環境が異なるからこそ交流しよう
◆特栽を基軸に有利販売
石田 これまでの農協運動は連合会頼みの部分がありましたが、これからはJA独自の手づくりの運動が問われる時代になってきたと思います。JAは農業や高齢者対策、次世代教育など色々なものを含めて“地域に責任を持つ協同組合”であるべきだし、また今までにないやり方、例えば協同組合間協同を進めることなどが求められています。まずはそれぞれの地域が抱えている問題やその取り組みを話して頂けますか。それでは北から、藤尾組合長お願いします。
藤尾 JAいわて中央では販売高のうちコメが5割、園芸特産が3割、畜産が1割5分ぐらいです。畜産を取り入れたのは土づくりにも役立てたいということで、特別栽培を基本にして有利販売につなげ、農業収入を増やそうと取り組んでいますが、これだけコメの値段が下がるというのは想定外でしたね。最近はコメだけじゃなく、園芸にもシフトしようということで、16の集落営農組織が園芸を取り入れています。
石田 いいですね。コメと園芸の組み合わせというのは。
藤尾 少しでもいいから所得をあげようということでね。それで現在の米価の実価格から言うと、今はコメよりも小麦の転作をやった方が農家の所得につながりますから、小麦へもシフトしつつあります。作付面積は1400haあり岩手県で一番です。小麦は稲作で使った機械をそのまま使えるのが大きいメリットですね。
平成21年に農家のアンケート調査を実施しました。JAに何をしてもらいたいかという農家の意向は、1に技術指導、2に販売戦略の確立でした。そのためにはJAいわて中央の統一ブランドの確立が必要だと考えたわけです。これまでリンゴならリンゴ、キノコならキノコという別々のブランドがあったんですが、それをまとめて「食農立国」というJAいわて中央の総合的なブランドを作りました。
やはり販売戦略の中で最終的にはブランドが重要性を持ってきます。ただブランドを立ち上げただけでなく、いかにストーリー的にうまく使って行くかというのが今後の課題ですね。あとはおそらく全国でも類を見ないと思いますが、リンゴの特別栽培に取り組み、平成16年に認証を取得しました。
(写真)菅原章夫氏(JA栗っこ代表理事組合長)
◆厳しい情勢でも品質と食味にこだわる
石田 JA栗っこは日本でも有数のコメ産地ですが、コメの将来展望はどうですか。
菅原 管内の面積の3分の1が中山間地で平地はほとんど田んぼですから、コメに依存してきた地域と言えます。畜産も35億円ぐらいの取り扱いがありますが、やはりJAいわて中央さんと一緒で、畜産をやることで、良質な堆肥を土づくりに活かすことができ、循環型農業にもつながる。コメの情勢は厳しいけど、どういう場面でも品質と食味だけは他に負けないように努力しています。今は62万俵のうち10万俵ぐらいを産地精米して、全農を通じて静岡の2JA、東京近郊の5JAに独自販売しています。
集落営農は今47あり、そのうち41の一元経理をJAがサポートセンターをつくってお手伝いしています。去年からは広域選任アドバイザーということでTACを4人入れました。昨年の春には「上片(かみかた)モーちゃんクラブ」という畜産の集落営農も法人化されたし、これはTACの1つの成果かな、と思います。
一番弱いのは、果樹がほとんどないことでしょう。リンゴは一部地区でやってるけど、指定産直とか、加工用とかでなんとか面積を増やしたいですね。転作では1000haの大豆と、最近はエサ米や米粉用米が増えています。
(写真)林正照氏(JA愛媛中央会会長)
◆直販増やして手取り向上
石田 JAえひめ南は昨年、宇和青果農協と合併しましたが、現状はどうですか。林会長にはJAえひめ南と愛媛県全体の様子をお願いします。
