◆農業だけの問題ではない
11月4日の参院本会議の代表質問で、TPPは、基本的にはあらゆる分野で市場開放が迫られ「国のかたち」そのものが大きく変わる恐れがあることを強調し、この問題は「農業をとるか、輸出産業をとるかにすり替えてはいけない話」と主張しました。
今回の政府基本方針は、情報収集のための協議を始めるとなりましたが、これはあくまで交渉参加の前段階の協議であり、TPP参加は、この協議を通じて得られる情報等をふまえ改めて判断、と対外的にも説明するとの補足説明がありました。
このレベルで収まったことに非常にほっとしていますが、そういうなかでぜひ私がみなさんにお願いしたいのは、農業だけが反対しているという構図はつくらないでほしいということです。郵政、保険、人の移動などさまざまな面に影響があると運動のなかで多くの人に訴えていただきたいと思います。
◆新政権への期待は何だったか?
国民の期待を受けて政権交代が実現できた大きな理由は、小泉・竹中構造改革、急激な規制緩和に対する国民の反発だったと思います。一時期はこれが日本人を幸せにするんだとの幻想のなかにいたけれども、結果は格差拡大であり、地域の疲弊であり、さらには商慣行など日本のさまざまな面が壊れました。
民主党は、その流れに異議を唱え、「新自由主義は日本人を幸せにしない」と言い続け大きな支持をいただいた。
その舌の根も乾かないうちにTPPです。振り返れば小泉改革の郵政民営化も金融制度改革も、発端は米国の毎年の年次改革要望書でした。ですから農産物だけではなくて、米国から同じような要望が突きつけられ、さらにあらゆる国内制度や政府調達まで全部変えられていくことになる。
日本のかたち、国のかたちが壊れてしまうと思います。
そもそも民主党政権は、外需に依存した経済成長はある程度終焉を迎えており、内需を喚起し、そこを成長の基軸にしていこうという政策だったはずです。
だからこそ環境、観光、健康などが昨年末の新成長戦略でもずいぶん強調されました。資源小国日本で、唯一豊富に存在する資源、それは、緑や水や風といった地域資源です。農産物もただ作るだけでなく加工や流通も担い、付加価値を高める、木材や水路の水を生かしてエネルギーに変える……、農林水産業を基軸に新たな産業が生まれ、雇用も生まれれば、地域の活性化にもつながります。これが今までとは違う成長の考え方です。
TPPのもうひとつの問題はデフレとの関係です。
貿易自由化で価格が下がれば、すぐにデフレというわけではないとしても、基調としての物価の下落、賃金低下、そしてデフレというスパイラルを止められないのではと思いますね。
◆めざすべきアジア型経済
代表質問ではAPECの理念はまさに「多様性に配慮しながら各国の経済成長を持続させること」であり、アジア型ともいうべきモデルを日本は積極的に世界に提唱していくことが必要だとも指摘しました。そこを忘れて欧米主義のルールに乗ることだけに目が向いてしまっているのではないか。
アジア型とは、それこそ自然との付き合い方も欧米とは全然違うということです。欧米は自然は征服すべき対象であり、人工的に変えていこうという発想。一方、アジアは自然は味方であり、共存していく、うまくつきあっていく対象だととらえています。
地形はいろいろですが、基本的には非常に狭小な農地を使って水を共同利用しつつ、稲作を中心に共同作業していくというところです。価格競争、規模拡大競争で進む欧米とはまた違う共存のあり方、協力のあり方を本当は模索していくべきです。
◆農業改革、幅広い視点で
ただ、今までは、国際交渉の度に農業分野がもっと妥協しろ、という一方的な声ばかりが寄せられていたなかで、今回、予算も含めた農業支援の充実の必要性にも理解が深まったことは多少ともプラスという気はします。
もちろん検証しなければならないと思うのは、どんなに自由化してもきちんと所得が保障されれば国内農業は大丈夫だ、ということ。果たして本当にそうなのか。韓国では10年で9兆円の事前対策をしているといいますが、まだ米韓FTAは発効しないなかで自給率は大幅に下がった。離農者も増えている。金さえ出せば、でいいのか。そんなに甘いものではないと思います。
サラリーマン農家には支援はいらない、という声も聞きますが、今の農業の現場は、支援対象農家を選別できるほど豊かに人材がいません。兼業農家も含めてギリギリの状態で農業を守ってもらっています。だから、今、意欲を持って農業に従事している人を何とか支えて、農業を続けていただく、そして、もう少し長い時間軸の中で担い手を育てていく、そして、多様な取り組みを応援する、これが、今進めている新しい農業政策の方向です。