地域水田農業
JAは自信を持って取り組むべき
(3月6日、東京・経済倶楽部ホールにて)
◆米価下落への懸念
開会のあいさつで梶井会長は、戸別所得補償制度モデル対策について、野党時代に国会に提出した法案では、米やその他の戦略作物に生産数量目標を定めそれに従った生産者への直接支払い制度だったが「中身がかなり違う。このモデルから本格実施に向けて制度設計できるのか。現場の取り組みをJAの方から聞き問題点を議論していきたい」と述べた。
現場からは2JAともに生産数量目標に則した生産を行うことが要件の米戸別所得補償モデル事業には、主食用米の計画生産が必要なことから、地域全体で取り組むことが報告された。
ただし、生産者は10aあたり1.5万円の定額交付を大きなメリットとは感じておらず、加入は米価下落の不安とこれまでの転作体系を継続する重要性を判断してのこと、だという。
JAさがの水田常務は21年産米が端境期に30万tも持ち越し在庫となる見通しもあるなか、政府は過剰作付け対策や集荷円滑化対策などを行わない方針であることから「需給は締まるというが果たして本当か? 現場は不安でいっぱい」と強調。生産段階での需給調整の取り組みは必要で、こうした需給安定対策も含めた農業政策を「農協抜きでできるのか」と問いかけた。
JAえちご上越の石澤常務は米の生産調整について「需要に見合った生産で米価を安定させていく必要性が長い時間をかけて分かってきた」と現場の意識変化も指摘、また、法人育成によって「人の米も含めて組織の米として売る」という姿勢にも転換してきたという。
しかし、米価下落がこうして育成されてきた法人などに打撃を与えることを懸念。運転資金が不足するなどの事態を想定したJAの経営支援が課題になると指摘した。
◆農協がビジョン示す
今回のモデル対策では作物ごとの交付単価が全国一律とされ地域性に欠けることへの指摘もあった。
JAえちご上越では枝豆+ブロッコリーに10a3万円支援を地域で進めてきたという。しかし、今回の対策ではこれはその他作物の同1万円となる(激変緩和1万円プラス予定)。石澤常務は「地域主権というなら産地づくりは地域裁量とすべき。全国一律は単純明快なようだが農家にとっては不明快」と批判。育成すべき担い手像が見えないことも問題があるとした。
一方で地域ぐるみで生産調整に取り組むため、作物によって不公平感が出ないよう米戸別所得補償モデル事業の交付金を財源とした「とも補償」の取り組みがJAさがから報告された。
◆価格形成も課題
参加したJA関係者からは「今後課題を探り秋にはわれわれから政策提案を」の呼びかけや研究者からは農業団体として政府に意見具申をして現場の声を伝える必要があるなどの提唱もあった。これらを受けて水田常務は「農協としてどうあるべきかが大事。今までの取り組みに自信を持てばいいのではないか」と話していた。
司会の田代洋一教授は「現場の実態と意欲が理解できたと思う。農協が前面に立って地域農業を支えている。 こういう努力が政策にも反映される必要がある」などと総括した。
(写真)
シンポジウムで会場との意見交換を行った(左から、田代氏、石澤氏、水田氏)
【報告 1】
JAえちご上越・常務理事(新潟県) 石澤正親氏
民主党政権下の水田農業政策への対応
管内の水田は1万9100ha。平場の転作は大豆が中心で現在は1400ha作付けしている。JAが機械リースし担い手が作業受託で生産、1100haを占める。担い手は個人、法人、集落営農を合わせて909。農地面積の59%をカバーしている。
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今回、大豆の交付金の減額で作付け減となるのではと危惧していた。これまでは4.2万円、担い手はプラス7000円だったからだ。しかし、新規需要米とくらべてもきちんと大豆を作ったほうが有利との試算を示したところ、10%減程度に収まっている。JAが主体となったリース方式、担い手支援策で本作として定着してきた。
大きな変化は加工用米の希望数だ。現在、昨年の3倍。高価格帯品は数量限定でそれを超えると低価格帯の取引になる。数量が3倍では最終精算は1俵5000円以下になるのではないかと懸念している。
一方、飼料用米希望は50haほど。養鶏業者や全農との契約で販売先を確保できる見込みでこっちに希望をシフトさせていく方針だ。
生産調整のもうひとつの手法はとも補償。中山間地域の生産調整はほとんど自己保全管理でこなしてきたため、割り当て数量が余る事態になっていた。そこで1kg45円の小作料を払えば平場に米を作れる面積がもらえる仕組みをつくった。中山間地域の人にはそれが保全管理費用になった。
