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【インタビュー】政治評論家・森田実氏

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【インタビュー】政治の基本は希望を与えること  政治評論家・森田実氏に聞く

・傲慢な権力者に豹変
・罪深い第3の開国論
・日本政治の5原則
・基本を忘れた民主政権
・被災地に希望を与えること
・守るべきは国土と食料

 9月2日、野田新内閣が正式に発足した。各種世論調査結果では、支持率は高いが民主党政権になって3人目の首相である。2年前の政権交代からなぜ、こんな混迷に陥ってしまったのか。政治評論家の森田実さんは、政治の基本を忘れ傲慢な政治家に一瞬にして豹変したからだと、「政権をとることの恐ろしさを感じた」。大震災に直面した今こそ、政治の基本に立ち返らなければ政権交代に意味はなかったことになる、という。「野田新首相はまず現場の声を聞くことを求めたい」。ちょうど2年前、政権交代が起きた8月30日、森田さんに話を聞いた。

新政権、課題は「人の声を聞く」


◆傲慢な権力者に豹変


政治評論家・森田実氏 私は小泉改革以来の日本国民の元々の生き方をまったく蔑ろにしてアメリカのモノマネ社会を作ろうとする政治を批判し続け、その対抗勢力として民主党を応援してきました。
 もちろん民主党政権のなかにも小泉・竹中的な勢力はいっぱいいて、以前から彼らとは論争してきたのですが、政権交代が起きたときに、私は思わぬ体験をしました。
 それは当選した議員たちが、一瞬にして傲慢な権力者に変わったということです。それまでは自民党が長年の権力の座にあぐらをかいて威張っていた。一方、民主党は野に居て国民のなかに入って生きることをめざしてきた。ところが政権をとるや、民主党議員の意識が自民党の傲慢な議員と同じになった……。民主党は自由民主党に大化けした。この一瞬の意識の変化は恐ろしいものだなと思いました。政治権力をとるとはこういうことか、と。
 鳩山首相はまったく誰に相談することもなく言いたい放題を言うようになったし、小沢幹事長は、党は俺のものだ、とますます傲慢になった。
 とくに鳩山首相の普天間問題に対する対応は、事もあろうに自分が主張してきたことが通らなくなった段階で辞職するのではなくて、まったく反対の提案を飲んでから辞めるという最悪の形の辞職をした。
 菅首相になってからは、政治権力とは首相になった自分一人のものだといわんばかりのわがまま勝手な行動をとり、自分勝手に増税を打ち出して参院選挙に敗れた。そのうえで国会のねじれが悪い、という妙な理屈で自分の愚かさを覆い隠そうとしてきた。
 その上、尖閣諸島問題では外交権を事実上放棄し、地方検察庁の次長検事が外交的配慮をもって釈放するというとんでもない無責任な決着をした。この直後に、あの大問題のTPP参加発言です。


◆罪深い第3の開国論


 そもそも菅前首相の第3の開国論はものすごく罪深いものです。
 第1の開国とは、実は米国から押し付けられて不平等条約を結ぶことになったわけで、それを解消するために日本は数十年の臥薪嘗胆を強いられた。
 さらに第2の開国を大喜びするのはとんでもないことです。軍部が暴走して敗戦になり、日本が占領下に置かれたその結果としての開国ですよ。
 にもかかわらず菅首相はTPPで第3の開国だとはしゃいだ。TPPとはわが日本国民に罠をかけるがごときものですよ。
 本来、このTPPに対しては外交権を持つ政府が闘うべきなんです。農業者の立場に立って、わが日本国の国益を守る立場に立って、われわれには生きる権利があるんだ、もしわれわれと仲良くやりたいのなら、日本人が農村においても漁村においても、里山においても生きられることが条件だ、それを受け入れない以上、だめだと政府ははっきり言うべきです。
 それをやらずに、菅首相は最初からTPPを歓迎し、開国だ開国だと、はしゃいだ。多くの国民が怒るのは当然です。
 そして3月11日に地震と津波と原発事故が起きる。ところがみんなが力を合わせるべきときに、俺がやる、俺がいちばん詳しいんだと一人突出し、チームワークを破壊し、その上で自縄自縛に陥り、復旧、復興や放射能の対策をめちゃくちゃにし、あげくの果てに政権を降りていく―。何事か、という思いです。
 政権を取ったら謙虚になって国民のために何ができるか真面目な姿勢で取り組まなければならなかったのに、民主党のトロイカ体制は傲慢になった。これは驚くべきことでした。


