3Q訪問活動を基軸に組合員の生命と財産を守る
営農復興、損害賠償申請にも全力
◆「とにかく顔を出せ!」
JA伊達みらいは管内を東西南北4つのエリアごとに合計30支店を配置している。4エリアのうち震災の被害がもっとも大きかったのは国見町、桑折町を中心とした西部エリアだった。幸い人的被害はなかったものの、多くの組合員宅が地震で全損などの被害を受けた。
震災発生の翌日、土曜日ではあったが全職員が集まり手順を決めて被害調査に取りかかった。組合員から被害を訴える電話もかかってきたが、JAの支店も含め多くの地域で電話はつながらず、また、停電のために共済オンラインから組合員情報を引き出し基礎データを確認することもできない状況に陥った。
そのなかで舟山常務から出された指示が「とにかく顔を出せ」。
「被害を受け心細く思っている組合員も多い。被害の調査は改めて実施することにしてともかく共済担当職員は組合員宅を回ろうというのが最初の指示でした」と長沢寿幸・金融共済部長は振り返る。 とはいえ、震災でライフラインが寸断され被災地でガソリン不足が発生、JAのSSにも早朝から車が殺到するなどの混乱にも対応しながらの組合員宅訪問だったという。
(写真)
JA伊達みらい本店
◆丁寧な被害調査を
全国本部から支援物資のブルーシートが届けられると、その配布活動も行い、3月15日からは全国本部、県本部の職員の応援も得て被害査定のための調査をスタートさせた。
全国・県本部からの職員は1日20人から30人。JA職員と2人で班をつくり、1班あたり1日8〜10軒程度を回った。調査作業は休日返上で続けられた。
しかし、4月と8月には被災地を大きな余震が襲った。これによって、たとえば建物のひび割れが拡大したり、被害のなかった建物にも損傷が出た。そのため再調査が必要となるケースも続出したという。
こうした困難な状況のなか調査にあたってJA職員は「すべての部屋を見て回る」ことに心がけたと話す。
「組合員のなかには自分で見える範囲だけが損害を受けていると思っている人もいました。だから、今回は共済金支払いに該当しないのでは、と思い込んでしまっていた。ところが家の中や周囲をよく調べるとあちこちが傷んでおり、当然、共済金支払いの対象というケース。それを見逃さないように、ということでした」。
組合員や契約者のなかにはJA共済の「建更」が地震被害も対象にしていることをそもそも認識しておらず、JA職員が各地で訪問活動を展開していることでそれを知ったという人もいて、JAの活動によって地域に安心感が広がったという。
(写真・左から)
野田吉基・自動車査定課長、佐藤智・共済課長、長沢寿幸・金融共済部長
◆3Q訪問で信頼獲得
調査を続けるなか、JAは7月に組合員・契約者のすべてに共済契約確認のための便りを発送した。とくに家財に対する共済契約を確認することが目的だった。JAからの便りを受け取った組合員のなかには家財を対象にした契約を結んでいたことにその時点で気がつき回答をJAに寄せた。たとえば、建物は無事でも家財に大きな被害が出ていた場合でも対象になるわけである。
JAはこうした組合員からの回答をもとに調査のための訪問活動を続け、そのうえで11月から12月にかけてまだ訪問できていない組合員宅に対して3Q訪問活動を実施、こうして震災発生から年末までに全戸に対して「JA」が訪問することを実現した。
その結果、共済金支払い状況は支払い総件数2万4168件。総額は建物が約152億円、家財が約45億円となっている(3月12日現在)。 同JAでは例年3月から4月にかけては、新規に着任したLAに対して研修を実施、共済の知識や事業展開方針などを身につけてもらう予定になっているという。しかし、昨年は大震災発生で新LA職員もいきなり組合員宅を回り被害調査にあたることなった「異例の1年」だった。本来であれば推進業務の先頭に立つところだ。
しかし、契約についてみれば昨年の後半から長期共済契約が急増し始めたという。同JAの新年度は2月からスタートするが、この2月は前年比で3倍以上の建更の新契約が結ばれたといい、これは24年度目標の25%分を達成したことになるという。
新年度も組合員と契約者の生命と財産を守るため、3Q訪問活動を基軸に、組合員以外のニューパートナー獲得を目標に「ひと・いえ・くるま」の3つをセットにして普及推進活動に力を入れる方針だ。
◆除染が最大の課題
一方で営農部門では厳しい課題が立ちはだかる。いうまでもなく原発事故による放射性物質の汚染問題である。
政府による放射性物質による汚染実態についての情報開示の遅れが最大の原因だが、モモ、ウメ、サクランボなどの果樹地帯の同JA管内では事故発生から農産物への影響について不安を抱えながらの農作業が続いていたが、5月にウメが出荷制限を受けるとその不安が現実になった。
主力であるモモでは摘果して自主検査するなどモニタリングを続けたが、結果的には出荷制限を受けることはなく販売が可能になった。
しかし、風評被害が産地を襲った。JAへの出荷は例年の3割増で出荷がピークとなった8月初旬の選果場では早朝から翌日朝まで作業が終わらない日々が続いたという。ところが価格は半額に。同JAのモモの販売額は30億円ほどあるが、23年産では集荷量が3割増えたにもかかわらず21億円に落ち込んだ。また、あんぽ柿も主力産品で生果では暫定規制値を超えるものはなかったが、あんぽ柿は乾燥させることから加工を自粛。例年18億円ほどある販売額はゼロになった。
こうしたなか昨年12月から果樹については高圧水による樹体洗浄が行われてきた。伊達市全体で連日、農家など2000人が作業にあたってきた。そのうえであんぽ柿については生産者部会の総会で24年産では加工・販売をめざすことを決めた。一方で稲の作付けについては管内に作付け制限区域もあるなど24年産も苦境が続く。
営農の復興には大きな課題が残るが、「農家には産地を再生していくんだという気持ちは強い」(営農生活部指導販売課・芳賀武志さん)。安全性や産地の実態について消費地への情報発信にも力を入れる。
(写真)
果樹の表皮を高圧水で除染。1日2000人で進めてきた