◆村のお金は村の者に
「ドイツ農村信用組合の父」とされるライファイゼン(1818〜1888年)の精神は、再生可能エネルギー分野において装いも新たに現在も脈々と生きている。再生可能エネルギーの儲けをエネルギー会社や外資等の大企業に渡すのでなく、自らが経営し、「村のお金は村の者に」落とし、地域内経済循環をつくるための協同組合である。右の写真は、その精神を表現している。再生可能エネルギーの拡大は好ましいことだが、その収益が地域社会に還元されなければ意味がないのである。
レーン・グラブフェルト郡は、人口約8万4千人、集落数は100集落、農業経営は1467戸であり、経営規模別にみると50ha以下1150戸、51〜100ha167戸、100ha超147戸である。ドイツの中部山地に位置する穀作+畜産(繁殖牛等)の複合農業地帯であり、ドイツの中でも小規模農業地帯である。変革がなければ、農業の将来は厳しいとみられているが、その救済策として期待されるのが再生可能エネルギーである。ここは風力、太陽光、畜産・森林バイオマス等の再生可能エネルギー資源の宝庫であるが、こうした地域において、資金力のある大企業や外国のコンサルタント会社等による風力や太陽光の囲い込みのための土地購入が活発になってきているという。
こうした動きに対抗するため、郡では「アグロクラフト社」(有限責任会社)を設立した。出資構成は、バイエルン農業者同盟50%、郡のマシーネンリンク50%である。代表取締役は郡長である。ここが太陽光、熱供給、バイオガス等の様々な再生可能エネルギープロジェクトを企画し、それぞれのプロジェクトが最適に自立できるように主導している。これらのプロジェクトを運営するために、村ごとに農村信用組合と同じ理念でつくったのが「ライファイゼン・エネルギー協同組合」である。
(写真)
「村のお金は村の者に」というスローガンを掲げたライファイゼン・エネルギー組合の立ち上げ
◆エネルギー生産を地域経済に取り込む
事業運営に不可欠なのが資金力である。住民に資金がないかといえばそうではない。みんな銀行に貯蓄する等により分散した形で持っているのだが、この分散した資金を地域のエネルギー生産企業に投資することにより、地域的な経済循環に取り込もうということだ。エネルギーを外部に依存するのでなく、内部で確保しようということになると、多様な技術、規模、経済性のある再生可能エネルギーで対応せざるをえない。ドイツの研究機関は、再生可能エネルギーのもっぱら効率性しか研究しておらず、しかし重要なのは新しい技術を地域でいかに活用できるようにするかだという。
グロースバール村(人口約千人)の協同組合は、組合員数が250人でほぼ全世帯が参加している。本村には、風力、太陽光、バイオガス、地域暖房網等の再生可能エネルギー設備があり、出資に対しては配当がある。現状では、太陽光発電の経済性いかんが配当に影響しているようだ。2008年にはこの一つの協同組合であったが、今日では郡内に23の協同組合が設立されており、その組合員は2200人に及んでいる。
◆「風」を売ることは「土地」を売ることと同じ
今後、風力発電はますます増えることが予測されており、CO2取引目的も含め大企業にとって風力発電はビッグビジネスになっている。風力の制約要因は、何と言っても立地問題である。そのために土地争奪戦が繰り広げられているのだが、その土地は風車設置地点の土地だけでなく村全体の土地の問題となるという。つまり風の通り道を妨げてはいけないので、かなり広範囲の土地利用を制約せざるをえないのである。企業は風力適地を交換分合しながら買い取って団地化していくのであるが、自分の土地は皆のもので売ってはならないと指導している。つまり風の問題は、土地所有の問題であるのだ。
この場合も協同組合が重要な役割を果たす。多くの地権者が複数の企業と契約するとなると、かなり混乱するし儲けも地元には落ちない。これに対し、地権者等によるエネルギー協同組合をつくれば、交換分合しなくても土地は団地化しており、その上でもっとも条件の良い企業に外注すれば儲けも協同組合に残る。住民自身のプロジェクトであり、全体で協議しながら計画を立てるので反対も起こらない。
◆協同による新しい農業の多様化
小規模経営が生き残る道は、これまでは穀作に野菜や畜産を組み合わせる複合化だった。あるいは、単作型大規模化だった。しかし、今日では、協同で運営するバイオマス企業にトウモロコシ等を納入したり、多様な協同組合に参加する、あるいはそこで働くなど、「開かれた参加型」経営が展開している。農業内の大規模経営に閉じこもらず、規模は小さいままで、広く参加していく、これが今日の農業経営の多様化である。どんぐり、ミツバチ、エビ、酪農(バイオガス発電)など再生可能エネルギーを含め多様な協同組合がある。小規模経営のもとで、大型技術、規模拡大、大量販売の追求は、矛盾を引き起こさざるをえない。
北部ドイツでは企業型の大規模バイオマスエネルギー事業が進んでいるが、農民は飼料やふん尿を供給するだけの立場に陥っている。そうではなく、参加型経営によって生き残りを図り、地域的な経済循環を構築していくことだ。これこそが世界経済危機への回答であり、農村地域を発展させるための中心的課題は、新たな非集中的・分散型エネルギー供給を実現しうる企業構造をつくることであるという。その企業構造の核心には、地域に密着した小さな協同組合がある。
ドイツ農村のこの協同組合運動の原点ともいうべき道こそ、わが国の農村再生にも不可欠な道ではないのだろうかというのが、今回の現地調査から得られたわれわれの結論である。
(第1回 「100%再生可能エネルギー地域」をめざす 村田武(愛媛大学・教授) はこちらから)
(第2回 「バイエルン州の農業経営とバイオガス発電」板橋衛(愛媛大学・准教授) はこちらから)