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ただ、米戸別所得補償モデル事業では、いわゆる選択制になったなか、生産調整のくびきから解放されたという受け止め方が出て、おもに中山間地域の3、4反の農家がもう参加しないという現象が出始めている。自家保有米、縁故米だけで捌け農協にも迷惑かけることはないとの考えだ。
逆に大規模農家は米価下落を恐れて加入を判断をしている。しかし、消費者負担から税負担へと転換し、民主党は参院選向けに米価を下げ、国民に不況のなか一安心だと見せるのではないかと農家は勘ぐっている。
それも新潟のコシヒカリがいちばん下がるとみな思っている。全国平均より大きく下がるとすれば、米価下落を補う変動部分は全国一律ではなく産地銘柄別とすべきだ。
やはり不安なのは過剰対策はしないということ。また長期ビジョンも見えない。とくにJAが一生懸命やってきた構造政策、将来の担い手像が見えない。
ほ場整備事業も重要で、これが担い手育成の契機にもなった。しかし、コンクリートから人へが強調され極端な減額に。1.5万円の話よりもほ場整備がさらに遅れることに現場は困っている。
今後1兆4000億円の戸別所得補償予算を確保するというが、日本の農業はこうあるべきだという哲学が見えない。前に立ちはだかる財政問題で戸別所得補償制度が破綻しかねないのではないか。農家はきちんと政治を見ている。
【報告 2】
JAさが・常務理事(佐賀県) 水田徳美氏
佐賀県水田農業の確立に向けて
県内4.4万haの水田のうち3.5万haでほ場整備が完了。畑地にも機能転換が容易な環境にある。耕地利用率は県平均で150%。表作は米と大豆、裏作は麦が主体だ。共乾施設は全部で140。米の利用率は75%、麦は90%、大豆は100%である。
転作はブロックローテーションで原則として大豆作付けを3年に1回としている。集落の農業振興に向けた話し合いをする生産組織が2200ある。JAを支える基盤組織で、小規模農家、認定農家、集落営農組織、さらに地域住民が参加して合意形成していく。
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集落営農組織は481あり法人を含む認定農業者は656経営体。担い手で麦・大豆は100%、米は65%をカバーしている。
生産調整の手法のひとつとして県内で米増産希望地域と削減可能地域との「地域間調整」をしてきた。山間地では大豆転作に向かない地域もあるからだ。その後、国による県間調整が行われ20年、21年には新潟県と調整した。22年産からは国は関与しないが新潟の3JAから申出があり2610tのJA間調整をする。佐賀県は過去の例や共乾施設からして9200haまでの大豆作付けは可能と考えている。
今回のモデル対策の交付金を佐賀の取り組みにあてはめ1haで計算すると、表作の米は(0.1ha控除)0.6haの固定部分が9万円、0.3ha作付けの大豆は水田利活用自給力向上事業分で10.5万円、緑・黄ゲタ分で9万円となる。裏作の麦1haは二毛作助成15万円と緑・黄ゲタ42万円となる。大豆への交付水準は10a1.5万円低下するのだが全体では増える。
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しかし、佐賀の場合、米は本人名義での出荷、大豆は自分が参加している集落営農組織で、裏作麦については期間借地で別の担い手が作付けしているという経営形態だ。つまり、個々の生産者にとっては一概に支援水準が上がったとはいえない。担い手を育てることと制度がうまくかみ合っていないということだ。
また、ブロックローテーションで生産調整をしているため、あるエリアは全部大豆ということになるが今年は交付単価が下がったので損をする、となりかねない。そこで米戸別所得補償の固定部分10a1.5万円を財源として大豆の交付金を補い、残った額を米やハウス栽培などへと分割するとも補償で公平性を保とうと考えている。
いずれにしても米戸別所得補償モデル事業には、集落営農を含むすべての農業者で生産調整の達成を進めることが基本だ。米価の安定のためには生産者自らが取り組む必要がある。
集落営農組織は団地化、機械の共同利用で農業所得の向上に寄与している。農政が転換してもその役割は変わらない。新基本計画のなかでも位置づけられる方向であり、地域農業の担い手として発展させていくべきだ。