実需者から「欲しい」といわれる米をつくる
◆利用組合がJAと一体となりCEを運営
「あの赤い屋根が西南地区CEですよ」。
JAくるめ営農事業部の原文雄農産流通課長が指差す方をみると、緑の田んぼとよく晴れた青空の真ん中に、赤い屋根を頂いたおしゃれなCEの姿が見えた。
ここは福岡県南西部、筑後平野の中心にあり、市町村単位では福岡県内でトップの農業産出額(平成19年度)を誇る久留米市を管内とするJAくるめの西南地区CEだ。
JAくるめでは、販売高の約57%を施設を中心とする野菜類が占めている。一方、米・麦・大豆も全体の約34%を占めていることから、米麦作の合理化・良質米生産のための中核施設として、管内に4基のCEを設置するとともに、土づくりや作付の団地化、地域輪作農法の確立、大型機械の共同利用などを通じて、「おいしい・安全な米づくり」に取り組んでいる。
管内で作付されている米は、ヒノヒカリが約60%、夢つくしが約25%そしてモチ米のヒヨクモチが7%弱となっているが、CEで集荷される米はいずれもJA米だ。
4カ所のCEの運営は、利用組合方式ですすめられているが、各CEに主任オペレーター1名、オペレーター2名、事務1名の4名のJA職員が、年間を通して配置されている。また稼働最盛期には、利用組合で必要な人員を臨時雇用して対応している。
◆大規模農機共同利用 組合と連動した地域も
4カ所のCEは、受け入れる米麦の数量は異なるものの、いずれも米だけではなく、麦を含めた集荷・乾燥・調製・保管・出荷が行われる米麦販売の拠点であるとともに、水田営農実践組合のモデルとなる施設と位置づけられている。また、JAではCEの米麦を大量かつ安全・安心な商品として安定的に市場に流通させ、消費者・実需者と生産を結ぶ架け橋となる機能が求められていると考えさまざまな取り組みを行っている。
なお、4カ所のCEのうちもっとも新しい東部CE(平成3年建設)では、CEと連動した大規模な農業機械共同利用組合を組織し、その農機利用組合を中心とした運営を行っている。また、県下最大規模の共同育苗センターを完備することで米麦農家のコスト低減をめざす取り組みも行っている。
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組合員の保有米は精米して18kg袋で
◆利用率向上などが評価され農水大臣賞に
そうしたなかで、西南地区CEは、本年6月9日に行われた「平成22年度優良CE表彰」で栄えある「農林水産大臣賞」を受賞した。
受賞の理由はいくつかあるが主なものは、
▽CEを食品工場とみなし、種子更新や生産履歴記帳を義務づけ、また荷受前に生産履歴の提出を受け、全量JA米として販売。さらに安全・安心への取り組みの一環として、残留農薬検査は、地区毎にほ場から籾を採取しJA独自に事前検査を行い、その後調製された玄米を県本部の検査センターで本検査を行うという二重のチェックを実施している。
▽麦類については、全生産量をCEで一元集荷することによって、品質向上と物流合理化に役立っているのと同時に、玄米色彩選別機を赤カビ粒除去にも活用。さらに全サイロに冷却装置が設置され、万全な保管が行われている。
▽農政事務所OBと農産物検査員・CE関係役職員により、荷受時の品質チェックを行い、不適格品は別処理を行っている。穀温記録はグラフ化して変化を容易に把握できるようにしており、また、季節ごとの外気温に応じた夜のローテーションや水分・品質チェックも行っている。
▽利用組合として独立会計を実施。経営収支は黒字で、直近の5年間は毎年、利用高配当し、利用者に還元している。(利用料金1200円/60kgのうち345円払い戻し。賦課金反当たり3000円のうち1016円払い戻している。いずれも21年度)。
▽老朽化に伴う機械更新のための費用として利用組合独自の積み立ての実施、等があげられる。
◆利用組合における円滑な運営体制
西南地区CEは昭和63年度に設置され、乾籾2250t(250t×9本:鋼鉄製)、乾麦900t(300t×3本:鋼鉄製)の貯蔵能力をもち、全サイロ(本サイロ12本、副サイロ2本)でサイロ冷却できるようになっている。
