特集

23年度全農肥料農薬事業のポイント
・春の営農に必要な資材を確保
・復興へ向けた支援も積極的に
・肥料の海外山元との連携を強化
・初年度10万ha以上普及したAVH-301
・国銘柄「PKセーブ」が174%伸長
・定着した担い手対策
・肥料原料輸入元の多元化と園芸用農薬開発
・生産者が使いやすく分かりやすい工夫を

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【23年度全農肥料農薬事業のポイント】コスト低減で生産者の営農活動を支援  山崎周二 全農肥料農薬部長に聞く

 昨年度の全農肥料農薬事業は、世界的な肥料原料の高騰への対応をする一方で、農薬では9年ぶりとなる系統開発農薬原体の登場など、多くの話題があった年だったといえる。そこで山崎肥料農薬部長に、3月の東日本大震災の発生への対応を含めてこの1年を振り返っていただくとともに、23年度の課題について語っていただいた。

肥料原料安定確保と農薬原体共同開発を柱に


大震災対策
◆春の営農に必要な資材を確保

 ――まず東日本大震災に対する対応についてからお願いします。
山崎周二 全農肥料農薬部長 山崎
 全農全体としての大震災への対応は、まず生活物資そしてガソリンなど燃料、それから家畜の餌、その次に営農が継続できるように営農資材をどうやって確保するかということで、大震災が起きた翌週から、農水省とも打ち合わせながら取り組みました。
 肥料農薬関係でいえば、まずは種子消毒剤の確保、その次が培土です。東北の一部では土づくり肥料を春散布している地域があるので、土づくり肥料が確保できるかということもありました。そして箱処理剤、基肥とすぐ使う除草剤の6品目が確保できるかどうかが、春の営農ができるかどうかのポイントになります。主力メーカーの数工場が影響を受けましたが、工場で生産するための重油や輸送のための車両の確保に、全農とメーカーが一体となって取り組み、これを順番に確保していきました。
 ――大きな問題なく確保できたのですか。
 山崎
 農薬と肥料では違いがあり、肥料は比較的地域需給ですから、土づくり肥料が地元の工場が被災していて出荷できないこともあって、春施用を秋施用に転換してもらって対応したりしました。
 農薬は、一つの剤を1工場で生産し供給していますから、被災していない地域へ早く供給すると、被災地への供給量が少なくなる可能性があるので、一時出荷を止めて各県の必要量を出して、過不足のないように計画出荷をしました。種子消毒剤などの絶対量は確保していましたので、問題が起きないようそういう措置をとらせてもらいました。また、剤によっては在庫に余裕のある県から他県へ転送をすることで、不足の地域がないようにしました。

 

◆復興へ向けた支援も積極的に


 ――営農で支障が生じることはなかった…。
 山崎
 多少配送時期の遅れなどはありましたが、営農資材が不足して営農ができないということはないと思います。何かあったときの安定供給は系統の役割ですから、そこは一所懸命努めたつもりです。
 ――大震災の被災地への支援としては…
 山崎
 田んぼも畑も津波で水没したり、肥料・農薬が流失したりした農家については、県本部を中心にJAと一緒になって補填対策などの援助を行っています。
 ――復興に向けてはどういう対策を考えているのでしょうか。
 山崎
 冠水した田畑でどう除塩するのか、土づくり肥料を入れて営農できるようにするとかなど、復興に際してわれわれができることを検討して、現地で進めていきます。国とも一緒になって取り組んでいきたいと思います。

 

22年度を振り返って
◆肥料の海外山元との連携を強化


 ――22年度の肥料農薬事業を振り返るとそのポイントはどういうことだったでしょうか。
 山崎
 22年度からの中期3カ年計画が始まりましたから、それに従って、それを粛々と実践してきました。
 中3計画における肥料農薬事業は、大きく川上戦略と川下戦略に分けています。
 川上戦略では、肥料原料の安定確保、農薬原体の共同開発の2つが大きな柱です。
 肥料では昨年は中国の瓮福とりん酸プロジェクトをはじめ連携を強化しました。尿素では、マレーシアの肥料会社・ミトコとの間で累計100万tを達成しましたので、記念式典を行い今後の関係強化を確認するなど、山元の連携強化を行ってきています。

 

◆初年度10万ha以上普及したAVH-301


 ――農薬は…
 山崎
 AVH-301が昨年から本格販売しましたし、60億円を目標とする農薬の積立金を創設しました。今後これを有効に活用していくことです。
 ――AVH-301はどれくらい普及したのですか。
 山崎
 22年度は、全国で283JAで防除暦と注文書に採用されて、10万4000ha普及しました。これは初年度としては好スタートだと評価しています。今年もキチンと普及していくことだと考えています。
 ――従来にない数の展示ほ場などで試験を行った成果ですか。
 山崎
 現場でいま一番困っている問題にフィットした剤だからということ。そしてMY-100から9年ほど経っていて、久々に系統の共同開発の剤がでたことで、JAの皆さんにも喜んでいただいて、キチンと推進していただいたおかげだと考えています。

