農業も台所も支えているのは女性の力
男性にはない精神力とパワーの発揮を
◆無視することができない女性のパワー
榊田 JAの女性部の女性たちの取材で、よく耳にするのは、「“期待している”といわれるわりには発言権がなく、何を期待しているのか、こっちが聞きたい。頭は男で、自分たちは手足として使われている」ということです。それでは“もったいない”と私は思います。かつてのようにドンと作って市場出荷すればいい時代とは異なり、“食”の現場に近づいていくような6次産業化のビジネスを考えたときには、経済事業にとっても大きな武器になる潜在能力を女性たちは持っていると思います。
今日お集まりいただいた3人の組合長さんは、女性の潜在的な力をJAの経営に活かされている先進的なリーダーと思います。そこで今日は、女性の役割あるいは男性のJAトップがどう女性の能力を引き出していったらいいのかについてアドバイスをいただければと考えています。
まず最初に、それぞれのJAにおける女性組織の位置づけと取り組みについてお話ください。
吾郷 組合員の25%、総代の13%が女性で、女性理事が5名います。発言も多く、引っ張ってもらっているという感じがあります。JA雲南は島根県でも中山間地にあり、兼業農家が多いのですが、農業も台所も含め、支えているのは女性だといえます。そして地域の活動も女性に任せている部分が多いです。
産直会(奥出雲産直振興協議会)の会員は2500名強いますが、最高で1000万円近く売り上げているのは女性です。地産地消といいますが、島根県全体で人口が74万人で、雲南では6万4000人ですから、都会で消費をしてもらわないといけないということで地産地消とともに「地産都商」を進めていますがこれをささえているのも女性です。
榊田 産直会の女性の割合は…
吾郷 7割くらいが女性で、会長は代々女性が務めています。
榊田 女性が大きな力を発揮しているわけですね。
吾郷 女性のパワーを無視することはできません。地域の実態と求められるものに、女性が応えているということだと思います。
榊田 JAいるま野では意識的に女性の人材を育てているように見えますが、現状を含めてお話いただけますか。
小澤 家庭でもどこでも支えているのは女性です。JAでも女性がしっかりとした意見を述べていただければ、それなりの成果があがってくると思います。
そうした考えから、女性部をまず育て、その後、いずれ理事になることを前提に参与として、2年間理事会に参加してもらい、理事会はこういうものであるということを認識してもらいました。そして7地域から1名ずつ7名の女性理事を誕生させました。
◆自ら発言するために自主的な学習会を実施
榊田 理事は全体で何名ですか。
小澤 56名でうち7名が女性です。女性はパワーはありますが理事となって日が浅いので理事会でなかなか発言できないと、毎月1回は女性理事だけで自主的に勉強会を開いています。
榊田 JA秋田やまもとの場合はどうですか。
米森 平成11年に広域合併する前の峰浜農協時代のみょうが部会に80名くらい女性がいて必ず女性が部会長を務めるというように、生産部会に必ず女性が入っていました。
中央会の指導もありましたが、これからは女性の力は必要だし、このままでは女性が出てくるチャンスが少ないから、自らつくりあげていこうと、16名の理事の中に女性理事2名枠を前組合長がトップダウンで決め、1期3年限りでスタートしました。それは多くの人が理事を経験し勉強してもらうためでした。そして任期が終わった一人の女性が、地域から一般理事として選ばれてきましたので、現在は女性枠2名と合わせて3名の女性理事がいます。
総代になっても資料などを見ても分からないという意見があった。そこで女性総代だけを対象にした勉強会をし、不安を解消し総代の役割、資料の見方とか勉強すると発言するようになります。
◆一般の地域枠から選出される女性理事も
榊田 小澤さん、女性理事が出て何か変わりましたか。
小澤 理事会が明るくなりましたし、男性理事の出席率がよくなりました(笑い)。女性の力はモノをいわなくても大きいです。それから、女性が加わったことで、いろいろな組織の活動がしやすくなったと思います。女性にいろいろな面でいわれると“俺は男なんだ”とむきになる方もいますが、女性の方がきめ細かで着実に蓄積しています。
