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生物多様性条約第10回締約国会議の会場となる名古屋国際会議場
◆「生物多様性条約」とは
「生物多様性条約」(CBD:Convention on Biological^nDiversity)は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球環境サミット)で、気候変動枠組条約とともに署名のために開放され、93年12月に条約発効されたもので、日本は93年5月に締結。現在193カ国・地域(欧州連合を含む)が締結している(米国は未締結)。
この条約の目的は、
(1)生物の多様性の保全
(2)生物資源の持続可能な利用
(3)遺伝資源の利用と利益配分
の3つだ。
生物多様性については
(1)生態系の多様性:干潟、サンゴ礁、森林、草原など、さまざまな自然環境があること
(2)種の多様性:さまざまな種類の生物が存在すること(地球上の推定生物種は500万〜3000万種)
(3)種内(遺伝子)の多様性:同じ種のなかでも個体ごとに違いがあること
の3つを多様性と定義している。
そして、現在「40億年の生命の歴史の中で、前例のないスピード」で「多様性の破壊が進行している」ので「今」生物多様性を保全すべきだとしている。
◆自然と共生する社会の実現をめざす
02年に開催されたCOP6では、2010年までの目標を「生物多様性の損失の速度を著しく減少させる」と決定した。名古屋で開催されるCOP10でこの目標に対する最終報告書が公表される予定になっているが、具体的な達成手法が示されなかったこともあって目標は達成されていないのが現状だ。
そのため、日本の環境大臣が議長を努めるCOP10では、これからの各国の共通行動計画である「ポスト2010年目標(新条約戦略計画)」の採択がもっとも重要な課題となっている。
その原案では、2050年までの中長期目標(ビジョン)として「自然と共生する社会を実現する」とし、2020年までの短期目標(ミッション)として「効果的かつ緊急な行動を実施する」として5つの戦略目標に分かれた「20個の個別目標」ごとに具体的な達成手法を提示している。
このミッションには2つの案があり、案1では「生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急な行動を実施する」となっているが、案2では「効果的かつ緊急な行動を実施することにより、2020年までに生物多様性の損失を止める」となっており、途上国からは「案2を採択すれば少なくとも100倍程度の資金の増大が必要」との主張がされているという。
◆遺伝資源利用の利益配分で意見分かれる
COP10のもう一つの論点は、「遺伝資源へのアクセス、その利用による利益の配分」(ABS:Access and^nBenefit Sharing)だ。これは、遺伝子提供国(主として途上国)の遺伝資源を利用して利用者(主として先進国の企業)が利益をあげた場合に、その利益の一部を提供国に配分するためのレジームを国際的に合意するというもの。
途上国は「遺伝資源の不正利用を防止し利益配分を確実にするために、途上国の制度の遵守を先進国内においても確保する」よう求めているが、前提となる途上国の制度が不明確・不透明であるためどこまでこの要求を実現できるのか不透明だといえる。
◆2つの論点に絞られたMOP5
CBDに基づく「カルタヘナ議定書」については本紙6月20日号で解説したので詳細は省くが、MOP5では日本の農林水産大臣が議長となり、この議定書の「責任と救済」に関する補足議定書が検討される。
前回の記事では5つの論点があると報じたが、その後の協議で残された論点は
(1)遺伝子組換え生物だけではなく、例えば油とかコンスターチなど「その産品」までを対象とするかどうか。
(2)締約国が事業者に財政的保障を求めるかどうか。
の2点に絞られた。
(1)についてはアフリカ諸国など一部の途上国を除いて対象とすることに反対している。
(2)については、アフリカ諸国(主として輸入国)が必要性を主張しているが、輸出国であるラテンアメリカ諸国がバイオ産業への影響を懸念して反対しているのが現状だ。
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こうした論点がどのように整理され採択されるのか注目されるが、特に生物多様性条約の目標設定が採択されたとき、それが日本の農業にどのような影響を与えるのか、あるいはJAや生産者はどう対応していくのか、検討する必要があるのではないだろうか。