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【JA介護保険事業】JA全中・伊藤澄一常務理事インタビュー

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【インタビュー】JA全中・伊藤澄一常務理事  JA介護保険事業の10年と組合員の健康づくり

・JAグループの介護保険事業の取組み
・介護を担う人材の確保と育成が課題
・包括的な高齢者福祉をめざす
・「健康寿命」を延ばすこと

 平成12年に介護保険制度がスタートして今年で10年になる。介護保険事業に取り組むJAも増え、地域の高齢者福祉に大きな役割を果たしてきた。この10年をふまえてこれからのJAの高齢者生活支援をどう考えればよいか、JA全中の伊藤澄一常務に聞いた。

農村の絆が高齢者を支える

◆JAグループの介護保険事業の取組み


JA全中・伊藤澄一常務理事 ――介護保険事業に取り組むJAは全中調べでは344JAとのことですね。初めにどんな10年だったのか、お聞かせください。
 高齢化のスピードを例えて言えば、ヨーロッパでは時速50kmで進みましたが、日本では80km、とくに農村は高速の100kmで進んできました。今後、さらに加速化が進みます。このように、農村社会は常にこの国の近未来を先取りした状況にあります。地域の自治体やJAはそれに背を向けることができないという思いで、高齢者対策や介護の問題に取り組んできました。
 介護保険制度は国の社会保障制度として平成12年にスタートしたわけですが、JAグループはそれより10年前の平成2年からJA女性組織や助けあい組織を中心にしてホームヘルパーの養成に取り組みました。当時、農村はすでに高齢化社会を迎え、要支援・要介護の状態になっている家族を数多くの家庭で抱えていました。
 その現実のなかで、JAグループはJA厚生連病院などと連携して助けあい活動あるいは自衛策としてヘルパーを育てました。農家の女性たちが中心となりJAグループで養成したホームヘルパーは介護保険制度のスタート時には累計で約8万人におよび20年度では約12万人に達しています。
 ですから、今年は国の制度スタートからは10年ですが、JAグループにとっては20年になるわけです。この20年はよく言われる「失われた10年」を2回繰り返しました。
 いわば経済的にもっとも厳しいこの20年の間に、JAグループはこの国で進行する地域社会の高齢化と向き合い苦闘を続けながらも、この国の近未来を先取りした取組みを進めてきたのだと思います。

 


◆介護を担う人材の確保と育成が課題


 ――そのなかでJA介護保険事業の現在と今後をどう考えますか。
 現在、介護保険事業に取り組んでいる344JAは、ほぼ制度スタート時からの取組みとなっており、平成20年度決算ではその半分のJAが黒字にたどり着きました。集計中の平成21年度決算では一定の改善が期待されます。
この事業はケアマネージャー・介護福祉士・看護師などの国家資格等を持った専門職と嘱託・パート・ボランティアといったホームヘルパー資格を持った女性など、地域の多様なサポーターが支えています。
 さらに専門職を確保すること、サポーターのレベルアップをはかること、あるいは介護現場の多様な担い手たちを教育研修し管理するプロのマネージャーの配置も必要で、これら人づくりを通じて次のステップへ進んでいけると考えています。
 黒字に達したJAであっても模索を繰り返しつつ10年を走り続けてきた、というところだと思います。やはり、この分野に若い人材が集まるようにすることが大切だと考えます。地産地消という食農教育の考え方があります。JAの介護保険事業も地域の皆さんが地域の介護を担うという共通点があります。支え合うという言い方がぴったりです。
 一朝一夕で人材は育ちませんが、介護のインフラはできつつあると思います。JAの介護保険事業は、ケアマネージャー・看護師・ヘルパーなど1万人以上の新規雇用を全国各地に創出し、今後その数はさらに3倍以上に増えます。JAの他事業、とくに金融事業への波及効果は大きく地域振興方策になります。農業・医療・教育などと同様に介護を大切に扱い、これらの分野にこそ政治・政策のウエイトを傾けてほしいと思います。
 実は、この10年で介護保険制度は3年ごとに制度・報酬の改定があり、2回の報酬の引下げ、1回の引上げがあり、平成24年には診療報酬と同時に介護報酬の見直しが予定されています。この同時改定はこの国の社会保障制度にとってとても重要だと思っています。

 


◆包括的な高齢者福祉をめざす

 

 ――これからの農村の高齢者福祉の取組みはどうなりますか。
 09年の65歳以上人口は2900万人で高齢化率は22%です。このうち要支援・要介護と認定された人は470万人で認定率は16%です。これが日本の姿です。
 平成20年度の全中調査では、回答を得た600JAの733万人の組合員のうち、321万人が65歳以上でした。高齢化率は44%です。正組合員だけでみると実に55%です。農村社会の姿は、今もこの国の近未来を先取りしています。
 そこで、地域の高齢者の皆さんを守るために、包括的なケアが大切です。長寿にともなう様々なケアが高齢者の一人ひとりに必要になります。JAグループでは、医療事業・介護保険事業・高齢者福祉事業、生活面でのサービス事業・助けあい活動などを通じて高齢者向けの「地域包括ケアシステム」構築に取組みたいと思います。元気な「高齢技能者」の知識と経験を引き出していけるよう食農教育・地産地消・農産物直売所などの担い手として活躍の場づくりもしていきたい。
 介護保険事業の10年、20年という経験を、JAグループの様々な事業とつながりをつけて横串を通したような包括的な連携にしたいと思っています。

 


◆「健康寿命」を延ばすこと

 

 ――JA全国大会決議の「JAの健康寿命100歳プロジェクト」もその一環ですか。
 そのとおりです。これは100歳になっても健康で農作業を楽しみながら人生を送ろう、そのための健康づくりに取り組もうという運動です。キーワードは「健康寿命」です。健康寿命とは平均寿命から要介護期間等を差し引いた年数です。
 現在のデータでは日本人の男性の平均寿命は78.4歳ですが、介護等が必要とされる6.1年を差し引くと健康寿命は72.3歳となります。女性の平均寿命は85.3歳ですが、介護等が必要とされる7.6年を差し引くと健康寿命は77.7歳となります。2025年には男性の平均寿命は81.4歳に、女性は88.2歳に延びると予想されています。大切なことは、介護等を必要としない自立の期間をどれだけ延ばしていくかです。
 JAグループとして、健康寿命を延ばすために具体策とメニューを提案しています。それは「運動」と「食事」と「健診・介護・医療」の3つの分野です。ウォーキングや農作業などの運動を心がけ、おいしく食事をとること、健康管理を怠らないこと、などです。
 日本歯科医師会からはおいしい食事をとり続けるために、高齢者のための口腔ケアを進める「80歳で20本の歯を残そう」をスローガンとした「8020運動」の提案をいただいています。これは「新たな協同の創造」です。
 今後のJAグループの高齢者福祉の10年は、「健康寿命100歳プロジェクト」を運動していくなかでの「介護保険事業」であり「医療事業」の展開となるよう、国の制度と連携しながら取り組みたいと思っています。

(2010.09.14)