また、設置当初から利用組合方式で運営され、現在は、米では生産組織が5組織、農家数275戸198ha、認定農業者が13戸34.9ha、その他35戸23.4haで合計323戸256.3ha。麦は全作付農家の178戸298.6haの利用状況となっている。
運営は、36地区から選出された67名の総代による総代会を最高決定機関とし、そこで選出された組合長以下5名の役員が中心となり、31名の各地区からの運営委員の助言とJAの指導によって行われている。現在の川島正弘利用組合組合長は4代目で、この利用組合の設立の準備段階から関わり、平成12年から組合長の重責を担っている。
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上:川島正弘西南CE組合長
下:原文雄課長
◆職員のモチベーション向上と「意識改革」が大切
川島利用組合組合長によると、利用組合の組合長になられて真っ先に取り組んだのは「職員の意識改革」だったそうだ。「CEは“食品を取り扱っている”という意識を職員に持ってもらうために、施設内の清掃はもとより周辺道路の清掃から取り組みました」。
さらに「施設内の“安全対策”です。CE施設内にはむやみに触ったり、昇ったりすると危険な個所もあるので、そういう場所には利用組合の費用で手すりや安全ベルトを設置しました。また、余分にヘルメットを購入したり、フレコンに上がるとき土足跡がつかぬように専用の靴も購入」したという。
◆「おいしい米」づくりへの取り組み
「そのうえで、米卸などから“欲しい”といわれる“おいしい米”づくり」にも力をいれてきてる。その一つが、生産者(CE利用者)に、従来は収量を上げるために行ってきた9月の追肥(このあたりは麦収穫後の6月下旬に田植え)を止めさせ、追肥は8月20日までとすることで食味を向上させる取り組みだ。
もう一つが「私自ら毎朝CEに来ると穀温計のグラフをチェックし、わずかな穀温の変化も見逃さず的確な指示を行い、“おいしいお米の品質を維持”していることです」。
荷受時の基準水分は米は26%、麦は24%としているが「“米は早めに(水分27〜28%)、麦は遅めに”収穫することにしています。米の場合、水分が高くても“満足する米に仕上げる”自信があるからです」。
ちなみに、21年産米の荷受実績をみると9月17日〜24日が“夢つくし”、10月3日〜6日が“つくしろまん”、同6日〜17日が主力の“ヒノヒカリ”そして24日〜27日が“ヒヨクモチ”(特栽米)となっており、多い日は240台210t荷受している。
きっと荷受け待ちで朝から大混雑しただろうと思われたが、「朝9時前には持ち込みはしないし、夜7時以降は誰もいませんし、10台以上並ぶこともない」とのこと。品種ごとに検見を行い、運営委員会により荷受期間割当数量を集落ごとに設定していることもあるが、生産者の利用組合やCEに対する信頼が強いのだろう。
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全量フレコンで出荷されている
◆早めの修理で機械は大事に長く使う
売れる米づくりに取り組んだことと同時に、「CEの機械は、大事に長く使わないと組合員に申しわけない。だから修理は早めに行い、部品の交換はするが、機械そのものは長く使っている」という川島組合長の「組合員第一」という考え方も、組合員との信頼関係を築く大きな要素となっているのではないだろうか。
年間予算をみても、修理費は十分に確保してあるが、減価償却費は2000万円以内に抑えられており、そのことで収支を安定させ、剰余金を生みだし、組合員に還元されている状況である。
取材の最後に、川島組合長は、いま一番怖いことは「穀温計の故障」だと述べられた。
この一言にこの利用組合の運営の信条が込められていると感じた。
なお、JAくるめでは「こころ ふれ愛 WITH YOU」をキャッチフレーズに、組合員をはじめ地域住民とともに、農業と地域社会の発展に貢献すべく様々な活動が展開されていることを付け加えておきたい。
「事故防止に向け過剰荷受けと
オペレーターの人員配置への対策を」
全国農協CE協議会 野口会長(JAさが代表理事組合長)
