています。
米本 榊田さんは、大きな変化の時代に入ってきていることと女性部活動の関わりをどう見ておられますか。
榊田 女性のばあい、結婚して地縁も血縁もない所へポンと入ることが多いじゃないですか。とくに、60代以上の世代の農家の女性は、結婚後、田畑と家の往復だけで、なかなか外に出してもらえなかった。子どもができるとますます外に出られない。だから、活動内容にかかわらず、同世代の仲間づくりの場として昔の若妻会、今のフレミズの意義は、それだけでもたいへん大きかったと思います。
その延長で趣味を楽しむ時代が続きましたが、結局は社会性がないとか活動が外に見えないとかいわれる時代になりました。それだけ社会性を期待されているという裏返しでもあると思います。私自身、これだけ食と農が乖離して、消費者が農業や食文化を失いつつある中で、せっかく食に関わる人たちが集まっているのだから、もっと潜在的な力を活かして、外に発信するような活動をしてもいいんじゃないかと思っていました。
とくに、フレミズ世代は子どもが小さくて動きにくい反面、子どもを通じて非農家の母親たちと日常的に接し、地域活動をしていく上で人脈を広げやすい立場にいます。だから女性部よりも、地域に広がった活動をしやすい環境にあると思います。
◆自分たちの力に自信を
それから男性は自分たちの農業生産や食に関する運動と、自分自身の日常の食生活を切り離して考えがちで、「安心な国産を食べて」と訴えながら、輸入食材を自分が食べることへの違和感を持たないひとが多いですが、女性は食と農を感覚的に自然につなげて考える力を持っています。
男性は、自分が作ったものを“売るための商品”としてしか見ない傾向が強いせいではないかと思います。女性は、生産サイドにいながら、同時に「自分が買って食べる立場になったらどう感じるか」という消費者の視点も持っている。この感性のちがいは、とても大きいと思います。
今、農商工連携とか地産地消、さらに、生産・加工・販売をつなげる農業の六次産業化の政策が重視されていますが、もともと、子や孫に安心なものを食べさせたいという発想で青空市を始めたお母さんたちが直売所をつくりあげたといえますし、女性たちの加工事業が、農業の六次産業化の草分けですよ。それらは女性たちが生活目線で始めたことが土台になっています。女性たちはそのことを自信を持って認識したほうがよいのです。
米本 お話のような観点をJAの事業に活かすような方法とかヒントがあればお聞かせ下さい。
榊田 ある程度は活かしていると思いますが、JAの女性理事は増えてきたもののJAはやはり男社会ですね。でも、今まで「カネになるか、ならないか」という経済の目線が強かった男社会でやってきたことが八方ふさがりみたいになってきた。JA全国大会決議では突破口として「地域の再生」を挙げていますが、今までの地域活動を担ってきたのは、圧倒的に女性たちです。
生活者の目線で始めた地域活動が、結局は経済にもつながっていくことは、直売所でも農商工連携でも実証されていると思います。だから女性部の目線や活動をJA経営にどう活かしていくか。若い世代の理事さんたちはそこに気づいてほしいなと思います。
米本 730JAのうち400弱のJAは女性役員がゼロという状況です。前向きに考えている方々が積極的に取り組める環境を用意していく必要があると思います。
◆まだ残る「女のくせに」
大平 青森はまだ大半が正組合員1戸1人だから夫が死んだり婿取りとかでないと正組合員にも理事にもなれません。資産公開もあり、これも夫の名義だから無理だと思います。
以前は複数でしたが、3世代家族なら役員選挙の時に6票もあるからと1戸1人になりました。理事になりたい女性もいるようですが、それに対しては「女のくせに」といった空気が残っています。
池田 女性部員の夫である理事は、女性部に好意的な発言をしています。風潮としては組合長も幹部職員も好意的です。女性部は農協のPRにも役立っていますからね。
米本 次に女性部とJAの事業の関わりなどについてお話下さい。