 

◆全国銘柄「PKセーブ」が174%伸長


 ――川下戦略のポイントはなんですか。
 山崎
 一言でいえばコスト低減です。平成20年に肥料原料が高騰し、そのときに土壌診断とそれに基づいて施用していただく低成分銘柄を打ち出しました。これを昨年も徹底しました。
 土壌診断については、全国9カ所の広域土壌分析センターの利用を促すとともに施肥診断の処方せんに関する講習会を開催するなど、一所懸命取り組んでいる最中です。それに基づいて低成分銘柄を普及させるわけですが、地域ごとの低成分銘柄がありますが、22年度に統一銘柄の「PKセーブ」に集約することで、前年比で174%となり、集約化が一定程度進んだといえます。
 ――農薬のコスト低減については…
 山崎
 MY-100とAVH-301をキチンとやりぬくことだと考えています。
 コスト低減では、物流の合理化もあります。具体的には、広域物流実施JAが22年度で11JA増えて累計189JAとなり、確実に面的な広がりをみせています。

 

◆定着した担い手対策


平成23農薬年度大型規格品目 ――担い手対策も重要な課題だと思いますが、この点では…
 山崎
 肥料では満車直行、農薬では大型規格が柱ですが、いずれも取扱分量はほぼ21年度並でした。これは新生プランから一貫して取り組んできたわけで、「前年並み」ということは、満車直行と大型規格が定着したのだという評価をしています。(大型規格の品目数は表の通り)。

 

 

◆肥料原料輸入元の多元化と園芸用農薬開発


 ――そうした22年度の成果の上に立って、23年度の課題はなんでしょうか。
 山崎
 23年度は中3計画の2年目ですから、基本的な課題は22年度と一緒です。
 川上戦略の肥料では、原料の安定確保です。秋肥については3%くらい値上がりしましたが、これは原料は上がりましたが円高だったので値上げ幅を圧縮することができました。しかし、原料は再び上がってきていますから11月以降の春肥については値上げ傾向と考えられますので、コスト低減の取り組みを強化しなければいけないと考えています。
 ――肥料原料は上がってきている…
 山崎
 世界的には食料増産ですから、肥料需要が増え、昨年あたりに底を打って上がってきています(図参照)。
 昨年は瓮福とか既存の山元との関係強化をしましたが、今年は原料を安定確保するために、それに加えて輸入元の多元化をはかっていきます。例えば、モロッコとか南アフリカからリン安を新規に輸入すべく山元と交渉しています。
 ――農薬の川上対策としては…
 山崎
 今までは水稲剤中心に原体開発をしてきましたが、今度は園芸剤での原体開発を考えています。現場からも園芸剤での系統開発を待ち望んでいますので…。

尿素国際市況(指数)

 

◆生産者が使いやすく分かりやすい工夫を


 ――23年度の川下対策としては…
 山崎
 23年度も低コスト対策です。
 肥料では「PKセーブ」をキチンと普及していくことです。PKセーブについては、全国統一だけでは地域ごとの状況に対応しにくい面もあるので、ブロック毎(事業所ごと)に結集するPKセーブシリーズを選定し、この銘柄に県毎の既存銘柄の集約をはかり、量をまとめることで合理的な普及推進を図っていきたいと考えています。
 農薬はMY-100とAVH-301の組合せで普及していくことです。
 そしてJAの農家対応強化を支援していくために、事業の核である予約注文書の改善運動に取り組んでいます。具体的には、農家が見て分かりやすい注文書、つまり系統の重点品目がすぐ分かるとか、大型規格の価格メリットがすぐ分かるなど、農家が選びやすい注文書にすることで、予約を強めていこうという取り組みをしています。
 ――当用対策は…
 山崎
 ホームセンター(HC)がすっかり定着していますが、JAの生産資材店舗を活性化していきます。例えば、POPをキチンと掲示するとか、需給期に使う資材を早めに店に並べ、農家が買いやすくするとかです。早期陳列することで、実績が伸びています。
 ――HC対策としては…
 山崎 
ブロック毎に、時期・銘柄別に情報を共有して、価格などでどこが負けているのか明確にして、競合するものはキチンと対応していきます。それから品質調査も一緒に行い、JAが農家にキチンと説明できるようにしていきます。
 ――現場支援としてほかには…
 山崎
 園芸対策として、土壌診断してそれに基づいた肥料を、生産部会ごとに丁寧に説明して普及していく取り組みもしています。
 全農の生産資材部を窓口に営農販売企画部と肥料農薬部の3部で園芸対策チームをつくり、業務・加工用野菜での周年供給できる産地づくりとそこでの施肥・防除暦をつくり、最終的に売り先まで決めていくような取組みも行っています。

(2011.06.28)