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「育苗箱処理剤の上手な使い方」

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「育苗箱処理剤の上手な使い方」 グレードを高めた水稲殺虫殺菌混合剤

・病害虫の発生動向と箱処理剤の開発
・育苗箱処理剤の処理方法
・主な箱剤とその横顔

 本格的な田植のシーズンを迎えた。健康な苗を田んぼに植えてあげたい。長期残効型の水稲育苗箱処理剤は、その省力性と効果の安定性が評価され、普及率は年々増加している。特に近年は本田防除が困難な地域も多く、いっそう育苗箱処理による防除の重要性が高まっている。また、防除適期を逃さず確実な防除が可能である、という点も大きなメリットであろう。
 新たに開発されている箱処理剤の傾向を見ると、多くの害虫・病害への効果、長い残効性をもたせるべく開発が行われており、そのために、新規の有効成分だけではなく、製剤や混合剤化においてもさまざまな工夫がなされている。JA全農 肥料農薬部 農薬課に「箱処理剤開発の現状」とその「上手な使い方」をまとめていただき、特集とした。

◆病害虫の発生動向と箱処理剤の開発

 長期残効型の箱処理剤では、主にアドマイヤー、アクタラ、ダントツ、スタークルなどのネオニコチノイド系成分もしくはプリンス剤が主流であり、必要に応じてチョウ目害虫に効果のある成分スピノサドが混合された剤が主であった。
 抵抗性害虫の問題として、ここ数年、西日本を中心に大陸から飛来するトビイロウンカにおいて一部のネオニコチノイド系薬剤に対する感受性低下、およびセジロウンカのプリンス剤に対する感受性低下がそれぞれ見られており、問題となっている。さらに、ヒメトビウンカにも薬剤感受性低下の傾向がみられている。
 このような状況をふまえ新たな箱処理剤として、高コストではあるがネオニコチノイド系成分とプリンスの混合箱剤、また、ウンカに効果のあるピメトロジン(商品名:「チェス」)を含有した箱剤も上市されつつある。
 また、新規のチョウ目剤クロラントラニリプロール(同:「フェルテラ」)などを混合した剤が開発中であり、今後の登録・上市が期待されている。本成分は、チョウ目害虫をはじめ、イネドロオイムシやイネミズゾウムシなどの害虫にも効果を示す。
 なお、箱処理剤で初めて小型カメムシまで効果を示す剤も登場し期待される。ネオニコチノイド系のアクタラといもち剤のコラトップの混合剤であるデジタルメガフレア箱粒剤がそれ。アクタラ剤の含量増加と製剤の工夫により長期の残効が付与されており、育苗箱での処理で小型のカメムシまで効果を示す。地域によって発生するカメムシの種類は異なるが、小型カメムシが中心の地域では、本田におけるカメムシ防除を省略できる可能性が高い。
 いもち病の大発生は近年見られていないが、この要因のひとつとして、長期残効型の箱処理剤が広く普及したことがあげられる。製剤の工夫と含有量の増加によって残効性を付与したデジタルコラトップ剤やDr.オリゼ剤、ブイゲット剤、いもち病に対する長期の残効と紋枯病に対する効果をあわせもつ嵐剤、いもち病の発生の少ない地域で使用の多いビーム剤などが主流となっており、それぞれ殺虫剤との混合剤として上市されている。
 また、抵抗性誘導剤としてイソチアニル剤が申請中であり期待されている。
 このように殺虫剤、殺菌剤の混合により、多くの種類の箱処理剤が上市されているが、剤を選ぶときには防除すべき病害虫は何かを良く考え、剤のもつ効果・残効性やコストと照らし合わせて選択する必要がある。また、地域によっては、抵抗性害虫や耐性いもち病菌が発生している事例もあるため、普及センターやJAの指導に従って、剤を選択したい。