林 JAでも連合会でも、組合員の現場目線で活動していきたいと思ってます。
JAえひめ南は、宇和青果と平成21年4月に合併し、二重構造が解消しバランスの取れた総合JAとして発足しました。それによってミカン生産農家はJA出荷で1506戸、耕作面積は2340ha、生産量は22年度予想数量で5万2400tとなり、販売生産額は約60億円を見込んでいます。
専門JAと合併することで、新たに第二次地域農業振興計画を作り、基本理念として「気候・風土を活かした新たな作物振興とブランド品の開発で、豊かな地域づくり」を掲げ、ブランド品の確立をめざした新たな産地作りへ挑戦、生・販・購の機動力を発揮した農家所得向上への貢献、組合員参加を基本とした活力ある広域合併づくり、という3つの基本目標と5つの具体的実施事項を挙げて実践中です。
基幹作物の中ではカンキツ類が中心で、生産額は全体の6割以上。コメは縁故米などで出て行くものが多くて、愛媛県全体でも統制率は20%台と高くない地域です。
30年ぐらい前までは宇和島は温州ミカンの最適地だと言われていたけど今は温暖化の影響で、せとか、でこぽん、カンペイ、ポンカン、清美タンゴール、美生柑(みしょうかん)などの中晩柑が強い。タロッコというイタリアから入れた品種も今かなり人気が出ていて、第6次産業ブランド化をめざしており、加工品などを県・市行政、飲料メーカー、食品組合、JAが共同開発して来年の3月には売り出す予定になっています。
全国共通の問題だけど耕作放棄地が増えてますね。ミカンは機械化ができないので、収穫して運んでという作業は本当に高齢者には辛いんです。若い人もサラリーマンと同じぐらいの収入じゃないと入ってこられないでしょう。一旦荒地になると、また苦労して開墾しなくちゃいけないから、荒れる前に荒らさない取り組みとして、経営受託に現在試験的に取り組んでいますが、これからの課題です。
あとはやはり、今、流通市場での販売だけではなかなかうまくいかないので、直販を増やしていかないといけないでしょう。市場外流通を増やして、流通コストを下げて、農家の手取りを増やして行くためにはね。
石田 価格はどうなんですか?
林 直販の方がだいぶいい価格で売れますね。しかし選別作業は各自で行うので、その経費は入っていませんから、今後は20%は直販が必要だと考えています。ミカンはウラ年、オモテ年で大きな差が出るけど、ウラだから高くする、オモテだから極端に安くするってのをやらないようにしなくちゃいけませんね。
石田 販売で言えば、いわて中央さんは南北を大きいJAに囲まれていますよね。販売先はどうしているんですか?
藤尾 販売先を探すのは難しいですよ。優秀な園芸担当販売職員がいて、こういう販売をしたい、一品目だけではありませんよ、という販売提案書を出して取引が決まるという感じです。やはり、バイヤーも幹部も両方に理解のある取引先じゃないとうまくいきませんね。バイヤーが変わると産地が全部変わってしまうという怖さもあるので、年に2〜3回は産地に来てもらって、幹部クラスにも理解してもらわないと取引は長続きしません。
(写真)藤尾東泉氏(JAいわて中央代表理事組合長)
◆なぜ、JA同士の交流はできなかったのか?
石田 今の時代、市場出荷だけではなかなかうまく行きません。そういうなかで出てきたのが、協同組合間協同だと思います。平成19年にJAえひめ南とJAいわて中央、21年にJAえひめ南とJA栗っこが締結しましたが、農産物、組合員・役職員など人材、文化、情報などさまざまな交流をしていますね。これは非常に大きな可能性をもった運動だと思いましたが、その経緯は?
