“安ければ” この意識を
変えなければ
自給率40%なのに
危機感が薄い消費者
宮崎 初めにお仕事や家族構成など自己紹介をお願いします。年の順で石井さんから…
石井 今年の5月で80歳になります。
全員 え〜、若い!
宮崎 独りで海外旅行に参加されるし、お若いですね。
石井 かつてはテレビのプロデューサーでした。いまは独り暮らしです。独りだと食生活が疎かになることもありますが、食べることが生きていくことの基本だと思いますから、できるだけ三度三度の食事は、何かしらを作って食べるようにしています。
宮崎 年齢順でいくと次は私で、66歳になりました。独りで犬たちと暮らしています。近所に娘(仲代奈緒さん)がいるので、たまに一緒に食事をします。食べることが一番の楽しみです。
石田 私は55歳で、28歳の息子と24歳の娘がいます。息子はいまは関西に住んでいますので、主人と娘の3人で暮らしています。子どもが小さいときから、生活クラブに入って一所懸命に手作りのものを食べさせましたが、今はそれほどでもないですね。でも、息子が帰ってきたときは、子どものころ食べた料理を懐かしがるので、せっせと作るようにしています。
宮崎 お仕事は…
石田 学習塾を自宅で15年間開いていましたが、いまは講師だけして、別に産業カウンセラーをしています。
宮崎 どういう仕事ですか?
石田 仕事や人生設計・子育てについて個別の相談にのったり、聴き方講習を開いたりする仕事です。
宮崎 樋口さんは…
樋口 30歳代半ばまで、あるメーカーに勤め、市場開発とかに携わっていました。結婚して子どもを生んだのが40歳になってからでした。その娘がいま3歳です。家族は夫と娘の3人です。
私がアレルギー体質なので自然食品とかにこだわってきました。そして子どもができたら3度の食事はもとよりおやつまですべて手作りでと思っていましたが、生まれてきたらアレルギーがなくてほっとしました。そしていまは添加物など気にしながらも、市販のお菓子なども普通に食べていますし、冷凍食品とかも使うようになりました。
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石井和子さん
元テレビディレクター。70歳代後半。独り住い。
◆買い物をするときには先ず産地を確かめる
宮崎 石田さんのお子さんはアレルギーとかはありますか。
石田 主人がアレルギー体質なので、息子も娘も喘息とかアトピー性皮膚炎などで小さいときはほんとに大変でした。ところが5歳くらいのときに海水浴に行って塩水につけたらアトピーは治ってしまいました。でも、二人とも弱いですね。
宮崎 そうすると食品を買うときには注意していますね。
石田 そうですね。添加物は嫌ですから、買うときには裏の表示を見て確認します。最近は、子どもたちも大人になったので少し緩んではきていますね。
宮崎 買い物をスーパーなどでするときにはやはり表示は見ますか。
樋口 やはり見ますね。
石井 まず産地を確かめます。
樋口 そうですよね。
石井 私は、野菜も肉も国産にしています。そして野菜はスーパーではなく八百屋さんで買います。鮮度がまったく違いますから…
石田 私が気になっているのは、中国産の野菜が危険だという話がでた直後から、スーパーの店頭から中国産野菜が消えてすべて国産になってしまったことです。最終的にパッケージしたところが産地になるという話を聞いたので、本当に国産野菜に切り替えたのか信じられません。
宮崎 そういうアナウンスをテレビとかマスコミはしませんね。
石井 聞けば教えてくれるのかしら…
石田 売っている人は分かっているから、教えてくれるかもしれませんね。大雑把にいえば安いものは外国産かもしれませんね。
宮崎 私の家の周りには畑が多いので、地場の野菜しか食べません。仕事が忙しいころはスーパーで買っていましたが、ホウレンソウなど葉物の安いのは次の日になるとだめになってしまうものが多く、どういう仕入をしているのかと思いましたね。
石田 反対に外国産の根生姜で何ヵ月経っても腐らないのがありました。
