大震災への対応
◆仙台石油基地 被災するも供給は回復
――まず、東日本大震災による燃料事業関連の被害状況とこれからの対応についてお聞かせください。
平井 全農の主力基地の一つで、岩手・宮城・福島・山形を中心に、年間50万〜60万klを供給していた仙台石油基地が損壊しました。再稼動は東北地方の需要期に間に合うように11月を予定していますが、その間は本会新潟石油基地や、元売会社の協力をいただいて供給していきます。
今回、思ったことは、私たちの先輩が「油は自主自賄でやろう」と考え、石油基地をつくり、プライベートブランドのローリーを持ち、自分たちの物流で事業をしてきたことが活きているということです。
――具体的には…
平井 新潟石油基地にあった在庫でいち早く対応することができました。被災地では、商系と同等もしくはそれ以上に対応できていると自負しておりますが、新潟石油基地がなければ今回のような対応はできなかったと思います。
――仙台石油基地では4月11日から仮設配管による出荷をはじめたと聞きましたが…
平井 仙台石油基地の貯蔵能力は7万7000〜7万8000klありますが、在庫で残っていたのが4万1000klありました。損壊した基地を復旧するためにはこの在庫を全部出荷しないと、手をつけられませんので、仮設配管で出荷しています。
――韓国農協中央会の手配で灯油が供給されましたね。
平井 加藤専務より韓国農協中央会にお願いをして、同会が現代精油社に手配していた灯油4000klを緊急で全農に振り替え供給してもらいました。4月15日に輸入船が金沢基地に入港しましたが、新潟基地向けに転用することにしています。
日韓での初めての農協間連携ですが、これも自前の基地があるから実現したことだといえます。
――石油事業としては、供給は従来とほぼ同様の水準に回復していると考えてよいのでしょうか。
平井 現在はオーダーにはすべて応えられる状態になっています。
ただ一つ懸念しているのは、東電が重油による火力発電所の稼動率を高めているため、園芸用のA重油が、電力用のC重油に持っていかれていることです。A重油は重要な生産資材ですから、生産者の皆様にご迷惑をかけないよう確保に向けて最大限努力していきます。
◆全壊したJA―SSも
――JA―SSの被害状況は…
平井 東北地区に479カ所のJA―SSがありますが、このうち、震災の影響による損壊で営業再開の見通しが立たないSSが7カ所、震災影響により廃止の方向のSSは2カ所、原発事故関連で休止しているSSが8カ所あり、今後再開の見通しのSSは4カ所あるものの、21SSが稼動していない状況です。
震災直後に南三陸では給油機は流されましたがタンクは残っていたので足こぎポンプを持ってきて供給したりもしましたが、この南三陸と陸前高田には、JA以外のSSが少ないので、行政とも相談して早期の再建をしていきたいと考えています。他の地域も全力で応援していく考えです。
◆LPガスの優位性が明らかに
――LPガス関係の被害はどうですか。
平井 沿岸部を中心に本会が供給している約4500戸が全壊したと想定されます。
その他の地域では、都市ガスは地震で配管が損壊したりして供給が止まりましたが、幸いなことにLPガスは個別にボンベで供給していますから、地震で遮断されても揺れがおさまってから安全装置を解除すればすぐに使うことできます。都市ガスの人は火も使えず風呂にも入れないので、LPガス使用の知人宅に風呂を借りにいったという話もあります。
――家庭用のエネルギーの見直しですね。
平井 オール電化住宅ということが言われてきましたが、計画停電とか節電ということで、LPガスが見直されてきていると思われます。
石油事業
◆セルフ化で供給量が着実に増加
――原油価格が高騰していますが、今後どうなるとお考えですか。
平井 現在はWTI原油が100ドル/バレル〜115ドル/バレルくらいで推移しております。2年前にもっとも高くなったときが147ドル/バレルでした。幸いなことにその当時より円が2割くらい高くなっていますから、2年前よりはよいのかと思います。
今後については短期的には投機筋の動きとかあって分かりにくいのですが、長期的には100〜110ドル前後で推移するのではないかと思います。
――22年度の石油事業はどうでしたか。
平井 22年度の供給量は712万klで、21年度の693万klより19万klのプラスです。21年度も20年度より11万klプラスというように、一般的には需要が減少しているなかで、JAグループの供給量が増えています。
これは、ここ数年にわたってSSのセルフ化を提案し、JAのみなさんにご理解いただき投資をしていただいた成果です。
――セルフ化率は…。