大平 うちの支部は女性の加工部だけで約2000万円ほどを売上げ、直売所でも八甲田全体で5000万円近くになっていると思いますが、おカネはすべてJAの通帳を通って、手数料を支払っています。
それでも直売所では生産者名をつけ“顔が見える”商品として販売しているため、お母さんたちは市場出荷よりもぐんと積極的です。みんな、お客と話ができること、実益があることなどを楽しみながらやっています。
米本 JAの事業を積極的に利用しているし、かなりJAに関わっている実態があるわけですね。
榊田 だからそうした女性の事業を活かしたほうがJAにとってもトクなんじゃないかと思いますよ。
大平 女性部活動に対するJA職員の姿勢もいろいろですね。新入職員の研修がどうなっているかも問題です。女性部員に事務局を育てていく気持ちがあればよいのですけど、給料をもらっている以上はプロでしょというイメージがあるんです。それなりの職員教育をして下さいというのが私たちの意見です。
◆勉強になることが多い
池田 うちの事務局はよく動いてくれるから助かっていますが、全国的には「何もしてくれないのよ」という声も聞きます。例えば、女性協からの文書を勝手な判断で女性部にだけ届けてフレッシュには届いていないとか。
大平 私は自分の言葉で思いを伝えたいため事務局に頼まずに自分でフレミズ通信というのを作っていますが、それがみんなの手に渡らず、困ったことがあります。
榊田 JAの広域合併で女性部や青年部の活動がやりづらくなっていますが…
池田 集まるにしても会場が遠くて1日がかりになったりして大変ですね。
大平 しかし広域的な交流会などは楽しいですよ。身近な人たちの集まりだとぐち話だけになることもあるけど。
池田 外に出てきて初めてわかることがあって勉強になることが多いですね。だから参加させたい人をどう引っ張り出すかを考えます。
米本 女性組織の役員問題についてはいかがですか。
池田 女性部と違ってフレッシュの役員はやろうという人がならないと続かないと思います。
大平 同じ人が続けていてはマンネリ化するといいますが、引っ張ってくれる人がいなくて解散してしまうところもあります。
それから若い人が入ってこない問題もあります。町でやっている女性大学のほうが楽しくて、そちらへ行っちゃう可能性があるんですよ。
米本 ピーク時に330万人いた女性組織のメンバーは現在74万人に減りましたが、持続可能な組織として再生していくことができると思いますが。
◆日程を調整して活動を
池田 だいたい農協の中に部会が多すぎるんじゃないかと思います。各部会には行動的な若い女性がたくさんいます。
米本 生産部会の中の女性のことですか。
池田 そこに入っているため女性部に入らない人がいます。若い元気な人がいて、女性部に誘っても「部会のほうが忙しいから」と断わられたり。
大平 それは、各地区で違うと思いますよ。複数の部会でかけ持ちの役員をしている人も多いし私も複数の部会員です。両方に入っているからお互いに調整できるんですよ。「その時期は生産部会が忙しいから女性部の予定は入れないでね」なんていえるのです。部会には作物の品質向上など重要な目的がいろいろあります。
米本 最近は男性が助けあい組織で活躍している例がありますが、目的が同じなら例えば夫婦いっしょの参加とか女性部と青年部の枠を超えた活動をするといったことについてはいかがですか。
榊田 何年か前に宮城県女性協の会長さんが、男女共同参画の時代になったんだから女性部という名称を改めようと主張し、生活部に変えましたが、あれも1つの考え方だと思いました。
米本 漁協女性部との交流の話が出ましたが、JAの枠を超えて、お互いの多様性を認め合いながら協同していく動きが出ていますね。
大平 うちのほうでも町の商工会と交流し、シャッター商店街の再生を話し合ったりして、けっこう農商工連携の機運が高まっています。
米本 新たな協同の方向感というか、今後についての考えがあればお聞かせ下さい。
