食料安全保障の確立は
世界の農業者の共通認識
◆農業者としての共通の立場を
――今回の総会の意義についてお聞かせください。
農業者が団結していくこと、輸入国であろうが輸出国であろうが、そしてまた先進国、途上国だろうと、農業者であるという立場に立ってできることは何かを考え、一緒になって世界に対して発言をしていく、その重要性をひしひしと感じました。
ただし、そもそもなぜ今の時期に立ち上がったのかを改めて認識してもらう必要もあります。元々、世界農業生産者連盟があったわけですが、これが財政的にも破綻し機能停止してしまったことから、別組織をつくることが今年の3月に確認されました。こうした過去の経過があることから、今回はきちんとした定款と財務、運営についての規約をつくって発足させようというのが今回の総会であり、世界の農業者に対して重責を担った新たな組織がスタートしたということです。
――各国の代表からはどんな意見が出されましたか。
やはり食料の安全保障が第一の課題であるということです。そのためには世界にはいろいろな国があってそれぞれの国に農業の形態がある、それをお互いに尊重し合って話し合いをするなかで組織づくりと今後の活動展開をするべきだということでした。
ほとんどの人がそうした考え方でしたが、ニュージーランドはオブザーバー出席でしたが、いちばん最初に貿易の自由化問題を活動に入れるべきだと発言した。食料主権を大事にするという私たちの考えとはまったく違う。
WFOの会員ではないけれども、そういうことを主張する国が厳然としてあるわけで、今後の活動がこういう主張にいわば振り回されるようなことがあってはいけないという思いもあって、私は輸出国、輸入国の立場を乗り越えてやっていかなければいけないと発言した。これには拍手が沸き、多くの人が同じ立場で集まっているんだなということがわかりました。
◆小規模農業者を重視
――南アフリカで開催した意味は?
食料危機で苦しんでいるアフリカで総会を開いたのはやはり食料安全保障への危機感が基本にあったということです。各国とも2050年には食料が今よりも70%も必要になるということを盛んに主張していたし、農業生産が追いついていくのか、われわれは何をしなければいけないのかと問いかけていました。とくに気候変動のリスクも強調されました。
こういう議論を聞いていると、TPP問題がまさにそうですが、食料安全保障という考え方はどこかへ吹き飛んでしまっているようなこの日本は、世界の潮流からはずれた特異な国であるといってもいいと思いましたね。 それから各国の発言のなかでは、小規模な農業者という表現があちこちに出ていました。ブラジルはとくに強調していたし、アメリカのファーマーズ・ユニオンも家族経営が中心だと主張していました。
つまり、食料安全保障のためには農業者の生活が守られなければ、食料生産も伸びていかない。だから農家の収益確保という問題は各国ともかなり強調していましたし、青年、女性の農業との関わり、地位の向上も活動の課題としていこうということについても賛同がありました。
◆原発事故問題も発信
――日本の原発事故問題についても発言されたと伺いました。
まず各国からの大震災への支援活動に御礼を申し上げたうえで、復旧がなかなか進まない現状とともに、私も被爆地広島の出身として農家が風評被害などでも苦しんでいることからも、やはり脱原発を進めていかなければいかんだろうという思いがあり、これは日本からはっきり発信していくべきだと考えました。
総会ではすぐに脱原発をという反応があったわけではありませんが、その後、イギリスの代表と話すと、いまだにチェルノブイリ事故の影響で対応を迫られていると聞きました。そう短期間にこの放射能問題は終わらないということだと思ったし、やはり持続可能な農業に対して放射能問題は大きな脅威になります。
◆重要な役割果たす日本の農業団体
――今後、WFOはどう活動するのですか?
国連食糧農業機関(FAO)など国際機関にも働きかけ、農業者の地位向上や食料安全保障の強化などについて農業者の発言力を強めていくことが第一の課題です。そうした活動には日本が主要な地位を占めることになります。これまでもWFO設立に向けて全中が積極的に関わってきたし、やはり日本が力強く関わっていくことが、WFO全体を盛り上げ引っ張っていくことになると思います。それがひいては日本の農業をしっかりしていくことにもなるし、世界に対して日本の立場を理解してもらうことになると考えています。