林 そもそも、このようなJA同士の協同組合間交流がこれまでできなかったところに問題があると思うんです。これまでJAは生産指導に専念して、販売は系統組織で総括するという歴史的な役割分担がありますね。これがJA間協同ができなかった最大の原因だったのではないでしょうか。
そういう中で、以前からJAえひめ南の理事会でも他のJAと交流したいという意見が出て、それなら立地条件の違うところがいい、と。というのはやはり意識改革ですね。同じような条件の地域と交流しても意識改革はし難いですからね。私は意識改革のヒントは4つあると思っているんです。
まずは固定観念や成功観念などを捨ててゼロから考えること、2つ目は異業種と接触すること、たとえばお菓子をつくる時のヒントを引用すれば農業経営や販売戦略へ生かせますね。3つ目は若者や女性の声を聞くこと。最後は性格の違う人と話をして、反論してもらうということですね。
直接のきっかけはいわて中央さんとは、家の光協会のトップフォーラムで一緒になったり、栗っこさんとは13年に家の光文化賞奨励賞、14年に文化賞を同時に受賞したとか、ともに伊達政宗ゆかりの地というストーリー性があるなどの理由もありましたが、最終的には両JAともJAえひめ南にはないものを持っているということで、提携を決めました。
組織が交流するというのは、自分のところでは思いつかないものや知らないものが入るし、自分たちのJAに欠けているものを発掘できるというのが非常に大事ですね。
(写真)石田正昭氏(三重大学教授)
仲間づくり・人づくりがファンづくりに
◆仲間意識が最大のメリット
石田 いわて中央さんとえひめ南さんが姉妹JA締結をしたのは、現在はJA岩手中央会会長の長澤さんが組合長だった時ですよね。
藤尾 お二方が意気投合して、一緒に交流しようということになりました。リンゴやミカンなど産物の交流もやるし、女性部や青年部の交流もやりました。青年部の人たちが愛媛に研修に行ったとき、ものすごい傾斜地でミカンをつくっているのを見て、「こんなところでこんなにがんばっているのか、俺達はまだここより平坦地で楽してる、こんなんじゃダメだ」って、相当刺激を受けたみたいですよ。
これからは職員の交流も積極的にやりたいですね。3日間とか短期の研修じゃなくて、1カ月ぐらいの長期間で交換留学するような仕組みを作りたいと思います。
石田 産物、役員や幹部職員の交流だけではなくて、一般職員もお互い持っている情報が違うので、一度外に出て自分の組織を見直すのはいい機会になりますよね。
林 あと、これも姉妹JAの成果だと思うけど、今年の6月に愛媛中央会の会長に就任して全国に出る機会が増えましたが、その時に例えば長澤さんにお会いしたら、すぐになんでも言えるような関係になっていて、これは何ものにも替えられないメリットだと思いますね。仲間意識ができたというのは、本当に大きいですよ。
石田 会長レベルになれば県外交流も増えますが、職員レベルではなかなか県外との人付き合いは広がらない。こういう交流がお互いの刺激になればいいですよね。
菅原 JA栗っことえひめ南さんとは去年3月に締結したんですが、早速5月には金融事業の定期預金の景品でえひめ南さんの河内晩柑(かわちばんかん)を出したんですよ。そうしたら前年比で3倍に増えました(笑)。今年の3月にも管内のAコープで、せとかを取り扱ったんですが、最初は300ケースぐらい売りたいという予定だったのが3000ケースも出ちゃった。ほとんどみなさん箱買いですよ。組合員にしてみれば、単においしいとか珍しいとかいうだけじゃなく、姉妹JAを結んだJAということでかなり関心が高まったようです。10月末にもJAえひめ南フェアを開催する予定です。
石田 それぞれの産品を交流させるというのはいいやり方ですね。
菅原 今度はいわて中央さんのリンゴを、ぜひ入れたいですね。JA間提携ってのは市場を通すんじゃなくて、直接農家に行って見て取引できるというのが大きなインパクトだと思うんですよ。
藤尾 いわて中央でもえひめ南さんとの提携事業ってことで、今度はリンゴとミカンのセット販売をするんですよ。「虹のかけ橋」というギフト商品なんですが、ミカン20個とリンゴ6個のセットで4980円で販売します。
林 単なる交流だけではなく、事業や販売でも成果が出たというのは大きいですね。
