◆飛来害虫に薬剤感受性低下が抵抗性誘導など新規剤が登場
水稲栽培における害虫の発生動向をみると、ここ数年、西日本を中心に大陸から飛来するトビイロウンカの一部のネオニコチノイド系薬剤に対する感受性低下、およびセジロウンカのフィプロニル剤(商品名プリンス)に対する感受性低下がそれぞれ見られている。昨年は、セジロウンカの飛来数が平年に比べて多く、さらに飼料用稲品種においてセジロウンカによる坪枯れや全面枯れが九州の一部地域で見られ、これらは、ベトナム北部や中国南部で発生が拡大しているイネ南方黒すじ萎縮病によることが確認された。
また、近年西日本を中心にヒメトビウンカの発生密度と稲縞葉枯病の発生面積が増加傾向にある。ヒメトビウンカにも薬剤感受性低下の傾向がみられているが、地域によってこれら感受性低下の状況は異なるので、現場の状況に合わせた防除対策が必要である。
このような状況をふまえ新たな箱処理剤として、ネコニコチノイド系薬剤やプリンス剤と系統が異なり、ウンカ類に効果のあるピメトロジン(商品名チェス)を含有した箱剤が注目されている。
また、近年フタオビコヤガが関東や九州の一部で多発傾向にある。チョウ目害虫には、スピノサドの効果が高いが、昨年から新規の成分としてクロラントラニリプロール(商品名フェルテラ)が販売開始された。本剤はチョウ目害虫をはじめ、イネドロオイムシやイネミズゾウムシなどの害虫にも効果を示し、残効も長い。
さらに先日、チョウ目害虫に効果のある新規成分スピネトラム(商品名ディアナ)の混合剤が登録された。
なお、箱処理剤で初めて小型カメムシまで効果を示す剤も登場している。ネオニコチノイド系のアクタラといもち剤のコラトップの混合剤、デジタルメガフレア箱粒剤である。アクタラ剤の含量増加と製剤の工夫により長期の残効が付与されており、育苗箱での処理で小型のカメムシまで効果を示す。地域によって発生するカメムシの種類は異なるが、小型カメムシが中心の地域では、本田におけるカメムシ防除を省略できる可能性が高い。なお、カメムシ防除においては、殺虫剤による防除だけでなく、周辺および本圃内の雑草管理とともに行うことが重要である。
近年、いもち病の大発生は見られておらず、この要因のひとつとして、発生自体が少ない環境になったこともあるが、長期残効型の箱処理剤が広く普及したことがあげられる。一方、紋枯病の発生は少なかったが、発生面積は拡大傾向にあるので、注意を要する。
これらの病害に対応する箱処理剤として、製剤の工夫と含有量の増加によって残効性を付与したデジタルコラトップ剤やDrオリゼ剤、いもち病に対する長期の残効と紋枯れ病に対する効果をあわせもつ嵐剤などが主流となっており、それぞれ殺虫剤との混合剤として上市されている。また、抵抗性誘導剤としてイソチアニル剤(商品名ルーチン、スタウト)が新規に登録された。
◆省力散布技術として播種同時処理が拡展
一方、箱処理剤を省力的に散布する技術として普及しているのが播種同時処理である。播種同時処理のメリットは、多忙な田植えの時期に箱処理剤を散布する手間がかからないことと、均一な散布ができることである。
播種同時処理は稲がもっとも敏感な時期に処理するため薬害が発生しやすく、使用できる剤は限られている。しかし、製剤の工夫などにより播種同時処理の登録をもつ剤が増えてきた。殺虫剤では、プリンス剤が播種同時処理可能な成分であるが、アドマイヤーCR剤、ダントツ08剤など、含量と製剤の工夫により播種同時処理を可能にした剤も増えている。殺菌剤では、播種同時処理可能な嵐剤のほか、新規成分イソチアニルも播種同時処理ができる剤であり、本剤は播種同時処理で非常に安定した効果を示す。さらに、オリゼメートの播種同時処理専用剤は「ファーストオリゼ」という名称で販売されている。
◆薬剤の選択は、防除すべき病害虫は何かを良く考えて
現在、このように殺虫剤、殺菌剤のコンビネーションにより、多くの種類の箱処理剤が上市されているが、剤を選ぶときには、防除すべき病害虫は何かを良く考え、剤のもつ効果・残効性やコストと照らし合わせて選択する必要がある。また、地域によっては、抵抗性害虫や、耐性いもち病菌が発生している事例もあるので、普及センターやJAの指導に従って、剤を選択したい。