大規模経営は積極的に加入、
5ha未満は半数が未加入
法人農業経営の基礎的構造
表1に企業形態別の法人数の構成を示した。今回の調査では373法人(これ以外に企業形態不明が4法人ある)と90の大規模農家で、合計463経営が把握された。全体の80.6%が法人、19.4%が大規模農家となる。このうち、法人だけを取り出すと、その78.5%が会社で、内訳は株式会社8.0%、有限会社70.5%となっていて、有限会社の圧倒的な優位が明らかである。有限会社は株式会社の3.3倍の数となっている。これに対して農事組合法人は80法人で21.4%を占めている。
本調査によって把握された法人においては2000年以降に設立されたものは8.5%に過ぎず、その半数50.1%が1993〜99年に設立されているほか、1992年までに設立されたものも41.4%を占めるなど、「歴史の古い」法人が調査対象となっていることが明瞭である。このことは本調査が歴史の風雪に耐えた本格的な法人経営を対象としており、法人経営の動向や意識を考える上で有力な情報を提供する可能性を有していることを遺憾なく示しているといってよいだろう。
表2に出資金額別の法人割合を示した。
これによれば、第1に、本調査における出資金額300〜500万円の42.7%をモード階層として、300〜3000万円のところに計89.8%が集中していることが分かる。反対に、3000万円以上は5.7%、300万円未満は4.5%といずれも極めてわずかな割合しか占めておらず、バラツキが余り大きくはないといってよい。
したがって、本調査が対象とする法人は「自生的な」法人の形成・発展の歴史の中で、比較的に類似した構造をもつ安定的な経営が中心を占めているとみることができるであろう。
表3に水稲+麦+大豆の作付面積別の経営数の分布を示した(ここには非法人の大規模農家が含まれている)。JA出資法人(谷口教授らが10年に実施、JA全中、3月公刊予定)との比較を通じて検討してみた。
これによると、第1に、両者の法人の平均作付面積は本調査法人32.5ha、JA出資法人31.6haと極めて近い水準となっている。
このことを反映して、第2に、全体としては本調査法人とJA出資法人の規模別分布は極めて類似しており、土地利用型農業を取り上げると、両調査が対象とする法人に近似性が確認されるといってよい。
しかし、第3に、JA出資法人では10〜30ha層に42.6%もの法人が集中しているが、その大部分は集落経営体的法人によって占められていて、これより下の10ha未満層の割合が24.6%と本調査法人の32.3%より低いだけでなく、30ha以上層の割合も32.9%と本調査法人の38.5%よりも低いことが指摘される。
したがって、第4に、本調査法人は30ha以上に38.5%、10〜30haに29.3%、10ha未満に32.3%と、この三つの階層に1/3ずつが比較的均等に分布する構成をとっていること指摘できる。
つまり、本調査法人は先にみた出資金額におけるバラツキの相対的な小ささとは反対に、水田の土地利用型農業における作付面積のバラツキは「歴史の古さ」を反映して比較的大きいということができるだろう。
戸別所得補償モデル対策への加入状況
表4に水稲・麦・大豆作付面積規模別にモデル対策への加入状況を示した。これは水田経営面積を有し、三作物の作付実績がある経営(非法人経営を含む)について加入実績を整理したもの。これによれば、第1に、全体としては84.6%が加入し、15.4%が非加入となったことが分かる。
第2に、30ha以上では非加入割合は5.0%に止まり、ほとんどが加入したのに対し、30ha未満では22.2%と1/5強が非加入であり、この傾向は面積が小さいほど顕著で、5ha未満では43.9%にも及んでいる。
つまり、戸別所得補償には大規模経営では積極的な加入がみられたのに対し、規模が小さくなるにしたがって非加入割合が増加し、作付面積が5ha未満に至ると約半数弱が非加入となっていることが示されている。
これを企業形態別にみたのが表5である。ここでは法人経営の非加入率が12.0%であるのに対し、非法人経営では25.4%に及んでおり、非法人経営で加入率が低いことが明らかである。このことは非法人経営が大局的には小規模経営を代表していることに対応しているものとみてよい。注目すべき点は法人経営の内側では企業形態による非加入率の差はほとんどなく、戸別所得補償モデル対策に対する対応が法人経営では一様であることを示している。
