◆未曾有の被害 29万頭が犠牲に
宮崎県で口蹄疫発生
4月20日、宮崎県で10年ぶりに国内での口蹄疫発生が確認された。
ゴールデンウィーク中に発生件数は急増し最終的に県内の発生農場は292農場となった。発生農場で飼養されていた牛、豚、山羊などは殺処分され、その合計は21万頭を超えた。
発生から1カ月後の5月19日、政府はまん延防止の観点から周辺の家畜へのワクチン接種と殺処分を決定。その結果、殺処分された家畜は29万頭に達した。
川南地区では畜産が壊滅しただけではなく、まん延防止のために人の交流もままならず地域経済にも大打撃となった。
終息宣言は8月27日。
この間、JAグループは全国で「がんばれ宮崎!」の支援活動を展開。1億円を目標にした募金活動では5月中旬から6月末までの4億5000万円も集まり「協同の力」を示した。JAグループ各段階の役職員も現地で支援をした。
今回の発生では早期発見と処分の重要性が改めて認識され今後は、家畜伝染病予防法の改正も行われる見込み。被害にあった農家への補償対策も課題となる。一方、現地では復興が課題となるが、商工業などとの連携を通じた「新たな協同」による地域再建も期待される。
(写真)5月、現地では懸命の防疫作業が続いていた。大量の殺処分に「涙がポロポロ出てきます」との声―。胸が痛んだ(川南町内で)
◆自給率50%を目標
新基本計画 閣議決定
今後の農政の方向と目標と定めた食料・農業・農村基本計画が3月末に閣議決定された。基本計画は5年ごとに策定されるもので前回は17年策定。今回は新基本法のもとで3回目の改訂となる。
新基本計画では、食料の安定供給の確保を「国家の最も基本的な責務」だとの認識を初めて盛り込んだほか、食料・農業・農村政策を「日本の国家戦略」として位置づけた。
食料自給率(カロリーベース)は平成32年に50%とすることを初めて目標に掲げた。現在より10%アップをめざす。
そのための施策として掲げたのが「再生産可能な経営の確保」、「意欲ある多様な農業者を育成・確保」などで、具体策として戸別所得補償制度のモデル対策が今年度から実施された。
何よりも記憶すべきなのは、今回は農業・農村の価値は「お金で買うことができないもの」と明記し、これを「国民全体で支える社会の創造」を前文でうたったことであり、農政を「国家戦略」とした構築するとしたことだろう。ここが来年以降も議論の出発点となる。
◆米価、大幅に下落!
22年産米 品質も低下
22年産米の作況指数は全国「98」。
主食用米の生産量は823万9000tで生産数量目標813万tにくらべて約11万t過剰となった。過剰作付け面積は約4.1万haとなった。
一方、主食用需要量の減少で、21年産米の持ち越し在庫は約30万tとされるなかで新米の出回り時期を迎えた。過剰感から米価は大きく値下がりし、9月の相対取引価格(全銘柄平均)は前年同時期より60kgあたり2000円以上低い1万3040円。さらに10月は1万2781円となった。
戸別所得補償モデル事業では変動部分に対する補てんは実施されることになっているが、米価下落は消費減退と過剰作付けなどの需給ギャップのほか、モデル事業の実施による10a1.5万円の固定部分が値下げ圧力になった、との指摘は多い。
また22年産米は夏の猛暑で1等米比率が大きく低下。10月末現在の1等比率は63.1%と過去10年で最低水準となっている。これも生産者手取り減の大きな要因となっている。
政府は米価下落にともなう需給調整対策は実施しない方針。一方、JAグループは豊作時の過剰分を処理する集荷円滑化対策の生産者拠出金321億円を活用した過剰米処理対策を行うことを検討している。各地からは米価下落による地域経済への影響についても声が上がっている。所得は政策で補てんするという政策だけでいいのか、農政全体の改革論議とも絡んだ大きなテーマになった。
◆加入申請は133万件
戸別所得補償モデル対策
生産数量目標に従って米を生産する生産者に対して全国一律10aあたり1万5000円(固定部分)と米価変動分を交付する「米戸別所得補償モデル事業」と麦・大豆・新規需要米などの生産を支援する「水田利活用自給力向上事業」が実施された。
加入申請件数は、133万件。集落営農組織は7281件が加入申請、その構成農家戸数は約22万4000戸となった(農水省、確定値)。
米のモデル事業では面積にして115万haが加入した。22年産米の生産数量目標から換算した面積は154万haで、約75%のカバー率となった。
水田利活用自給率向上事業で10a8万円が交付されることになった米粉用米や飼料用米の生産は、米粉用米が21年度の2400haから4900haと2倍以上に伸び、生産量は約2万8000tとなる見込み。基本計画では32年度に50万tを目標にしている。
飼料用米は同4100haから1万4800haへと作付け面積は増え、生産量は約8万tの見込み。32年度目標は70万tとなっている。ただ、水田利活用自給力向上事業の交付金は米の計画生産への参加を要件としていない。主食用米の計画生産達成のために両対策のリンクが必要だとの指摘は強い。また、米価の大幅下落に対して変動部分の支払いが十分なものになるかどうか、年明け以降の焦点となりそうだ。
◆「未来を拓く」ため断固参加阻止
TPP問題 急浮上
菅総理が10月1日の所信表明で経済成長戦略の一環としてTPP(環太平洋経済連携協定)への参加検討を表明。年末にかけて大問題となった。米価下落や農畜産物の消費不振で不安が募るなか、原則全関税撤廃という貿易ルール策定にわが国も関与し、「国を開く」とする政府方針は現場に衝撃を与えた。
11月に決まった政府方針は、この協定に関して「情報収集のための」協議を開始する、との姿勢にとどまったが、同時に「食と農林漁業の再生実現本部」を設立。貿易自由化促進と農業再建の「両立」を打ち出す。
しかし、農水省の試算では関税が撤廃されれば自給率は13%にまで下落するという。
関連産業も含めて雇用も喪失、耕作放棄地も増えて国土保全など多面的機能が失われ、新基本計画で策定した自給率50%目標などに大きく逆行すると、農業・農村の現場から一斉に抗議の声が上がった。
政府は来年6月にもTPP参加問題に一定の方向づけを出すとの見込みもあり、まさに「この国のあり方」が問われる問題として、他産業や消費者も含め、私たち、そして次世代の暮らしをどうするのか、国民的な議論を巻き起こすことが大きなテーマとなっている。
(写真)JAグループは緊急集会を開催。今後の運動展開が肝要だ。(11月10日)
◆国際協同組合年に向け全国実行委員会発足
2012年国際協同組合年
国連が09年末に2012年を「国際協同組合年」とすることを決定したことを受けて、今年8月、JAグループや生協など国内の協同組合組織が中心となって「2012年国際協同組合年全国実行委員会」が設立された。
代表には経済評論家の内橋克人氏、副代表にはJA全中の茂木守会長らが就任した。国際協同組合年は、世界の協同組合の組合員、役職員自身が意義と役割について学び、内外に協同組合の価値を発信してその発展を図る絶好の機会。
市場原理主義に対する世界的な見直しを反映した国連の姿勢の現れでもあり、わが国にとっても今後、どのような経済・社会をつくっていくのかという議論を視野にした運動が期待される。
代表の内橋氏は「新たなもうひとつの経済を協同組合が中心となってめざす」と意義を強調している。
(写真)実行委員会発足後に内橋代表らが記者会見(8月4日JAビルで)