生産現場の課題に応え、
農業生産に貢献できる資材を提供
21年度の到達点
◆広域土壌分析センターの確立、農薬新剤の開発
――21年度の肥料農薬事業の到達点としてはどういうことがあげられますか。
山崎 まず肥料事業では、ここ数年の資源価格の高騰がありましたから、施肥コスト抑制を中心に取り組んできました。具体的には土壌分析に基づいて余分な肥料を使わないようにするために、広域土壌分析センターを9カ所立ち上げ稼動を開始しました。そして、低成分肥料への切り替えをはかりました。
また、肥料価格の年間2本立てへの準備を始めました。
――土壌分析は何件くらい実施されたのですか。
山崎 広域分析センターだけで約2万点、全国では約25万点にもおよんでいます。
――海外原料確保については…
山崎 肥料原料の安定的な確保のために全力で取り組んでいますが、昨年はりん鉱石の15年来の購入先である中国貴州省の瓮福集団有限公司と、関係をさらに強固にするために戦略的パートナーシップ協定を結びました。
――農薬事業についてはどうですか。
山崎 農薬では何といっても抵抗性雑草に効果があるAVH-301をバイエル社、北興化学と共同開発してきましたが、これの農薬登録ができたことが一番です。
――そのほかでは…
山崎 重点課題である広域物流実施JAの拡大と資材店舗の活性化に取り組みました。
広域物流では、新たに14JAが参加し、累計で36県域178JAとなりました。
資材店舗については、地産地消が盛んになり、直売所を併設した店舗が増えているので、その開設に協力をしてきました。
――店舗では本紙でも取りあげた「豊年万作くん」の評判はいかがですか。
山崎 評判が良く、現在、32JA61店舗に導入されていますし、今年度も導入する計画を持っているJAもあります。
3か年計画のポイント
◆国産農産物の販売力強化につながる資材の提供
――それでは今年度からの3か年計画の全体的なポイントについてお聞かせください。
山崎 全農全体としての重要課題は「国産農畜産物の販売力強化」ですから、生産資材を取扱う私たちの部署も、その重点課題に向けて事業に取り組んでいくことが基本姿勢です。
もうすこし具体的にいうと、新しく発足した営農販売企画部そして生産資材部と連携して、国産農畜産物の販売力強化につながるような事業を展開していきます。新しくなった営農・技術センター(平塚)では、産地に役立つ技術の研究開発したり、各部門にわたる横断的な研究しますし、担い手対応のTACと連携して、担い手のニーズを踏まえて生産資材の提供をしていくことだと考えています。
大きくいえば、AVH-301のように、生産現場が困っている問題に応えていくこと(図表1、2参照)。多収穫・高品質で農家の収入が増えるような資材を提供していくこと。そして低コスト資材の提供の3つが私たちの使命だと思います。
◆柔軟な対応ができる年間2本価格で競争力をアップ
――肥料事業の重点課題はなんですか。
山崎 今年の6月から、秋肥(6月)と春肥(11月)の年間2本価格になりますので、混乱を最小限にして移行させていくことが第一の課題です。戦後一貫して年間1本の価格できましたから初めてのことで、現場の皆さんには大変なご苦労をかけていますが、きちんと移行させなければならないと考えています。
――肥料価格を年間2本にする意義は何ですか。
山崎 最近は資源価格が緩んでいますが、また上がってくると考えています。年間1本だと先を見通して価格設定することが難しいといえますが、年間2本価格にすることで、現在の状況に合わせた価格設定がしやすくなります。例えば為替の動向に合わせて、下げられるならさげることができます。
つまり、その時々の状況に合わせ、柔軟に価格対応し、下げられるところは下げて、競争力がある価格で農家の方々に提供することが可能になります。
――年間2本価格にすることで事業としては何が変わりますか。
山崎 農家との期別契約をきちんと行ってそれを積み上げ、その契約については、契約した価格できちんと責任をもって量も確保して、農家に供給していくことを大きなテーマにしています。
