経営安定が実現できる水準が必要
肉用子牛生産者補給金など
酪農
◆生産者の意欲増大を 初生牛価格も下落
生乳の生産は22年度の猛暑で生産量が減少したことから、23年度は生乳生産基盤の安定・強化を図るため、生産者団体は増産型の計画生産を実施することとしていた。
しかし、東日本大震災の発生による生乳廃棄が発生したことや、昨夏も2年続きの猛暑となったことなどから、23年4―12月の生産量は560万tと前年度比▲2.7%(北海道▲0.7%、都府県▲4.8%)と22年度よりもさらに減少することが見込まれている。
一方、配合飼料価格は直近では値下げとなったものの農家実質負担価格は1tあたり5万6350円(23年10―12月期)で、19年の4万5000円水準にくらべ1万円以上負担が増しており、高止まりの状況にある(下図)。
また、初生牛(ヌレ子)価格は、23年6月では交雑種で1頭14万9000円だったが、昨年12月には同8万2000円に下落した。
乳用種も同期間で同6万円が2万6000円へと下がっている。飼料コストが高い水準で推移するなかで、副産物収入も減少するという厳しい経営環境だ。
このためJAグループは、脱脂粉乳やバター向けとなる加工原料乳の生産者補給金単価(現行11.95円/kg)は、生産者の生産意欲の増大をはかり、生産基盤の回復・拡大を実現できるよう「現行以上」とする必要があると要請している。
同時に、近年では生乳需給の過剰と不足のサイクルが短期的でかつその振れ幅が大きくなる傾向にあることから、加工原料乳の限度数量(現行185万t)は、バター等乳製品の安定供給をはかる観点などから、「現行を基本に適切に決定する必要がある」としている。
畜産
◆価格下落で経営厳しく十分な所得確保を
肉用子牛の取引価格のうち、黒毛和種は22年度は回復基調で推移したが、東日本大震災発生による牛枝肉価格の低下にともなって低下。23年度第3四半期では1頭39.8万円となり昨年末から回復傾向が見られるが、震災発生前の水準には戻っていない。
また、乳用種については、19年度以降、取引価格が継続して保証基準価格(1頭11.6万円)を下回っているという厳しい状況にある。一方で配合飼料価格は高止まりしているため経営状況は厳しいといえる。さらに23年4月に家畜伝染病予防法の一部改正が施行されたことによって、家畜疾病の発生予防のための労働時間の増加や衛生費の増加なども生産費増の要因となることが見込まれる。
こうしたことからJAグループは、子牛価格や生産費の状況をふまえ、肉用子牛の保証基準価格(現行:黒毛和種31万円/頭、褐毛和種28.5万円/頭など)は、「十分な所得を確保できる支援水準」となるよう適切に決定することを求めている。
◆安定価格は現行を基本に
牛枝肉価格は、東日本大震災の発生による消費の減退や、原発事故による暫定規制値を超える放射性物質検出の影響で下落している。去勢和牛A4は昨年4月には1kg1600円台だったが、8月には同1300円台に下落。交雑去勢B3も同1200円台が同700円台にまで急落した。
今年1月には去勢和牛A4は同1513円、交雑去勢B3は同948円と回復の兆しはあるが、震災発生前の水準には戻っていない。
また、乳用種は乳用去勢B2が1月で同351円と価格回復の兆しはなく低迷が続き、肉用牛肥育経営に打撃を与えている(下図)。
一方、豚肉価格は23年度上期は高めで推移したが、下期は安定基準価格(400円/kg)を下回る水準まで下落、年間を通じた養豚経営としては厳しい状況だ。
こうしたことから、JAグループは▽牛肉の安定価格は肉用牛経営の経営安定のために現行を基本に適切に決定すること、▽豚肉の安定価格は需給と養豚経営の安定をはかるために現行を基本に適切に決定するとともに、相場下落局面においては機動的かつ弾力的に調整保管を発動すること、を求めている。
現行の安定価格は、安定上位価格:牛肉1060円/kg、豚肉545円/kg、安定基準価格:牛肉815円/kg、豚肉400円/kgとなっている。