榊田 米森さんのところはどうですか。
米森 小澤さんの話にもありましたが、男性の中に女性理事が入ったことで理事会が“丸くなった”面がありますし、男性が気がつかない点を指摘されますので、刺激にもなっています。また、この春からは員外監事に女性をと考えています。それは監事に女性が加わることで、お互いに連携がとれて、理事会での発言がさらに高まっていくのではと考えています。
榊田 女性がさらにリーダーシップを発揮していくことになりますか。
米森 女性がリーダーシップを発揮しながら進んでいるJAの一つだと思っています。農業でも専業農家は女性がリーダーシップを発揮して縁の下の力持ちになっています。
榊田 吾郷さんのところはどうですか。
吾郷 制度的に女性理事枠を設けましたが、一般枠からも女性が選ばれてきますから、女性の意見も反映できています。例えば、自らAコープを変えていこうということで、生鮮野菜については地元のものだけをおく産直コーナーを設けました。一般のお客さんが准組合員となって買いに来るようになりました。新しくオープンした店へも、女性理事たちが積極的に改善策などの意見をだしています。
榊田 現場に即して意見をだしているわけですね。
吾郷 それに定年リタイアした夫を引っ張り出して、野菜作りなどをし、Aコープに出荷している女性組合員が多くいます。
◆産直事業は女性の発言力を強くする
榊田 産直事業が強いところは女性の発言力が強くなっていきますね。
吾郷 そうですね。それから私のところは畜産も盛んで、和牛女性部もあります。生産技術や生産意欲を高めようといろいろな仕掛けをしています。
米森 産直は女性が自身の名義の口座を作り、そこへ入金されるので、それが励みにもなっていますね。
吾郷 確定申告の時期ですが、女性が中心になって申告会を開いています。
榊田 税理士に聞くと、旦那さんにこうした方がいいよといってもダメで、奥さんにいわないと話が通じないといいますね。
米森 女性の方がきめ細かでいいなと思いますね。男は丼勘定ですから…。
小澤 いるま野の場合、中山間地から東京に近いところまで地域の違いはありますが、小さな農家でも自分の作っているものを自分で値段をつけて出すことで、自分名義の口座に少しずつ貯まってくるのを楽しみにしているようです。
JAが合併して15周年を迎えましたので、点在している直売所を統廃合して大型店をつくっていますが、そこにも女性の意見を反映しています。
米森 直売所は5カ所あります。私の管内では行政に建物を建ててもらいコストをかけずそこで産直活動を行う形をとっています。JAは縁の下から応援するのみで、経営は直売所の会員に任せています。そして、JAの販売事業に不満を持っている人にも参加してもらい、販売とはどういうものか自分の肌で感じてもらう。直売所は必ずJAの産地形成や販売事業にプラスになると考えます。
榊田 女性たちが中心にいるわけですね。
米森 自分たちでできれば、前向きに考えるようになり、JAにも建設的な意見を総代になって堂々というようになり、大変にプラスになっていると思います。いままで理事になった4名の女性は全員直売所の経営に参加しています。
◆反対されても“夢がある”事業を推進
榊田 JA秋田やまもとでは、学校給食で女性たちの力が発揮されたと聞いていますが。
米森 合併後に地産地消をするためにどうしたらいいかと考え「食農実践会議」を発足させ、地域でがんばっている行政議員とか肩書きをもっているJA外の女性も含む100名で開催しました。
米を学校給食へ参入するのに苦労していましたが、管内5地区のなかに女性の教育長がいる地区があり理解してもらいJAで扱う地元の米を扱っていただきました。他の4地区も含めて3年くらいかかって米の使用を皮切りに地元産を取り入れるようになりましたし、給食食材を提供していく女性グループもできました。これは女性を中心にした「食農実践会議」の取り組みの成果です。
榊田 JAコンビニをはじめたのも女性たちですか。
米森 JAでは、Aコープを地場産ということでがんばって支えてきましたが、スーパーなどとの競争に勝てないということで閉めました。しかし、高齢者への弁当とか、生活に必要で人気ある商品もありましたから、それをどうするかと考え、19年にオープンした全国初の農協版コンビニ「JAンビニANN、AN」(ジャンビニ、アンアン)になりました。JAンビニは、女性たちが経営するということで、16名の女性が20万円ずつ出資をして運営しています。