そこで、規模の指標として総売上高をとってこうした関係をみたのが表6である。これによると非加入割合が平均の16.8%を大きく超えて41.5%に達しているのは総売上高1000万円未満層であり、先の非法人・5ha未満の作付面積に対応する階層だとみることができよう。1000万円〜1億円の間では売上高規模による顕著な差が検出されないが、1億円以上では非加入が5.6%に低下しており、加入が前提となった行動をとっているものと思われる。
◆多様化する転作
表7は加入件数と加入面積について検討したものである。これによれば、第1に、水稲の加入件数204に対して麦+大豆+飼料作物の合計件数215がほぼ均衡しており、水稲生産者がこの戦略作物3種を軸として、多様な作物を転作対象として選択している姿が浮かび上がってくるといってよい。
第2に、戦略作物のうちでは従来からの麦と大豆が二大作物を構成しているものの、飼料作物はかなり少ない地位に止まっている。麦は加入件数では88で大豆の111をかなり下回っているものの、面積では群を抜いて大きく、1件当たりの作付面積も19.5haで大豆の12.2haをかなり上回っている。大豆は件数では首位を占めているものの、面積では第2位となり、1件当たり面積も小さくなっている。
とはいえ、この両者の作付面積は転作率40%程度を念頭におくと、30〜50haの水田経営面積が背景に浮かび上がる。標準的な水田集落の規模が水田面積で15〜30haであることを想起すれば、ここでの法人経営などの水田経営面積規模は2集落分に相当しており、法人・大規模農家が多数の集落にまたがって経営展開していることが示されている。
第3に、加工用米と新規需要米(WCS用稲・飼料用米・米粉用米・バイオ燃料米)など米の用途拡大がこれに次いでいることが注目される。件数・面積とも加工用米が麦・大豆に次ぐ地位を占めているが、面積ではWCS用稲、件数では飼料用米が健闘している。
◆二毛作も活用
第4に、二毛作助成は麦・大豆の1/2〜1/3の件数・面積を占めており、1件当たりの面積12.4haがほぼ大豆レベルに達しており、今後の可能性を示すものとして注目されるところであろう。
第5に、水稲の加入面積は1件当たり24.5haに到達し、本調査の法人・大規模経営のレベルを示すものとして興味深い。なお、ここでは件数で加入の1/5、面積で1/20程度の非加入部分が存在することに注意を払うべきだろう。
そこで、より細かく水稲・麦・大豆の加入面積規模別の分布をみたのが表8である。これによると、第1に、水稲では加入面積30ha以上に件数の29.9%、面積の65.1%が集中しており、大規模経営の加入が実現している姿が浮かび上がってくる。
第2に、麦も水稲ほどではないが、30ha以上に件数で17.0%、面積で52.2%が集中し、大規模作付が実現して、加入に至っていることが示されている。
これとはやや対照的に、第3に、大豆では30ha以上への集中は件数では8.1%、面積では36.7%に止まり、依然として小規模の作付が少なくないことが明らかである。このことは件数の36.9%が平均2.3haの5ha未満の作付に集中していることに象徴的に示されている。
新たな転作政策に対する意見
2010年度は水田利活用自給力向上事業という転作政策が導入されたが、この評価を聞いた。そこでは全国一律の単価設定と地域の自主的な取り組みの位置づけが問題となっている。
図1によると、全体としてはモデル対策通りの全国一律単価+産地資金=27.0%、全国一律方式の改善+単価の自由設定=21.9%、全く地域の自由に=31.0%が拮抗する回答構成となっていることが分かる。転作政策の難しさが如実に示される結果であろう。
しかし、加入者では若干1〜3の方式の支持者が多いという傾向がみられるものの、数字的には余り顕著に上回るものではない。これに対して、非加入者では全く地域の自由にすべきという意見が61.3%にも達しており、非加入者が地域の自主性を活かした転作に大きく傾斜した意見を有していることが明瞭となった。この点では加入者の増加の上では、転作方式の地域的自由化をどのように組み込むかが鍵となることが明らかである。
◆多い義務づけ派