平井 3月末現在で、全国で647カ所です。JA―SSは全国で3070カ所ありますから、セルフ化率は21.1%です。業界全体でのセルフ化率は20.7%ですから、業界の平均を上回っています(表1参照)。
※【業界】平成22年9月末(石油情報センター調べ)
ちなみに昨年3月末のJAグループセルフ化率は18.2%で、業界は19.2%でした。
◆ライフラインSSのコストダウンも
――JA―SSの再編・統合がこの10年でずいぶん進んできました(図1参照)が、まだ老朽化したSSも残っていますね。
平井 40年以上経過したSSは、タンクを入れ替えるかコーティングをすることが法的に義務づけられています。そうしたSSを含めて県域マスタープランにもとづく統廃合・再編に取り組んでいきますが、どうしてもライフラインとして残さなければならいSSもあります。
そうしたSSのために、タンクや計量機をセットして組み立てておき、穴を掘って埋めるだけという安価なユニット式を考えています。さらに現金を扱わずプリベートカードで決済するなどの工夫をして、100kl/月未満SSのコストダウンを図っていきます。
当然ですが、石油事業の目標は、マスタープランの完成によるシェア拡大と物流の効率化ですし、そのためにセルフ800SS体制の早期実現ですから、その実現に向かって取り組んでいきます。
LPガス事業
◆「安全性含めた優位性を積極的にPRする
――LPガス事業の23年度は…
平井 LPガスについては、オール電化がペースダウンし、改めてLPのよさが見直されてくると思います。私たちは、太陽光発電や太陽熱を含めて、ホームエネルギーのベストミックスを提案していきます。
とくに電気に比べてLPガスはコストが安いのですが、そのことがPRしきれていません。また、オール電化は安全といいますが、高効率のガス給湯器は誰も炎をみて監視しているわけではありませんし、安全管理システムで集中管理していることなど、安全性を含めた優位性を改めてPRしていきます。
◆JAと県本部が一体となった事業展開を
――ガス事業の人材育成も課題ですね。
平井 LPガスの優位性をきちんと説明できる営業力・セールス力がある人材の育成に力を入れています。
そして営業と保安・工事をそれぞれ専門化しそれぞれのプロ化が必要だと考えています。
あわせて多く使う人には安くなるような傾斜型料金体系の導入なども検討しています。
――県本部とJAとの一体的な事業展開も最近の課題ですね。
平井 それは営業・推進や工事などの専門化を進めていくためには、一定の規模が必要だからです。
もちろん自賄できるJAは問題がありませんが、そうでない場合には、物流などについては県段階が実質的には担っていますから、JAも含めて大同団結して事業を展開し、収益を分配しましょうということです。実際に栃木県では県下のJAも出資して会社をつくり一体化して事業を展開しています。
新エネルギー事業
◆@エナジー導入で燃料コストを削減
――専門担当部署も設置した新エネルギー事業の取り組みは…。
平井 原油価格が高騰していることもあって、JA秋田厚生連の山本組合総合病院とか長崎県本部の大村果汁工場などが燃料転換をするなど、さまざまな動きが具体的にでてきています。ジェイエイビバレッジ佐賀(飲料会社)の関東工場(栃木)と鹿島工場(佐賀)でA重油からLNG・天然ガスに燃料転換することで、年間9000万円ほどコスト削減になり、CO2削減量が約6800トンにもなります。
従来のA重油ボイラーは効率が悪いのでこうした炉筒煙管から、高効率な小型で資格者も必要ないボイラーに替え、さらに燃料を切り替えることで、コストも削減でき、環境にも貢献することができるようになるわけで、成果をあげています。
――最近「@エナジー」という言葉を聞きますがこれは…
平井 全農では、効率的かつ効果的な省エネルギーをサポートする「JAエコデザイン」をJA三井リースと行っていますが(図2参照)、@エナジーは、エネルギー使用状況の「見える化」を行い、エネルギー効率の良い施設と悪い施設を比較分析し、まずは運用改善からお金をかけずに省エネをはかることと、関係法令への適切な対応をはかるための第一段階のシステムで、非常に評判がいいです。
4月21〜22日には、JAビルで「JAグループ省エネルギーセミナー」を開催しましたが、原発事故による停電問題もあり非常に関心が高い分野です。
――停電や節電で家庭用も含めてエネルギーが見直される時期にきているわけですね。
平井 石油ファンヒーターも停電になると使えないように、家庭用の燃料電池や太陽熱も含めて、改めてこの問題はさまざまな角度から見直される必要があると考えています。
――ありがとうございました。