◆組合員は増えたが供給高は減少
現在の地域生協全体の状況は、図1のように組合員はこの10年間で409万人も増加し1859万人となったが、総事業高は07年度をピークに下降線を描いている。
なかでも店舗事業は、図1以前から一貫して供給高が減少していたが、09年度は9555億円(推計)と2000年(1兆1017億円)から3割以上も落ち込んでいる。
一方、共同購入は一貫して増加してきていたが、09年度は08年度より143億円減少したと推計されている。共同購入における班配と個配の推移をみたのが図2だが、班配が減少し個配が伸びていることが分かる。
しかし、「生協事業の成長を牽引」してきた個配は「1兆円」という日本生協連が掲げた目標を達成することができず「伸長率が2桁から1桁前半へと鈍化」。共同購入全体でも収益性が悪化している(図3)。収益面で見れば、店舗事業は1度も黒字化していない(個別には黒字生協もある)。
日本の生協がこれまで展開してきた事業モデルは大きくは、コープこうべを初め大都市圏生協が展開してきた店舗事業。そして東都生協や生活クラブに代表される地域における班をベースにした共同購入(無店舗事業)。同じ無店舗ながら21世紀に入って急速に成長し生協事業を牽引してきた個配事業の3つだといえる。
しかし、この3つのいずれもが行き詰っているというのが今日の実態ではないだろうか。
◆1人当たり利用高は10年で2割ダウン
個配事業について、矢野日本生協連専務は「まだ伸び代はある」という。確かに個配自体は1桁とはいえ伸びているのは事実だが、個配事業を開拓し牽引してきたパルシステム生協連は「グループ全体供給高が前年比98.9%で非常に厳しい1年」だったと総括。「前年実績を割り込むのは、パルシステムグループとして始って以来のこと」だ(総会議案書)という。
表1は組合員1人当たりの月利用高推移だが、この10年間で2割以上落ち込んでいる。量販店などとの競合に勝ち残るため、商品の単価が安くなっていることもあるが、首都圏の生協の資料をみると、利用点数も減っている。
日本生協連の資料でも「多くのカテゴリーで、組合員の最もよく利用する購入先として、生協は3【?】4割程度」「その割合も停滞している」(09年度全国生協組合員意識調査)との指摘がある。
◆「いつから事業連合が上になったのか?」
こうした点をどう克服し、組合員が自分たちが開発し育てるという生協らしい商品の開発も含めて、より利用率を高める事業モデルを構築することができるのか。これが直面するもっとも大きな課題ではないだろうか。
「いつから事業連合が、私たち単協の上になったのか」。ある生協総代会での総代の発言だ。いまコープ商品も含めて商品開発が自分たちから遠いところで行われていると感じている組合員は多い。
一方で、生協法改正を受けて、県域を超えた合併について決めたところ、検討を始めたところがある。県域を超えた合併は「迅速な決定と効率化」につながるからだ(事業連合幹部)。おそらく近々に県域を超えた巨大な地域(?)生協が出現するのだろう。
事業優先で巨大生協となったとき、組合員が主人公である協同組合としてのあり方はどうなるのか。これも大きな課題だといえる。
「“倫理”と“利益”が相反するとき、倫理を選ばなければならないのに…」。神奈川・静岡の6店舗で発生した「店内調理品ロースカツの不適切な扱い」について、ユーコープ総会での丸山理事長の発言だ。
事業や店舗の収益性が問われるなかで、現場(店)へのプレッシャーはかなり大きく、“倫理”ではなく“利益”を優先せざるをえない実状があったと容易に想定できる。
いかなる状況になっても現場が“倫理”を素直に選択できるようにならなければ、日本生協連がいう「信頼の再形成」は危ういのではないだろうか。
◆都市でも増える「買物難民」への対応
もう一つ、今年耳に残った言葉がある。それは「買物難民」とか「買物弱者」という言葉だ。独り暮らしや夫婦二人という高齢者世帯が増え、体力が衰えたり病気になり、買い物もままならぬ人たちが、地方だけではなく都市部でも増えている。これに生協はどう対応するのかという問いだ。
福井県民生協では、「生鮮食料品を含む約700品目の商品を提供できる車両を開発」し、昨年10月から3台で移動店舗事業を展開。「組合員の評価も高く、中山間地の住民から大変感謝され」ていると、日本生協連総会で報告した。5月からは5台増車。「2【?】3年で黒字化の目途をたて」、「第3の供給事業に育てていく」と同時に、「買物支援にとどまらず、見守りや福祉サービスなど地域生活のインフラとしての役割を発揮していきたい」と決意を述べた。こうした取り組みについて、大きな事業連合の幹部には否定的な意見が多いようだが、地域に根ざした協同組合の新たな活動の一つとして注目されている。
生協全体でも高齢者の割合が増えるにつれて、家庭に育ち盛りの子どもがいなくなり、食料品などの消費が減ったこと。さらに、高齢化が進むと食べる量が少なくなるので、小分できて量目の少ないアイテムへの要望が高まっている。と同時に組合員数が拡大すれば、当然多様なニーズが発生する。これらにコストを抑えてどう対応するかということも大きな課題といえる。
◆農業へ参入する生協も
最後に農業との関係で注目しておきたいのが、「農業への参入」だ。すでに生協ひろしまや大阪いずみ市民生協で子会社による農業参入が始っているし、生活クラブ生協連でも検討していくことが総会議案書に明記されている。
企業の農業参入と同時に、産直などの連携先である生協のこうした動きに農協がどう的確に対応していくかも課題だといえる。
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2011年は日本生協連設立60周年、翌12年は国際協同組合年と、協同組合がそして生協が注目される年だから、日本の生協がさまざまな困難な課題を克服し、農業との関係も含めて、新しいビジョンを必ず拓くことを期待して待ちたい。