榊田 理事会で反対もあったけれど、組合長さんが“夢がある事業だ”といわれ決まったときいていますが。
米森 大手に負けて地元企業の破綻も続きますから、反対されました。しかし私は、Aコープがなくなった地域の生活事業をどうするのかと考え、自分たちでできるものからスタートしようと思い、米粉パンから始めました。次に高齢者への弁当と食品の提供を目標にスタートさせました。そして自分が利用できないような納得できないものはださない。納得できることからスタートし、一歩一歩進めているのが現状です。
◆料理教室や食農教育で地域とのパイプつくる
榊田 JAいるま野もいろいろな取り組みをされているようですね。
小澤 珍しいところでは、結婚相談を行っています。この13年間で約100組が結婚までいっています。個人情報とか難しい問題もありますが、効果はあると思っています。
そのほかにも、料理研究や伝統料理を伝承しているグループがあります。また女子栄養大学の調理室を借りて小学校1年生から6年生を集めて料理コンクールを開いています。このように男性ではできないことを女性のパワーは実現しています。
女性は、見ず知らずの土地にお嫁にきて、炊事洗濯から子育て、そして農業まで一切の仕事をします。これだけのことを男にやれといってもできません。その精神力とパワーをどんどんJAで発揮していただきたいと女性参画を進め、女性総代も48名になりました。
榊田 JA雲南でも女性の力を発揮するための取組みがありますね。
吾郷 「女子大学」を設けて、女性部のパワーアップをはかっています。在学中のサークル活動はもちろんですが、卒業後もOB会をつくって活動しています。地域の中でもリーダーとして活躍しています。
問題は女性部員の年齢が少し高くなっていることです。また、種まきから収穫し、それを加工し食べるという食農体験する場として「JA雲南あぐりキッズスクール」を開校し、次世代を担う“子どもたちに夢”を与えようとしています。これも女性部や女性理事が支えてくれています。
女子大学もキッズスクールも、そこで仲間や友だちが増えますから、地域の中心になってくれていますね。
榊田 地域とのパイプ役を女性が担っている…
吾郷 そうですね。
榊田 そうしたこれからの女性の役割について小澤さんはどう考えていますか。
◆農家・非農家の枠を超えて地域へ
小澤 女性だけでグループをつくって何かをしようという人が増えています。
榊田 たとえば…
小澤 家庭の温かみを残したいということで、加工所をつくり、大豆から味噌をつくり販売をしたいという動きがあります。そして女性だけで楽しもうということでフラダンスやボーリングなど、家庭から離れた楽しみの場をつくっています。そこがJAの事についても話しあえる場にできたらいいなと思います。
しかし高齢化が進み年齢が上がると「そろそろ役が…」という懸念があり動きが鈍くなるので、次世代を入れることが大事だと思います。そのために親子で一緒に参加できるイベントやサークルをつくることが大事だと思います。お母さんが子どもと一緒に来ますから…。
吾郷 いまは農家とか非農家とか関係ないですから…お父さんは米づくりしているけれどその田んぼがどこにあるか知らない子どももいるぐらいで…
小澤 そうなんですよ。子どもには農家・非農家は関係ないんです。
吾郷 JAの女性職員が自ら地域へ出て活動して欲しいといっています。これからは役職員あげて地域へ出て女性からパワーをもらうことも大事ではないかと思いますね。
米森 女性部だけで事業をと考えると行き詰るところがあります。「食農実践会議」では3分の2は女性部会員で、後の3分の1は普段は女性部とは一緒に活動していない人たちです。そうした場で学校給食など、さまざまな波及効果がでてきています。
女性部の活動自体をいままでのような縦割りのものから根本的に変え、範囲を広げ組合員の垣根をなくし少人数のサークルをつくるとか…
◆女性部の枠を取っ払って広い受け皿を