◆新しい枠をつくって…
榊田 秋田県では、JA女性部の枠を広げて、スローフードに関心がある地域のひとたちの受け皿として、「生活創造推進会議」というのを立ち上げて活動を始めたJAがあります。もちろん、女性部員も活動に参加していますが、部員でなくても参加できる集まりです。
また高知県の十和町では「十和おかみさん市」が有名になりました。これも女性部の枠を超えており、2人以上でグループを作り、生産でも加工でも直売でも、とにかく食と農にかかわる活動をしていれば入会できるというネットワーク型です。新規就農で町に来た人のグループもあり、JA女性部のメンバーが中心になった加工グループもあります。
このような形で、地域に広く呼びかけられるテーマを掲げて女性部が“この指とまれ”型で、新しい組織を立ち上げる手法も考えていいのではないかと思います。新しい枠をつくれば男性も入って来やすいのですよ。栃木の女性部は割とそういうやり方をしている印象を受けています。
米本 地域の将来を考えると限られたメンバーでは活動が成り立たなくなります。農水林で別々の協同組合をつくっているけれども女性部はいっしょでもいいんじゃないかとか、生協との協同はどうかとか、ゆるやかなネットワークで共に活動するテーマがあってもいいんじゃないかなどという考え方がありますが、いかがですか。
大平 子育てでいろんな会議に出ていますが、重複しているところがすごく多い。なんでいっしょにやれないのかなと思いますね。
米本 地域で子どもが少なくなって来ていますから、子育てはいっしょでいいじゃないかということになりますがそれをサポートする人もJA職員とか普及指導員とか別々ではなく、いっしょにやるという段階に入っていると思います。
榊田 生協さんも食の問題や子育て支援をやっていますから、いっしょにやれることはたくさんあります。
◆外へ“一歩踏み出そう”
大平 県庁の普及指導室も同じようなことをしていますから、それで農協離れした人もいます。食育にしても、なんで一本にしてくれないのかなと思います。
米本 榊田さんはじめ委員会の皆さんは基本方策を「気づく 見直す 行動する」というキーワードで整理されましたが、最後にその作業を振り返ってのご感想はいかがですか。
榊田 10年前と比べてフレミズ組織がだいぶ定着してきた感じですね。
面白いことに若い世代には社会的にどう評価されるか、社会的に評価されたいという目線を持っている人が多い。仕事をし、結婚してから就農したという経歴の人が多いからだと思います。
生協もそうですが、60代以上の世代は専業主婦が中心で社会的に男と肩を並べて仕事をするという時代ではなかったから、社会的に参加していく活動の場は生協しかなかった。JA女性部のエルダーさんはそれに近いという感じがします。もちろん、組織として社会運動に取り組むことは女性部の歴史のなかにはあったと思いますが、個人個人が社会に向けて自己主張していく時代ではなかったと思います。
若い世代からは“見える活動”をいわなくても“見せたい”というエネルギーを感じます。そこに、これからの女性部とフレミズの可能性を感じます。
米本 ではフレミズのお2人には仲間たちに贈るエールをひとことお願いします。
大平 “一歩踏み出そう”と訴えたいと思います。自分の手を伸ばした輪の中より外へ踏み出せば、そこには新しい世界が開けるという思いがします。
家族や友だちだけの世界の外へ一歩出ることによって、いろんなことがわかります。その楽しさに気づいてほしい、そうなれば、やってきたことが見直され、改善されていくと思います。
池田 私も発表した主張の中に、そのことを入れています。出てみないとわからないことがいっぱいあります。一歩を踏み出せば自分が思っている以上のことがわかり、自分ではこれが正しいと思っていることもいろんな考え方があることに気づくと思います。
外へ出ればあちこちに話のできる仲間がいっぱいいることを私は実感しています。一歩を踏み出せば世界が広がると思います。