「拡大生産数量枠」、需要創出で確保
◆猛暑で生産減需給はひっ迫基調に
――最初に最近の牛乳・乳製品の需要動向についてお聞かせください。
成分無調整牛乳の需要が落ち込んで、一方で成分調整牛乳、さらに加工乳・乳飲料の需要が伸びているというのが現状です。
ただし、これら牛乳等向け生乳(成分無調整牛乳、成分調整牛乳、加工乳、乳飲料、発酵乳等)の需要自体、平成16年度からの5年間で70万tも落ちています。生乳生産全体が800万t前後のなか、70万t減は相当大きな数字です。
とくに都府県で飲用牛乳の需要が落ちており、そのなかで乳業メーカーは牛乳だけではなくてそれ以外のものを、と加工乳、乳飲料の販売で企業努力をされていると思いますが、牛乳自体の需要は長期低迷から抜け出せていないという現状です。
ただ、乳製品、とくにバターの需要はここに来て回復してきています。一時は年7万t台まで落ちましたが、今年は8万tの半ば以上まで需要が戻る見込みです。たとえば、コンビニで販売されているロールケーキなどでも相当使用されているようで、徐々に需要が戻ってきたということだと思います。また、生クリームもチーズも昨年から伸びてきています。
ですから、生乳の需給状況としては、その指標となる脱脂粉乳とバターの在庫が、年度当初、脱脂粉乳は約7万t、バターは3万t以上だったのが、来年3月末にはとくにバターは大幅に減ってくる見通しになってきています。
その要因として、実は猛暑の影響があります。7月までは北海道も都府県も計画どおり生産していましたが、猛暑の影響で急激に生産量が落ちて、2%程度の減産傾向となりました。
猛暑で牛自体がダメージを受けたほか、種付けが遅れるという影響も出ました。そのため生乳需給は9月以降、ひっ迫状況にあり、結果的に需給の目安となる脱脂粉乳、バターの在庫が減っているという状況です。
◆酪農経営は依然厳しく飼料原料の値上りも
――生産現場も大変厳しいと聞いていますがどのような状況でしょうか。
今年の場合はできるだけ減産しない取り組みを進めてきました。都府県の場合はとくに経営が厳しく、離農する方も多くなっていたわけですが、この1、2年で飲用乳価も上がったため、できるだけ減産にならないような計画が必要でした。しかし、それでも生乳生産は計画比98%前後が現状です。
やはり生産を継続していくにはなかなか大変だということです。飲用乳価は平成20年度に1kg3円、21年度には同10円の引き上げをしました。これは飼料高騰を考慮してのことです。
しかし、この乳価引き上げでも物財費までは確保できるが労賃はとても全部まかなえないという生産者が多く、全般的にはまだまだ酪農経営は厳しいということです。そういったなか今年は口蹄疫、猛暑による減産や乳成分の低下、ここにきての飼料原料の値上り、あげくはTPP(環太平洋経済連携協定)の話など先の展望がなかなか見えないという大変厳しい環境にあるのではないかと思っています。
◆「選択的拡大生産数量」枠とは何か?
――そうしたなか今年度の計画生産はどのような考え方で取り組まれてきたのでしょうか。
計画生産は、従来は需要に見合った生産という考え方でしたが、それでは需要自体が伸びなければ減産しなければいけないということになります。そうすると意欲ある経営者のみなさんの芽を摘んでしまうということから、22年度の計画生産では「選択的拡大生産数量枠」を設けました。
これは生乳の生産はしたけれども牛乳等向けで売れない場合は、別途需要を創出して対応していこうという取り組みです。
これについては北海道ではチーズを含めた需要創出をめざしました。一方、都府県では生クリームなど液状乳製品の需要も創出していくことや、そこも難しいようであれば海外から輸入されている乳調製品との置き換えにユーザーの了解のもと取り組んでいこうということでした。
JA全農では、生乳換算で8万t程度を、いわゆる非乳業系のユーザー、菓子やパン、アイスクリームなどのメーカーに対して国内生産基盤を維持する目的であることをご理解いただいて置き換えを進めました。
つまり、生産基盤を維持するために選択的拡大生産数量分の需要創出に取り組んだということです。
飲用牛乳としてしっかり販売するのはもちろん必要ですが、それが難しければ海外からの調製品との置き換えを、ということです。いずれにしても販売の裾野を広げることで計画生産を確保するということですがこうした取り組みも需給調整の一環ということです。
今後の計画生産は生産者のみなさんの営農計画にもとづいた計画生産であるべきで、そのために販売力を強化することが大変重要な取り組みになってきているということです。その点で今年度の取り組みは今後につながるという意味がありますし、また、今後とも継続していきたいと考えています。
◆国内酪農生産の基盤維持をめざして
――これは安定した食料供給の確保の観点からも重要な取り組みだということですね。
世界の酪農・乳製品事情を考えると、乳製品の国際貿易ではオセアニアが貿易量の35%前後を占めています。ただし豪州とニュージーランドの生産量は約2600万tで世界全体の生乳の生産量約4.5億tにくらべれば数パーセントに過ぎません。この地域は人口が少ない一方で生産量がそこそこあるから輸出に回っていますが、EUも米国も基本的には域内消費を前提にして輸出は、その次ということです。
ですから、オセアニアで干ばつなどがあれば、需給はひっ迫し価格も高騰する。また、中国や中東の需要もどんどん高まっていますから、これも海外からの調達が困難になる要因です。
私たちもそれをふまえてしっかりいい牛乳や良質な乳製品を使っていただたきたいと考えていますが、そのためにも生産基盤の維持が必要になる。つまり、ユーザーに使っていただくことによって生産基盤が維持されるということであり、ここについてはユーザーの同意をいただいてきていると考えており、私たちとしては今以上に販売力を強化していきたいということです。
――最後に来年4月に完全統合して新たに発足する雪印メグミルクについてお聞かせください。
完全統合する新会社は雪印でもない、メグミルクでもない新しい農協系の総合乳業会社が来年4月1日に設立されると理解しています。ですから、当然のことながら国産の生乳、乳製品をしっかり使っていただき、私たちが取り組む需給調整なり販売拡大についてもよきパートナーとして連携することが大事だと期待しています。
【用語解説】
◎成分調整牛乳:生乳から乳脂肪分の一部、あるいは水分の一部を除去し、成分を濃くするなどの調整をした牛乳。
◎加工乳:生乳または脱脂粉乳、バターなど乳製品を原料に乳成分を増やしたものや乳脂肪分を減らしたものなど。
◎乳飲料:生乳または乳製品を主原料に、乳製品以外(コーヒーや果汁など)を加えたもの。
(出典:Jミルク)
※宮崎部長の「崎」の字は、正式には旧字体です。