特集

地域と命とくらしを守るために 次代へつなぐ協同を
インタビュアー
東京大学名誉教授・今村奈良臣氏

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10年後の姿を見据えて  JA全中・萬歳章会長インタビュー

・新たな協同を「形」に
・3つの戦略を軸に
・農業者主導の農業発展へ

 10月10、11日に開かれる第26回JA全国大会のメインタイトルは「次代へつなぐ協同」だ。農業の衰退と農家・組合員の世代交代が迫るなかで、これから先の日本農業と地域のあり方をJAとしてどう目指していくべきなのか―タイトルに込められた意義と課題についてJA全中の萬歳章会長に聞いた。

◆新たな協同を「形」に

JA全中・萬歳章会長 今村 全中会長に就任してまもなく1年を迎えますが、東日本大震災からの復旧復興、原発事故への対応、TPP問題など、激動の1年間だったと思います。まずはこの1年を振り返りながら第25回大会からの運動の総括をお話しいただきたいと思います。
 萬歳 3年前の第25回大会の年は政権交代があり、戸別所得補償制度の導入を中心に農政の流れも大きく変わりつつあるまさに「大転換期」という状況でしたので、「大転換期における新たな協同の創造」を大会のメインテーマとして運動を進めてきました。そのなかで東日本大震災と原発事故が発生し、さらに同時にTPP問題にも対応しなければならないなど、昨年8月に会長に就任してから難問山積の中、今日を迎えています。
 今村 こういった激動の時代を踏まえつつ、第26回JA全国大会では、「次代へつなぐ協同」を大きなテーマとして、10年後にJAが目指す姿を描こうということですが、これについて会長の抱負をお話しいただければと思います。
 萬歳 今まさに各地で組織協議の最中ですが、「次代へつなぐ協同」というテーマは第25回大会に掲げた内容を引き継ぎ、それをJAグループの中に「形」として浸透させていこうという意味があります。
 現在、日本農業は担い手不足という深刻な課題を抱えていますが、そのようななかでも持続性のある安定した農業をきちんとつくりあげていかなければいけません。第25回大会ではこの目標を「農業の復権」という言葉で打ち出しましたが、これを踏まえながら10年後に安定した収益構造を持つ農業経営をつくり上げていくことを目指して「次代へつなぐ」をテーマに掲げた次第です。
 地域の疲弊も非常に大きな問題です。私はよく「農は国の基」といっていますが、地域の基幹はやはり農業ですから、地域経済やそこでの暮らしにとってJAが果たすべき役割はきわめて大きいと思います。

◆3つの戦略を軸に

 今村 10年後にJAがめざす姿を実践していくうえで「地域農業戦略」「地域くらし戦略」「経営基盤戦略」という3つの戦略を立てているわけですが、これらについてのお考えをお聞かせ下さい。
 萬歳 まず「地域農業戦略」ですが、日本農業はアジアモンスーン地帯のなかで営まれているものです。このような特徴をもつ日本農業をしっかり次代につないでいかなければいけないという考え方が基本にあります。
 現在、昭和一ケタの人が世代交代する時期にきており、担い手対策を考えることが重点課題です。
 担い手不足は安定した収益がなかなか確保できないという農業の現状の裏返しでもあると思います。ですから、いかに収益性をもった継続できる農業経営をつくるか、JAグループが努力していかなければいけません。
 担い手としては、家族経営のほか法人経営や大規模経営者、集落営農などいろいろな形態が考えられますが、地域の中で安定・持続できる農業の形をつくるには多様な形態のみなさんが協力していくことが必要です。
 次に「地域くらし戦略」ですが、協同組合というのは人と人とのつながりで作り上げられた組織なので、この理念に基づいて助け合える地域社会を築いていく、そのための役割を果たしていくのがJAのあるべき姿だと思っています。
 今、日本は人口減少時代を迎えています。そのような中において、地域社会での協同組合の役割は評価されていると思うので、なお一層評価されるよう、地域のライフラインとしてのJAの役割強化に努めていきたいと思っています。
 同時に、JAがこういった役割を果たしていくためには、JA自身が安定した経営を行っていくことが必要で、そのためにも「経営基盤戦略」としてJAの経営基盤の確立を掲げています。

◆農業者主導の農業発展へ

 今村 かねてより私が言ってきた「1×2×3=6」という農業の6次産業化は、当初の考えから逆転してしまい「3×2×1=6」、つまり流通産業が一番の主力になって1次産業である農業を踏み台にしてきている、といった懸念があります。
 萬歳 私どもも、それを心配しています。やはり農業者が主導するような6次産業化を目指すべきで、農業者が利用されるだけのメリットがないようなものでは意味がありません。
 そのためにもきちんと経営感覚をもてるよう、経営の知恵を各農家に持っていただく必要があると思います。「自分は経営力の高い経営者なんだ」という自覚を持って自らの農業経営の形を考えていただくための支援も必要だと思っていますし、そのためにはそれに対応できるJA職員の人材養成も不可欠だと思っています。
 ところで、農業振興のためには、農政がとても重要です。EU各国で国からの多様な支援策がなされているように、やはり第一次産業には国からの支援が必要です。
 このところの日本の農政は不透明で先が見えない状況が続いていますが、農業者自らが将来のビジョンを描けるような、また、地域の農業振興がはかれるような農政の構築を求めて、国には一層強く要請していきたいと思っています。
 今村 大会に向けた議論の大詰めを迎えていると思いますが、同時にTPPについてもしっかりがんばっていただきたいと思います。
JA全中・萬歳章会長インタビュー「10年後の姿を見据えて」 萬歳 TPPに参加してしまえば日本農業が崩壊し、国として立ちゆかなくなるという危機感を持っています。自給力を高めることこそが大事で、他国に食料を依存する国になってしまっては外交能力はゼロに等しくなり、主権を持てない国になってしまいます。
 世界の情勢をみても人口増による食料不足という問題をはらんでいるわけで、食料の需給が不安定な時期に入ることが予測されています。ここ最近は異常気象も毎年のようにあるわけですから、少しでも自給力の高い食料生産・供給体制を構築することこそが、日本農業が世界から求められるもっとも重要な役割だと思います。
 今村 どうかJA全国大会をはじめTPP問題、政策路線の提起・転換に全力挙げてがんばっていただきたいと思います。
 萬歳 まさに今が大事な時期だと認識していますので、JAグループが一致団結してがんばってまいりたいと思います。

(2012.07.20)