復興は農家の営農意欲を喚起し持続することから
協同組合の絆の強さを実感し励まされる
◆“断腸の思い”で故郷を家を離れた原発被災者
――東日本大震災そして東電福島第一原発事故が発生して4カ月が過ぎました。現在の福島県下の状況をどうお考えになっていますか。
「他県では復興の槌音が聞こえ始めましたが、福島県は原発事故による放射能汚染で復旧・復興へのスタートが切れないことへのジレンマを強く感じていますし、非常に残念に思っています。1日も早い原発事故の終息があってはじめて復興のスタートが切れると考えています」
「避難されている方々は、住まいすら定まらないなかで、あちらこちらで避難生活を強いられています。この方々の思いを考えれば、1日でも早く元の福島、元の大地に戻してもらうことが復興へのスタートが切れる一番の要因です。そのために国、東電そして県が総力をあげて取り組んでいただきたいと要望します」
――農業者が農業をすることができないというのは辛いですね。
「個人的な理由で故郷を捨てるのであれば、それなりに自分に言い聞かせるものがあると思いますが、まったく一瞬にして避難しろといわれほとんど何も持たずに、故郷を家を土地を捨て、そしていつになったら帰れるかも分からない。先祖伝来の土地と家を受け継ぎ守ってきたものにとっては正に“断腸の思い”です」
――国などの対応が遅く具体的なものがなかなか見えてきませんね。
「この間、私たちは総理大臣をはじめ各大臣や関係省庁へいく度も要請してきました。そして彼らだって被災地に足を運び悲惨さや避難している方の苦しみ、現場で起きている現象を目の前に見て帰っているわけですが、復興基本法が国会を通っただけで、4カ月も経つのに国は何をやっているのか憤りすら感じます」
◆精神的な苦痛に対する慰謝料も請求できるよう
――そうしたなかで県のJAグループとしては、当面どのような対応をしているのでしょうか。
「地震に津波そして原発事故による放射能が加わり、復興への道筋がなかなか見えません。しかし、避難した人を含めて生活をしていかなければなりません。そのためにJAグループを中心に35団体で『JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会』を立ち上げて損害賠償請求をすすめています」
「原賠審で方針・基準は示されましたが、酪農関係の牧草類とか花きがいまのところ賠償補償の対象になっていませんので、これらについても今後要請をしていきます。さらに、家族がばらばらになり、家族同然の家畜と離れ離れになり、故郷を捨てなければならなくなった、そうした精神的な苦痛に対する慰謝料についても第3次指針に盛り込んでもらうよう要請活動を行っています」
――無人になった村で家畜が群れとなってさまよっている姿をテレビでみましたが、悲惨ですね。
「中間処理の法律が日本にはありません。原子力発電所の汚染を処理する法律はありますが、他の地域に放射能が飛散したことについてはなんら法律がありませんから、家畜が死ねばそのままにしておかざるをえないわけです。廃棄しろといわれたホウレンソウにしても“ビニール袋にいれて保管”といわれても、3〜4カ月経てば何も形は残っていません」
◆農家に生きがいを感じてもらうことから
「こうした事態をみると“安全・安心神話”にのって原発を推進してきた東電や国の過信があったのではないかと思います」
――原発事故による放射能問題で、豊かな自然と農畜産物という福島ブランドが地に落とされましたが、これをどう復権していこうとお考えですか。
「地震と津波と放射能で福島県の農業はどうなるのかということが問われましたが、最初に考えたのは、農家の方々が“やる気”を失わないようにすることが第一だということです」
「そして土壌中のセシウムが5000ベクレル以下であれば作付けができるという基準が示されたので、とにかく“作っていただこう”。作っていただくことで、農家の方に生きがいを感じてもらう。そこに復興のスタートがあるのではないかと考え、避難区域以外の地域で作ってもらい、営農意欲を喚起し持続するようにしました。幸い出荷制限された品目の大部分が解除されたこともあって、作る意欲も生まれました」
「収穫された農畜産物の販売は滞りなく進めていますが、生産者と消費者の間の信頼関係が少し崩れている部分がありますので、県と歩調を合わせ“がんばろう ふくしま!”を合言葉に、地産地消からはじめて、関東圏でもイベントを開催しながら、出荷されているものは、安全なんだということを訴えながら、販売戦略を組んでいるところです」
