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【緊急インタビュー】東日本大震災とJAグループの対応

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「地域と農業復興に全力をあげる」  冨士重夫・JA全中専務に聞く

・震災からの復興と放射線被害対策が柱
・風評被害を含めて東電に「請求申し立て」を行う
・水稲の作付ができない地域は「転作扱い」に
・JAグループで基金を設立 事業基盤再生を支援
・20年30年先を見据えた夢のある地域復興計画を
・いい社会・組織にしていく契機に

 3月11日に東日本大震災が発生してひと月が経った。地震・津波に追い討ちをかけるように東電福島第一原発の事故が起こり、被災者の救援はもとよりこれからの復興についてもまだ先が見通せない状況が続いている。
 被災地では水稲の作付けをはじめ今後の農業についての不安もある。被災者や被災地への支援はもちろんだが、震災を乗り越え「地域を復興」させるために、いまJAグループは何を考え、何をしなければならないのか。JA全中の冨士重夫専務に聞いた。(本紙では今後、今回の地震と被害の名称について政府が4月1日に決定した「東日本大震災」とします。)

23万JA役職員が一致し、
協同の力で未来を


◆震災からの復興と放射線被害対策が柱


 ――3月11日に大震災が発生して1カ月が経ちましたが、この間、JAグループとしてはどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
 「最初の2週間くらいは、災害状況の把握、被災地域に対する救援物資の搬送や人的支援など、まずは人命のための支援中心に取り組んできました」
 「また、畜産・酪農の飼料の確保や水稲の作付をはじめとする春の営農の準備を直前に控えて、被災農地の排水対策や施設の普及をどうするかを中心に取り組んできました。そして田植機など農業機械を動かすための燃料である軽油を中心とした燃料の確保、育苗資材の確保に力を入れてきました」
 「また『計画停電』によるさまざまな問題や被害も発生しました。例えば、酪農では搾乳できない。乳業工場が稼動できない。飼料工場や食肉センターが稼動できないなど、農業・畜産・酪農関係の生産・流通施設は、電気をエネルギーにしていますから、停電になれば稼動できませんから、それに対する対策にも取り組んできました」
 「それに追い討ちをかけるように、原発の問題が発生し、これに対する補償や風評被害対策についても行ってます」
 ――これからの取り組みの課題はなんでしょうか。
 「大震災による被災からの復旧・復興に向けた対策と原発による『放射線被害』とそれによる風評被害対策の二つが今後の対策の大きな柱になるといえます」

 

◆風評被害を含めて東電に「請求申し立て」を行う


 ――復旧・復興対策についてはどのように考えているのでしょうか。
 「政府も検討していますが、『復興基本法』を制定してその下で、さまざまな予算・税制や各種制度について特別措置を講じないと、とても再生・復興はできないといえます。政府は4月、5月で早急にまとめ上げていかなければならないと考えていますし、私たちも、農業・農村の再生・振興の観点とJA経営の事業基盤を再生するという二つの観点から、基本法や特例措置法対策を政府や与野党に要請するための具体的な内容を取りまとめていきます」
 ――「放射線被害」対策については…
 「政府は、原子力損害賠償法に基づいて文部科学省に『原子力損害賠償紛争審査会』(以下、審査会)を立ち上げることにしていますが、野菜農家は、毎日毎日の売上げが入ってこず収入がまったく途絶えていて、農業だけではなく生活もしていくことができませんから、私たちは生活資金を含めて、一時払い・仮払いをするよう再三にわたって東電と国に対して要請しています」
 「それに対する判断・決断がされていませんので、JAグループとしては、実質無利子になる緊急融資を行ったり購買品の支払期限の延長を行っていくなど当座をしのいでいく用意をいたしました」
 「と同時に、仮払い・一時払いをさせるために、早急に『請求申し立て』をしていく必要がありますので、JA・県連・全国連が農家や法人の委任代理を受けて、原発被害に対する損害賠償を東電に対して行う必要があると考えています」
 ――その時の「被害」の範囲は…
 「当然、『出荷停止』はもちろん『出荷自粛』、そしてその影響で著しく価格が下落して生じた損失を含めた『風評被害』まで、広く損害を蒙ったものに対しての、生産者としての東電に対する請求申し立てを早急に行っていきます。その体制を全国機関である全中・全農を中心につくり、県段階でも県中・県本部を中心につくってもらい連携して、農家の請求をまとめて申し立てしていく体制を早急につくる予定にしています」
 「そこには弁護士など法律の専門家にも加わってもらいます」

