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23年度畜産・酪農対策へのJAグループの政策提案

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畜・酪運動のポイント「危機的状況のなかJAグループの取り組みと国民理解の促進も課題に」

・厳しい飼料情勢
・JAグループ自らの取り組み
・JAグループの政策提案

 JAグループは23年度畜産・酪農対策にかかる政策提案を12月2日のJA全中理事会で決めた。
 畜産・酪農経営は飼料価格の高騰・高止まりによる収益の悪化に加え、長引く景気後退による国産畜産物の需要と価格の低迷が長期化するなど、先行きの見えない危機的な状況にある。
 こうしたなかでも生産現場では、飼養頭数の拡大や新技術の導入などの生産性向上に取り組んでおり、それを支援するためJAグループは生産性向上対策、国産畜産物の販売力強化などにも取り組んでいる。
 今回のJAグループの政策提案では、持続可能な畜産・酪農経営の確立のための万全の政策確立を政府に求めると同時に、JAグループ自らの取り組みを推進しながら、わが国畜産・酪農の果たす役割と現状について、広く国民理解を図ることも基本方針としているのが特徴だ。畜産・酪農を取り巻く現状と今回のJAグループ政策提案の背景とそのポイントを紹介する。

万全の対策確立を求める


厳しい飼料情勢


◆国際価格のベースが変化


23年度畜産・酪農対策へのJAグループの政策提案 畜産・酪農経営に大きな影響を与える飼料価格――。
 平成20年夏には、トウモロコシ価格は史上最高の1ブッシェル(約2.5kg)7.57ドルを記録した。その後、リーマンショックで価格が急落したが、価格高騰前の平成18年ごろの同2〜3ドル台には戻らず、4ドル台で推移、さらに今年夏以降は高騰し始め、最近では5ドル台後半の水準となっている。
 こうしたトウモロコシ相場をどう見るか。JA全農畜産生産部によれば「相場のベースが変化した」とする。
 19年後半から20年にかけての穀物高騰は(1)中国、インドなどの新興国の経済発展による食料需要の増大、(2)バイオ燃料原料としての需要の高まり、(3)地球規模の気候変動の影響などの構造的要因が指摘されるようになった。
 その後も、これらの要因が基本的に国際価格に影響していることには変わりはない。
 新興国の経済発展による穀物需要増とトウモロコシを原料とするエタノール生産は定着し使用量は拡大した。地球規模の気候変動の影響という点では、今年の夏もロシアを干ばつが襲った。そのため小麦が不作で同国は輸出を禁止。その影響で、小麦からの需要のシフトと、さらに今年は米国産トウモロコシの生産見込み量が大幅に下方修正されたことから、トウモロコシを中心とした価格の高騰につながっている(図1)。

トウモロコシ価格の推移


◆不安定化する世界の穀物相場


 図に示したトウモロコシ価格の推移を見るとここにきての高騰だけではなく、近年の価格の高止まりと乱高下傾向もみてとれる。
 その背景のひとつが、中国をはじめとする新興国の需要増によって「従来とは需要規模がまったく異なっている」という現状だ。そのため米国など主要生産国の生産量見込みによって相場は敏感に反応するようになっているという。
 また、一昨年の世界的な穀物相場の高騰局面では、実需者以外の投機資金流入が指摘されたが、それは現在も変わらず「相場の振幅を大きくしている」。
 実際、最近のシカゴ取引所ではストップ?(上限30セント/ブッシェル)の翌日に、ストップ安(下限同)となる相場展開があるという。1ブッシェル6ドルの価格だとすれば「1日で10%(=60セント)も動いてしまう」と不安定感を増している。
 さらに世界の穀物在庫量に対する評価も変わりつつあるという。
 今年、中国は100万t程度のトウモロコシ輸入を行い在庫の積み増しをしたとされる。世界全体の在庫量はこうした新興国の在庫もふまえたものだが、需要が増大しているなかでは、このような在庫は「備蓄の積み増しであって流動性がない」との見方も出てきた。
 11月30日公表の米国農務省の見通しでは、トウモロコシの米国期末在庫率は6.2%と低水準となっているが、在庫率の意味合いをどうみるかが「市場参加者のマインドにも大きく響いている」のが現状だという。

 

JAグループ自らの取り組み


◆持続可能な畜産・酪農を支援


 こうした状況のなか、JAグループはわが国畜産・酪農経営の持続のために取り組みを展開している。
 大きな柱としてはJA全農の畜産事業部門が展開している(1)飼料原料穀物の安定調達と製造・物流コスト低減などによる効率的な供給、(2)生産者段階での生産性向上対策、(3)国産畜産物の販売力強化、だ。
 トウモロコシなど飼料穀物原料の供給については、前述のように不安定さを増す穀物市場のなかで、主産地の米国を中心とした原料の集荷と輸出機能の拡充、強化に取り組んでいる。また、南米からの調達ではアルゼンチン農協連合会(ACA)との40年以上にわたる提携を継続している。そのほか、国内ではJAグループ飼料メーカーなどによる製造・物流コスト削減策にも力を入れてきた。
 生産性向上対策は畜種別に飼養管理の改善などのメニューを提案。JA全農の各種研究機関による開発と県本部、関係会社などスタッフによる個々の畜産・酪農家への支援などを通じて生産性向上に取り組んでいる。
 また、需要と価格の低迷のなか、販売力の強化では畜種別マーケットの特徴に応じた有利販売をめざす畜産農家のグループ化などの新たな取り組みも始まっている。

 