次に、水田利活用事業への参加要件に水田生産調整への参加を義務づけなかった問題についての意見を問うた表9をみると、ここでは属性により意見分布が大きく異なることになった。
すなわち、第1に、全体としては生産調整への参加を義務づけるという意見が52.1%で過半に達したものの、その勢いは弱く、28.5%がどちらともいえないと回答している。ただし、加入者では義務づけ派が62.8%に上昇するのに対し、非加入者はどちらともいえないが51.4%と過半を占め、意見分布は対照的である。
第2に、作付面積規模別には30haを超えると、義務づけ派が平均を超え、30ha未満では生産調整と切り離して実施するや、どちらともいえないとする意見が多くなるという差違が存在するものの、どの階層も義務づけ派が過半を制しているという共通性が存在している。
改めて生産調整の取扱いが難しい問題であることが浮き彫りになった調査結果であるということができるだろう。
米戸別所得補償モデル事業の評価
今回のモデル対策で目玉となった岩盤対策である固定部分についての評価が図2に示されている。ここでの評価は全体としては、「よく分からない」が30.7%を占めて最も多いが、意見分布はかなり均等であって、明確な傾向を抽出することが難しい。そこには、制度が実施されたものの、未だ交付金の支給を受けていない段階での設問であるだけに回答に困惑する生産者の姿が投影されているとみるのが自然であろう。確かに加入者では、「これでしばらくいくべき」という27.4%と、30.0%で最も割合が高かった「引き上げるべき」をあわせると6割弱に達して、肯定的で改善を求める意見が多かったが、非加入者では65.3%もの生産者が、よく分からないと答えているのが印象的である。
また、作付面積規模別にみると、5ha未満層でよく分からないが41.2%とかなり多くなっていて、非加入者の意見分布と重なり合うことが示されてはいるが、その他の規模階層では際だった特徴は検出されず、明確な意見分布が形成されているとはいいがたい状況であると判断されよう。
◆値引き要求「ある」
図3には固定部分の設定を理由にした米の販売単価引き下げ要求に出会ったことがあるかという点についての回答を整理した。
これによると、「ある」と明言した回答は全体で19.0%、加入者では22.8%に達しており、少なくない生産者がそうした経験を有していることが明らかになった。また、回りでそういう話があると聞いているという回答は加入者で39.1%にも及んでいて、単価引き下げ問題が巷間では大きな話題になったことが窺える。ただし、作付規模別にみた回答の差違に明確な傾向はほとんど検出されず、規模の属性よりも地域的な特性により多く依存しているのではないかと推察される。
今回の米モデル対策は固定部分に加えて変動部分が導入されたところに大きな特徴がある。しかし、09年産米までの在庫の圧力と10年産米自体の単年度需給における過剰見通しから、10年産の出来秋にかけて激しい米価低落が発生し、一方では財源問題から変動部分の実施に困難が生じるのではないかという不安と、他方では余りに激しい米価の低落そのものに対する不安が渦巻くことになった。こうした情勢を考慮して、変動部分の存在と独自の過剰米対策の是非について意見を聞くことにした。
図4によると、過剰米対策に期待する意見が全体で33.2%、加入者では37.7%に達して最も多かった。と同時に拙速な制度変更に対する危惧を表明するものも全体で22.6%、加入者では27.4%存在する一方、非加入者ではここでもよく分からないという意見が69.6%の高水準に達していたことが注目される。
この段階では固定部分を重視した対策に変更すべしという意見は加入者でも18.4%に止まり、制度の変更はせずに、特別対策で米価下落に対応して欲しいというのが中心的な意見だったとみることができる。それはこれまでの政策が余りに朝令暮改の連続であったことに対する批判の現れであるというべきである。なお、この場合にも作付規模別にみた意見分布の明確な差違を見出すことはできない。
畑作物所得補償交付金についての意見
11年度からの農業者戸別所得補償制度の本格実施では畑作物に所得補償が導入される点が重要な変化である。そこで先ず、従来の面積払7割+成績払3割の単価決定の仕組みから面積払5割と成績払5割の仕組みに移行する方針の是非を問うてみた。