 

◆水稲の作付ができない地域は「転作扱い」に


 ――営農面では、23年産米の作付がどうなるかということが、大きな問題としてあると思いますが…
 「これにも二つあって、一つは震災・津波による被害状況を踏まえてどうするかということです」
 「宮城県では1万5000ha浸水していて、そのうち水田は約1万haで転作を除けば水稲は6500haということです。宮城県は県内で調整できるかいま検討しています」
 「そして作付できなかったところは『転作』をしたとみなして、転作扱いの助成金なり所得補償を特別に認めるべきだという要請をし、これを実現させていきます」
 「もう一つは、福島の原発被害によって作付できるかどうかという問題です。原発については農水省が土壌調査をしており、その結果は4月20日前後に発表されるといわれています。田植え時期を5月下旬に遅らせても、準備期間を考えれば連休前が限度ということです」
 「福島県産米は36万トンから40万トンありますから、その内のどれくらいが作付けできるのか、会津まで含めて全県作付できないのか。そして作付けできても売れないかもしれないという見極めを政府がどう考えているのかを精査したうえで、もし作付できない部分があればそれをどう全国で分担するのか。どういう仕組みや方法でそれをするのか。というような23年産米の調整対策を、連休をはさんでやらなければいけないというのが喫緊の課題です」
 「もし土壌汚染で作付できず、これが単年度限りではなく、長期にわたることになれば、これはさらに深刻な事態になります」

 


◆JAグループで基金を設立 事業基盤再生を支援


 ――津波で浸水したことによる塩害も単年度ではすまないかもしれませんね。
 「宮城などで浸水した農地の場合、時間とお金をかけて戻せる農地と、もともと海抜1mのところが75cmも地盤沈下し復旧が難しいのではないかという農地もあり、どこまで復旧するのか、あきらめて国に買い取ってもらうとかという峻別を、これから地域別につくる復旧・復興計画のなかでしていくことになります」
 「つまりそれぞれの地域における農業・農村そして漁業や漁村をどうしていくのか。どういう絵柄で農地を確保し、漁港を確保し、住居・地域を確保していくのかということを、地域全体の復興計画のなかで考えないといけないと思います」
 ――JAグループとしてはどういう対応を考えているのでしょうか。
 「復興には膨大な財源と時間や手間ひまがかかりますから、当面、系統全体で100億円の再生・復興基金をつくり、農家・農協の事業基盤再生のために支援していく運動を提案しています」
 「復興基本法や特措法などで、どこまで農家や農協が補償されるのかが分かれば、当然、そこに隙間ができますから、そこをこの基金を有効に使って、協同の力で、相互扶助で支えていこうということです」

 

◆20年30年先を見据えた夢のある地域復興計画を

 ――これだけの被害がでるとJA経営にも大きな影響がでますね。
 「甚大な影響がでています。農家やJAのこうした経営問題は単年度に留まらず数年、場合によっては10年にわたります。事業の基盤である組合員(人)がいなくなり、農地も再生できないものがあるなかで再建に向かうときに、『負の遺産』をどれくらい抱えるのか」
 「震災で被害を受けているのは農村であり漁村ですから、国が行う地域の再生・復興計画で、農業をどう再生するのか、漁業はどうするのか、信用金庫など地域金融機関をどうするのか、住居地域や街をどうつくるのか。そのなかで農協はどう再出発できるのか。そのときの規模はどれくらいなのかを、合併も含めて考えていかなければならないわけです」
 「その絵姿は、元に復旧するのではなくて、今後、20年30年先を見据えた夢のある復興、『これならここに住んで希望をもって生きていける』というモデルでなければいけないと思います」
 「そのためには、国が策定する復興計画に私たちの考えを入れ込んでいかなければならないと考えていますし、全力をあげてあらゆることを要求していきます」

 

◆いい社会・組織にしていく契機に


 ――最後にJAグループ役職員の方々にメッセージをお願いします。
 「こういう大変なときほど、農業協同組合の基本的な価値、基本的な精神に則ってみんなで助け合い、支えあい、そして自主自立して将来・未来に向かっていくことを、715農協23万人の役職員が共有して、取り組んでいくことが大事だと思います」
 「農業協同組合で働いて、生かしてもらい、成長させてもらってきているわけですし、これからもこの農業協同組合のなかで生きていくのですから、協力していい社会にしていく、いい組織にしていくための契機にして欲しいと思います」

(2011.04.11)