畜産物の安全・安心対策も要請
◆納得できる検証を―牛肉輸入問題
今回の要請では国産農畜産物の安全・安心対策も求めた。
そのひとつが牛肉輸入規制緩和問題だ。
昨年11月にハワイで開かれたAPEC日米首脳でオバマ大統領は日本に対し輸入制限の撤廃を求め、それに対して野田首相は「BSE対策全般の再評価を行うことを決定し、規制緩和に向けた手続きを開始した」と回答。 その後、厚労省は12月に食品安全委員会に▽輸入を認める月齢制限を現行の20か月齢以下から30か月齢以下とし、その後さらに引き上げ、▽国内の検査対象月齢を現行の20か月齢超から30か月齢超とし、その後さらに引き上げ、▽除去すべき特定危険部位(SRM)の範囲の見直しなどを諮問した。
さらに輸入を認める国の対象としてこれまでの米国、カナダのほかフランスとオランダも加わった。この問題については消費者からも政治的な判断が優先されてはならないとの批判も強い。
わが国の牛肉については▽牛の肉骨粉の使用禁止、▽BSE検査の全頭実施、▽発生状況調査、▽全頭に耳票をつけるなどの牛個体識別システムによるトレサービリティ制度、さらに▽肥育成長ホルモン剤使用規制などが行われ、食肉の安全・安心確保策が行われている。
これに対し米国では、一部の牛・牛のSRM由来の肉骨粉の豚と鶏への使用は可能で、飼料工場段階で牛の飼料に混入する可能性が否定できない。また、食肉に対するBSE検査は実施されておらず、トレーサビリティシステムはない。月齢の確認は歯列による判定のみで、正確な判定は困難と指摘されてきた。このように国民の生命に関わる大きな問題があることから、JAグループは米国からの圧力で規制緩和することは断じて許されるものではないと主張、納得できる科学的根拠に基づき検証を十分に行い、「消費者等の納得が得られない限り規制緩和は行わないこと」と強く要請している。
◆風評被害対策など万全の対策を
原発事故による食品の放射性物質による汚染問題も課題が多い。
厚労省は食品中の放射性物質の暫定規制値を見直し、一般食品は現行の500Bq/kgを100Bq/kgに、牛乳は同200Bq/kgを50Bq/kgとする基準を示し4月から施行する予定としている(下図)。これをふまえ農水省は牛用飼料の暫定許容値を100Bq/kg(現行は乳牛用・肥育牛は300Bq/kg、繁殖牛・育成牛は3000Bq/kg)に見直して施行した。
こうした見直しにともなってさらに被害の発生が懸念される。
JAグループは▽行政による検査体制の早急な構築(検査の品目・区域・方法の明確化と必要な検査体制の構築、国の責任による新基準値を超えた農畜産物の隔離対策の実施など)、▽生産対策(早急な除染の実施、汚染された農畜産物、稲わら等の隔離・保管と早急な廃棄など)、▽風評被害対策(積極的なリスコミの実施、検査結果の一元的な情報提供など)、▽迅速かつ万全な損害賠償、▽消費拡大・輸出対策を政府に要望していく。
東電による早期賠償も含め国の責任による徹底した対策が求められている。
◆飼料穀物備蓄のあり方検討を
畜産・酪農経営に打撃を与えている高止まり傾向にある配合飼料対策も課題だ。
今回、JAグループは配合飼料価格安定基金について、価格高騰時の補てん財源が不足することがないよう、国が2分の1を積み立てている異常補てん基金の活用などを検討し、生産者への補てん金を確保するよう求めている。
また、飼料穀物備蓄について政府は22年度の事業仕分けで23年度末までに20万tに引き下げることとした。穀物備蓄20万tは約5日程度の供給量でしかない。そのなかで東日本大震災が発生し、国は35万tの備蓄穀物を放出した。24年度は予算概算要求で40万t水準を要求したが、提言型事業仕分けの対象とされ、20万tに引き下げられた。
こうしたことから今後も不測の事態に備え、畜産農家・酪農家に安定的に飼料が供給できるよう、飼料穀物備蓄は60万tを確保することを求めている。また、JAグループは、今後、飼料穀物備蓄のあり方を検討することが必要であることも強調している。