わが国のカントリーエレベーター(CE)は、昭和39年に全国3カ所にモデルプランとして導入されて始まりました。以降、すでに40年以上が経過し、現在では、本協議会員だけで40道府県、280JA、761施設、貯蔵能力200万トンを超えるまでに発展しています。この間、高品位で均質な米麦の供給ならびにバラ化による流通合理化によって、地域農業振興および米麦の流通合理化・省力化のために、CEは多大な役割を果たしてきました。
現在、米麦を取り巻く環境は大きく変化しています。米麦の生産・流通の現場では、さらなるコスト削減と「安全・安心」へのニーズが強まっています。米麦の品質向上、物流の合理化、担い手を中心とした効率的な生産体制の構築という従来からの役割に加えて、トレーサビリティー、コンタミ(異品種混入)防止などを確保することがCEに求められています。
一方で、稼働率向上や、オペレーターの育成・確保・労働条件の整備、施設の老朽化問題など、CE運営上の課題は山積しています。
また、残念ながら、CEにおける品質事故は毎年発生しています。CEでの品質事故は発生すると被害が甚大であり、数千万円の損害金額になることも珍しくありません。また、経済的な負担だけでなく、生産者から預かっている大事な米麦の品質を損ねてしまうことは、道義的にも大きな問題であり、事故防止はCEにとっての最も大きな課題の1つなのです。
最近の事故の特徴として、[1]高水分モミの過剰荷受け、[2]新任オペレーターの不慣れに起因するものが多くなっています。
[1]過剰荷受けへの対策としては、荷受計画の作成や荷受ストップの実施が必要です。生産者の皆様へはご不便をかける場面もあるかもしれませんが、品質事故防止へのご理解とご協力をお願いします。
[2]新任オペレーターの不慣れへの対策としては、主任オペレーターの人事異動の配慮等、JAでの計画的な人員配置が必要です。JAの経営者が率先して、CEの運営体制の強化を図るようお願いします。
また、今年度もCE稼動の最盛期となる8月15日から10月15日までを「CE品質事故防止月間」に設定し、CEの組織的な運営体制の確立と施設・機械の清掃、点検整備の実施および関係者の連携による計画的な操業と適切な運営・管理の推進を通じて、品質事故の発生防止に万全を期することとしています。
全てのCE設置JAにおいて関係者が一丸となり、品質事故防止運動に積極的に取り組むようお願いします。
平成22年度 カントリーエレベーター品質事故防止強化月間の取り組みについて
【期間】
平成22年8月15日から10月15日までの2カ月間
【目標】
(1)品質事故の防止
(2)火災・人身事故防止等、安全な施設運営
【趣旨】
(1)カントリーエレベーター(以下CEという)における米の品質事故は、施設の能力を超えた原料籾の過剰荷受けが原因で、乾燥処理の遅れや不適切な乾燥等、無理な運転作業に至って発生したものが多い。また、最近では気候の温暖化で稼働時期の外気温が高いため、乾燥後のクーリングパスで穀温が十分に下がらず、やむを得ずそのまま半乾貯留や貯蔵を開始するケースも増えているが、その後のローテーション操作や穀温管理等が適切に行われずに品質事故を生じた事例も散見される。
(2)品質事故防止のためには、乾燥能力に応じた計画的な荷受け、ならびに各作業工程における基本操作の遵守が欠かせないが、そのためには施設運営を、オペレーター等現場従事者に任せきりにするのではなく、経営者や施設管理者、そして利用組合等生産者組織も含めた三者が、一体となって円滑に進めることが重要である。
(3)このため、CE稼働の最盛期であるこの月間を通じて、従来の施設運営や運転操作方法等を再点検し、必要な個所は見直して、本年の取り組みを行うものとする。
(4)また、CEでは近年、乾燥機の火災事故や怪我・人命に関わるような人身事故も発生していることから、併せてその防止対策にも取り組むものとする。
【具体的な実施内容・取り組み事項】
(1)全国農協カントリーエレベーター協議会、全農本所、(財)農業倉庫基金
ア.強化月間に先立ち、取組み強化を図るため県本部・県農協・県連(以下県本部・県連等という)のカントリーエレベーター担当者(指導員含む、以下CE担当者という)を対象にした研修会を行う。