樋口 ニンニクでもそういうのがありますよ。
石田 輸入レーズンも防腐剤を撒いて船底に詰めて輸送し、日本で袋詰めしていると聞きましたけれど、怖いですね。
石井 体のなかに入るものはきちんとして欲しいですね。
樋口 弱い人はすぐに影響がでますしね。
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石田弘子さん
産業カウンセラー。50歳代半ば。1男1女の母。4人家族。
◆休耕田・遊休地と聞くと胸が痛む
宮崎 儲かればいいというシステムに日本全体がなっているように感じますね。
石井 農家の人が直接、野菜とかを持ってきて売っている道の駅とか直売所とかが増えていますね。東京にもあればいいなと、とても羨ましく思いますね。
宮崎 いまはデフレで何でも安ければいいということになっています。でもよく考えたら、本当に安いものでなければだめなのかと思います。“安いものがいい”と消費者がいい過ぎているのではないでしょうか。
石田 よいものを少しずつ買って食べるのが大事ですね。安いからといってたくさん買って傷ましてしまったりするよりは…
宮崎 お子さんがたくさんいる家は大変でしょうが、今度は「子ども手当」が出るわけだし…。普通の生活をしている人は、あまり安かろう悪かろうでは困りますよね。
石井 本当にそうですね。
宮崎 私は佐渡からお米を送ってもらっているんですね。あるとき佐渡に行ったら必ず田んぼを見て欲しいといわれて、田んぼに立ってみたら、すごくいい気持ちになるんです。稲も気持ちが良いだろうな、そうすると美味しいお米になるのだと、目から鱗でした。農家にとっては、田んぼは子どもみたいなもので、安全で美味しいお米を作るための手間のおはなしをきいたら、今の
お米の値段は安過ぎると思いました。ご飯を食べなくなったこともあるんでしょうけど…
宮崎 いままでの減反政策は大失敗でしょう。
石井 私は大反対、休耕田とか遊休耕地と聞くと胸が痛みますね。
◆病院や教育など整っていない農業者の生活環境
宮崎 樋口さんは農家と交流する機会とかはありますか。
樋口 ほとんどありませんね。生協で産直交流とかあるので、子どもがもう少し大きくなったら参加するつもりです。
石田 昨年の9月に北海道の知床から釧路へ車で旅をしたんですね。牧草地や畑が広がりこういうところが日本の農業を支えているんだなと実感するくらい素晴らしかったんです。でも地元の人と話をしたら、病院がなくて何かあっても救急で見てくれる人がいない。それは切実な問題だといわれました。
農業とか漁業とか一次産業を支えてくれている人たちの生活環境が整わないという現実があるわけです。お金を補助すればいいという問題ではなくて、教育とか医療とかが整備されないと若い後継者が安心して就農できないということを切実に感じました。お医者さんに、週に1回でも飛行機ででもいいから来て欲しいともいっていました。
宮崎 政治が悪いのか、地方が一斉にだめになっていますね。
石井 都会の青年が農業は楽しいといって、就農するという話を聞くと、それは細々とした流れだけど、心強く感じますね。
石田 いまはガーデニングが好きな人はたくさんいますけれど、そこから農業や田舎暮らしにいくには、距離が遠いように思いますね。先ほど話した北海道のように生活環境が整っていないから、若い人がそこを目指しても、実現しにくいと思いますね。
宮崎 急に病気になったらどうするかとか心配ですよね。都会なら近くに病院はあるし。だから、限られた人しかいかれない…
石田 しかも年収が少ないわけですから…。
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樋口千穂さん
主婦。40歳代。1女の母。3人家族。
◆モノづくりの面白さを忘れた日本
宮崎 日本は“モノづくり”は面白いという教育をどんどん止めているように思います。都会で農業は難しいけれど、お母さんが料理を作るのは大変だけど、こつこつ作り上げていくその大変さが面白いということが分からない。大豆から味噌を作るには、半年とか1年かかるという面白さはすごく深いでしょう。テレビを見てわぁっと笑うのが面白いということになっていて、短絡的になってしまっていますね。