◆日本政治の5原則


 私は政権交代前から民主党議員の勉強会に呼ばれたときなどに、5つの原則を守って政治をしてほしいと強調してきました。
 第1は「和をもって貴しとなす」。言うまでもなく聖徳太子の一七条憲法の第一条です。これは世界でも日本でも、みんなで協力し平和に生き、調和させるということです。資本主義社会では、調和とは工業と農業、大都市と農村、そして人間文明と自然との調和ということ。国際社会では平和の実現です。
 しかし、民主党政権はこの「調和」の思想を放棄し「対立」に入っていった。典型がTPP参加の検討です。菅首相の第3の開国論は重大な犯罪的過ちです。
 第2の原則は、明治天皇の五箇条の誓文第一条「広く会議を興し万機公論に決すべし」です。言論の自由と民主主義です。
 この原則を明治時代初期にはある程度実践していたから成長したのですが、軍部が出てきてこれをやらなくなったために日本は沈没した。
 戦後は、これをある程度復活させましたが、この30年、だんだんと衰えました。言論の自由と民主主義を、民主党政権は何よりも熱心にやらなければいけなかった。


◆基本を忘れた民主政権


 第3は福沢諭吉の「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」です。平等主義ですね。都会に住む人も農村に住む人も、平等に生きるんだということです。
 第4の原則は、1200年も前に最澄が残した言葉、「一隅を照らすは国の宝である」です。民主党は野党時代に何を言ってきたかといえば、貧しいもの、恵まれざるものの味方です、でした。草の根のそれぞれの現場でがんばっている人々にきちんと目を向けるということです。
 さらに民主党は、われわれこそは地方の味方だ、東京一極集中ではだめ、地方分権を推進するのは地方をよくするためなんだと主張していました。
 これが第5の原則で、徳富蘆花の言葉、「国家の実力は地方に存する」です。この5原則こそ民主党の守るべき基本ではないか、とずっと言ってきました。
 しかし、政権を取ったらこのすべてを忘れ、政権は俺のものだ、俺の考えたとおりにやるんだ、という姿勢になった。そして国民の信頼を失った。


◆被災地に希望を与えること


 政権交代後、とくに傲慢になった議員は松下政経塾出身者に多いと思います。政界では、上から目線の松下政経塾議員、と言われています。上から見下ろす、超エリート意識の強い政治家なのです。
 ただし、野田新首相は松下政経塾出身者のなかでは明らかに異質の人間です。野田首相は少なくとも首相になるまでは下から目線、国民の目線で政治をやろうとしてきた人です。今度、首相になったのも運だけじゃないと思う。最後は腰の低さで勝ったのだと思います。
 だから彼が首相として腰の低さを維持できるかどうかは非常に注目すべき点だと思います。とくに、大事なことは、やはり人の意見を聞くことです。
 石巻に知り合いの水産加工会社の社長がいて復興に向けて奮闘しておられるので6月にお見舞いに行って話を聞くと、震災直後から何百人もの政治家が来たが、平均滞在時間は15分から20分だといっていました。
 大部分の政治家は携帯のカメラで写真をとって自分のブログで被災地を訪ねたことを発信するのに使っているそうです。
 例外的な国会議員もいたそうですが、1時間以上話を聞いてくれたのはたった3人だけだというのです。
 だから野田新政権に望みたいのはまず話を聞くこと。そしてそのなかでこれは国がやるべきだというものがあればどんな犠牲を払ってもすぐやることです。
 大切なことは、農村、漁村に生きる人たちに希望を与えることです。東京の目線で、この震災を機に農業の大規模化だなどとお説教をしても、絶望感が深まるだけです。そうではなく、何が必要ですか、と聞く。そして必要なものを政府が提供できれば希望が生まれてくる。希望が芽生えれば力が出てくる、力が出てくれば自立心が出てくる。このような動きを援助するのが、政府の役割、政治の役割なのです。


◆守るべきは国土と食料


 今度の内閣は民主党最後の内閣だと私は思います。新政権が成功しなかったら、民主党がおしまいになるだけでなく、日本における政権交代には意味がなかったということになる。政治の混迷が長期化します。
 今度の内閣でいずれ解散し政権交代の意味を問うことになると思います。日本国民全体がこの政治の流れを視野にいれて、政治の建て直しを考えるべきです。政党も各政治家も日本はどのような方向に行くべきか、基本の政策を整備していつ解散してもいいように政治の方向づけを考えなければいけないと思います。
 その際、何が大事かといえばやはり国土を守ることです。そして食料生産をできるかぎり自前でやることです。豊かな農村を育て地方も大都会も平等な水準で生活できるようにしていくことです。そして崩壊している中産階級を復活させていくことです。
 各政府と各政治家が明確な政治方向を打ち出して総選挙の時期を迎えるようにしないと日本の政治は崩れてしまうおそれが強いことを私は強く警告したいです。

(2011.09.12)