県下一の集落営農組織率
◆管内水田の8割をカバー
管内で集落営農組織づくりの取り組みが始まったのは政策の支援対象を個別経営で4ha以上、集落営農で20ha以上とする品目横断対策(品目横断的経営安定対策)が実施される見通しとなったころ。
この本格的な直接支払い政策の導入は農政の大転換といわれたが、面積要件がある以上、平均経営面積が1.5haという実態では支援対象からはずれてしまう農家が出ることも明らかになった。
そこでJAは集落営農組織づくりをめざし平成18年、集落リーダーを15名ほど集め学識者をアドバイザーに学習会を開くことから着手した。集落営農とは何か? 組織はどう作り、農家はどう関わるのか? この取り組みによって集落の農業はどう変わるのか?などなどを話し合った。
学識者から提案された当面のビジョンはテナント型集落営農だ。規模の大小を問わず参加したい農家で組織化し転作作物などでは一定の協業化を取り入れるという、いわゆる“ぐるみ型”の集落営農組織である。
この学習会で議論を深めたうえでJAは行政と連携して各集落での説明会を開いていった。
管内の基礎集落数は103あるが小学校区程度の規模で組織する方向で1年かけて話し合った結果、75集落で協議、最終的には酪農や畑作中心の地域を除き69の集落営農組織が誕生した。県内での組織率はトップである。
これによって管内7500haの水田を集落営農が8割カバーすることになった。また、課題となった経理の一元化はJAがその事務を引き受ける体制とした。
同時にJAは女性や若手、あるいは金融担当も含め全職員を集落ごとに割り振る担当制を導入した。
それまでも全戸訪問活動を行ってきてはいたが、これを機に集落営農組織づくりの支援とその後の相談や連絡の緊密化を図るために、1集落あたり3〜4人を配置してそのうちの1人を担当リーダーとしている。
◆集落の人々に「結」の精神が復活
このときに設立された集落営農組織のひとつ、加美町の下新田上営農組合は、6年目をむかえた今年4月、農事組合法人「KAMIX」として法人化を実現した。
集落内の世帯数は93戸、そのうち農家は72戸で法人には35戸が参加した。集落内の農地面積115haのうち、86haで利用権設定、4haを作業受託しているから約8割の農地を集積していることになる。
法人として所有する機械は田植機とコンバインが1台づつ。農作業には構成農家が機械持ち込みで参加してもらう。この“ぐるみ型”の形態を続けている理由を代表理事の近田利樹さん(54)は「当面は個々人の経営を尊重していきたいから」と話す。
最初の営農組合の立ち上げに向けては、この集落でも会合や研修を重ねた。集落営農がめざすのは、農地を集積してこの地域の転作作物である大豆を効率的に生産するとともに、米以外の園芸作物づくりなどにも取り組むことだ。米以外に園芸作物を振興していこうというのは水田単作地帯であるこのJA管内全体の課題でもある。
とくに園芸作物づくりは集落の人々が種まきや収穫、出荷作業に共同であたるというのが具体的なビジョンだ。その作業にあたった人には自分たちでつくった営農組合から作業料金が支払われる。しかし、近田さんによると会合を重ねるなかで「本当にそんな共同作業ができるのだろうか」、「そういう経営は可能なのか」という声も出ていたという。
「それなら組織を立ち上げる前に、実際に園芸作物づくりに取り組んでみようという話になったんです」。
その話を受けてJAは漬物用の白菜づくりの契約栽培を提案、近田さんたちは「契約栽培ならそれなりの所得をきちんととれるだろうと集落全体で初めて加工用白菜づくりに取り組みました」。
面積は50a。もちろん不安はあった。まず人が集まるかどうか――。農作業はそれまで集落の転作を請け負っていた5軒で構成する転作組合が中心となることにしたが、結果的に60歳、70歳代の女性たちなど大勢が参加したという。
8月の種まきから12月の収穫まで、作業には1時間あたり800円を支払うことにした。一連の作業に参加して、多い人で10万円程度を得たという。それでも最終的に収益が出たのでそれをもとに参加者は近くの温泉で慰労会を開いた。
「世代や男女を超え、腹を割った話し合いの場になりました。この野菜づくりは所得が得られたことに加え、自分が参加できる場ができたとみなさんが評価。集落営農をつくろうという機運が一気に高まりました」。
もちろんみんなで助け合う「結」の精神はこの集落にも昔からあるのだが、機械化が進むなど最近は農作業で助け合うことはめっきりなくなっていた。「これでいいのか、という気持ちもあったと思いますが、この取り組みで結の精神が戻ったきたと思います」。
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「KAMIX」近田代表理事
◆農家だけの集落ではない
「KAMIX」は今年、水稲70ha、飼料用米8ha、大麦8ha、大豆12haのほか、加工用の白菜1ha、トマト50aを作付けした。
実は、野菜づくりの作業には集落内の非農家も参加している。農作業の予定などは集落内のすべての世帯に知らせることにしているのだ。
「集落は農家だけで構成しているわけではありません。私たちの活動はこの集落での生活を維持していくことでもあります。だから、95世帯すべてに声をかけよう、と」。
実際、野菜づくりに非農家の20代の女性も参加するようになっているといい、「地域の人たちとの関わりが持てた」という声も聞かれるようになった。