イ.「カントリーエレベーター品質事故防止マニュアル」(以下「品質事故防止マニュアル」という)の見直し作成を行い、施設設置JA、県本部・県連等に配布する。
ウ.半乾貯留や貯蔵(保管)時における、サイロ内の穀温チェックを徹底するため、「カントリーエレベーターサイロ保管管理日誌〈穀温記録表〉」を作成し、配布する。
エ.系統機関誌等を利用して、品質事故等の防止を広報する。
(2)県カントリーエレベーター協議会、県本部・県連等
ア.適時、「品質事故防止マニュアル」および改訂版DVD「[1]カントリーエレベーターの運営体制づくり[2]カントリーエレベーターの品質管理対策」等を活用した研修会を実施し、品質事故防止対策を徹底する。
イ.JAに対し、施設毎に「CE運営管理マニュアル」を、CE品質事故防止対策を含めた内容で作成・整備または見直しするよう指導するとともに、同マニュアルの内容を確認し、改善すべき箇所等があれば指導する。
ウ.この月間中、CE担当者は、重点的にCE巡回を行い稼働運転状況を確認する。
(3)JA
CE設置JAは、次の事項に取り組む。
ア.運営体制の確立
JA役職員、利用組合組織、施設管理者・オペレーター等現場従事者の、三者が一体となったCEの運営体制を確立する。
イ.関係者による事前打合せと意識統一
稼動前に運営委員、生産組織関係者、オペレーター等現場従事者を集め、改訂版DVD「カントリーエレベーターの〔運営体制づくり〕や冊子「品質事故防止マニュアル」等を活用した業務研修会を実施し、互いの意識統一と士気の高揚を図る。
ウ.CE運営管理マニュアルの見直し検討
経営者および施設管理者は、各カントリーエレベーターの主任オペレーター等と協議して、施設毎に「運営管理マニュアル」の見直し検討を行う。未整備の場合は、県本部・県連等とも相談の上、早急に作成する。
エ.施設・機械の清掃および点検整備
稼動に先立ち、機械設備全般および施設内外の清掃を行う。また、施設メーカー協力のもと機械設備の点検・整備を行う。特に乾燥機については、燃焼装置が正常に運転されるよう、専門メーカーに依頼する等、綿密に行う。
オ.計画的な操業
(ア) 施設能力以上の原料荷受けをしないよう、稼働前に荷受計画を定めて関係者へ周知徹底する。荷受計画作成にあたっては、稼働中の乾燥作業を円滑に進めるため、必ず荷受休止日を設ける。
(イ) また、やむを得ず荷受中止をする場合を想定し、予め運営委員会などにおいて荷受中止を判断する責任者を定めておく。荷受中止または荷受数量の変更を行う時は、この責任者の指示のもと、利用組合や生産者への連絡を徹底する。
カ.品質事故防止のための運転操作・管理等
品質事故防止マニュアル内容を参考に、基本に沿った運転操作を行う。
(特に注意を要する点)
(ア) ビン荷受け時の対応
高堆積を避け、均平状態を保ち、適時のローテーションを実施する。
(イ) 半乾貯留時の対応
籾水分17%以下、クーリングパスによる穀温低下(25℃以下)、毎日のサイロ穀温チェックを実行し、貯留日数の短縮化を図る。
(注)穀温が25℃以上の時は、半乾貯留をせずに仕上げ乾燥を行う
(ウ) 貯蔵時の対応
乾燥後のクーリングパスによる穀温低下(20℃以下)、貯蔵前のローテーションによる穀温低下、毎日のサイロ穀温チェックを実行する。
(注)貯蔵開始時に穀温が20℃以上の時は、外気温度の低い日や時間帯を利用し、早目のローテーションで穀温低下を図る
(エ) 適正・安全運転の励行
・毎朝、点呼と作業内容を確認し、安全運転を励行する。
・乾燥機運転中は随時点検見回りを実施する。
・機械設備は自動運転が可能でも機械任せにせず、必ずオペレーターが作動状況を確認する。特に乾燥機運転中は無人状態にしてはならない。
キ.労務管理および作業安全の確保
(ア) 経営者および施設管理者は、オペレーター等現場従事者が期間中に過重労働にならないよう就業体制の整備を行うとともに施設内での身の安全を図るため、災害防止措置をとるなど労務管理に細心の注意を払う。
(イ) 特に、高所や駆動部周りでの作業、籾殻搬出作業等、危険が予測されるような作業においては、その施設に応じた作業マニュアルを作成し、事故防止につとめる。
(ウ) オペレーター等現場従事者は災害防止措置を遵守して身の安全を図る。