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農薬特集

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【農薬特集】バリエーションある臭化メチル代替剤・技術 多彩な防除法を上手に組み合わせて

・脱「臭化メチル」をめぐる最近の動き
・待ったなし脱「臭化メチル」土壌病害虫対策
・汎用性高い化学的防除  土壌還元処理や物理的防除も
・土壌くん蒸剤の基軸はクロルピクリン
・熱利用の物理的防除法も重要な役割を果たす
・有効手段を最大限活かし総合的な防除対策を

 2013年から、土壌病害虫防除に使用されてきた「臭化メチル」が全廃される。これまで、不可欠用途用規制除外の承認という経過措置がとられ、この間、関係者は代替剤および代替技術の開発を鋭意進めてきたことで、脱「臭化メチル」対策を、かなり実践的、実用的なものに仕上げてきた。脱「臭化メチル」をめぐる最近の動向のなかから、現在ある代替剤、代替技術のあらましを見ることにした。

◆脱「臭化メチル」をめぐる最近の動き


 11月8日〜12日まで、タイ国・バンコクでオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第22回締約国会合が開催されている。
 6月にスイス国・ジュネーブで開催された同30回公開作業部会(OEWG)において審議されたUNEPの臭化メチル選択肢委員会(MBTOC)が勧告した2012年分の不可欠用途「臭化メチル」申請に関する勧告数量が採択される予定。
 これにより、2013年以降、土壌消毒に関して「臭化メチル」の生産が全廃される。
 他方、全廃への移転措置として脱「臭化メチル」による地域に適合した代替技術の栽培マニュアルが開発され、2013年には代替技術が実用化される。代替技術の開発は、不可欠用途申請をしていた各都道府県と中央農業総合研究センター(つくば市)が取り組んでいる。

臭化メチルの用途別国内向け出荷数の推移


◆待ったなし脱「臭化メチル」土壌病害虫対策

 

 「臭化メチル」は、土壌くん蒸剤として野菜栽培における土壌の病害虫防除と除草に幅広く使用されてきたが、92年にオゾン層破壊物質として指定された。しかしながら、国が不可欠用途用として申請し、これをMBTOCが審査し、勧告したものについてはその生産と使用が認められてきた。脱「臭化メチル」による代替方法の開発は土壌病害虫対策として、待ったなしの段階にある。
 土壌病害虫対策の、スーパースターだった「臭化メチル」。関係者の尽力により、多くの試行錯誤を繰り返す中で、「臭化メチル」に対して完璧に代替となる剤および代替方法は確立されていないものの、かなり実践的、実用的な代替剤、代替技術が登場してきた。
 不可欠用途として承認措置がとられてきた経過の中で、脱「臭化メチル」対策は、十分に間に合っているのだろうか。

臭化メチル代替剤(主要)の出荷数の推移

◆汎用性高い化学的防除  土壌還元処理や物理的防除も

 

 それでは、現在の脱「臭化メチル」土壌病害虫対策には、どのようなのもが考えられ、市場にあるのだろうか。
 先ず、「臭化メチル」以外の土壌処理剤を使用する化学的防除法と、土壌還元処理、熱を利用した物理的防除法が挙げられ、この3方法が防除対策を牽引している。
 また、抵抗性品種の利活用や生物農薬の使用、ほ場衛生、栽培管理によるIPMを利用した耕種的防除法、生物防除などが挙げられ、地域や現場の実態に応じた、これらの多彩な防除法の上手な組み合わせが望まれる。

 

◆土壌くん蒸剤の基軸はクロルピクリン

 

 主な化学的防除剤としては、クロルピクリンとその関連剤が基軸にあり、メチルイソチオシアネートとその関連剤、D-D剤、およびカーバム剤などがこれに続いている。農薬登録もクロルピクリンとその関連剤、ダゾメット剤などで拡大が顕著だ。
 線虫剤では、D-D剤が抜きんでており、接触型の殺線虫剤としてはホスチアゼート剤、カズサホス剤などが愛用されている。
 基軸にあるクロルピクリン剤だが、唯一の難点は「刺激臭」の問題。使用者はもちろん、周辺住民への影響が指摘されることもある。
 回避策としては、2つの方法が考えられている。1つ目は注入方法の改善で、注入と同時にマルチを行う全面マルチ同時消毒機の採用。2つ目は製剤の改良で、錠剤、テープ剤などが開発されている。
 この技術の派生剤として、フロー剤が見逃せない。クロルピクリンを乳剤化し、土壌を被覆して灌水チューブから散布することで土壌消毒を行うため、簡便な処理と刺激臭問題の回避に貢献する。
 なお、今後の展開の中で、「臭化メチル」と同様の処理が可能な「ヨウ化メチル」にも注目しておきたい。(ヨウ化メチルはすでに登録されているが、現在出回っていない)
 また、土壌還元処理は、最近施設でよく用いられる方法。土壌にフスマを10a当たり1〜2トンまき、これを土壌中によく混入し、これに灌水してからシートで被覆し、20〜30日間消毒する。シートで被覆しているので太陽熱を利用して、土壌内の微生物がふすまにより大繁殖し、酸素を消費し土壌が還元状態になり、酢酸や酪酸が発生し、これが土壌有害病菌を消毒する。

 


◆熱利用の物理的防除法も重要な役割を果たす

 

 熱を利活用した物理的防除法(消毒法)も、土壌消毒に重要な役割を果たしている。現在、およそ10種類ほどが開発されているが、主流は太陽熱消毒とその改良型。
 太陽熱消毒は、土壌に十分灌水させマルチを行い、施設では密閉処理により太陽のエネルギーを摂取し消毒を行う方法。低コスト技術として、施設栽培の牽引車となっている。自然相手であることから、天候による防除効果のフレが難点。
 改良型の太陽熱消毒は、「宮崎方式」と呼ばれている。JA尾鈴管内で、宮崎県が開発した。施肥や作畦を済ませた後に太陽熱消毒を行い、消毒終了後はそのまま定植作業に入る。消毒不十分な下層土が耕土層に混入する可能性が少なくなり、防除効果を高める。
 他に、水蒸気が液化する際に放出する熱を利用して地温を上げ、土壌消毒する蒸気消毒、ほ場表面から高温(80〜95℃)の熱水を土壌中に浸透させ、その熱エネルギーを利用して地温を上げ消毒する熱水土壌消毒、キャンパスホース方式による蒸気消毒も実施後にほ場表面から散水する散水蒸気消毒、地中加温消毒などがある。
 その他の土壌病害虫対策としては、被害の少ない作物・品種への切り替え、接ぎ木栽培(抵抗性台木)の導入、高設栽培などの土を使わない栽培方式への転換など。

 


◆有効手段を最大限活かし総合的な防除対策を


 これまで見てきたことで分かるように、脱「臭化メチル」土壌病害虫対策には、さまざまな手法がある。
 しかし、脱「臭化メチル」の代替方法には効果・機能が完璧なものはないのではないかと言われているが、これらの技術をうまく使えばほぼ満足のいく土壌消毒が可能である。
 農薬の使用に当たっては、ラベルをよく読むなどの基本を忠実に守りながら、地域や現場の実態に応じた有効な手段を最大限活かす総合的な防除対策が必要と思われる。

(2010.11.10)