JAグループの
担い手対応、強化が課題・・・
大規模農家・法人の声に応えるために
調査対象は全国の耕種部門、450経営体。調査ではこれらの経営が地域の農地を引き受ける事例が増えていることが分かった。
地域内の農家で農地を貸付けざる得なくなった事例が発生した理由を聞いたところ「病気」と「高齢化」がともに47.5%でトップ。「経営悪化」15%、「事故」7.5%だった。
そうした農地を「引き受けた」時期を分析したところ、1993年から2006年までは3.4%〜6.9%で推移していたが、07年31%、08年13.8%、09年27.6%と3年前から急増していることが分かった(右表)。
分析した谷口信和・東大大学院教授と李侖美・日本農研研究員は「昭和ヒトケタ世代のリタイア時期の本格的到来」と指摘。地域の農地を引き受ける担い手の育成、支援が一層必要になっていることが示された。
一般企業の農業参入について「望ましくない」との回答は30.2%だった。理由でもっとも多かったのは「儲からなければやめてしまい農業荒廃の危険がある」で73.4%。次いで「農地利用がかく乱され既存経営が不利になる」51.4%、「農地取得に狙いがあり転用の危険があるから38.2%だった(複数回答)。
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JAグループは担い手対策に力を入れているがまだその活動はあまり知られていないことが示された。
JAの営農指導員や渉外担当者の1カ月あたりの訪問頻度でもっとも多かったのが「ゼロ」で47.5%だった。
07年から全国で取り組まれているTAC(タック)については「知らない」が78.2%で「知っている」は12.1%にとどまった。
ただ、JAに販売力を期待する声は多く、「今後、増やしたい米の出荷先」では「JA」が30.2%と昨年調査より6ポイント増えたことが注目される。
調査経営体の特徴
◆企業的な経営体も登場 他法人からの出資も
09年度調査結果分析では、協力を得た380の農業法人と70の大規模農家の計450経営体が対象となった。
企業形態でもっとも多いのが「有限会社」で67.8%を占め、「農事組合法人」が25%、「株式会社」は7.1%となっている(表1)。
「有限会社」の出資金では300万〜499万円層が54.7%を占める。一方、「農事組合法人」では平均出資金額が1677万円。「株式会社」では「株式譲渡制限のある法人」平均で1678万円となっていることから農事組合法人はこれに匹敵するという結果だ。
谷口教授によると平均出資者数でみると農事組合法人は17.77人であることから、大規模な集落営農組織がここに含まれるとしている。また、「株式譲渡制限のある法人」も共同出資者数が多い。出資者に占める共同出資者の比率は農事組合法人の67.5%に次いで50.3%となっている。
一方、「株式譲渡制限のない法人」と「有限会社」では代表役員とその家族による出資割合が66.7%〜70.6%に達していることから、これらは「同族会社という性格が強い」。企業形態により同族会社的か、そうでないか性格の違いがみられる。
◆代表者の年齢は50歳代 JA職員からの転身も
ただ、いずれの企業形態も法人株主の出資があり、投資育成会社、JA、取引関連会社からの投資が一定程度ある。こうしたことから「多様な法人企業からの出資が開始されており、企業的な性格を強めつつある」と指摘している。
それは経営体の常勤役員+正職員数からも示されていると分析している。全体では5人以下が52.7%と過半を占めるが、6人以上の割合は「株式会社」65.1%、「農事組合法人」49.9%、「有限会社」46%決して少なくない。この点からも家族経営とは異なった労働力による経営体が成立していることが認められるという。
また、報告書では興味深いデータも示された。
調査対象となった法人の代表者の年齢は、50歳代までの割合が56.0%に達した。40歳代まででも16.3%となっている。企業形態別の代表者の平均年齢でもっとも高いのは農事組合法人で59.4歳であり、全体としても比較的若い年齢が経営を担っていることが分かる
また、代表者の前職を聞いたところ、「非農業」が過半を占め、会社員(27.3%)のほかJA職員も14.2%と一定数あった。
これらのことから報告書では「他産業の就業経験が農業法人の代表の役職を遂行するうえで大きな役割を果たしていることが予想される」と指摘している。
経営状況と経営課題
