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全農燃料事業「3か年計画」のポイント

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全農燃料事業「3か年計画」のポイント―平井信弘 JA全農燃料部長に聞く「エネルギー需要の変化に対応した事業基盤の再構築」

・石油事業―セルフ化伸長でシェアを拡大
・LPガス事業―JAと連合会が一体となった供給体制をめざして
・新エネルギー―エネルギーの総合提案で快適なエコ生活を支援

 JA全農はこの4月から「変革・創造・実践」をスローガンとする新たな「3カ年計画」に取り組み、「生産から販売までの一貫した事業体系の構築」をめざしている。そうしたなか燃料事業は、「エネルギー需要変化に対応した石油・ガス事業基盤の再構築」をめざすとともに「新エネルギー」への取り組みを積極的に展開していく。そこで、平井信弘燃料部長に、この「3か年計画」のポイントについて聞いた。

石油事業

◆セルフ化伸長でシェアを拡大


 ――まず最近の石油事情についてどのようにお考えになっているかからお聞かせください。
平井信弘 JA全農燃料部長 平井 一昨年にWTI原油が140ドル/バレルを超え、ガソリン価格が一時、180〜190円/リットルになりました。その後、原油価格がいったん40ドル/バレルを切るレベルまで下がりましたが、いままた70〜80ドル/バレルと高値になっています。
 一方で需要は一貫して減っています。経済産業省もここ5年で全体の需要が14%くらい落ちる(08年度対比)と予測しています。
 そうはいっても石油がエネルギーの太宗であることは変わらないと思いますので、引き続きコスト削減をはかりながら、いかに効率よく農家・組合員に供給するかという私たちの使命に変わりはないと考えています。
 ――JAグループ石油事業の現状はどうなっていますか。
 平井 数量ベースでは一番多いときに900万klを超えていましたが、09年度では693万klとなっています。しかし、国内全体の需要が減少する中で、全国のJAがSSの投資をしていただいたこともあって、08年度より約10万kl増えています。とくにガソリンについては業界よりも伸び率が6ポイント上回っています。それだけシェアが大きくなってきているわけです。
 ――その要因はなんですか。
 平井 JAが積極的に投資をされた結果、セルフSSが飛躍的に伸び、3月末で586か所と09年度までの目標だった500か所を上回っています(下図参照)。セルフ化することで、価格面でも競争力がつき、農家・組合員から支持されてきていることだと思います。
 フルサービスSSを含めたJA?SSの平均販売量は月90klくらいで、業界平均よりまだ少ないのですが、急速にその差は縮まっていますし、月間1000klを超えるJA?SSもでてきています。

JA?SS数とセルフSSの推移

 

◆インフラ整備で確固たる事業基盤を構築


 ――新「3か年」でもセルフ化を進めていくわけですね。
 平井 先ほど申しましたように前の3か年でも目標を超えているように、JAグループの皆様のご理解を得て進めていただきましたので10年度からの3か年では、セルフSSを最低800か所、それ以上に増やしていきたいと考えています。現在の状況を考えると、これから3年間くらいがインフラ整備の最後の機会ではないだろうかと思っています。
JA―SS ――セルフ化で経営的にも成果がでていますか。
 平井 JA―SSは、全国約500JAに約3200か所あります。中山間地などでライフラインとして設置されているのもあり、赤字SSが多いのですが、セルフSSに限ってみれば、新設当初は減価償却費が経営上の大きな負担となりますが、こうしたSSを含めても6割強が黒字です。
 ですから、この3年でインフラをきちんと整備して、JAの石油事業を確固たるものにしていきたいと考えています。
 ――出光興産との提携を検討されていますが、これも物流などインフラ整備の一環としてとらえていいのでしょうか。
 平井 これは業界全体の問題ですが、石油基地運営とかインフラにかかる費用は、当然コストに跳ね返ってきますし、需要が減ればコストアップ要因となります。そこをお互いに協力し合うことで、コストアップを抑制しようということです。
 ――施設用のA重油の配送での期待が大きいという印象を持ちましたが…
 平井 JAグループは自主自賄をモットーにやってきましたが、たとえば、石油基地やタンクローリーを元売と共用化できれば効率的に稼動でき、コストを抑制できるということです。

 都道府県別セルフSS比率

 