表10がその結果を示したものである。政策自体が明確になったのが10年8月末であり、政策の具体的な内容を生産者が十分に理解して回答するのは極めて困難であることは容易に予想された。
◆固定支払いを重視
この表によれば、全体で40.9%、非加入者に至っては69.2%、加入者でも30.9%がよく分からないと回答していることがこの間の事情をよく物語っているといえる。
とはいえ、ここでは面積7割+成績3割という、より固定的な支払方法への賛同が全体で23.9%、加入者では30.0%と、分からないという意見を除けば最も多く、実施案の「5割+5割」のそれぞれ15.3%、18.8%を大きく凌いでいることは注目されてよい点である。これを従来の方法の支持という保守的な意見とみるのか、面積払・固定払重視の意見とみるのかは難しいところだが、面積7割と同10割の意見を合わせると、加入者では39.9%となり、成績7割と同10割を合わせた10.3%よりははるかに多いことからみて、加入者がより安定的で固定的な支払単価を望んでいると結論づけてよいのではないかと思われる。
次に、今回初めて導入されることになった畑作物の固定払=営農継続支払(面積払)についてみておこう。表11がそれである。ここでの回答は前述の面積払・成績払の関係に関する回答と酷似したものである。すなわち、第1に、よく分からないという回答は全体で40.2%、非加入者では66.2%、加入者でも31.1%に達していて、制度の趣旨は十分に生産者に伝わっているとはいいがたいことが指摘できる。
しかし、第2に、加入者では、営農継続支払を提案の2万円/10aよりはもっと高くすべきだという意見が34.2%に達していて、よく分からないという意見の31.1%を超えて最も高くなっている。これに2万円水準を評価するという意見の20.5%を加えると両者で54.7%にも及び、固定的な支払を重視する意見が優勢を占めていることが明らかであるからである。
◆助成体系、理解困難高まる不安感
第3に、高い水準の固定支払を重視するこうした考え方は、規模別にみると先ほどと同様に50haを超える大規模階層で45.8〜66.7%という高い支持を得ていることに現れており、政策の意図をある程度理解していると思われる大規模階層において、固定払重視の考え方が浸透していると判断してもよいのではないか。
そこで、提示された畑作物の交付金単価水準についての意見を表12に示した。しかし、具体的な単価水準を品目ごとに現行との対比で示した設問を設定したにもかかわらず、ここでは分からないという回答が加入者でも大豆で35.2%、麦では42.9%にも及ぶばかりか、てん菜では72.7%、でん原ばれいしょでは73.5%と飛び抜けて高い水準になってしまった。麦・大豆においてもかなり高いのは全体としての助成体系が十分に理解されない中で、ここだけに回答を寄せることに不安感を抱いたのではないかと考えられる。
だからこそ、大豆等のようにかなりの単価引き上げが図られているにもかかわらず、低いという意見が、分からないに匹敵する35.2%に達したのではないかと思われる。
過剰米対策について
10年産米の出来秋に向けて、激しい米価低落がみられたことから、本調査においては過剰米対策についても簡単な設問を加えることにした。
第1は表13の通り、戸別所得補償と過剰米対策の関係についての設問である。
これへの回答はかなり明瞭に、過剰米対策を実施し、適正な米価水準を維持した上で、米戸別所得補償制度の本格実施に移るべきだという意見が支配的となり、全体では56.0%、加入者では64.2%に達するとともに、やはり50ha以上の大規模階層でその割合が一層高くなっていることが窺える。
第2は備蓄対策と過剰米対策についての考え方を問うたものである。表14によると、全体でも加入者においても50%以上が備蓄対策を過剰米対策とは区別することを支持しているといってよい。
◆適正な米価水準求める大規模農家
加入者でも31.1%が備蓄運営の中で過剰米対策を実施することを望んでいるのは注目されてよいであろう。
最後に、データは省略したが米備蓄方式について政府提案の棚上げ備蓄方式(100万トン、5年間備蓄)について、全体で55.2%、加入者では59.2%が政府案を支持しているが、そのままというよりも備蓄水準や備蓄方式に見直しを加える意見が全体で39.7%、加入者で43.0%と最も多かった。