SU抵抗性雑草に卓効
・広い殺草スペクトラム
◆組織のトップが率先し“風を巻き起こす”
まず表1を見ていただきたい。これは今年AVH-301の試験を実施しているほ場の数をまとめたものだ。1335件というJA全農の「特別防除合理化展示圃」の試験ほ場数もすごいが、これに「メーカー展示試験」をあわせると5894件となる。従来の試験ではせいぜい100件程度だから、この数字はまさに「桁違い」だといえる。
それは「それだけこの剤に対する生産現場の期待が大きい」ことの表れでもある。
全農肥料農薬部の上園孝雄次長は、共同開発の基本的なポリシーは第一に「農業の現場で困っている防除課題に応える」ことと、「コスト低減に貢献する」ことだという。
そしてAVH-301で試験ほ場が全農とメーカー合わせて約6000件にも上ったのは、「SU抵抗性雑草に苦慮している現場の期待が大きい」ことと、「組織の力が大きかった」からだという。
「組織の力」とは、全農の役員が率先してこの剤の開発経過やSU抵抗性雑草によく効くことなどをことあるごとに説明し、多くの人に認知されるようになったということだ。それは、全農の経営管理委員会や県本部長会議、総代会などあらゆるレベルの会議におよんだ。さらに各県では、運営委員会への報告、県単位での決起大会、JAでの学習会、推進会議などが活発に開催されている。その結果JAグループトップ層にも「AVH-301はJAグループの薬剤」という意識が広まり、「風を巻き起こしてもらった結果」であり、担当部署として「感謝している」と上園次長は語った。
◆10年後の防除課題を見通して開発する
全農にアベンティス 社(後に日本バイエルアグロケムと統合しバイエル クロップサイエンスに)から、AVH-301の共同開発の提案があったのは2002年のことだった。全農では試験の結果、優れた効果を持つ化合物であることは分かったが、この提案を受け入れるかどうかでは議論があったという。
水稲の雑草防除の大まかな変遷は表2の通りだが、共同開発が提案された当時は、SU系除草剤が全盛で「強力な競合剤相手にどこまで普及できるか正直自信が持ちきれない」という状況だったという。
一方で全農は、20年以上前から雑草でも寡占と連用により抵抗性出現の可能性が高いと考え「危惧」を表明していた。全農は業界や関係者に、いくつかの系統の薬剤をローテーションして使うことを提案したが、安定した効果からSU剤の寡占と連用が進んだ。
そこで全農は将来的に抵抗性問題が大きくなることを想定し、抵抗性雑草に優れた効果をもつAVH-301の開発に踏み切った。
農薬の開発にはおおよそ10年くらいの年月がかかる。10年経つと防除の課題も変遷するため、「農薬開発には10年後の課題を見通すセンスが求められる」ことになる。
MY-100開発のときにも、同時期に開発中のヒエ剤は多かったが、温暖化の影響などでヒエの発生が長期化しつつあることを現場からの情報で把握していたので、「残効性のもっとも長いMY-100が将来必ず求められる」と考え開発に着手した。
全農には現場や業界からさまざまな情報や意見が寄せられる。その情報を基に「将来を見通した開発」を今後も積極的に進めていきたいと考えている。
◆MY-100等と混合で水田除草問題をほぼ解決
AVH-301の場合も先見性があったということだが、開発から登録まで8年で「抵抗性雑草の草種拡大や全国的まん延がここまで深刻になるとは予想を超えていた」というのが正直な感想だという。
表3下段のように、いまや既存のSU剤は抵抗性雑草に効果が劣るため、効果のある成分を補助的に追加するようになり、現在ではSU混合剤の約8割が補助剤入りになっているという。
NHKの「クローズアップ現代」で「スーパー雑草」といわれ、深刻な事態にあることが報道されたように、抵抗性対策はいまや全国の水田雑草防除における最大にして喫緊の課題になっているということだ。
表3上段のように、AVH-301はコナギやミズアオイ、アゼナなどの1年生広葉雑草からホタルイ、ミズガヤツリなどのカヤツリグサ科雑草、オモダカ、クログワイといった多年生雑草にも有効で長い残効性をもっている。
しかもSU剤とは異なる作用性のため、いま問題となっているSU抵抗性雑草のほとんど全てに卓効を示す。そのうえ、近年水田に侵入し問題になっているイボクサやクサネムなどの特殊雑草にも有効という「時代が求める薬剤」だといえる。
ヒエ剤のMY-100との混合により、さらには特長のあるフェントラザミドやピラクロニルとの混合剤もラインナップされ、水田除草の課題にはほぼ応えられると全農では考えている。
◆天候不順など厳しい条件下で実力を証明
実際にほ場での試験結果はどうか。田植えの遅い地域もあり、全国的な状況をまとめる段階にはないが、中間での概況はかなりまとまってきているという。
「今年は天候が不順で苗質や移植後の生育に問題のある場合もあり、薬害が出やすい条件だった。また、例年に比べ雑草がだらだらと発生するなど、効果が振れやすい過酷な条件」のなかでの試験だったが、「AVH-301の実力が証明されつつある」と上園次長は胸をはった。
試験ほ場の農家から、いままではSU剤と後期剤を使っていたが、AVH剤では後期剤が不要で「省力化とコスト低減になる」という声も寄せられている。
東北では慣行と同等以上という評価が90%近く出ている。その他オモダカによく効くとか、西日本ではイボクサやクサネムといった最近増えている特殊雑草にも効果が高いという声もある。
AVH-301は、雑草に速やかに白化症状が表れ、その後に枯死するので、農家も目視で効果を簡単に確認でるという分かりやすい除草剤でもある。しかし一方で、散布方法によっては薬剤が稲に付着し、稲の葉が白化したケースもあった。しかし白化するのは最初の1葉だけで、その後にでてくる葉には問題はなく速やかに回復するケースが多いことが確認できた。
そのほかにも「多少効きが甘い」という報告もあるという。そういうケースでの草種、葉令、散布条件、気象、水管理等を分析しつつあり、AVH剤の上手な使い方の普及に向け、貴重なデータにするという。
◆抵抗性雑草に「トドメの一撃」を
さらに付け加えれば、AVH-301は葉緑体内に存在する4-HPPD酵素を阻害することで、生長する組織を白化させ枯殺するという、SU剤とはまったく異なる作用性をもっている。そして世界中の除草剤抵抗性雑草について調査している「除草剤抵抗性雑草国際調査」によれば、現在、AVH-301など4-HPPD阻害剤に抵抗性を示す雑草は報告されていないという。今後、絶対に発現しないとは言い切れないが、抵抗性雑草が発現するリスクが低いタイプの除草剤だとはいえる。
そうであっても、全農としては「AVH-301ですべてをとは考えていない」。なぜならどんな優れた薬剤でも「一剤で独占して連用すれば、SUと同じ弊害を繰り返す可能性がないわけではない」という基本的な考えからだ。これから登場してくるであろう「SU抵抗性雑草に対応した剤などと“すみ分け”ていく」ことになるだろう。
今年の試験結果をもとに各地のJAの防除暦や注文書に採用のうえ、全国的には23年産米から本格的に普及することになる。この秋には全国的な試験結果もまとまりそうだが、いままでのところ、全国の稲作農家を悩ませている抵抗性雑草に「トドメの一撃」を与えることは間違いないといえるから、平成25年の普及面積30万haの目標はぜひ達成してもらいたいと思う。
(写真)AVH-301処理区(左)・慣行剤処理区(右)