榊田 「食農実践会議」の設立は、ある意味で女性部の枠を取っ払っい受け皿を広げ、地域の女性とも同じ土俵で連携する形を作ったわけですよね。女性部の枠を広げてほかの女性たちとつながるとか、地域に入って地域の人たちを活動に巻き込んでいくとか、外に向かって動いていくことを、ぜひJAのトップの方たちには推進していって欲しいと思います。
米森 郷土料理を見直すということで、5地区から伝統料理の達人をグランママとして毎年1人ずつ選び5年経ちましたから25名になりました。自分が引き継いだ郷土料理ということで学校にもいき、孫のような子どもたちと楽しんで教え料理しています。こうした活動は、女性部の延長線上ではなく、小学校の教育で農業をどう位置づけるのかを、ボランティアとして学校にいってやっているわけです。
榊田 グランママはマスコミにも取り上げられ話題になりましたね。
いるま野でも食文化推進者制度があり、次の世代に残したい伝統料理のレシピを集め、若い世代に伝えていく活動をしたらどうかと、小澤さんからいわれて始めましたと女性理事から聞きましたが…
小澤 多少はそういうアドバイスはしました。私どものJAには、組合組織部という部署があり、女性だけではなく、子ども料理教室とか、中学生の吹奏楽の発表の場もつくりました。子どもたちがやるといえば親が熱心になります。そういう人たちにもJAの活動に参加してもらうことも大事だと思います。先ほどからいわれているように、女性部だけでは対応の面で難しいところもありますから…。吹奏楽の一番最初の発表会には、ジャズトランペットの日野皓正氏を呼び、大変な評判にもなりました。
子ども料理教室でも親も一緒にきますが調理室には入らずに待っていてもらい、子どもたちには全員にいきわたるように賞品をあげます。子どもも喜ぶし親も喜びます。いまの若い奥さんたちは料理をしなくなっていますが、この野菜はこうすれば美味しく食べられると子どもと一緒に理解してもらい、JAの活動に取り込んでいくことも必要ではないかと思います。
そういう活動をしていかないと女性部が衰退してしまう可能性があると思います。
榊田 組合組織部がそういうことをするわけですね。
小澤 いろいろなアイデアを持ちながらやっていますが、一番、大変な部署だと思いますね。
伊藤 JAの仕事は営農とくらしを守り育てるということで、営農面では男性、くらしの面では女性という役割分担が長いこと定着をしてきています。いってみれば外務と内務という役割分担でもあったなと思います。もちろんどちらも必要な役割としてここまできています。
そこに社会における男女の役割機能の変化が起き、その流れのなかで都市部や企業社会では女性の進出が進み、それがいま農村部やJA組織にも及んでいると感じています。
企業では、男性と同じ条件で働くために女性の総合職制度が設けられ、国の男女共同参画の流れも促進されています。
課題は山積ですが、積極的にとらえていくことが大切だと思います。その象徴としても女性のJA運営への参画をすすめたいと思っています。
JAの概況
JA秋田やまもと
組合員数:7346人(内女性:1830人)
正:4731人
准:2615人
総代数:540人(内女性:52人)
役員数
理事:16人(女性3人)
監事:5人(女性0人)
職員数:161人
事業量
貯金:319億9300万円
貸出金:94億8000万円
長期共済保有高:2395億3100万円
販売品取扱高:61億5000万円
購買品取扱高:45億500万円
(22年4月1日現在)
JAいるま野
組合員数:7万8557人(内女性:1万7365人)
正:2万9012人
准:4万9545人
総代数:680人(内女性:48人)
役員数
理事:56人(女性7人)
監事:9人(女性0人)
職員数:1423人(内パート:275人)
事業量
貯金:1兆76億円
貸出金:3440億円
長期共済保有高:2兆2419億円
販売品取扱高:99億円
購買品取扱高:63億円
(22年3月31日現在)
JA雲南
組合員数:2万5999人(内女性:6642人)
正:1万2159人
准:1万3841人
総代数:675人(内女性:87人)
役員数
理事:21人(女性5人)
監事:6人(女性1人)
職員数:542人
事業量
貯金:961億1700万円
貸出金:339億6500万円
長期共済保有高:6836億6300万円
販売品取扱高:67億6400万円
購買品取扱高:38億8000万円
(22年3月31日現在)
(後編に続く)