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JC総研の新研究所長 鈴木宣弘・東大教授に聞く

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JC総研の新研究所長 鈴木宣弘・東大教授に聞く「農業・農村の課題解決に危機感持ち研究・発信したい」

・研究者として参画
・厳しい現状に向き合って
・多面的機能の指標づくりも
・地域全体を支えるJAに期待

 4月からJC総研の新研究所長に東大の鈴木宣弘教授が就任した。TPP問題はもちろん高齢化や耕作放棄などが進行する農業、農村が抱える問題について現場から解決策を示す研究とともに、JAの存在意義も含め広く国民に情報発信していきたいという。就任にあたって抱負などを聞いた。

◆研究者として参画

JC総研の新研究所長 鈴木宣弘・東大教授 ――まず所長としての抱負をお聞かせください。
 就任を依頼されたとき、農業協同組合が全国各地で地域を支えているということの意味をきちんと世の中に発信することに私も踏み出せればという思いでお受けしました。
 同時に地域でこれだけいろいろな取り組みをやってきているにも関わらず、なかなか状況が改善しないという問題もある。耕作放棄、高齢化が進行し、TPP問題を抜きにしても地域を訪ねれば10年後は厳しいという声はどこでも聞くわけです。
 これを何とか改善しなければいけないという思いはみな同じですが、自分としてもできることを考えてみたいという思いも強くありました。
 ですから、所長というよりは研究者としてJC総研の研究、発信がさらに発展するように参画するというイメージです。
 JC総研はJA組織のなかでも日々の実務に追われてしまいがちな組織とは違い、これからの方向性をしっかりと議論し発信する機関なわけですから、ここが相当の覚悟を持って提案をしていく。消費者、国民に対してもJAががんばっている本当の姿、農業の現場でがんばっている本当の姿をしっかり伝えるためにさらにがんばらねばならない立場にあるわけです。
 もちろん、これまでもJC総研は相当な発信をしており私自身も活用させてもらってきました。機関誌、叢書、あるいはネットで、たとえばTPP問題でもいい情報が出ていて大変参考になっています。それをさらに多くのみなさんに届くようにしていきたいということです。


◆厳しい現状に向き合って

 ただ、一方でわれわれが農業現場の現状や努力を発信しても、本当に成果は出ているのか、と一般の厳しい目があることは事実です。たしかに一部のマスコミ報道には問題があり、たとえばTPPでも農業やJAが悪いという構図にし、ほかの問題点が見えないようにしていくという意図的な論調もあり、それを鵜呑みにしている人がいることも確かですが、それだけではない。
 農業に関わるものとして本当に現場の実態を好転させるために目に見えるかたちで何かできているか、といえば危機感もあります。ここは真剣に取り組むべき正念場だという気がしています。

 ――具体的な研究テーマについてのお考えは?

 たとえば、担い手や農地の状況を分析して10年後、20年後はどうなるか、それを日本全体として整理して示し、そのなかから方向性を見つけ、何をしなければならないかを見出す、というようなことです。
 私の場合はとくに事例的な研究というよりマクロ的な研究をしてきていますから、日本の農業、農村を全体像としてどう捉えるかという視点を入れられないかと考えています。


◆多面的機能の指標づくりも

 それから国民の理解を広げるためにも、農業の多面的機能の具体的指標についても整理したいですね。私はずっとこれを主張してきましたが、国にしても取り組みが進んでいません。
 多面的機能が大事だということは訴えていますが、具体的にそれは指標としてどういうものであり、こういうメリットがあるから、この補助金があるということが分かる研究は実はほとんど進化していない。
 たとえば、カリフォルニア米が安く入ってきて結構おいしいじゃないか、それでいい、日本でなぜ農業をやらなければいけないのかという人が実は多い。農業が日本にある価値とは何かということについて国民が考えていないということです。他の国ではその点について相当な議論と生産者と消費者の絆もある。
現場からの働きかけを
 なぜこういうことになってしまったのかということですが、やはり生産サイドの働きかけが足りないんです。作る側の責任もあると思いますね。食料を作って提供し続けている価値について伝え切れていない。
 それを共同責任として反省し、人が悪いのではなくて自分たちの発信力に問題があると受け止め、そのためには人々が理解できる具体的なものに基づいて価値観を共有することが必要なわけですから、その材料となるような研究が求められていることは間違いない。そこも重要なポイントです。
 それからたくさんの誤解があることも事実で、その誤解を解くことにも取り組まなければなりません。ここは農業にいちばん携わっている人々が率直に語りかけて消費者と納得しあう。本当に農家もJAも一生懸命やっているわけですが、そのことがうまく伝わっていく方法を考えなければならないと思っています。


◆地域全体を支えるJAに期待

 ――これからのJA像として今期待されていることは?

 地域全体を支えるのもJAの重要な役割だと思います。
 そこはまさにJAはどうあるべきかという議論と関わってくるわけで、JAも農業生産だけではなく地域の生活そのものを支えるため、いろいろなものが不足してきたらそれを担ってリードするようなかたちで地域そのものを活性化するための役割をどんどん広げていく。
 実際にそうなっているJAもありますが、地域協同組合的な地域を支える機能がJAにもっと求められてくると思います。
 私も各地を訪れて実感していますが、地域の機関として機能を発揮しているところは農家だけではなくて地域住民がJAを頼りにしているわけです。JAが地域から支持されることが必要でそのためには地域をいろいろと支える機能を果たしていて本当に役に立っているな、ということを実感してもらう。そうなれば農業、農協への理解も深まるということも非常に強く思っていることです。
 ――ありがとうございました。

(2012.04.23)