◆黒字化が進む 経営体も増える
調査対象の経営状況の指標として部門別の平均販売額をみると、3000万円以上は米(3320万円)、施設野菜(3945万円)、施設花き(7876万円)、果樹(7006万円)、畜産物(4737万円)などとなっている。茶では1億4246万円が平均額だ。総じて経営規模の大きさが示されており、販売額5000万円以上の経営体が占める割合も多くの部門で20〜80%を占めている(表2)。
今回は2005年から08年までの経営収支の動向も調査した。
これによるとどの企業形態でも、黒字が6?7割で赤字が3〜4割という結果となった(表3)。ただ、法人化していない経営体は他にくらべてやや厳しい状況だ。
さらに全体の黒字割合は、05年度の60.4%が08年度には67.9%に上昇しており4年間で黒字化が進んでいることが明らかとなった。
企業形態別にみると、08年度では黒字経営の割合は農事組合法人が78.8%ともっと高く次いで株式会社が69.6%となっている。
報告書では「企業的性格の進化という要素とともに、他方では個人企業ではない協同的な性格を有した企業としての農事組合法人という要素」が黒字割合を高める背景ではないかと指摘している。また、出資金額が多くなるにつれて黒字割合が増えることも示された。
◆冬期の就業確保が課題
経営体が抱える問題では、生産コストの増加(73.7%)、ほ場分散による非効率化(48.2%)などがどの企業形態でも上位を占めている。
そのほか注目されるのは、「冬期の仕事が不足するため所得確保が困難」という回答が全体で24.7%と3番目だが、農事組合法人では36.1%、株式会社では27.3%と高いことである。
農事組合法人には集落営農組織などが含まれており、集積した農地面積よりも労働力が相対的に多いという課題が示される。一方、株式会社という、より企業的な経営体として労働力を常雇いしているような場合でも、土地利用型農業にとどまっている限りは冬期の所得確保が課題となっていることが示されている、と報告書は指摘している。
冬期の就業確保対策としては(表4)施設園芸(32.5%)、露地野菜(24.6%)と野菜の作付けが多いことが示された。そのほか自経営の農業機械の修理(30.2%)、農産加工(28.2%)などが目立つ。
野菜栽培や農産加工が冬期就業確保策として高い比率を示した点について、報告書は農業部門の拡大によってこの課題解決を図ろうとしているとして「単なる周年就業の実現ではなく周年農業の実現」への取り組みがみられると指摘している。
◆耕作放棄地の復旧実績も
農地の利用集積の課題をめぐる回答では、全体として「希望する場所の農地利用ができない」(51.0%)、「地代が高い」(35.7%)、「地権者との仲介組織がない」(32.9%)などが上位にあがった。改正農地法では原則として市町村ごとに農地利用集積円滑化団体を設置することになったが、今後、こうした課題にどう対応するかも注目される。
また、今回は地域内の耕作放棄地への対応についても聞いた。
「耕作放棄地復旧の実績がある」との回答は32.4%だった。企業形態別では非法人(37.0%)と株式会社(36.8%)が高い。
一方、「耕作放棄地
対策をとくに意識していない」も38.5%ある。
報告書では、地域資源の維持管理への意識がなければ農業の多面的機能などの評価を通じた政策への国民の支持は得られないことを考えると「積極的な対応が望まれる」としている。
調査では「5年後の経営の意向」も聞いた。
「規模拡大したい」が全体では47.1%、「現状維持」が40.2%だった。ただし、「規模縮小したい」も4.3%あった。規模拡大志向は株式会社が52.0%ともっとも意欲が高いことが示され、反対に規模縮小の意向は非法人で10.2%と高かった(表5)。
農業政策への対応、意向
◆米の生産調整は残すべき
冒頭で紹介したように今回の調査時期は09年6月。前政権下での新たな食料・農業・農村基本計画の検討議論や6大臣会合のなかで、米の生産調整の選択制といった議論もされてた時期だった。
今後の生産調整のあり方について、調査対象の経営体はどう考えていたのか。
結果は「生産調整は残し生産調整参加メリットをかなり大きくすることで実効性を高めるべきである」が全体で47.9%ともっとも多かった(表6)。
生産調整に行政が責任をもって関与すべき、との回答は18.7%。50ha層以上では26%程度と高い回答率となっている。
