特集

第26回JA全国大会に向けて

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組織協議案の特徴と課題は何か(下)  元明治大学教授 北出俊昭

・「地域くらし戦略」と地域づくり
・「経営基盤戦略」と協同組合としての有利性発揮
・重要な再生可能エネルギーへの取り組み

 第26回JA全国大会組織協議案の基本的な事項についてその特徴と課題について(上)に続き検討する。

◆「地域くらし戦略」と地域づくり

 第24回大会は「地域社会と地域貢献」、第25回大会は「地域再生」を提示していたが、今回の「地域くらし戦略」はそれをさらに発展させた戦略とみることができる。この課題でとくに二点を強調したい。
 その一つは農協組織が「地域づくり」にもつ役割についての認識である。
 協同組合の先覚者たちはもとより、レイドロウも日本の総合農協をモデルとしながら、「協同組合地域社会の建設」を将来の選択肢の一つとして示していた。それにもかかわらず、世界の協同組合運動ではこの課題は必ずしも重視されてきたとはいえなかったが、それが改善され、1995年には新たに「コミュニティへの関心」が協同組合原則とされた。
 したがって、地域社会の機能低下が深化している現在、日本においても農村地域最大の組織である農協がその改善に取り組むのは、協同組合としては当然の責務といえる。しかもそれには多様な地域住民・組織との提携強化が不可欠なので、その対策強化も課題となる。
 いま一つは「支店を拠点」に直接かかわる問題である。
 近年、県域戦略が強調されているため、単協段階でも事業の縦割り強化が指摘されている。地域社会の改善に取り組むためには、上意下達的ではなく単協本位の総合事業体としての機能が発揮できるような改革が不可欠で、コミュニティを維持し、ライフラインを支えるためにもこれは必要なことである。


◆「経営基盤戦略」と協同組合としての有利性発揮

 今回の組織協議案で、「人件費を主体としたコスト削減は限界レベル」にあるとし、「地域に即した経営戦略」を強調していることにとくに注目したい。従来、経営戦略は経営効率化を前提に事業ごとに検討するのが通例であった。今回もその傾向もみられるとはいえ、それを改める意図も感じられる。
 そこで重要な課題となるのは、協同組合の特徴を活かした組織と事業の有利性を如何に発揮するかである。農協管内には農産物生産をはじめ、昔からの地場産業や自然的・文化的などの資源があるが、大切なことは地域に存在するその多様な資源を再認識し、それを基礎とした地域に根ざした事業展開を目指すことである。
 これは組合員・地域のニーズに基づいた農協のあり方の追求でもある。農協には地域を基盤に協同組合としての有利性を活かし、私企業にはない手法に基づいた競争力強化がいまこそ求められているといえる。
 こうした観点から「意識改革と人材育成」は重要である。農協組織内にも協同組合は効率性が悪いとして株式会社化を望む意見がある。しかしもしそうであれば、「協同組合は存在する理由はなくなる」。したがっていま求められているのは、「協同組合人の心にあるそうした意識の克服」なのである(1995年ICA大会宣言)。
 人件費削減による経営合理化が限界に達している現在、新たな事業と経営を目指すにはこのICA大会が強調した協同組合への確信が必要なのである。これは国際協同組合年に開催される第26回JA全国大会に相応しい課題であるともいえる。


◆重要な再生可能エネルギーへの取り組み

 今回の組織協議案でとくに注目したいのは、大震災後の状況を反映し、「将来的な脱原発に向けた取組み」を提起していることである。
 放射性物質による汚染が被災地だけでなく首都圏などにも広域化し、原発事故から1年4カ月が過ぎたいまもなお国民の不安は解消していない。
 もともとわが国のエネルギーは食料以上に自給率は低く、その向上が課題となっていた。大震災後は原発に対する国民の批判が強まっているので、農漁村に豊富にある太陽、風、水をはじめバイオなどの資源を活用した再生可能エネルギーの利活用強化は国民的課題である。
 とくに、原発の所在地は目立った産業が乏しい農漁村であることを考えると、国民の放射能汚染への不安を根絶する上でも農協組織の「脱原発」への取り組みは重要である。なお、そのためには電力会社のあり方も含め国のエネルギー政策の根本的転換が必要なのはいうまでもない。
 以上、これまで組織協議案の基本的な問題について述べたが、協同組合本来の在り方を目指した広範な検討が望まれているといえる。


 (上)はこちらから

(2012.08.02)