樋口 お金を出して楽しみを買う社会になっていますね。できあがるまでの過程をみて楽しむのではなく、最後のできあがりをお金を払って買うように教育されていますね。
宮崎 小さい子どもでもそうですか。
樋口 住宅街のマンションに住んでいますが、最近は子どもたちが外で遊ばなくなりました。マンションには100世帯ほど住んでいるんですが、子どもに会わないですね。
私が小さいときは友達を誘って外で勝手に遊んでいましたが、今はお母さん同士が事前に電話しあってから訪ねていって、家の中で遊ぶんですね。
石井 昔は道端で子どもは遊んでいたのにね。
宮崎 公園の砂場は…
石田 公園の砂場は猫や犬が排泄して衛生上問題があるといわれ、砂場を閉じる公園も多いそうですね。
宮崎 昔から犬や猫はいたでしょう。そういうばい菌は安全ですよ。おなかを壊して、それで強くなる。
石田 潔癖症の人が増えているんでしょうか。
樋口 だから免疫がなかなかつかないんですよ。
石田 野菜でも曲がったキュウリはだめで、真っ直ぐできれいなものとかを好むようになってしまう。
石井 曲がっていたって美味しくて安全ならばいいのに…
石田 農業者の60%は女性だそうですね。女性は家庭を預かるので、子どもに与える影響とか、食卓にのせる意味とか知っているので、彼女たちはすごく一所懸命に農産物を作っているはずなのに、消費者の“安くなければ”という要求がその姿勢を崩しているのではないですか。
石井 消費者のそういう意識を変えなければいけないのだけど、それが大問題ですね。
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宮崎総子さん
テレビキャスター。60歳代。独り住い。
◆土にふれることは心地よく人の心を元気にする
樋口 消費者には自給率40%という危機感はないんじゃないですか。
石井 国産で自給自足しようとすると、3000万人くらいしか食べられないそうです。
石田 種子とか種芋が国産ではなくて、植えようと思ったときに種がないかもしれないと聞いたときに怖いなぁと思いました。
宮崎 田んぼや畑は休耕してカチカチだし…
石井 元に戻すには大変な年月がかかるそうです。
宮崎 樋口さんは小さな子どもを持つお母さんたちと集まる機会があると思いますが、そういう話題にはなりませんか。
樋口 児童館へ行くと乳児のお母さんが5〜6人集まっていて母乳をあげながら離乳食の話などをしていて、いい感じだったんですが、お昼になったらコンビニ弁当なんですね。
宮崎 みんなそうなんですか
樋口 そうです、この間はチキンだったから、今日はパスタにしようかなという感じですね。何だか私だけ浮いてしまったかんじで、そういう話を出す雰囲気ではありませんでしたね。
石田 ランチでお店に行くと800円とかしますから、若い人はコンビニでお握り2個とお茶で安上がりにすませるとか、食事を楽しむよりもとりあえずお腹が一杯になればという感じですね。
派遣切りなどの問題があって、そういう人たちに農業関係の仕事を…という動きがあったようですが、農業が身近になれば若い人の食生活も変わり自給率も上がるのではないかと思いますね。
宮崎 ロシアでは、中学か高校で必ず農家に入って農業を1年間経験させています。
石田 受け入れ側は大変だけど、上手く使えればいいですね。
宮崎 田植えの時期だけでも来てもらうと良いと思いますね。
石田 土に触れるのは人の心にとってよいことで、元気がでますね。
石井 学校の教科で食農教育を取り入れるとか…校庭で花を植えているけれど野菜を植えたらどう…
石田 小学校に小さな水田があるところもありますね。
◆価格が安定し収入増えなければ誰も農業をしない
宮崎 農家と消費者の距離がすごく遠いですね。フランスではパリだけは都会であとは田舎で農業国です。日本の場合は、場所的な距離も都会と農業とは遠いし、精神的な共感とか共通点をもてないので、農家の人も孤立した気分になっているのではないでしょうか。
