ライスセンター再編で
コメの高品質化ねらう
(写真)広域ライスセンター和田。4基の350tサイロは遠くからでもよく目立つ
◆業務用ニーズに応える
JA松本ハイランドは長野県のほぼ中心に位置し、上高地、美ヶ原などに囲まれた標高600〜1000mの高原地帯だ。スイカの一大産地として有名だがコメ生産も盛んだ。水稲作付面積約3000ha、生産量約1万8000tは、いずれも長野県全20JAの中で5番目に多く、生産されるコメの9割以上がコシヒカリだ。
JAの農産物販売額は22年度実績で200億円強、そのうちコメは38億円ほどだが、平成19年度から6カ年の長期構想の中で農産物販売額230億円をめざすプロジェクトを進めている。
この長期構想でコメ事業の販売戦略は、現在のJAへの集荷約18万俵ほどから、管内全生産量の7割ほどになる20万俵の集荷などを目標に掲げている。
コメ事業でなにより力を入れているのは品質・食味の向上や均一化などの取り組みだ。というのも、同JAのコメは近年、業務用として需要が高まっており、それら業界からのニーズとして品質と食味の均一化や安定供給が強く求められているからだ。
JAではこうしたニーズに応えるため、コメ品質向上対策として各地区のライスセンター再編を計画している。広域ライスセンター和田はその皮切りだ。
今回の構想では、新センターで一括乾燥調製することで、地域内のコメの高品質化を図る。同JAは現在11のライスセンターを持つが、センター別に品質分析を行うと整粒割合が75〜87%となり地域ごとに品質の差がある。中核的な大規模センターを中心に据え、その近隣センターをサテライトとして位置づけ、最終的にすべてのコメを中核施設に集めることで地域間の品質格差解消を狙っている。
今後の具体的な再編計画は未定だが、伊藤茂・JA松本ハイランド代表理事組合長は「当JAは管内が広く都市部、平野部から中山間地までさまざま。特に中山間地の農業は環境保全、生物多様性、鳥獣害対策などの面でもこれからさらに重要さを増していくので、JAとしてもしっかりサポートしていきたい」と展望を話す。
◆サテライト方式で集荷効率化
広域ライスセンター和田は老朽化した既存の和田新ライスセンターに替わる大規模施設として竣工された。
センターが対象とする地域は和田、新村、神林、笹賀、芳川、今井の6地区だ。地域の水稲作付面積計338.4haの約9割を占めるコシヒカリが、新センターに直接あるいは既存2センターでの粗乾燥を経て集められ、一括して仕上げ乾燥され調製、貯留、出荷される。
新センターの1日最大荷受可能量は150tと従来の1.5倍に増え、大型のサイロを備えたことで最大許容量は5倍ほどに増えた。これまで荷受けが集中すると持ち込めなくなるという課題が解消され、適期収穫が可能になる。
またライスセンターのない地区は近隣の各ライスセンターの状況に応じて持ち込んでいたが、これから最終的にはすべてのコメが新センターに集められるため集荷効率の改善が見込め、センターの稼働率も上がると期待される。
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コメの荷受の様子。トラックスケールを2基設置しスピーディな荷受けが可能に
◆バイオマス資源利用し、コスト削減
ライスセンターの運営上大きな課題となるのがコストの削減だ。中でも燃料費の対策として新センターが導入したのが国内初となる「籾ガラ熱風発生システム」である。
一般的な乾燥施設では乾燥のための熱源に石油燃料を用いるが、このシステムではバイオマス燃料である籾ガラを燃やした熱風を利用する。石油は籾ガラを着火する際、わずかに使用するだけだ。
籾ガラはコメが集荷されれば手に入るので、燃料代の削減になる。また、将来的な石油価格などの変動に左右されず、コメさえ集まれば安定的にセンターを運用することができるという長期的視点でみたメリットも大きい。