JAグループの政策提案


◆将来が見通せる政策確立を


 このようなJAグループ自らの取り組みと合わせ、畜産・酪農経営の継続を図り将来展望を見いだせる万全の政策確立が求められている。
 JAグループの政策提案ではその基本として3つの柱を掲げた。
 (1)国際交渉への対応では、急浮上したTPP(環太平洋連携協定)には畜産・酪農だけでなく地域農業と経済の崩壊をもたらすとして参加を断じて行わないことや、安心・安全確保の観点から米国産牛肉の月齢制限緩和を行わないことを求めた。
 (2)自給率と所得向上に向けては、3月に策定された新基本計画と酪肉近代化基本方針で示された方向をふまえ、現行の諸制度の充実・強化を基本とすることを求めた。また、安定的な財源の確保と機動的な対応が可能となる現行の特定財源機能の維持も求めている。
 (3)畜産・酪農の危機的状況をふまえた政策決定については、前述のような飼料高騰・高止まりによる収益悪化と、さらに飼料価格高騰時の借入金償還が重い負担となっていること(表参照)や、畜産物価格の低迷による販売収入の激減等をふまえ、十分な予算確保とともに、今後の環境変化をふまえた追加対策などの対応も求めている。
 (4)万全の防疫体制の確立では、口蹄疫の発生を受けて家畜伝染病対策の強化や、広く国民全体に対する啓発等に努めるべきことも提言している。

畜産・酪農経営の負債の動向


◆必要な施策に対する国民支持


 わが国の畜産・酪農は消費者・国民にとって貴重なタンパク質供給源だ。その安全・安心で質の高い国産畜産物を供給する生産は、耕畜連携や循環型農業といったかたちで耕種農業と密接に連携し、国土保全や食料安保にも重要な役割を果たしていることはいうまでもない。
 こうした畜産・酪農の維持のためにも、ここで紹介したようなJAグループ自らの取り組みを進めるとともに、生産現場を支える機動的な政策が必要になっている。その対策には生産者の努力だけでは対応できない飼料をはじめとする生産コストなどの上昇、景気後退といった問題もある。
 JAグループとしてはわが国畜産・酪農が果たしている役割とともに現在おかれている現状について広く消費者・国民に理解を求めることとしており、各地での取り組みの強化が期待される。

 


 JAグループは23年度畜産・酪農対策に対する政策提案を決めると同時に家畜伝染病防疫対策についての提言もまとめた。


(抜粋)
家畜伝染病防疫対策の強化にかかるJAグループの提言


1.わが国の家畜防疫の位置づけの明確化と侵入防止対策の強化
(1)近隣諸国で依然として口蹄疫や鳥インフルエンザ等の家畜伝染病が発生している状況を強く認識し、家畜伝染病防疫にかかる国際機関や近隣国等と連携を緊密化するとともに、新たなワクチンの活用や殺処分以外のまん延防止措置の可能性等も含め国内の研究開発を抜本的に強化すること。
(2)生産者だけでなく広く国民一般に家畜伝染病に関する意識の啓発や知識の普及に努めること。
(3)空港や港湾における海外からの渡航者・物品に対する検査や消毒など検疫体制を抜本的に強化し、海外から家畜伝染病を日本国内に侵入させない対策を徹底すること。

2.必要な体制等の整備
(1)国・都道府県・市町村の役割・機能の分担を明確化し、相互の日常的な連携を緊密に行うとともに、家畜伝染病発生時の指揮命令系統・責任の所在を明確化すること。
(2)防疫演習への参加等による獣医療機関や畜産・酪農関係団体、生産者団体等関連組織との防疫にかかる情報の共有化と連携体制の強化をはかること。
3.迅速な初動対応、確実なまん延防止対応の確保
 生産者や獣医師等による早期発見・通報を促進する仕組みを整備すること。あわせて、早期診断体制を強化し、現地への迅速かつ適切な情報伝達の仕組みを整備すること。

 


23年度畜産・酪農対策の個別課題

◎畜種別経営安定対策
〈肉用牛繁殖〉
○状況の悪化を見据え、経営所得が確保される肉用子牛生産者補給金および肉用牛繁殖経営支援対策の支援水準
○地域特性を制度に反映し生産者の意欲を高める仕組み
〈肉用牛肥育〉
○厳しい環境を見据え、経営所得の確保がはかれる新マルキンの支援水準
○地域特性を制度に反映し生産者の意欲を高める仕組み
〈酪農〉
○飼料価格の動向を踏まえ、所得確保がはかれる加工原料乳生産者補給金の単価と現行水準以上の限度数量
○チーズ対策の十分な対象数量、支援単価水準と生クリーム対策
○酪農環境負荷軽減支援
〈養豚〉
○地域特性を制度に反映し生産者の意欲を高める仕組みと補てん金の支払いの迅速化
○現行の都道府県組織等を活用した方式の継続
〈養鶏〉
○小規模な生産者も加入できる仕組みと現行の機能の存続
◎生産性向上対策等
○キャトルセンターの整備や経営内・地域内一貫経営の推進、放牧面積の拡大、酪農ヘルパー支援対策、生牛群検定への支援、学校給食牛乳への支援、集送乳の効率化や乳業再編への支援、衛生対策等
◎共通課題
○償還の繰り延べや国庫負担による必要財源の確保など配合飼料価格安定基金の補てん水準の確保
○衛生対策、経営支援対策、生産基盤対策、環境対策、消費拡大対策、安全・安心対策の充実

(2010.12.17)