藤尾 このセットは中四国を中心に店舗展開しているスーパーフジさんに提案して、子会社の大東青果さんと併せて独占販売して頂けることになりました。
石田 箱にはいわて中央さんとえひめ南さんの名前が入っているんですね。これは他のスーパーにしてみれば、JAの方からこんな提案があったなんて、かなりショッキングな話じゃないですか(笑)。例えばイオンとか、7&iとか、そういう強い量販店だけではなく、JAと対等な関係になれるパートナーを見つけて新商品を共同企画するというのは、いいことですよね。買い手ばかりが強くなる世の中にあって重要だと思うな。
◆理屈ではなく実践から提携を
石田 話を姉妹提携に戻しますが、今後の課題とか将来展望などはどうですか。
林 将来の課題で言えば、お互いが遠いので交流するには経費とか時間がかかるのが残念ですね。ただ、それはそれとしても交流で生まれた価値を考えれば決して高くはないわけで、地道な交流をしていきたいと思っています。
菅原 確かに続けることが大事。これを機に3JAで何かイベントを組みたいですね。
石田 実は3JAとも規模がよく似てるんですよ。距離は離れているけど、置かれている環境とか、正・准組合員の関係は似ていると感じました。
林 環境が違っても規模が似ているから学ぶものが多いのかもしれませんね。
石田 従来だと新しいことをやるには理屈が先にあって、例えば協同組合間協同ってのはこういうものですよ、このレベルをめざしましょう、と決められていたけど、3JAとも実践の中でお互いのよさを理解している。これが重要なポイントです。実践の中から学ぶという意味では、これはまさに“教育活動”なんだと感じました。
いわて中央さんは営農指導での1年間の経験を職員に発表させているそうですが、これも教育活動そのものですよね。
藤尾 畜産、園芸、稲作など全品目の営農指導の人たち、それに経済事業担当職員もあわせて、正月明け早々に「一人一研究」という発表の場を設けています。体験発表っていうのは、やはり自分から勉強しないとできないんですよ。だからこれは職員教育なんですね。発表の最優秀賞者1人には賞金として5万円、優秀者2人には3万円の旅行券を出しているんですが、それを単なる旅行に使うんじゃなくて、必ずどこかに研修へ行ってきなさいということで出しているんです。
石田 それは素晴らしいですね。
藤尾 やはり研修はJAの助成も必要ですが、自分で負担しないとなかなか身に付かないですからね。
農家組合と担当職員との関係で言えば、1組織あたり2〜3人を張り付けて、農家組合のプランニングを支援してます。必ずしも営農指導だけじゃなくて、金融や共済の職員も入れて集落の総会資料、経営のやり方などを支援して、集落における農家組合の重要性などを全職員に学ばせています。平成13年から始めたんですが、最初は職員の方から「なぜこんなことやるんだ」という意見もありました。そのため毎年、職員の異動が決まった4月に267農家組合の担当職員の班長たちの「農家組合支援班長研修会」を行い、農家組合の組織と組合員の重要性を一から説いてやっています。
石田 これも職員教育の一環ですね。自分たちはそういう組織だっていうことを認識しないと、なかなか集落には入っていけませんよね。JAと集落のいい関係づくりだと思います。
◆経験は必ず発表、表彰、広報を
菅原 栗っこでも、3年ぐらい前から年度末には営農部で発表させるようにしました。というのも、営農指導員は直接利益を出しているわけじゃないから、絶対に縮減しない代わりに、こんなことをやったんだ、ということを伝える必要があると思ったからです。
しかし、一番最初は、私自身が専業農家をやってきたからというのもあるんですが、なんだこんなもんか! って怒ってしまいましたけどね(笑)。今では内部の職員だけに聞かせるのではもったいないと思って、生産部会とかにも声をかけて毎年300人ぐらい集まるイベントになりました。
石田 営農指導の軽視は、過去の運営が利益を重視し過ぎたからですよ。今、それだけ多くの組合員が集まるというのは、普段の組織活動や教育の成果じゃないですか。
林 やはり自分が初めて多くの人前で発表することになると、例えば10分発表するなら100分、約10倍ぐらいの準備が必要ですよ。資料を集めたり悩んだりね。それで発表をしたらしたで責任も出てくるから中途半端なことは言えない。