さらに都市住民との交流も始まっている。仙台市の小学生たちが田植えや稲刈り体験を希望、それを受け入れた。これも集落営農組織ができたからこその新たな活動で、今ではあらかじめ勤務先に休暇届けを出して子どもたちとの交流事業を心待ちにする人もいるほどだ。
また、集落内には小学校の移転にともなって宿泊施設として改修された中新田交流センター(写真右)があるが、ここに宿泊して農業体験をする小中学生もいる。
こうした農業体験では地域の農産物を使った食事も提供する。食育活動でもある。
「いろいろな活動を通じて自分たちのやるべきことが見えてきました」という近田さんは「実は集落営農組織を立ち上げるときにみんなに呼びかけたキャッチフレーズは、『幸せな農村生活を送るために』だったんです」と語る。そのことは集落あげての野菜づくりの共同作業や、都市部との交流活動が生まれることによって次第に実感されてきた。
「集落の生活を豊かにするため、どれだけツールを増やしていけるか、それもこの組織のテーマだと考えています」。こうした取り組みを進めるには集落の女性たちの力が欠かせないともいう。
集落営農組織を立ち上げるきっかけはたしかに品目横断対策の支援対象の要件を満たすという農政転換への対応だったかもしれない。しかし、今や集落づくりをしっかり視野に入れた活動へと発展させてきている。まさに「農」を核とした地域づくりといえるだろう。
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上:中新田交流センターを拠点に交流活動も
下:集落営農の組織化で都市との交流事業も生まれた
◆JAは販売力を強化
KAMIXが加工用野菜に取り組んでいるように、JAは平成18年の集落営農組織づくりの当初から加工用などの野菜づくりを提案してきている。
このうちトマトは国産トマト100%使用でケチャップを製造する食品メーカーとの契約栽培を進め、現在管内で10haを栽培。県内最大のトマト産地となっているが、今後さらに拡大をめざす。また、ネギは東京都内の外食産業が取引先だ。そのほかタマネギにも力を入れている。
また、白菜とキャベツは米の常温倉庫を改修して保冷庫とした。これによって出荷期間を年明けの2月まで延ばすことができるようになり、契約業者からも評価が高まったという。
このようにJAとしては実需者との結びつきを強める取り組みに力を入れ、集落営農組織の園芸生産をバックアップしてきている。三浦組合長は「JAとしては“出口”をきちっと確保したうえでの生産提案が大事」と語る。
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加工トマト定植風景
◆飼料用米生産と畜産の再建
転作作物では飼料用米生産にも力を入れてきた。
飼料用米をつかった豚肉の供給に取り組む生協との取引やJA全農からの委託による飼料用米種子の生産などで作付け面積を拡大、取り組み6年目となる今年は400haを作付けしている。集落営農組織では18組織が生産した。
飼料用米生産を導入することで転作団地の固定化を図ることにもつなげた。従来は米と大豆のブロックローテーションを組んでいたが、大豆作後の水稲づくりでは倒伏が避けられないという問題があった。
それを飼料用米と大豆との輪作として転作水田を固定化することにした。これによって主食用水稲の作付け水田も固定化されると同時に大豆の連作障害も避けることができる。
さらにこの10月には飼料用米専用のカントリーエレベーターも稼働する。専用施設は日本で初めてのことだ。
計画では20ha分を地域の酪農家と肥育農家に還元する予定だ。WCSの利用と合わせ、地域内での飼料自給率を高めることも目標にしている。
それには畜産物の販売先の開拓も課題だという。管内では酪農家から供給される乳オスを肥育する畜産農家がある。その牛に地元産の飼料用米を一定割合で配合し、新たなブランドとして売り出すことを検討している。ただし、赤身の肉として提供するよう肥育し、健康志向をアピールして販路が開拓できないかを探っていくという。
後藤利雄営農販売部長は「新たな食の提案にも挑戦していかなければなりません」と力を込める。
現在は給餌法の確立に向けて試験を行っている。構想が実現すれば地元産飼料用米による酪農生産と乳オスの肥育によって新たな畜産物のブランド確立という好循環が実現することになる。「この取り組みは畜産の再建でもあると考えています」。
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集落営農の力を結集、白菜種まき
◆じっくり取り組む地域営農ビジョン
JA加美よつばが進めてきた“ぐるみ型”の集落営農組織について後藤部長は「集落の合意のもとで担い手を決める仕組みだが、その担い手はあらかじめ特定したり、固定するのではなく、経過のなかで代わっていってもいいというもの。そこに意義があります」と話す。
「KAMIX」の近田代表理事も「ゆるやかな組織」と話す。実際、集落営農の立ち上げから6年のなかで、高齢化等で農作業が困難になり作業を委託する農家も出てきたという。「“ぐるみ型”から次第に“オペレーター型”の組織に変わっていくだろう」という。
後藤部長によると、いわゆる農業専業の後継者は畜産と複合経営や酪農にはいるものの水田単作ではいないのが現状。だからこそ集落営農組織で地域農業を維持してきたのだが、さらに10年後、20年後のビジョンをどう描くかは、6年前に立ち上がった69組織すべての課題となっている。それがJAグループが打ち出した地域営農ビジョン運動への取り組みということでもある。
