「取扱高は社会との接点」 接点の
増加は全農の存在価値を高める
現状について
◆大震災による環境の変化あるが確実に事業は展開
――JAタウンを含めて全農グループの直販事業はもちろん、TACや営農技術センターなど幅広い分野を統括する営農販売企画部の担当常務として、現在の到達点をどのように見ておられますか。
「私はJA全農青果センター(株)の社長を5年間努めてきましたが、その間、常に意識していたのは、企業には導入期、成長期、成熟期がありそして衰退期というライフサイクルがあるということです。青果センターに即していえば、導入期から成長期にはいってきた。これから成熟期に向かうときに、どういうマーケットをめざすのか。そして成熟期に入ったときにはさらにワープしなければ衰退期に入ってしまうという基準で考えてきました」
「そういう意味では営農販売企画部は誕生してまだ2年目です。導入期から成長期に入ったところだと見ていますし、これから成熟期に向かうにはどういう処方箋が必要かと考えています。その中の大きなミッションとして『国産農畜産物の販売力強化』があると考えています」
「中3計画の到達点という意味では、東日本大震災という想定し得なかった販売環境の変化がありますが、確実に“芽だし事業”は展開してきています」
直販事業
◆取扱高を増加することでマーケットの評価が上がる
――販売面では全農直販グループはどういう状況にあるのでしょうか。
「22年度の全農グループ全体実績は6兆2160億円。
そのうち直販グループ6社(JA全農青果センター(株)、全農チキンフーズ(株)、JA全農ミートフーズ(株)、JA全農たまご(株)、全農パールライス東日本(株)、全農パールライス西日本(株))の売上が6000億円で、23年度は6400億円の計画で事業を進めています」
「この売上を7000億円、8000億円に伸ばしていくことができれば、“全農グループの販売力が上がった”というマーケット側からの評価を得ることになると思います」
「売上(取扱高)はいわば社会との接点ですから、接点が増えるということは、全農グループの存在価値が高まるということですし、それは生産者・農家の所得向上のベクトルでもあるという認識をもって進めています」
――マーケットそのものは今後変化してくるとお考えですか。
「各量販店・生協は、高齢化、所得の低下、消費の減少に加え、大震災後のライフスタイル変化といった背景のもと、“2020ビジョン”を掲げています。私たちの販売事業はその受皿ですから、当然、自らの“2020ビジョン”を持たなければ対応できません。産地との連携を考えながら、かかわりを含めて直販会社が統一の目的を持ち提案していけば、力強い“販売力船団”になれると思います」
――そういう認識を直販会社のトップは持っている。
「持っていますし、そうしなければマーケットから支持されないと思います」
(写真)
国産農畜産物の販売力強化と需要拡大をはかる「JAグループ国産農畜産物商談会」。今年は中止されたが来春には開催される。
TAC
◆65万件の面談記録をどう事業に結びついていくか
――生産者と消費者を結ぶ“懸け橋”機能といわれますが、具体的には…
「消費者には、商品で安全・安心を届けることだと思います。生産者には農業経営とか適地適産をアドバイスしたり提案していくことだと思います」
――そういう意味ではTACの活動がますます重要になっていくわけですね。
「TACの活動は平成19年度からですから5年目を迎えています。現在は285JAで1500名のTACが活動しています。TAC版PDCAともいうべき『担い手対応の目的と手順』も浸透し、運動論的には成長期に入ったところだと考えています」
「この1500名のTACから昨年度だけでも65万件の面談記録が上がってきています。ここには法人対策、アウト対策や販売対策などの案件があります。すでに生産と実需のニーズにもとづいた生販マッチングの取り組みも進めてきていますが、さらにこの蓄積されたデータをどう水平展開していくのかとか、深掘りして、事業に結び付けていくことがこれからの課題だといえます」
「そしてTAC全体としてみれば成長期に入ったといえますが、個々に見ればすでに成熟期に達しているJAもあり、こうしたJAではより高いレベルにワープしていかないと衰退してしまいます。そういった意味で、例えばJA全農青果センター(株)などで研修し学んで販売をより身近な課題とするということが必要だといえます」
「一方で、導入期にあるJAもありますので、ここではレベルをアップしていくことが重要なポイントになります。今年も11月24日にはパワーアップ大会を開催しますが、24年度も引き続き300JAの活動参加を掲げて展開していくことにしています」
めざすのは生産者の所得向上と
消費者への安全・安心な国産農畜産物の提供
営農・技術センターと神奈川センター
◆両センターのコラボで業界に大きなインパクトが