私も教育文化活動を重視してきましたけど、教育文化セミナーや、女性部の大会などではいつも体験発表をしてもらってきました。それ以外にも金融、共済、生活事業等の推進会議で担当者別に事例発表を行い、本人の自己啓発向上と事業目標の必達をめざし実施していました。常日頃、「苦労なくして喜びはない。苦労してこそ身に付く。若い時の苦労は買ってでもせよ」と言っていますし、経営資源の中でも人づくりの大切さを訴えています。私は経営資源のうち、JAグループには人づくりが一番大切だと認識していますし教育に力を入れてきました。
JAえひめ南の職員教育は、階層別研修、選抜職員に対して行う戦略実践研修、専門研修、手づくり管理職予備校の4つの研修があり、それぞれ組合長以下役員と管理職が講師となります。この狙いは、指導する側と受講生の啓発です。終了式で小論文を発表してもらい、最優秀賞には記念品を贈呈し、機会を作り発表させます。
石田 職員教育だけではなく組合員教育にも通じることなんですが、発表して、表彰して、褒めて、広報するっていうのはすごく重要ですね。いわて中央さんの勉強の成果を褒めて5万円あげて次に繋げるというのは、素晴らしいやり方だと思います。教育文化活動と言えば、3JAともあぐりスクールを開校してますよね。食と農に関心のある次世代の人をJAが責任持ってつくり出すことも、すごい重要なことだなと思います。
菅原 次世代対策の食農教育ってのは非常に重要で、それができるのはJAだけだと思います。
石田 “できる”というか、“やるべき”なんですよ。
菅原 そう、まさに“やるべき”です。栗っこのあぐりスクールは今年で5年目ですが、食農教育だけじゃなくて、色んなJAの事業に成果が出てますね。JAの若い職員が先生役になるんだけど、職員が農業自体よく知らないから、結果として一生懸命農業や地域のことを勉強するんだね。
職員の多くは農家の子弟だけど、田んぼに入った経験があまりないらしいんです。参加者の3分の1ぐらいは組合員以外の地域の子どもなんですが、兄弟含めて家族ぐるみで来てくれるようになって、農協ってこんなことやってるの、って愛着を持ってくれて信用や共済を利用してくれたりするんです。最初はこんな反響が出るとは思ってなかったんですけどね。それから先生役になる職員には若手を部門横断で出しているので、その後のJA事業の中でもいい連携が生まれてきています。
生徒は地域の19の小学校を通しても募集しています。JAバンクが、小学生用の教材を配ってるので、そういうところで宣伝したりしてますね。
◆教育文化活動ですべてが好循環に
林 えひめ南では8月にあぐりスクール全国サミットを開いたんですが、今回は宇和島市の教育長が来てくれて、翌日の現地視察までずっといてくれたんですよ。
宇和島市は職場体験モデル地域になっていて、行政も3日だった職場体験日数を5日へと増やして食農教育に力を入れているし、高校の先生が研修でJA直売所「みなみくん」に来たりしています。
今こそ食農教育を根本から見直し、JAが食の大切さと豊かな精神形成の一助となるべきでは、との思いであぐりスクールを始めました。食農教育は子供たちの心身の成長と人格形成に大きく影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心を養うための基礎をつくる教育だと認識してます。その一番の成果は、家族や職員も一生懸命になれることですね。毎年バケツ稲栽培では、おじいちゃんおばあちゃんが一番真剣になるんですよ(笑)。
先生役は新卒採用の1年目が担任で、2、3年目が副担任ですが、例えば稲刈をやったら、先生役の職員が全然刈れないんですよ。だから、生徒よりも職員の教育だと。新卒採用の人たちの教育になっているってことです。いつも子どもらを最後まで送り迎えするけど、それが教育だと思うね。本や問題集に書いてあることだけが教育じゃないよ、と。農業、自然、食料、環境などの現場を体験して、正しい知識を身に付けてほしいですね。
菅原 子どもたちにしてみれば、今は年中なんでもあるから、例えばトマトがいつできるかを知らない。食の大切さを学ぶことがなくなってきてるってことですね。
石田 都会も田舎もそういうことに飢えてますよね。藤尾組合長の所は、JAブランドとして「食農立国」を掲げているけど、食農教育活動の成果はどうですか?