◆土壌診断をベースにした事業を確立していく
――原料価格はまた上がるという見通しのようですが、そうなると農産物の生産コスト抑制が、引き続き大きな課題となりますね。
山崎 世界的に資源が逼迫するというのが大方の見方ですから、土壌診断に基づく低成分施肥による施肥コスト抑制について今年度以降も徹底していきます。
――土壌診断に基づいた施肥設計や土づくりが大事なりますが、そういうことができる人が少ないという話も聞きますが…
山崎 土壌診断に基づいた処方箋をもって、きちんと農家に説明できるような人材の育成も大事な課題ですので、それも広域土壌分析センターの仕事になります。広島の広域土壌分析センターでは、自ら農家に出向き説明をしています。
必ず土壌診断をしてほ場の状態を確認して肥料を注文する。それをJAから全農に積み上げて、年間2本価格できちんと対応していくようにするために、注文書の作り方から再検討していきたいとも考えています。
全国に広域土壌分析センターができ体制が整ったので、今年から中身を充実させていくことです。
――りん鉱石で中国の瓮福との連携強化をしましたが、それ以外で海外原料の確保について具体的な取り組みがありますか。
山崎 中国以外でもベトナムとかチェニジアでの原料確保をしてきましたが、昨年には産地多元化ということで南アフリカからりん鉱石を新規に輸入しました。そういう意味で多元化は着実にはかり、有利購買を進めていきます。
(写真)全国各地で約25万点もの土壌分析が
◆1300ほ場で試験期待高まるAVH-301
――農薬事業の重点課題についてはいかがですか。
山崎 AVH-301が上市されましたが、今年は全国で試験をしてもらい、使い方を徹底することと効果を確認してもらう年です。そしてその成果にもとづいて来年から本格的な販売を行っていきます。
――現場の期待は大きいのではないですか。
山崎 抵抗性雑草で困っている現場のなかには、今年から実需でオーダーを上げてきているところもあります。
――ほ場試験は何か所くらいで行っているのですか。
山崎 約1300か所の全農展示ほで、効果を確認する試験が行われています。
――今までと桁が違いますね。
山崎 いままでにない数ですね。それは、抵抗性雑草で困っているところが多いことと、MY-100から10年ぶりに系統の共同開発剤が開発されたことで現場は大変盛り上がっているからです。
――大型規格品はさらに増やしていきますか。
山崎 昨年で211品目まで増えましたので、さらに担い手の声を聞き、その要望に応えられるようにしていきたいと思っています。
――評価は高いですか。
山崎 評判はいいですね。先日も青年部の会合でお話をさせてもらいましたが、そこでも大型規格は高い評価をいただきました。
◆農薬開発積立金活かし生産現場の防除課題に応える
――農薬開発積立金を新設しましたが、これはどういう役割を果たすのでしょうか。
山崎 AVH-301のように、生産現場が困っている防除課題に応えるとともに、コスト低減や系統農薬事業の競争力を強化するためには、JAグループ自らが農薬原体を保有することが極めて有効です。
この積立金を活用して、今後も現場で困っている課題を解決できるような新剤を3年に1剤くらい開発していきたいと考えていますし、今年度中くらいに次の剤に着手したいと思っています。
――毎年、積み立てていくのですか。
山崎 共同開発が始れば7〜8年はかかりますから、毎年積立金を使い、毎年積立てていくことになります。
――全農としてはいままでにないことで、思い切った仕組みですね。
山崎 全農はメーカーとは異なりフローで開発費を出すことは難しいので、こうした積立金をもたないとなかなか開発に着手することができないからです。
――事業所の体制も変わりましたね。
山崎 今回、東北事業所を設置し、全国に6ヵ所の事業拠点ができたので、今後は各ブロック内で連携して重点品目や重点課題に取り組み体制をつくっていきたいと考えています。
――お忙しいなか、ありがとうございました。
※山崎部長の「崎」の字は、正式には旧字体です。