「販売先との契約にもとづく集荷」へ転換
「非主食用米」の本格事業化も課題
【1】 23年産をめぐる情勢と事業対応の考え方
◆需給調整への参画、選択性が明確化
基本方針ではまず23年産米をめぐる情勢をまとめている。
「戸別所得補償制度」は畑作物を含めて23年産から本格実施されることが決まっている。
このうち米については、22年度のモデル対策と同様、(1)米の所得補償交付金(生産数量目標に即して生産する販売農家・集落営農が対象。10a1.5万円)と(2)米価変動補てん交付金(当年産の3月末までの販売価格と標準的な販売価格との差額を補てん)の助成が継続する。
制度の交付対象要件は生産数量目標に即して生産を行うことだが、23年産の生産数量目標の配分は、「文字通り需要実績のみにもとづく都道府県配分」(基本方針、以下引用は同)となった。さらに生産者への目標数量配分についても、過去の生産調整への取り組みを考慮した配分を行わないよう国が指導している。
こうした状況をふまえると、米では流通の自由化だけでなく、生産についても、需給調整への参加は個々の生産者の判断によって選択される世界への移行が一層明確になりつつあることを示している、と基本方針では強調している。
◆需給ギャップは常に存在
米の計画生産は重要ではあるが、このように需給調整への参画が実質的に選択制となっていくなかでは、過剰作付を100%なくすことは「極めて困難な環境」にある。
過剰作付面積は19年産の7.1万haをピークに22年産ではモデル対策導入によって4.1万haまで減少した。しかし、国内の米消費の減少が今後とも継続することをふまえると、消費減の点からいっても、需給ギャップは常に存在し、「供給過剰の需給構造は作柄要因以外では消滅しないと考えるべき」との認識が必要になっている。
総務省の家計調査によると家庭(二人以上世帯)における年間米購入量は約83kg(22年2月〜23年1月)となっており、前年比で約2kgの減となった。米購入単価も今年1月で1kg330.82円で前年比で約10円下がっている。
人口減少と高齢化を要因とした米の消費量はこれからも減少し続けるとみられているが、前述のように過剰作付の100%解消が想定できないなかでは、需給均衡は難しく、「価格低下圧力は常に存在する」と考えられる。
こうした状況のなかで、基本方針では「水田機能を維持していくためには非主食用需要への米供給の取り組みを拡大・定着させていくことが不可欠」と指摘。そのために▽生産コストの削減、▽流通コストの削減、▽非主食用需要に対応した物流・取引形態の確立をはかる取り組み、さらに▽輸出の拡大などが必要だとしている。
そのほか、概算金を主体とする事業の問題点とその見直しの必要性、また、大手流通資本と産地の結びつきの強まりをふまえた全農グループとしての一体的な供給体制構築の必要性などを掲げている。
◆23年産米の基本的考え方
このような認識のもとに、23年産米のJAグループ米穀事業について以下のような基本的考え方をまとめた。
(1)本格実施される戸別所得補償制度への加入促進により需給環境を整え、県域を軸として販売推進をすすめる一方、全国段階での情報共有化などにより有利販売の実現に努める。
(2)需給に応じた価格形成を徹底するとともに、他流通業者との連携強化による最終需要者向け精米シェアの拡大をはかるなど、生産から最終需要者までの一貫した供給の取り組みを確立する。
(3)生産者・JAへの契約概念の徹底をはかり、販売先等への販売が確実に履行される出荷契約の締結。
(4)棚上げ備蓄対応、飼料用米、米粉用米、加工用米、米輸出など水田機能の維持をはかるため、非主食用米等の生産・集荷・販売対策構築に重点的に取り組む。
(5)「共計での概算金支出を中心とする集荷」から「販売先との契約にもとづく集荷」に転換するとともに、概算金による生産者の資金繰り対応を変える取り組みを組織的に検討する。
【2】 基本方針
生産対策
◆非主食用の米生産を推進
23年産米の生産対策では、まず本格実施される「戸別所得補償制度」の周知徹底と加入促進をはかることを掲げた。
22年産でのモデル対策では10a1.5万円の定額部分に加え、米価下落による変動部分として10a1.51万円が交付された。合計で3.1万円となり、全国一律ではあるものの需給調整への参加メリットとして生産費の一定部分が補てんされた。
こうした加入メリットを生産者に十分に説明して加入促進をはかることで、過剰作付けの減少をめざすことが求められる。
ただ同時に、先に触れたように需給調整への参加については選択性が明確になってくることもふまえ、戸別所得補償制度への加入の有無にかかわらず、「実需者ニーズに対応した生産・集荷・販売の取り組み」を推進する。
◇ ◇
水田機能を維持するため、非主食用米に取り組むことも生産対策では重要な柱だ。
(飼料用米)