報告書では、こうした結果から計画生産参加者を対象に定額交付する「米戸別所得補償モデル事業」は「法人農業経営の多数派の意見に沿ったものだったということができる」としている。
また、水田利活用自給力向上事業として支援がなされることになった新規需要米(この調査では非主食用米)の取り組みについては「飼料用米を生産する」が20.5%、「米粉用を生産する」が19.9%だった。もっとも多かったのは「非主食用ではなく麦・大豆・飼料作物をつくる」の36.4%だった。20ha以上層では40%〜50%にのぼった。ただし、調査時点では作物ごとの助成水準が示されてはいない。
一方、米価下落が予想されるなかでの対応を聞いたところ「消費者や量販店、外食産業との結びつきを強める」がもっとも多く54.3%だった。「有機米など高付加価値生産」は36.9%だった。ただし、「米づくりをやめる」が全体で14.8%あり、表7に示されているようにこの回答は規模に関係なく存在している。報告書はこの点について「米生産への絶望的な感情が示されている。真摯に受け止めるべきだ」と強調している。
こうしたなかでJAへの期待を聞いたところ「高価格での販売」が31.8%ともっとも高かった。こうした声は大規模層であるほど強い。他方、「とくに期待することはない」は小規模層では25%〜33%になっていることも示された(表8)。
JAとの関係とJAへの期待
◆「直売所」が販売先と浮上
農産物の販売先としてJAのシェアが高いのは、麦、大豆の80%超のほかは、米が44.7%で、露地野菜、施設の野菜・花き、茶が20%台で、その他の農産物は10%台にまで低下している。
JA以外の販売先として注目されるのが「直売所」や「小売業者」といった消費者への直接販売ルート。野菜や花きでは24%程度を占め、果樹では45.7%と高い(表9)。
販売先としてJAを選んだ理由で多いのは、「取引の継続性」。また「価格水準」よりも「価格の安定性」や「決済サイト」など利便性もあがった。逆にJA以外を販売先として選んだ理由については、「価格水準」がもっとも多くなっている。
◆JAのアフターケアーに評価高く
購買品の購買先で、JA・JA連合会が過半を占めている品目は、農薬54.0%、米袋53.2%、肥料51.5%。飼料は42.2%、農業機械は40.8%と50%を下回っているが第一位ではある。
購買品の購入先でJAグループを選んだ理由は、農薬、園芸用施設・資材、米袋では品質、価格。飼料では取引の継続性と品質が上位だった。
農業機械では、価格よりも「アフターケア」が33.5%ともっとも高いのが注目される。
一方、購買先でJAグループ以外を選んだ理由でもっとも高いのは、いずれの品目も「価格」が優位となっている。
◆訪問頻度低いJA職員
JAグループの経済事業のうち、JAの営農指導員や渉外担当者の訪問頻度を聞いたところ、1か月で「ゼロ」がもっとも多く47.5%だった。一方で月に5回以上、という回答も6%、4回が3.3%あることなどから、地域と事業内容によってかなりのバラツキがあることが伺える。
ただし、JAの対応の変化については、訪問頻度が「増えた」は11.2%、「減った」は23.2%だ。
JAグループの取り組みについての満足度で、もっとも高いのは「販売支援、提案」(31.2%)であり、一方、不満があるのは「担い手のニーズに対応した情報や話題の提供」(32.8%)だった。
JAグループの取り組みを今後どう利用するかについての意向では、アグリビジネススクール(56.8%)、情報や話題の提供(52.8%)などが高く、報告書では「すぐには役に立たなくても今後経営を行っていくうえで必要となる教育や情報に関心がある」と指摘している(表10)。
◆リスクを避けるため米の出荷意向は高まる
今後の米の販売先意向についての調査結果を紹介する(表11)。
取引数量を増やしたいのは「直売所などでの消費者直売」が52.7%とトップだが、次いでJAが30.2%となった。JAへの出荷を増やしたいとの意向は08年調査の24.3%から6ポイント近く増加していることが注目される。
JAに出荷する理由では「代金回収のリスクがない」が08年調査の29.0%から37.6%に増えていることが注目される。
米価下落など経営環境が厳しくなるなか、JAへの出荷の安全性、他の事業の利便性などが「見直されつつあるのではないか」と報告書は指摘している。その一方でJAからの情報提供や販売力強化を大規模農家・法人は期待しているといえる。