「しかし、消費者の中にはやや過敏な反応を示している方もおられ、なかなか私たちの思いを理解していただけないということもあります。そういう方たちには時間を掛けてでも、ご理解をいただけるよう販売努力を重ねていきます」
◆除染対策など自助努力でより安全なものを提供
「さらに“自助努力”として、放射能が農産物に移行しないような技術対策や除染対策を国・県と連携して開発・実行し、1日も早くより安全なものを提供できるよう努力していきます」
――国の基準よりもできるだけ低いものをつくることで、安全な産地だということを認知してもらうということですね。その技術的な面では…
「いまのところは農水省が飯舘で実験しているヒマワリや菜の花で吸収する方法、水を掛け流して除染する方法とか、汚染土壌を一時的に埋設する方法がいわれていますが、どれが一番効果的なのか、農水省から試験結果がでるはずですから、それらに準じて県と力を合わせて除染し、土壌を健全なものに戻す対策を講じていきたいと思います」
「一部で民間業者がこれがいいと売り込んだりしていますが、科学的な根拠に基づいた方法で実施していくためのデータを現在は収集しているところです」
◆世界の“フクシマ”を研究する機関の設置を
――除染の技術についても国が責任をもって開発して欲しいですね。
「世界の“フクシマ”になってしまった以上、放射能とは長い付き合いになると思います。だから単に飯舘でこういうことを農水省は試していますということではなくて、自然を元通りに戻す国の研究機関、そして人の体も10年20年と追跡調査をしてもらい、安全な地域に戻す努力をしていただく機関・研究所を設置し追跡調査をすることが、福島県民が将来にわたって安心してこの地に住める最低条件ですし、その研究成果を世界に発信する責任が国にはあると思います」
「幸いなことにここには福島大学や医大があるので、そこに第一級の研究者を集めて設置することは可能だと思います」
――正確な情報提供も必要ですね。
「まずは原発事故を終息することが大前提となるわけですが、まだ時間がかかるようです。その間に短期・中期・長期にわけて復興していくことになると思いますが、賠償も含めて生産者が生活していくことができるようにしていただくことです」
「そして長期的には自然環境や土壌、健康問題を含めて研究する機関を設け、県民に情報提供し安全を確保していく…。そしてより細かい地域ごとのデータを提供してもらうことでよりきめ細かい対応ができると思います」
◆雇用の創出も重要な課題
――この事故が終息してもいつ清浄化されるのか分からないと…
「国が土壌検査などを行い、何年経ったら故郷に帰れるのかということを、いつ明確にするのか。それがないと原発事故で避難された人たちは、今後の人生の設計すら立てられず、何をしたらいいのか分からない状態です」
「若い人は避難先で仕事を探すことができるかもしれませんが、50歳代以上の人にはそれは難しい。だから雇用の創出が、将来的にも暮らしていける場が、生活の安定のためにも必要です。賠償は一時的なものに過ぎませんから…。これも国に真剣に考えていただかなければいけない重要な問題です」
◆原発再稼動の議論は福島の総括に基づいて
――福島県は復興ビジョンのなかで脱原発を明確にしましたが、いま全国的には原発再稼動を含めていろいろな議論がありますが、これについてはどうお考えですか。
「県のビジョンについては評価できると思います。原発の再稼動などについては、福島第一原発事故の終息宣言もでない状態で再開を宣言されることがあるとすれば、残念だという思いがあります」
「どういう原因でこの事故が起きたのか、起こさないためには何があったらよかったのか、その原因を究明し総括して、それに基づいて、ここまで耐えられるからここは動かしてもいいとか、ここは足りないからここは動かさないと判断する。そのことなしに夏の電力が足りないからともかく動かそうという話はおかしいと思います。4カ月経っても終息しない福島の二の舞を踏んだらどうするつもりでしょうか」
× × ×
――来年は国際協同組合年で「復興」をテーマにといわれていますが、福島からメッセージを。
「国際協同組合年」に先だって“絆で復興”をサブタイトルに7月2日に福島でフォーラムを開催しましたが、県内はもとより日本全国から寄せられた系統組織の絆の強さをしみじみ感じさせていただきました」
「何かあったら互いに助け合おうという協同の原点・理念を見させていただきました。私たちはそれに甘えることなく、一日も早くに“福島はこんなに元気になりました”とお伝えできるために、組織が一丸となってがんばっていきたいと思っています」
※庄條徳一会長の「徳」の字は正式には旧字体です。