◆育苗箱処理剤の処理方法

 箱処理剤を省力的に処理する技術のひとつとして、播種同時処理が普及している。播種同時処理が可能な成分は限られているが、製剤の工夫により剤のラインアップは増えている。
 一方ほとんどの剤が適用できるのが、田植機に取り付けて田植え直前の苗に薬剤を処理する装置である。剤によって調量開度が異なるので、あらかじめ調量を行うことがポイントとなる。

◆箱処理剤散布時の注意点

葉いもち(左)と穂いもち 育苗箱処理剤を処理するときには、散布した農薬が育苗時の土壌にしみこまないように、またこぼれないように注意する必要がある。特に、水稲育苗後のハウスで他の作物を栽培する場合には、後から栽培した作物に影響することがある。水稲育苗時に農薬を散布する時には育苗箱から農薬がこぼれないように丁寧に行い、また、育苗箱の下に不浸透性のビニールシートを敷くなどの対策を講じたい。
 いずれの剤、いずれの処理方法を用いる場合でも、健康な苗を用いる、所定の薬量を箱全体に均一に散布する、といった基本を守り、移植後は直ちに入水し、用水への流出を防止するために「止め水」もしっかりと行いたい。
 生産者の省力化に寄与する箱処理剤は、今後もいっそう普及するものと思われる。新たな薬剤と装置のさらなる開発に期待するが、各現場でも多様なラインアップからニーズにあった剤を選択し、上手に使用していただきたい。

(写真)葉いもち(左)と穂いもち

 

◆主な箱剤とその横顔

 デジタルメガフレア箱粒剤 デジタルコラトップアクタラのアクタラの成分を増加し、さらに特殊製剤により、箱で処理するだけで小型カメムシまで効果のある箱処理剤である。
 デジタルコラトップアクタラ箱粒剤 特殊製剤により効果が長く持続すするので、箱処理でいもち病と、初期害虫からウンカにまで効果を発揮する。低コスト剤であり、大型規格として手ごろな3kg規格が設定されている。
 嵐プリンス箱粒剤 箱処理でいもち病・紋枯病と、初期害虫からウンカ、鱗翅目、イナゴにまで効果を発揮し、効果が長く持続する。省力技術である播種同時処理もでき、大型規格もラインナップしている。
 嵐ダントツ箱粒剤 箱処理でいもち病・紋枯病と、初期害虫からウンカ、ヨコバイまで効果を発揮し、効果が長く持続する。
 Dr.オリゼプリンス粒剤6,10 箱処理でいもち病と、初期害虫からウンカ、鱗翅目、イナゴにまで効果を発揮し、効果が長く持続する。
 フルサポート箱粒剤 箱処理でいもち病・紋枯病と、初期害虫からウンカ、ヨコバイ、チョウ目といった広い病害虫に効果を発揮する。
 アプライプリンス粒剤 抵抗性誘導いもち剤のチアジニルと、初期害虫からウンカ、鱗翅目、イナゴにまで効果を発揮するフィプロニルを組み合わせた箱処理剤であり、製剤の工夫により播種同時処理が可能。
 ジャッジ粒剤 徐放性のオリゼメートとオンコルの混合剤。いもち病への長い残効性と初期害虫が対象。初期害虫主体のいもち病発生地域で、低コストを実現できる。
 ブイゲットプリンス粒剤6,10 新規抵抗性誘導いもち剤のチアジニルと、初期害虫からウンカ、鱗翅目、イナゴにまで効果を発揮するフィプロニルを組み合わせた箱処理剤。
 ブイゲットアドマイヤー粒剤 新規抵抗性誘導いもち剤のチアジニルと、初期害虫からウンカ、ヨコバイまで効果を発揮するイミダクロプリドを組み合わせた箱処理剤。
 ブイゲットプリンスバリアードL粒剤 新規抵抗性誘導いもち剤のチアジニルと、フィプロニル、チアクロプリドを組み合わせ、初期害虫からウンカ、ヨコバイ、鱗翅目、イナゴにまで効果を発揮する箱処理剤。

(2010.05.10)