樋口 近所に小さな畑がありますけれど、子どもさんは会社員だそうですから、親の世代で畑はなくなってしまいそうですね。
石田 あと20年経って世代交代が進んできたらどうなるのかと思いますね。
樋口 本当に心配ですね。
農家の人は苦しんでいるだろうなとは思いますが、その生の声がなかなか私たちに届いてこないんですね。届くシステムをつくらないといけないですね。例えばいまここに農家の方がいればまた違った話になると思うしね。
農家の方との距離がありすぎて大変さがダイレクトに伝わらないので、どうしても他人事になってしまいがちですね。
石井 近所の農家の人とかと…
石田 できるなら青森とか遠いところの人もいいですね。
宮崎 農家や農業者サイドが声をあげても、それをテレビとかマスコミがきちんと取り上げていないということもあると思います。日本は工業立国するために農業とか1次産業を犠牲にしてきたという歴史がありますね。
石田 私の子どもころには、農業については触れずに、日本は資源がないから加工貿易で立国していると学校で教えられました。
宮崎 そしていまは高齢者の方が農業を支えているところがあるけれど、この人たちがリタイアした後、それを継ぐ若い人がいないと農業がなくなってしまいますね。若い人が農業をやるには…
石井 もう少し農産物の価格が上がって収入がよくならないと若い人は農業をしないんじゃないですか。
宮崎 価格を決めているのはスーパーなどのバイイングパワーだといわれていますね。
樋口 それに負けないような力を農業がつけないといけないということでしょうか。
石田 農業に関しては、個々人の努力も大事だけれど、政治が動かないと難しいと思います。大きなシステムを動かすのは…
石井 それはやはり政治ですよ。
◆農業が若い人のトレンドになるかもしれない
宮崎 ところで、農協を利用したことはありますか。
石田 バラの栽培をしているんですが、農協にいくといい堆肥などがあるので、よく利用させてもらっています。とても親切にいろいろ教えてくれますしね。
石井 近所に農協があることは知っていますが、利用したことはありません。
樋口 最寄駅の側に農協があって、土曜日に農家の方が野菜を直売しているので、そこで買ったことはあります。
石井 農協は私たちの感覚でみるとお役所的にみえますね。
石田 イメージとしてはそうですね。農協って共済とか金融もやっていますね。
宮崎 JA共済はとてもいいという話ですね。ただ、農協の組織って分かりにくいですし、アピールも上手ではないですね。
樋口 毎日、食事をしているのだから、農業は近いはずなのに遠いですね。
宮崎 私の家の近所には畑があって自慢しているんですね。農業が近くなることは、消費者にとって心地よいことなんです。
石井 農業側がもっと身近にあってほしい。でもこれもやはり政治の力にたよるしかない…。
樋口 私たちと接点をもてるような仕掛けを農協からつくって欲しいですね。
石田 いまの若い人は、日本的なことに異国文化のような珍しさを感じ、すごく憧れるそうです。
そういう風潮から推測すれば、農業がトレンドになれるかもしれないと思いますよ。
樋口 そういう風が吹くかもしれませんね。
石井 田舎の祭りに参加する面白さとかが分かるとかね。
石田 農家の側が受け入れましょう、都会の側が行ってみたいという関係が熟しかけているのではという気が最近しますね。
樋口 生協が産直交流とかしていますが、もっと生産者と消費者が交流でき近づけるようにしなければいけないですね。そして、農業のサイドからももっと仕掛けていかないといけないと思います。お互いにそれを求めているのですから…。
石田 火をつけるまでが大事ですよね。火がつけば日本人は燃えますからね。
宮崎 若い人でも安全な食とか健康な食に関心がある人がいますから、そこから農業について入っていけるような仕掛けをつくることが大事ですね。そのことで、農業者と消費者の距離を近くすることですね。
今日はありがとうございました。