――そうしたTACの活動を技術的な面で営農・技術センターが支えているともいえますが、来年の2月にはJA全農青果センター(株)の大和センターが平塚に移転して神奈川センターとなります。これによってどういうことが可能になりますか。
「営農・技術センターの目的は国産農産物の販売力強化につながる商品開発と、生産者の手取りアップにつながる生産技術や農法の開発です。そのために、農研機構や大学の研究室との共同開発も行っています」
「そこに隣接して神奈川センターが設置されるということは、コールドチェーン化やローコストで配送できるなど流通拠点施設として充実すること、営農・技術センターとのコラボレーションによって、各取引先との商品開発、残留農薬検査をはじめとする商品検査、包材開発などが可能になり、業界にも大きなインパクトを与えることになると思います」
――取引先の人たちにとってはサービスの向上になりますね。
「営農・技術センターでは特徴商品の開発も行っていますし、それを試食もできる場所がありますから、見て・触って・食べて、売れるかどうか判断してもらうとか、取引先へのプレゼンなどの可能性は無限大です。これは競合他社にはできないことですから、両センターの平塚での取組みを強化して、全国の産地に発信していきたいと考えています」
(写真)
生産、販売活動を支援する営農、技術センター
業務・加工用野菜
◆確実に契約販売できるような取組みを推進
――販売力の強化ということでは、業務用・加工用野菜の取り組み強化が大きな課題となっていますが、これについて…。
「野菜の国内消費のための仕向量は、1500万tあります。そのうち1200万tが国産で300万tが輸入です。そして1500万tのうち重量ベースで55%は業務・加工用向けで、そのうち、15年前には2〜3%だった輸入野菜が30%を占めるようになった背景があります(22年度農業白書)。つまり、業務・加工用で輸入のシェアが大きくなっているので、このシェアの奪還をはかり国産野菜の消費拡大を喚起しようというのが狙いです」
「そこで園芸農産部と連携して、タマネギ・ニンジン・キャベツ・馬鈴薯・ネギの5品目について業務・加工用に取組んできているわけです。実際の展開は園芸農産部が担っていますが、営販企部としては、適地適産の産地を探し、再生産価格などのデータをキチンと提示して推進する業務を行っているわけです」
「作ればいいという世界ではないので、確実に買い手を捜して、8割くらいは契約栽培ができるような取組みをしていかなければならなりません」
――そこでポイントとなるのは価格ですか。
「そうです。1kg40円とか50円という世界ですから、それに耐えうる低コスト生産ができる経営指標などを盛り込んだ営農提案をしてゆくことになります。品目別の輸入野菜の貿易統計なども見て、差別化できるものを作るとか、同じものを作るなら低コスト生産できる提案をすることも必要です」
JAタウン
◆認知度の向上などで利用者数の増加をめざす
――JAタウン、全農のお店、みのりみのる、ラ・カンパーニュなどの直営店などのリテール事業についてはどうですか。
「共通のプラットフォームを設定し、BtoC事業を通して消費者との直接対話、商品開発・品種の試験販売などを企画しています。また、ここで得られた販売実績や消費者からの情報は取引先の売場の企画や商品提案に活用しています」
――インターネット販売はいま注目の業態ですが、JAタウンの拡大方策については…
「ネット販売を拡大するには、アクセス数の増加、未利用分野への露出、出店数・取扱商品の充実があります。JAタウンでは、アクセス数を増やすために新しくブログやフェイスブックを開設して認知度を向上させて利用者を拡大することを考えています。あわせて全農関連会社の業務用ショップなどをJAタウン内に開設して、全農グループ全体で売上・認知度を高めていきたいと考えています。
(写真)
銀座三越にオープンしたレストラン「みのりみのる」の厨房
これからのこと
◆『選択と集中」の目線で判断し販売力強化にチャレンジ
――最後に今後についてはどうお考えですか。
「24年度の計画はいま策定中ですが、現在、幅広く展開している営販企部の事業を『選択と集中』の目線で判断し、結果を求める実施具体策を掲げていくつもりです。そして確実な数値を担保し、次期3か年計画のベースにしたいと考えています」
「繰り返しになりますが「取扱高は社会との接点」です。全農グループの取扱高が伸びることは、社会に対して貢献度が増すということです。そしてそのベクトルは、現行の3か年計画で掲げた5つの使命のなかの、生産者・組合員の手取りの最大化と、消費者への安全で安心な国産農畜産物の提供の2点と同じベクトルです」
「23年度事業の中でいまは折り返し点。前半は東日本大震災という大きな出来事があり、原発問題という終息の糸口が見えない生産・販売環境が続きましたが、後半は私たち全農グループは生産に関しては農業復権に向けて全力を注ぎ、販売に関しては引き続き国産農畜産物の販売力強化にチャレンジしていきます」
――ありがとうございました。