藤尾 いわて中央でも18年から、田植えと稲刈りを中心にあぐりスクールをやっています。あとは紫波町にピザを焼ける大きな釜があるんですが、そういう体験とか、ソバも400haの作付けがあるのでソバ打ち体験とかをやっています。だいたい定員を決めて20組だけにしてるんだけど、なるべく農業に関係のない盛岡とか都市部から来てもらうようにしています。体験の中では田植え機とかコンバインに乗っけてあげると、ものすごく喜びますね。もちろん、手で植えたり稲刈りもしますけどね。
あと、いわて中央でもやはり農家の子弟を中心に採用してるんだけど、学校を卒業してすぐに農協職員になるから全然農業のことを分からないんですよ。だから新採用職員には必ずこの農作業体験に参加してもらい、必ず全員にレポートを書かせるんですが、「全然やり方がわからなかった」とか「すごく楽しかった」って感想を書きますね。
石田 こう考えると、職員教育が組合員教育になったり、反対に組合員教育が職員教育につながったりと、JA内で好循環を生む取り組みになっていますね。
菅原 これを広めることが協同組合運動なんですね。
◆いい取り組みをメディアに取り上げてもらう
石田 一方で、外部にJAの役割を広める仕事も重要ですよね。愛媛県は年に2回、地元の新聞記者に地域農業を知ってもらうための懇親会を開いているそうですね。
林 JA愛媛中央会は以前から報道機関と、農政問題や農業関係、中央会の取り組み方策などの情報を共有するため、年1〜2回の意見交換を行い、JAや農業への理解と協力を求めています。機会を得て、えひめ南も取り組むことにしました。県内で一時期多くの不祥事が起き、メディアは悪いことを大きく取り上げるなどあまりいい感じを持っていませんでしたが、プラス思考で対応策を考え、私は報道機関との第一回交流会のあいさつでズバリ「悪いことばかり報道するのでなく、いいことも表に出してほしい」と要請しました。
メディアの意見としては、JAそのものの活動では、農業政策をはじめ生産農家の成功事例や社会貢献活動が少なく、ニュースとして取り上げにくいとのことでした。しかし意見交換や情報提供を積極的に行うことで、JAグループのさまざまな取り組みを紹介してくれるようになりましたね。
菅原 宮城県ではちょうど昨日、県の集会があったんですが、カメラが6台ぐらい来ました。やはり農業を国民全体の課題として、関心を持ってもらうためには、メディアの使い方が重要だって話が出ましたね。
石田 中央会が主催するのもいいけど、呼ぶからにJAの現場に来てもらわないとだめですよね。やはり県の農業会館とかではイメージはわきませんよ。
林 PRというのは、お金をたくさんかけなくても、テレビや新聞に取り上げて貰うということが重要ですよ。地域活性化で子どもや老人を巻き込んだ活動などを取り上げてもらいたいですね。
石田 そういうことをやることで、地域に責任を持つ協同組合になり、地域にもメディアにも注目されると思います。そういうことをやれる組合になるにはリーダーである組合長さんがしっかりした考えを持つことが必要ですよね。
林 何より、トップは夢を語れないといけませんね。
石田 そうですね。そういうメッセージを次世代に繋げるのが重要な時代になってきたと思います。単に事業量を伸ばせばいいっていう時代ではなくなってきたんじゃないでしょうか。事業量を伸ばすためにも、夢を語り、実践するリーダーを育成、選出しなければなりません。
今日は地域社会に責任を持つ協同組合として、何が大切なのかを勉強させていただきました。大変貴重なお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。