飼料用米については、団地化等による集積をはかるとともに、各地域で収量目標を設定し、「多収性品種の導入、直播栽培、立枯乾燥」など地域実態に応じた低コスト生産に取り組む。
また、地域内の畜産農家へ流通させるものをのぞき、飼料用米を輸入穀物の代替として普及させるよう全国の飼料会社へ供給する取り組みを行う。
(米粉用米)
米粉用米は、需要に影響を及ぼす小麦価格の動向やこれまでの出荷進度などを見据えて、需要者と事前に協議して確実に需要を確保したうえで作付の取り組みを進める。
流通は地場流通を基本に、広域流通の実需者も含めて生産とのマッチングをはかり、米粉市場の拡大に取り組む。販売価格は生産者手取り確保の観点から、極力高い水準での契約を進める。
(加工用米)
加工用米は22年産で生産が急激に拡大したことから、供給過剰の状態にある。
そのため23年産では、需要者との契約栽培を前提とした取り組みに転換し、需要者と産地を指定した契約栽培に取り組む。また、産地の取り組み希望数量が需要者との契約を超える場合は、そのオーバー分は飼料用米として扱うなどの対応をはかる。
(政府備蓄米)
回転備蓄から棚上げ備蓄への転換にともなって、政府が買い上げる備蓄米は、主食用の生産目標数量とは別枠での扱いとされた。需要減から、今後も生産数量目標が減少すると見込まれるなか、水田機能の維持・面積確保のための作物として積極的に取り組むことが重要になる。
基本方針では、備蓄米は新規需要米と同様に、主食用米と区分して扱う。
また、政府への売り渡しはJAからを基本とするが、JA独自の応札が難しく県内分をまとめると判断した場合は、JAからの応札委託のかたちで連合会が応札する方針としている。
集荷対策
◆精度の高い出荷契約・集荷の実現
販売対策では、販売先との協議を先行、契約等にもとづく生産提案をJAと生産者に示し出荷契約に結びつける。とくに拡大する業務用需要に対応して生産拡大をはかる契約も推進する。
出荷契約が確実に履行されるように生産者への契約概念の徹底をはかることも重要だ。また、契約栽培の取り組みによる安定的取引の拡大も進める。
同時に、JA対応の強化もはかる。地域実態に応じて▽水稲部会など営農組織の活用による集荷運動の強化、▽TACとの連携、青年部・法人を含めた担い手との関係強化、▽耕種部門全体での対応を強化し、JAの総合力を発揮する体制づくり、などを挙げている。
◆多様な集荷手法も追求
共同計算米については、価格形成が需給に応じて決まることから「内金+追加払い」の継続と徹底をはかる。
また、過剰作付けや豊作等の要因で販売価格が低下し、県域共同計算がマイナスとなった場合は、委託販売の原則に即し、概算金の返金を基本とし、これを徹底させる方針も盛り込んだ。そのため需給環境、販売状況について生産者・JAに的確に伝達し、早い段階から「内金+追加払い」について周知を進めることとしている。
同時に、県域共同計算への結集を基本としつつも、委託非共計、買い取りなど多様な集荷手法への取り組みを進める。そのほか米価下落の要因となっているふるい下米の主食用途への還流を防ぐ取り組みについて、生産者・JAの理解促進を進めることにしている。
◆播種前・収穫前契約、契約栽培の推進
販売先との価格設定については、銘柄別需給をふまえ市場実勢、競合他者の価格動向に応じた設定を行う。価格は産地銘柄ごとの設定を行うが、販売先が重複する主産地では情報共有化などの連携をすすめる。そのほか一定基準を設定し、用途別・取引形態別などの多様な価格設定も検討する。
また、納得感のある指標価格形成のため相対販売価格は継続して公表し、新たな価格形成についても検討する方針だ。
そのほか、安定生産と集荷拡大がはかられるよう、播種前・収穫前契約、契約栽培の拡大に取り組む。
◆パールライス精米販売80万tを目標
JA全農は今年1月に丸紅との連携を発表、販売力の強化をめざしている。
とくに重視するのが最終実需者を意識した販売の推進だ。その核になるのがパールライス事業で、全農パールライス東日本・西日本を中心に精米販売を拡大する。23年産では80万tが目標だ。
また、大手広域実需者に対応できる精米品位、品質管理レベルの統一とコスト低減に向けて工場再編も促進する。また、運賃等の流通コストのさらなる削減に取り組むとともに、全農全体としての統一的な共同計算運営の考え方は継続する。
◆米輸出の拡大目標500t
米の消費拡大もJAグループとしての重要な取り組みで、23年度も水田機能の積極活用や国産農畜産物の重要性を広く訴える運動に継続して取り組む。
また、米粉の普及拡大に向けて、流通や製粉メーカーと連携して新規商品開発なども進める。
輸出については、新規需要米として契約栽培の手法で産地の希望を募り、輸出相手国業者とJA全農との直接取引を基本に進める。
中国向けの輸出では通年安定出荷体制を整備し、シンガポール・香港・中国の主力市場で、業務用も含めた拡大をめざす。また、新規市場開拓にも取り組む方針だ。