◆老朽化SS対策や灯油の配送体制見直しも課題に


 ――漏洩リスクの高い老朽化SS対策も大きな課題ですね。
 平井 老朽化したSSは漏洩防止のため地下タンク内をコーティングする、もしくはタンクを入れ替えるなど法規制がかかる可能性があります。そうしたSSについては、マスタープランに基づいてJAに改善または統廃合による廃止の提案をしていきます。
 しかし、現在ある3200くらいのSSのうち約1200SSは中山間地などのライフラインとして機能していますので、簡単に廃止することができません。このようなSSをどうするかが大きな課題となっています。ライフラインについては経済的な合理性だけでは判断できませんので、拠点SSとは別の支援策が行政も含めて必要ではないかと思います。
 ――灯油はどうですか。
 平井 省エネとかオール電化の影響もあり、供給量は減ってきていますので、JAから農家・組合員など利用者宅への配送体制を見直し効率化していく必要があります。従来はSS業務の余剰時間で配送していましたが、セルフ化が進むと配置される要員は2人くらいなので、新たな配送体制を組まないと配送が維持できなくなります。SS単位ではなくJA単位で配送体制の再構築を検討するとか、外部委託するとかを模索していかないといけないと思います。
 ――セルフSSだと自分で買いに来る人もいるのでは…
 平井 自分で買いに来れば配送コスト分が安くなりますからそういう人も多いですね。それから灯油はホームセンター(HC)の目玉商品でしたが、HCだとポリタンクを台車に乗せて駐車場を往復しますが、セルフSSだとこうした手間が省けますので、HCからSSへ切り替えている人も多いです。

 

LPガス事業

◆JAと連合会が一体となった供給体制をめざして


 ――LPガス事業についてはいかがでしょうか。
 平井 「安心」を保障するために、引き続き保安対策の強化に取り組んでいくことが重点課題です。
 ――供給量は増えているのでしょうか。
 平井 ここ10年の推移をみると商系は100%を超えていますが、JAグループは10%程度減っています。その要因はオール電化などもありますが、農村部の人口が減少していますし、業務用などの新規需要が取れていないためです。
 ――LPガス事業は配送を含めてかなり効率化されてきていますね。
 平井 配送は専門業者に委託していますし、検針についてはJA?LPガス情報センターが、JAグループの供給先約280万戸のうち96万戸強を遠隔監視していますので、JAは販売業者としての周知義務と代金回収、そして推進に専念できる体制になっています。
 そのほか、輸入基地の元売会社との提携強化とか充填所の統廃合や他社との共同運営・共同充填・共同配送を実施し、コストの削減もはかってきています。
 ――保安体制と小売販売力強化が重点課題ということですね。
 平井 ガススーパーバイザー(GSV)を育成し、自立型JAへの小売販売力の強化の支援をしていきます。しかし、LPガス事業の場合には、販売所1か所あたり供給戸数が5000戸くらいで効率的な展開できますが、そうした体制整備が困難なJAもあるので、事業の受け皿として県域での体制整備を進めていきます。すでに全農エネルギー(株)や県本部燃料関係子会社などが、20万戸ほど受託しています。
 JAグループとしてLPガス事業を長期的に維持していくためにこうした方向も模索していくことがこの3か年の課題です。

 

新エネルギー

◆エネルギーの総合提案で快適なエコ生活を支援

 ――「新エネルギー対策」が3か年計画の大きな柱として提起されていますが…
 平井 「新エネルギー事業推進室」を4月1日に新設し、CO2削減とか地球環境対策という社会の動きに、私たちもきちんと対応していこうという取り組みです。
 具体的に何をするかといいますと、一つは太陽光発電とか太陽熱を中心としたホームエネルギーの総合提案事業の確立です。従来から太陽光などに取り組んでいましたが、さらに一歩踏み込んで、農家・組合員にとって太陽光発電や太陽熱温水器、高効率給湯器などの新エネ・省エネ機器のベストミックスは何かを提案し、快適なエコ生活をサポートすることです。太陽光利用以外でも小型風力発電とか小型水力発電なども考えられています。
 当然、経済的な負担も生じますから、ファイナンスも含めて図2のようにきちんと事業化していこうと考えています。
 ――そうした家庭用(民生用)と同時に産業用への取り組みも考えられていますね。
 平井 民生用と並ぶもう一つの柱が、オンサイト事業とESCO事業です。オンサイト事業とは、大規模工場などの需要家の敷地内に設備を持ち込んでエネルギーを供給する事業で、ESCO事業とは、省エネ設備の導入や運転管理などで省エネ効果を保証し一部を報酬として受取る省エネコンサル事業のことです。
 いま進めているのは、JAや連合会の子会社や工場とかJAグループ関連施設などに対してエネルギー診断を無償で実施し、エネルギー効率の最適化提案を行い、温室効果ガス削減に貢献すると同時に光熱費などのコスト削減を推進するということです。
 ――産業用で中心となるエネルギーは何ですか。
 平井 重油ボイラーを使っている施設が多いので、LPガスへの転換が中心になると思います。石油・ガスの個別事業でみれば整理すべき点などありますが、CO2削減を含めてトータルでみてどちらがいいかという判断をして欲しいですね。
 ――最後に、JAの皆さんへのメッセージをお願いします。
 平井 石油事業は事業のインフラを整備して競争に打ち勝つ体制を築いていきます。LPガス事業は、供給戸数の減少に歯止めをかけるためにも、連合会・JAが一体となった供給体制を築いていく方向を3年間で明確にしていきたいと思います。そして、3つ目の柱として新エネルギー対策を事業として確立したいと考えていますので、JAの皆様のご理解とご協力をぜひお願いいたします。

新エネルギー事業(民生用)イメージ

(2010.05.24)