畜産をめぐる最近の情勢
◆厳しい消費と価格動向
消費低迷と低価格志向のなか、21年度の畜産物価格は過去10年(H12〜H21年)平均と比較して、牛肉91.2%、豚肉92.0%となるなどと大幅に下回った(表1)。
最近の畜産物価格動向をみると、豚(上物1kg)は5月平均490円(前年比99.2%)、鶏肉(2kg)は同849円(同106.8%)、鶏卵(1kg)は同178円(同106.6%)となっており、これら比較的単価の安い畜産物では昨年同時期とほぼ同水準か、上回っているが、回復にはいたっていない。
一方、単価の高い牛肉は消費低迷が続き、農水省のまとめでは4月の消費量は対前年同月比5.5%減となっている。価格も低下が続き5月平均(和牛去勢A4、kg)1671円で前年比91.9%、6月平均1683円で同93.5%と低迷している。
JA全農は、人口減少も加味した今後10年間の畜産物価格予測をしたが、価格は鶏卵を除き過去10年平均にくらべ97%〜90%程度と非常に厳しい見込みとなっている。
◆高止まり見込まれる飼料価格
トウモロコシの国際価格(シカゴ相場)はバイオエタノール向けの需要の増加で2年前の平成20年夏には1トン約300ドルと史上空前の高値を記録したことは記憶に新しい。
当時は原油価格も高騰したため海上運賃も上昇し、同年10―12月期には国内の配合飼料価格は、高騰前と比較してトンあたり2万5000円まで値上がりした。
その後、リーマンショックを引き金とした世界的不況による需要減退、豊作予想からトウモロコシ価格は下落し、配合飼料価格も値下がりしたものの、高騰前とくらべるとまだ約1万円高い水準にある(図3)。
農水省によると、最近の価格動向の特徴として(1)原油相場、株式市場などの経済指標が穀物相場の主材料となる傾向がある、(2)投機資金が穀物相場に流入し相場の変動に影響を与えている、(3)米国のバイオエタノール向け需要は増加基調が続き、トウモロコシの需給構造が変化した、ことなどを指摘している。
全農も、米国のエタノール生産増に加え中国などの新興国向けの穀物需要の増加といった新規需要があることから、世界的に穀物増産が進んでも配合飼料価格は高止まるものと見込んでいる。
直近では、ロシアの干ばつによる小麦の高騰を受け、トウモロコシ価格も上昇に転じ、穀物相場の動向は予断を許さない情勢となっている。
JA全農の取り組み策
◆畜種別にマーケットに応じた出荷体制
厳しい情勢が続くなか、JA全農は19年度から3年間「配合飼料高騰対策」に取り組んできた。この取り組みには▽生産性向上対策、▽海外飼料原料の集荷基盤の産地多元化による原料の安定購買、▽飼料工場の集約・再編等による飼料コストの低減などがある。
このうち生産性向上対策では、系統飼料会社など全農グループの推進担当者が全畜産農家を巡回することを目標にして、農場での事故率の改善、枝肉成績の改善などを畜種別に提案してきた。
今年度はさらにこの取り組みをきめ細かく行うこととし、農場段階での徹底したコスト削減に加えて、畜種別マーケットの特徴に応じた定時・定量出荷ができる規模の生産対策の構築を働きかけていく。
◆畜産経営をサポート
これは「量販店の求める売りやすい規模」を生産サイドでも追求しようという取り組みで、個々の農場の規模拡大だけではなく、小規模農家のグループ化なども提案していく。
背景にはJAS法改正などによる食品表示ルールの厳格化がある。販売店にとって、仕入れ産地が毎日のように変更されればそれにともなった表示ラベルやポップの変更により、表示ミス等のリスクが増大することになる。
それに対して1つの産地からの定時・定量出荷が実現すれば、販売サイドにとってはリスク低減のメリットが生まれる。
産地にとっては、安全・安心で高品質な畜産物を安定的に有利販売する取り組みとなるため、生産者と確認のうえJAグループとしての支援体制を構築し、個別に取り組んでいく。具体的にはこれまでの推進担当者を窓口とし、生産者の実情に応じたきめ細かい対応策を提案する。当面は中小規模層への対応を強化する。
イメージは、農家への意向調査をもとに、たとえば素畜から飼料や飼養管理までの統一化を図る処方を提示し、農家のグループ化実現により適正規模に近づけようというもの。まさにJAグループが持つ飼料原料の輸入から配合飼料の製造・物流と畜産物の販売までの一貫した機能・体制を活用した新たな取り組みで、JAグループ一体となって畜産経営をサポートする方針だ。
また、生産コスト低減対策の強化に向け、第2次生産性向上対策として、すべての生産者に対して日常的な窓口になる推進担当者を決め「ワン・トゥ・ワン」体制を構築する。支援レベルを上げるため実践研修を行って推進担当者のレベルアップも図るほか、高度な技術対応のため研究所の研究員や専門技術員などによるサポート体制づくりも行う。
配合飼料工場は現行24から21工場に集約し競争力ある広域物流体制を整備する。
飼料原料の購買対策では米国内の集荷基盤強化と、アルゼンチン、ブラジル、オーストラリアとの連携も進め産地多元化をはかる。
◆販売力の強化を重視
販売面では、食肉については地域の食肉センターなどと生産現場を連携させて地域での一貫販売体制を整備するといった取り組みや、包装肉事業の強化を進める。また、畜産経営者と共同で開発する食肉は、契約指定産地制度に基づきJAグループによる全量買い取りを実施する。
鶏卵では、大規模企業養鶏との競合に打ち勝てるよう養鶏農家のグループ化も図るほか、鶏卵加工事業の拡大にも取り組む。生乳・乳製品では、飲料メーカーと連携したコーヒー飲料用など業務用牛乳のさらなる需要拡大、生クリームなどの液状乳製品の拡大に取り組むほか、脱脂粉乳・バターなどの原料乳製品や生乳・国産乳製品を使用した製品の輸出もすすめていく。
そのほか、生産基盤を維持するための補完対策としてJAグループ子会社による直営生産も進めることにしている。