◆健康に留意し防護装置を着用して
国の「24年度農薬危害防止運動」では、使用者(生産者)の安全と農薬使用時におけるほ場周辺の住宅や住民への配慮を重点的なポイントとしている。
使用者の安全については、常にいわれていることではあるが、▽使用者が睡眠不足や病中病後など体調が万全でない状態で散布作業などに従事しないこと、農薬の調製や散布を行うときには、農薬用マスクや保護メガネなどの防護装置を着用し、慎重に取り扱う、▽農薬を散布にあたっては事前に防除器具などの十分な点検整備を行うなど、事故防止対策をきちんと行うことが強調されている。
また、農薬を飲料用ペットボトルなどに移し、しかも保管管理が十分でないため、飲料と間違えて「誤飲」される事故も「散見される」ことから、「農薬やその希釈液、残渣等を飲食用の空容器等へ移替えしない」ことや「全ての農薬について、安全な場所に施錠して保管」するなど、保管管理に十分注意することも強調されている。
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農薬メーカーなども協賛のポスターを作成(シンジェンタ ジャパン社の今年のポスター)
◆周辺住民とのコミュニケーションを大事に
ほ場周辺の住宅や住民への配慮としては、▽飛散が少ないと考えられる剤型を選択する、▽飛散低減ノズルの使用、▽風速や風向きに注意する、ことはもちろんだが、日頃から地域住民コミュニケーションを密にし、使用日時などを事前に知らせることも大事だと指摘している。
そして、当然のことだが、使用する農薬は農薬登録がされたもので、適用が認められている農作物に対して、ラベルなどに記載されている使用基準を守って適正に使用することが前提となる。
◆使用方法を守ることが農産物の安全に
JA全農は、長年にわたって「『農作物、農家、環境』の3つの安全のための基本を守る」ことを「安全防除運動」の基本に据えて運動を展開してきているが、「防除対策の基本」は、▽病害虫・雑草が発生しにくい環境をつくる、▽発生状況を確認し、適切な資材を適正に使う、▽適切な防除ができたか確認する。
そして「農薬使用の基本」は、▽農薬ラベルの確認、使用法を守る、▽周辺への飛散防止対策をする、▽管理の徹底と保護具の着用をあげ、「農薬の使用方法を守ることが農作物の安全につながる」ことを強調している。
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「農作物、農家、環境」の3つの安全を訴える全農のチラシ
◆防除暦を活用して正しく防除する
水稲や果樹などの主要な農作物についてはJAや各地域で「防除暦」が作成され、生産者などに配布されている。したがって、この防除暦に従って正しく農薬を使用して防除し、使用農薬や使用日、希釈倍率などを生産履歴として記録して残すことが、安全防除の基本になると全農では考えている。
上園孝雄全農肥料農薬部長は本紙のインタビューに答えて「防除暦を活用して正しい防除をするのは世界的に見ても日本が一番しっかりやっています。その結果として日本の農産物くらいクリーンなものはありません。水稲とか果樹ではほぼ完璧です」と語っている(関連記事)。
◆すべての作物に防除暦を
しかし、地域の伝統野菜を中心とした野菜類で防除暦を作成しているJAは必ずしも多くはない。
そのため全農では、野菜類を中心に全国のJAを対象として防除暦の作成状況の調査を行う予定だ。
そのうえで「どういう暦なら指導のツールとなるのか」を検討したうえで、「モデルを示し」、全JAで「主な作物の防除暦をつくってもらう」取り組みを展開することを考えている。
できるだけ多くの農作物を対象に防除暦を作成することで、病害虫や雑草が発生したときに、耐性・抵抗性問題や使用時期などが、防除暦によって、どういう薬剤をどのように使用すればいいのかが「見て分かる」ようになるからだ。
もうひとつ全農が安全防除面で取り組もうと考えているのが「農産物直売所へ出荷する生産者への農薬の適正指導をどのようにすすめていくか」だ。
そのため、JAで、直売所に出荷している生産者への指導内容や課題を抽出し整理すると同時に、そうした課題への解決対策に取り組もうと考えている。実証事業としてJAとともに行うことを検討している。
なお、全農の「安全防除運動」は、本来、時期を定めて行うものではなく、年間を通して取り組む運動だが、改めて注意を喚起するために、6月1日からの1カ月間を設定している(県域によって1か月以上とか、前倒しして5月から取り組むところもある)。