後藤部長は「政策対応として行政と連携しながら集落営農を組織した面があるのは事実。そのため上から作られた、という意識もないわけではありません。
今度の地域営農ビジョン運動は今までの取り組みをふまえてどう将来を練り直すかですが、農地を守り、担い手をどう確保するのか、それを集落の人が自分たちの問題として考える、ということだと思います。
現在の課題はもちろん、将来への不安も大きいはずです。そこをじっくり話し合うことが大事です」と話す。
JAはこの秋からこの取り組みの意義について重点地区を決めて説明していく予定にしている。ただし、このビジョンづくりでは結論を早期に得る必要はないとの考えだ。キーワードはむしろ「じっくりとした話し合い」と「人と農地についての本音を引き出す」ことだという。
「1、2回の話し合いでつくるものではないと思っています。JAも集落の将来を本気で考えて支援しているな、と思ってもらえるような職員の対応も必要だと考えています」。
集落営農の進化に向けた現場からの取り組みとその発信が期待される。
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「結」の復活という思わぬ効果も
◇ ◇
三浦静也 代表理事組合長に聞く
協同の力がないと地域は成り立たない
――地域の課題をどう考えていますか。
私たちの地域に限ったことではないと思いますが、課題は担い手不足と高齢化で、これを解決していくためには、結局、共同体のなかで物ごとを進めていかなければいけない。これが必然的に出てきている状況だと思います。
つまり、協同の力がないと地域は成り立たないということであり、それがこの地域の特色でもあると改めて考える必要があると思っています。
今度の全国大会議案では持続可能な農業が強調されていますが、私たちの地域ではそれは“持続可能な集落営農の確立”だと捉えています。これは生活の場としての集落を維持するためにも必要になっています。そのために対象集落すべてで集落営農組織をつくることが目標で、これを先行して組織した集落をモデルとして広めていきたいと考えています。
――この取り組みを組合員に理解してもらうためには何がポイントになりますか。
JAを拠り所としてもらえるような体制をつくっていかなければいけませんが、そのためには組合員と職員がどうつながりを持つかです。
私は常日頃から「笑顔であいさつを」と職員には話をしています。この一言に尽きてしまうわけですが、実は中身は非常に濃いと思っているんです。あいさつと一口に言っても、そこからいわゆるご用聞きが始まるわけですし、それが組合員の手となり足となって働くというつながりに必ずなる。つまり、事の始まりは笑顔であいさつから。それがすべての解決につながることだ、とはとくに新人職員に強調しています。
ですから集落営農組織を立ち上げるために職員全員を集落に張り付ける担当制を導入していますが、これは集落営農のために、ということではなく普段から相談や説明をしていこうということです。組合員はお客さんではなくわれわれの仲間であるということを考えていけば、そういう行動が自然と生まれてくる。協同の力を発揮するためにはJA職員が待っているようではだめだということが基本です。
――園芸の振興、とくに加工業務用野菜などの生産を重視されていますが、この取り組みの位置づけをお聞かせください。
6次産業化といわれますが、これは農畜産物の価値をどう高めるかの方策だと思います。それにはやはり取り組みに見合った農畜産物をきちんと生産できるかどうかがまず課題ではないか。むしろ原材料としてしっかり作ることが大切で、それを組合員の収入に結びつけるというかたちをJAは考えていかなければならないわけです。われわれが組合員のみなさんには少しでも多く作ってください、ということが言える体制になっているかが大事だということです。
集落営農を組織することによってたとえば園芸作物を振興していこうということですが、その生産を担うのは、集落の女性だったり高齢者であったりします。つまり、この取り組みは集落でそういう方のいわば“持ち分”を発揮してもらうことでもあるわけですね。それが所得に結びつくんだということをJAは準備し、それを提案していかなければいけないと考えています。
――支店の位置づけについてはどうお考えですか。
今の私たちのJAは、米価が下落するなどの状況のなかでこの地域の4JAが合併しなければならないという前提で話を進めてきたわけです。ただ、実際、合併した後は、施設などについては統廃合したことは事実で、JAのための統廃合ではないのか、とも言われました。そこでやはり本店には管理部門等にそれなりの人がいればよく、JAは支店が機能しないとJAそのものが動かないという考え方で体制づくりを進めてきました。われわれはJAは支店が中心になって活動しなければ全体として元気が出ないものだと思っていて、すでに数年前から支店には職員数も増やし、さらに支店から出向くという体制をめざしてきました。支店の強化というのはJAにとって絶対に必要なことだと思います。
――これからのJAの目標についてお聞かせ下さい。
組合員が少しでも経済面で豊かになること、組合員の負託に応える事業体をつくっていくということだと思っています。組合員が何を望んでいるのか、十分に話を聞き、それに即して事業をやっていかなければいけないと思っています。
※三浦組合長の「静」の字は正式には外字です。