燃焼炉で籾ガラを燃やし、熱せられた空気が熱交換機を通り熱交換率8割という非常に高い効率で熱風に変わり乾燥機へ送られる仕組み。過去にも籾ガラを熱源として穀物を乾燥させるシステムはあったが、燃やした炎をそのまま熱源として利用していたため、コメに煤や匂いがつくといった問題があり実用的ではなかった。その点、このシステムでは熱交換機を間に挟むことにより、炎のエネルギーを熱風に変えてクリーンな熱気のみを乾燥機へ送りこむことに成功した。
石油をほとんど使わないためCO2削減になり、地域資源の有効活用にもつながるなど、環境保全にも貢献している。
全体のプラント設計を担ったのはクボタだが、システムを開発した静岡製機の試算によると、ランニングコストは年間350万円、CO2排出量は年間約110tの削減になるという(いずれも300ha規模、灯油価格は1リットル80円で試算)。
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籾ガラの燃焼炉
◆園芸農家の利用拡大も視野に
センター管内の生産者代表らで組織する広域ライスセンター和田利用組合の赤羽治重組合長は、「このセンターが地域の中心になり、高品質なコメが供給できると期待している。何より日本初のシステムがこの地域にあるというのが誇らしい」と胸を張る。
センターでは、籾ガラを燃した際の副産物である灰を土壌改良材として二次利用し、地域内循環型農業に貢献していく計画もある。
JAの果実・野菜販売高は全体の65%となる128億円だ(22年度)。センターの周辺地域でも園芸農家は非常に多い。市販の土壌改良材は10kg1袋で800〜1000円ぐらいだが、センターから出る灰を活用すればこの半値ほどで販売できるとの試算が出ており、すでに多くの問い合わせがあるという。赤羽組合長は「コメ農家だけでなく、園芸作物を主とする組合員も多く利用してほしい。何より自分らの地域から出たものだから安心して使える」と期待を込める。
JAでは副産物の二次利用について、センター管内を優先した流通・販売の仕組みや使い方の指導なども含めて体制整備をすすめたい考えだ。
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赤羽治重・広域ライスセンター和田利用組合組合長
「地域全体の農業活性化につながる施設を」
伊藤茂・JA松本ハイランド代表理事組合長
JAでは、大規模な担い手も、中山間地の小規模の組合員も、みんなが元気を出して農業ができるよう、しっかりした指導体制や施設などの整備をすすめたいと考えています。広域ライスセンター和田はそれを実現する施設として期待しています。例えば、コメ農家だけでなく園芸農家を支援するという意味でも、センターから出た灰で安価な高品質の土壌改良材をつくり地域に配布するのは非常に有意義でしょう。まだセンターは本格稼働したばかりですが、来年には実現できるよう仕組みづくりを考えていきたいと思います。
◆意識改革のきっかけに
また、福島の原発事故が起きてエネルギー政策が注目される中、地域にすでにある資源を有効活用し、地域循環型農業のモデルとなる施設ができたのは非常に大きな意味があるし、他のJAのモデルになれば嬉しいです。
もちろん組合員の中には、「従来のやり方で安定しているんだから、新しいものをわざわざ入れなくても…」という意見もあります。ただ、JAとして新たなライスセンター構想を進めることが地域農業発展のために必要だということを訴えていくとともに、組合員にとってエネルギーや環境保全に対する意識改革のきっかけとなってほしい。
今は、農産物の価格が高いか安いかということでしか判断されない時代ですが、こういった施設をつくることで、JAは単に農産物を集荷して販売しているだけではなく、環境対策や地域活性化などにも取り組んでいるということを、地元の消費者のみなさんにも理解して頂けるのではないかと期待しています。
【施設の概要】
敷地面積:6799.75平方m
建設面積:1423.61平方m
処理量:玄米1605t、乾籾2006t
サイロ:350t 4基
貯留ビン:50t 10基
籾ガラ熱風発生システムのイラストと、環境に優しい循環型農業のモデル図。コメの副産物を利用して、地域農業の発展をめざす